夏顔です。
夏服、というのは女子の言葉のような気がする。
いえ、もちろん男子にも男性にもあるにはあるが
女の子にとって夏服は特別なものではないだろうか。
白いレース飾りのついたブラウスなど、わたしは滅多に着ない。
オーガンジーの柔らかな服より糊の効いた麻や木綿のシャツを
夏でも脱がないジャケットの下に着ているというのが、わたしの
仕事着だからだ。
レースや透ける素材のふわりとした生地で縫われた服を
あんなものを着ているという眼で見ていた時期が長かった。
クローゼットの中に、白いオーガンジーのブラウスがぶら下がっている。
袖口、襟元、そして胸元を合わせたところが縦にずっと、花びらのように
レースで被われている。
わたしが自分で買ったものである。
まだ若かった頃、高くて無理をして手に入れたのだと思う。
大事にして着ないまま、季節ごとクリーニングにだけ出していた。
スーツを仕事着にするようになってから、そのレースのブラウスは
ほとんど省みられなくなり、奥へ奥へとしまわれ、クリーニングにも
出されなくなった。そのうち、白い色は黄ばんでクリーム色に変わってきた。
白いシャツブラウスが好きである。
ほとんどが木綿、麻でシルクが一枚だけある。
毎年一枚か二枚ずつ新しく買って増えてきたが、着古して捨てた記憶がない。
クリーニングから返って吊るされているシャツやブラウスの向こうに、
先日気づいたのだ。
ああ、このオーガンジー、どうしようかと。
これは夏服というわけではなく冬でも華やかな装いをするときには重宝する
類のものだ。けれども、もう着る機会はなくなった。こんなに黄ばんでしまって。
どうして着なかっただろうか、それさえ思い出せない。
今年はやわらかな、ふわりとした女の子らしいシルエットの服が流行りのようだ。
流行はめぐってくるので、今ふたたびということだが、ふたたびといって
とりだせるような形の服を、あいにく持ち合わせていないのだ。
クローゼットの中をどう見渡しても、
直線的で無駄のない、シンプルこのうえない形の身体の線にあった
シャツやブラウスだけがしまわれている。白と黒がほとんど。
稀にケンゾーの極彩色が混ざっているが、出番はない。
流行とは無縁なわたしの、白はとりあえず女子らしい夏服だろう。
まだ少女だったころ、母がブラウスにアイロンをかけてくれていたことを
思い出す。着た服を脱いで、また選びなおして着直すという女の子だった。
母はそれにつきあってくれて、隣の部屋から父のたしなめる声が聞こえてくる。
その日は夏だったのか、記憶はあいまいだが
白い色と若かった母のピンクで張りのある頬を、鮮明に思い出す。
「強がっていたのだろう、たぶん」
レース飾りやふわふわが好きなのに、着なかったわたしは普通の女子である。
たぶんこれからも着ないが、夏の陽射しの下を歩きながらそう思った。
夏服、というのは女子の言葉のような気がする。
いえ、もちろん男子にも男性にもあるにはあるが
女の子にとって夏服は特別なものではないだろうか。
白いレース飾りのついたブラウスなど、わたしは滅多に着ない。
オーガンジーの柔らかな服より糊の効いた麻や木綿のシャツを
夏でも脱がないジャケットの下に着ているというのが、わたしの
仕事着だからだ。
レースや透ける素材のふわりとした生地で縫われた服を
あんなものを着ているという眼で見ていた時期が長かった。
クローゼットの中に、白いオーガンジーのブラウスがぶら下がっている。
袖口、襟元、そして胸元を合わせたところが縦にずっと、花びらのように
レースで被われている。
わたしが自分で買ったものである。
まだ若かった頃、高くて無理をして手に入れたのだと思う。
大事にして着ないまま、季節ごとクリーニングにだけ出していた。
スーツを仕事着にするようになってから、そのレースのブラウスは
ほとんど省みられなくなり、奥へ奥へとしまわれ、クリーニングにも
出されなくなった。そのうち、白い色は黄ばんでクリーム色に変わってきた。
白いシャツブラウスが好きである。
ほとんどが木綿、麻でシルクが一枚だけある。
毎年一枚か二枚ずつ新しく買って増えてきたが、着古して捨てた記憶がない。
クリーニングから返って吊るされているシャツやブラウスの向こうに、
先日気づいたのだ。
ああ、このオーガンジー、どうしようかと。
これは夏服というわけではなく冬でも華やかな装いをするときには重宝する
類のものだ。けれども、もう着る機会はなくなった。こんなに黄ばんでしまって。
どうして着なかっただろうか、それさえ思い出せない。
今年はやわらかな、ふわりとした女の子らしいシルエットの服が流行りのようだ。
流行はめぐってくるので、今ふたたびということだが、ふたたびといって
とりだせるような形の服を、あいにく持ち合わせていないのだ。
クローゼットの中をどう見渡しても、
直線的で無駄のない、シンプルこのうえない形の身体の線にあった
シャツやブラウスだけがしまわれている。白と黒がほとんど。
稀にケンゾーの極彩色が混ざっているが、出番はない。
流行とは無縁なわたしの、白はとりあえず女子らしい夏服だろう。
まだ少女だったころ、母がブラウスにアイロンをかけてくれていたことを
思い出す。着た服を脱いで、また選びなおして着直すという女の子だった。
母はそれにつきあってくれて、隣の部屋から父のたしなめる声が聞こえてくる。
その日は夏だったのか、記憶はあいまいだが
白い色と若かった母のピンクで張りのある頬を、鮮明に思い出す。
「強がっていたのだろう、たぶん」
レース飾りやふわふわが好きなのに、着なかったわたしは普通の女子である。
たぶんこれからも着ないが、夏の陽射しの下を歩きながらそう思った。