読み出したら、止められない。
須賀敦子全集第3巻収録「ユルスナールの靴」
「そういうことをちゃんと覚えているのが苦手なのだ。」
この一行を、何度も読む。
一行が他のすべてを補足する文章。
そういう一行が散りばめてあるので、読むのを止められない。
どんどん読み進む。ギリシア・ローマ時代という西洋の背骨、
西洋古典などほとんど無縁なわたしには知らないことばかり出てくるが
それはそれでおもしろい。
他の人が書いたもので、そう思えるかどうか‥
朝の忙しい時間に手にとってしまって
ベイビーの散歩が10分、20分と遅れてしまい
そばでクンクンと啼きだすまで止められなかった。
悪かったね、ベイビー。
でも全8巻の全集だから始まったばかりなのだよ。
ベイビーも一緒にそばで読むといいよん。
美と愛に憑かれた人、その人にまた憑かれた人が紡ぐ言葉は
崇高で気持ちがよい。
突然現れて一気にファンを獲得したこの作家の仕事は
「生き方」について、あらためて考えさせてくれます。
話題になるたびに気になっていたけど、手にとるのが今になって
それもちょうどよかった気がします。
もっと前だったら共感しなかったかも、とも思う。
めぐりあわせ、というのはむずかしくて、時のめぐりではない
用(まどき)のめぐりを外さないことだ。
そういう意味でも、須賀敦子は流されて「用」の中に生きた人であると
思う。流されるのもまた才能である。