泳ぐのは上手である。
でもすぐに戻ってくる、ちょっとビビリーである。
そこが、うさこと気の合うところで、なんの問題もない。
親のひいき目、この子はカシコイから危ないことはしないのよと考える。
行って戻って、往復5メートルほどの距離を見守る。

縁側からすぐの場所で、枯れた木の根もとから新しい芽が出て数年たち、
少し木の形になってきた。
子供が成長するのもこんな感じで、放っておいても人の顔かたちを持ってくる。
人間は食物の栄養事情より心の事情で育ち具合に差が出てくるが
木と風や光、水の関係は動かない存在である木にとって、人の言う幸不幸の運命より
よほどシビアである。
ここだと先々ヤバそうだから、もちょっと奥へ移ろうというわけにはいかない。
この木は運がいいのだろうか、それとも‥
うさこの眼に止まったという一つの条件が、今後どう左右するか、それは定かではない。
この桜のように軒にかかると困ると、
大きくなったら伐られてしまう憂き目に会わないとは
かぎらないわけである。
だから、こんなにがんばって育ちましたよ、の記念写真を証拠にとっておこう。
この幼い頃のおいらを思い出してくだせえ、がんばって伸びてきましたぜ、風にも負けず
大雨にもめげず、と育ちきった木の声が、いつかするかもしれないから。