「アリソン・クラウス+ユニオンステーション ライブ」

               

 恵比寿にあるバー「マーサ」を知ったのは伊藤章良「東京百年レストラン」でした。ただ、その時はバーにはほとんど興味がなくスルーしたのですが、ホイチョイの「新東京いい店やれる店」でも絶賛されていたのを読んで、これは一度行ってみなくてはと思いました。

 思い出したのですが、恵比寿駅東口のみずほ銀行があるエリアは、結構ディープというか隠れ家風の店が集まっていて、15年以上前に「たこ」というお好み焼きの店や「ブラウンジャグ」というバーによく行っていました。あれから何年たったのか、久しぶりの恵比寿です。

 壁には大量のレコードが並べられています。それを真空管アンプにタンノイのオートグラフという高級スピーカーで鳴らす。優しい音楽が流れる音楽バーです。
 お酒はいろいろあるのですが、氷なしハイボールが名物のようです。つまみのスナックはカウンターに並べられているので自分で取るシステム。

 いい音楽が聴けて、お酒も1杯1千円くらいなので滅茶苦茶に安い。東京で最高のバーという人がいるのも納得です。ただ、注意が必要なのは、音楽を聴くバーなので、酔っ払ってうるさくすると店のスタッフから注意される。ネットの書き込みによるとその注意が徹底しているようです。私が出くわしたのは、携帯で電話している人を見た店主がスタッフに対して「なんで言わないんだ」と怒鳴っていたところです。店側が設ける何らかのルールを好まない人もいるかもしれません。ケースバイケースですが、私はこの店のルールは気になりません。広くて雰囲気がよく最高のバーだと思う。開店直後の7時、8時だとカウンターに座れますが、12時前後をピークに深夜に混んでいて、2次会、3次会で使おうとするとスピーカー前のカウンター席はとても座れず、満席で入店できないか、後ろの席になってしまいます。

 因みに、氷なしハイボールはマーサで初めて飲んだのですが、調べると京都にあった「サンボア」というバーが発祥で、今は本店大阪、東京にも銀座、浅草などに店舗があります。先日、銀座の「サンボア」で元祖氷なしハイボールを飲んだのですが、流石にうまかった。マティーニも脳天直撃で酔えました。「サンボア」も最高です。

 マーサグループは現在、恵比寿に2店舗、新宿に3店舗です。先日、恵比寿にある高知屋台餃子の支店「安兵衛」で大好きな焼餃子(ニンニクなしでも美味い)を食べた後、マーサに寄ろうかと思ったのですが、久しぶりでなぜか構えてしまい扉を開けられませんでした。

 ちょっと街中を散策した後、恵比寿にあるもう一店の「トラック」に行きました。ここは二度目なのですが、7時30分頃と早いこともあり、私が最初の客でした。ターンテーブル前のカウンター席に座ると自然と音楽担当のスタッフ(トラックの責任者?)とオーディオや音楽の話しになりました。マーサもトラックも、流す音楽は70年代前後のポップスやジャズが多いので、イーグルスやビル・エヴァンスなど好みのディスクの思い出を語っていると、そのスタッフからアリソン・クラウスを紹介されました。
 ブルーグラスというジャンルはよく分からなかったのですが、ロバート・プラントとデュエットアルバムを出した女性と聞くと分かりました。味のある深い歌声。グラミー賞常連の人気歌手なんだそうです。

 前置きが長くなりましたが、その時、聴いたというかDVDの映像で観た、「アリソン・クラウス+ユニオンステーション ライブ」です。帰宅して、早速同CDを注文して聴いています。

 ブルーグラスの定義はよく分かりませんが、私にはカントリーに聴こえます。アコースティックなサウンド、耳に優しいアリソン・クラウスの歌唱。最近は耳が疲れてしまい、自宅で音楽を聴くのが昔ほど楽しくないのですが、このサウンドは心に沁みます。安らぎを得られる。



コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

柚木麻子「その手をにぎりたい」

                   

 前作「伊藤くんAtoE」で魅了された柚木麻子の最新作です。1983年から1992年までのバブル絶頂期前後の10年間、銀座の高級鮨店「すし静」にたまに通うことを生きがいにしたOL本木青子の生きざまをユーモラスに描く。10編からなる連作短編小説です。バブル×銀座の高級鮨とくれば個人的には誰の作品だろうと読みたくなる。それが柚木麻子であれば期待度200%です。

 日曜日の新聞広告でこの本を知った日、いつものようにアマゾンで注文しそうになったのですが、当日発送でも夕方まで待てないので、10時になって近くの本屋に向かいました。別の本を読んでいていいところだったのですが、中断して「その手をにぎりたい」です。

 いやあ面白かった。私の高級鮨体験はかわいいレベルなので、ここで青子が食べている人肌の温度、食感のほろっと崩れて、香りが鼻に抜けるような絶品の鮨は知らないのですが、想像を膨らませてその快感を共有します。鮨を食べるシーンは名脇役で、主たる話しの筋は、バブル絶頂期に不動産会社に転職して、そこでキャリアアップしていくOL→女性社員の奮闘記です。恋あり、バブル特有の風俗あり(同時代を生きた者としてはいろいろと書きたいところですが際限ないので省略)、挫折ありで飽きさせず、ぐいぐい読ませます。

 バブル期のOLの大河小説とはいっても、肝心の鮨を食べるシーンは丁寧に描かれていて、ぞくぞくするくらいセクシーです。そこらへんの内容はここでは控えますが、鮨を食べることは性交に近い陶酔の行為であるということです、嵌るのも分かります。

 その他、この時代の鮨店はまだ一品一品お好みを注文するスタイルなのが今となっては懐かしいです。おまかせでお奨めを一通り食べられる現代のシステムもいいのですが、ちょっと堅苦しい。高級鮨店の良さは承知しているつもりでも、鮨なんてもう少し気楽に食べたい気がします。少し値段高めの回転寿司が今の自分にはちょうどいいです。

 いずれにしても柚木麻子、最高です。個人的には、新作を外せない作家の一人になりました。

 この本を読み始めた翌日、当然のように鮨を食べたくなりとある銀座の店に向かったのですが、月曜日で休みでした。仕方なく歩いている途中で出くわした少し名の売れている高級鮨店に入り、5千円のコースをいただいたのですが、6貫食べたところでお椀が出てきて、あたたと心で泣きました。締めは涙の卵焼きとかんぴょう巻です。そこそこ美味しかったのですが6貫では小腹も満たされません。

 「すし静」は座るだけで3万円となっていて、それ以外の料金は書かれていませんが、10年間で支払った金額で外車が買えるとあるのでイメージ5万円です。バブルの頃と比べると相場は下がったとはいえ、それでも1~3万円くらいの覚悟がないと銀座の鮨は楽しめません。当たり前のことを思い出したランチタイムでした。



コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )