昨日のこと…
突然、雨の匂いがした。埃くさい、蒸れた雨の匂いを久しぶりに嗅いだ。それは、走った後の犬の背中の臭いに似ていた。
雨には匂いがあることを あらためて思う。 夏の雨、夕立、白雨のしめった匂いが感覚をやわらかく広げる。
午後、雨は激しく瓦をうちつけ、滝のように流れ落ちた。
モームの短編「雨」を読んでいる…
足止めされた宣教師は、理性を押し流すほどのスコールにであった。
サモアの雨期が傑作を生む。 ここの雨は、どんな匂いがするだろう。
こまつ座・井上ひさしの「雨」も忘れられない。
江戸の両国。紅花問屋の旦那に間違えられた主人公は、まんまとなりすまし… どんでん返しの、息をつかせぬ激しい雨が降っていた。雨宿りから転がって騙したつもりが騙される。こちらは偽りの匂いがした。
突如降り出した夏の雨、 福田平八郎の「雨」も思い出させる。
瓦の大きな斑点がつぎつぎに、黒く薄く滲んでいく。 懐かしい情景だ。
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30分でやんだ。 蝉のうたに促され蜆蝶が戻ってくる。きょう初めての青空に、明るい歌を口ずさむ。
出かけられない心が、晴れる。
青い青い空だよ 雲のない空だよ
サモアの島 常夏だ~よ~
高い高いやしの木 大きな大きなやしの実
サモアの島 楽しい島よ~
青い青い海だよ 海また海だよ
サモアの島 常夏だ~よ~
白い白いきれいな 浜辺の広場だ
サモアの島 たのしい島よ~~~
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夕立や草葉を掴(つか)むむら雀 与謝蕪村
夕立に走り下るや竹の蟻 内藤丈草
雨はひとを素直にさせる。 心もからだも涼しくなった。