1956年
ピストル打線の異名をもつ近鉄が、長打力の魅力を出そうとして獲得したスラッガー。藤井寺球場のキャンプに参加したその日、いきなり右翼線へ痛烈なライナーを放った豪快なスウィングには、近鉄の選手もちょっとア然としたくらい。1㍍74、75㌔と恵まれた体力を利して、みるからに力感あふれたバッティングをする彼は、シュアー一点ばりの近鉄打線には確かに異色の存在である。伊香が打力で注目されだしたのは、同大に入った年、秋のリーグ戦で対関大戦に代打ホーマーをたたいたときからである。同志社香里高時代は、左腕から繰り出すスピード・ボールを買われて投手をやり、同大でも投手として練習していたのだが代打ホーマーがきっかけとなって、二年のときには一塁へ転向、三番を打つようになった。三年時代は、国松、青木の両投手が巨人に入団したため、再びマウンドにかり出されるようになったが、登板しないときも右翼に出て、三番打者としての健棒をふるい、春は3割2分8厘、ベスト・テン第6位の好成績をあげた。四年生の昨年は不動の四番打者として、春は2割6分8厘(第15位)秋は2割7分9厘(第10位)と打率の上では少し落ちたが、打点力はぐっとふえ、好機での勝負強い打者としての成長をのぞかせている。芥田監督は一塁武智修が故障で不安なところから、そのあとガマとして一塁の練習をさせ、随時右翼、一塁兼務でその打力を使いたい意向のようだが現在のバッティングでは穴も多く、スタートから打ちまくるといった期待は抱けない。腰、腕の強さに加えて、手首の柔かさ、強さは一見南海杉山選手のフォームに似かよったところがあり、内角ベルトの球には絶対自信をもっているようだが、外角球と内角膝元の変化球に杉山選手はどの柔らか味、シャープさが見られない。力一点ばりの引っ張るバッティングのせいだろうが、本人もプロの野球は力だけでは通用しない。これからは技を加えた巧味をとり入れていきたい。まず外角球の攻略がボクの課題と自覚している。青池コーチは、スラッガーの素質は十分。穴も多いけれど今後育てていく上に楽しみがもてると大ニコニコ。大学時代審判に食ってかかったほどのファイターであり、この闘志がチャンスに強い原因となっているのだろうが、性格も決して人見知りをしないドライ派。よくいって無とん着悪くいえば図太さをもち、リーグでも有数の心臓男武智修選手をしてあいつにはおどろいた。はじめてグラウンドで会ったのに、向こうから慣れ慣れしくしゃべりかけてくる。とカブトをぬがせるほど。先輩選手に対しても平気でしゃべりかけ同僚とでも話している態度をみせるため、近鉄の間ではナマイキだと評されているが、芥田監督はそのくらいの選手でなけりゃ大成せんよと笑っている。同大の一年生当時から騒がれ、いわば頭を押えられずに育ってきただけに、こんごきびしい勝負の世界で、相当激しい風当りを受け、荒波にもまれた場合、伊香がこれをどう克服するか、彼自身にとってはこれからが本当の意味で心技両面の修行場だろう。いずれにしても趣味でも映画は洋画ならなんでも、音楽はジャズということのドライ男にかける近鉄の期待はすこぶる大きい。
ピストル打線の異名をもつ近鉄が、長打力の魅力を出そうとして獲得したスラッガー。藤井寺球場のキャンプに参加したその日、いきなり右翼線へ痛烈なライナーを放った豪快なスウィングには、近鉄の選手もちょっとア然としたくらい。1㍍74、75㌔と恵まれた体力を利して、みるからに力感あふれたバッティングをする彼は、シュアー一点ばりの近鉄打線には確かに異色の存在である。伊香が打力で注目されだしたのは、同大に入った年、秋のリーグ戦で対関大戦に代打ホーマーをたたいたときからである。同志社香里高時代は、左腕から繰り出すスピード・ボールを買われて投手をやり、同大でも投手として練習していたのだが代打ホーマーがきっかけとなって、二年のときには一塁へ転向、三番を打つようになった。三年時代は、国松、青木の両投手が巨人に入団したため、再びマウンドにかり出されるようになったが、登板しないときも右翼に出て、三番打者としての健棒をふるい、春は3割2分8厘、ベスト・テン第6位の好成績をあげた。四年生の昨年は不動の四番打者として、春は2割6分8厘(第15位)秋は2割7分9厘(第10位)と打率の上では少し落ちたが、打点力はぐっとふえ、好機での勝負強い打者としての成長をのぞかせている。芥田監督は一塁武智修が故障で不安なところから、そのあとガマとして一塁の練習をさせ、随時右翼、一塁兼務でその打力を使いたい意向のようだが現在のバッティングでは穴も多く、スタートから打ちまくるといった期待は抱けない。腰、腕の強さに加えて、手首の柔かさ、強さは一見南海杉山選手のフォームに似かよったところがあり、内角ベルトの球には絶対自信をもっているようだが、外角球と内角膝元の変化球に杉山選手はどの柔らか味、シャープさが見られない。力一点ばりの引っ張るバッティングのせいだろうが、本人もプロの野球は力だけでは通用しない。これからは技を加えた巧味をとり入れていきたい。まず外角球の攻略がボクの課題と自覚している。青池コーチは、スラッガーの素質は十分。穴も多いけれど今後育てていく上に楽しみがもてると大ニコニコ。大学時代審判に食ってかかったほどのファイターであり、この闘志がチャンスに強い原因となっているのだろうが、性格も決して人見知りをしないドライ派。よくいって無とん着悪くいえば図太さをもち、リーグでも有数の心臓男武智修選手をしてあいつにはおどろいた。はじめてグラウンドで会ったのに、向こうから慣れ慣れしくしゃべりかけてくる。とカブトをぬがせるほど。先輩選手に対しても平気でしゃべりかけ同僚とでも話している態度をみせるため、近鉄の間ではナマイキだと評されているが、芥田監督はそのくらいの選手でなけりゃ大成せんよと笑っている。同大の一年生当時から騒がれ、いわば頭を押えられずに育ってきただけに、こんごきびしい勝負の世界で、相当激しい風当りを受け、荒波にもまれた場合、伊香がこれをどう克服するか、彼自身にとってはこれからが本当の意味で心技両面の修行場だろう。いずれにしても趣味でも映画は洋画ならなんでも、音楽はジャズということのドライ男にかける近鉄の期待はすこぶる大きい。