…舞台は、味な演出でいつの間にか進行する。
保養所の一角、昼下がり、休憩中の医長。
幕は最初から上がっていて、まだ用意のできない客のざわめきのなか、彼は目の前で折ったばかりの飛行機を、客席に向かって飛ばすのだ。客はそのゆくえを目で追い、しぜんと舞台に集中するしかけ。
客席も林の一部、ひらりと宙を舞う紙ひこうき… 愉しい始まり。
偶然だが、昨日の芝居は 「八月に乾杯!」 劇団俳優座公演
原 作:アルクセイ・アルブーゾフ
訳・演出:袋 正
キャスト:リーダ 岩崎加根子 ロジオン 小笠原良知
(以下、パンフレットより)
海辺にある保養所の医長ロジオンは、昼下がりの休憩中に突然、元サーカスの女優と称する患者、リーダの訪問を受けた。彼女は夜中に詩の朗読をしたり、月の明るい晩は病室を抜け出して、浜辺の散歩を楽しんだりする、ということから他の患者の苦情を招いていた。
二人がやっと相手のことが気になりだし、言葉を交わすようになったのは、しばらくたった音楽会の帰り道。家族や友人がいて、仕事があるから寂しくはないと意気投合する。そして、持病の心臓病のため休養した彼を、彼女は手料理を持って見舞うのだった。すっかりうち解けた二人は昔のこと、楽しかった青春時代、 暗く悲しい戦争時代を語り合う。 戦争の傷を胸に抱く二人は、相手の必要性を少しずつ感じ始めていた。 そして…
激しい戦闘があったという海岸の共同墓地でのふたり…
「そういうことがあったなんて怖い思い出ね」 「怖くても忘れるわけにはいかない」
「亡くなった人たちのことを」 「人たちのことも」
「こういうことはまた起こるとお思い」 「起こさないのが生きてる者の仕事です」
戦争でリーダは息子を、ロジオンは妻を亡くした。 孤独が怖い! 日暮れどきは悲しくなる、互いに支え合うふたり、 出会った八月に乾杯! 奇跡の人に乾杯!