想風亭日記new

森暮らし25年、木々の精霊と野鳥の声に命をつないでもらう日々。黒ラブは永遠のわがアイドル。

a long walk 長い散歩

2008-12-04 02:46:33 | Weblog
       (50度くらいはありそうな斜面、裏山へよじのぼる、親分と二人で)

    緒形拳主演の映画「長い散歩」、監督はくせの強い俳優、奥田瑛二。
    エンドクレジットに重なって流れるのはUAが歌う「傘がない」だった。
    井上陽水よりもっと切実に死にたがる時代を歌っていて、救いのなさを
    いやおうなく訴えてくる。

    そう、救いようのないことを、それでもどうにかしたいという感情は
    いったいどこへ持って行ったらいいのだろうか。
    いったいどう整理して始末をつけよというのだろうか。
    そんな主人公の苦悩を超え悲しみが絶望となっていくさまを
    描いている。
    奥田瑛二は死にゆく人を演じるのがうまいなあと思っていたが、
    絶望の淵をのぞいているような感覚を長丁場で延々と撮っているのだ。

    映画のものがたりはというと、児童虐待ネグレクトと人生に後悔している
    老人の旅。カンタンに言えばそういうことだけど、ネグレクト(育児放棄)
    も虐待の諸々も話に聞いてはいてもその痛さを切々と感じている人は
    少ないだろうと思う。
    だからこの映画をみて、天使の羽を背中にしょって歩く垢と汚れまみれの
    幼女にどのくらい感情移入できるかというと、それは不確かなことだが、
    一方の悔いたまま老いを生きる男(緒形拳)の目を通してみることによって
    なら、そのあいまいさを埋められるかもしれない。

    途中に現れる青年(松田優作の次男坊がいい味)も同様に生きる意味を
    見失っているが、かろうじて天使の羽をつけた幼女には心を開く。
    幼女連れ去り犯を追う刑事(奥田瑛二)、彼もまたしだいに老人に共感
    していく。
    作品中で幼女が踊り歌う、天使のパンツの歌の歌詞がかわいくて
    可笑しいのに、ちょっと救われる。救われたとたんに、またよけいに
    落ち込むしかけのようで、ガクンとくる。

    救いようのないことを、どうにか手を尽くし整理しおちつくところを見つけ
    ようとする行為は、むなしい結末しか今は見えていなくても、それでも
    なにもやらずにはいられないということか。


           (君はいいオッカサンだねえ、みかけによらず)

    とても痛ましいし、うろたえさせる作品であった。
    実は「緒形拳がとても上手いよ、まったく老人ってあの通りだよ
    力が入らなくて走れない、あの感じは若いとわかんないね」
    とねずみ師が言われたのを聞いて、観たのである。
    まあおっしゃる通りのパーフェクト演技であったけれどもさ。

    傷口に塩を塗られているような気がしてなんでこんなの観ちゃったのかと
    ぐったりした。火傷跡を治すには、熱い硫黄温泉に浸かるのは効果的だが、
    この映画の薬効について、まだ考える余裕がないというのが正直なところ。
    見終わったばかりだもの(と言い訳しておくわ)それだけ衝撃的。

    しかし私心を省いていえば、簡潔にして美しい映画であった。
    ストーリーに類似性などまったくないのだが中国の「初恋のきた道」
    (チャン・イーモウ監督、チャン・ツィイー主演)を思い出した。

    堂々と明るく生きている人よりも、悲しみにうちひしがれながら立つ人が
    美しいという意味において。
    

    
コメント
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