心の風景

晴耕雨読を夢見る初老の雑記帳

雨のち晴れ~土佐の海辺と田圃道を歩く

2018-05-17 22:28:16 | 四国遍路

 「歩き遍路」から帰った翌日はカレッジの日。授業が終わると、友人たちとお約束していた大阪・鶴橋の焼肉店「小川亭とらちゃん」での呑み会でした。........4月半ばから出たり入ったりしていたドタバタ劇、これでひと段落といったところでしょうか。今朝は久しぶりにゆっくりと目覚めました。
 今回の「歩き遍路」は、高知県の室戸岬から歩き始めて高知市に向かう2泊3日の行程でした。途中、ショートカットしたところを除いて65キロの道のりです。初日はあいにくの雨模様。午後1時過ぎに室戸バスターミナルに到着すると、お遍路姿に着替えた上からすっぽりとポンチョを被って、いざ出発です。まずは、室津港の街中に佇む25番札所「津照寺」に向かいました。
 その後、雨も小降りになり、国道55号線やへんろ道をひたすら歩いて26番札所金剛頂寺に向かいます。道端にあった「女人結界の道しるべ」なる石碑に目が留まりました。案内板には、「この石碑は、貞享2年2月(1685年)に建立され、これより西寺領八町内へは女性は入ってはいけないの意で、昔は女性が参拝する事を拒んだ」とあります。女人禁制です。その昔、女性たちは、翌日に訪ねることになる不動岩(番外霊場)に参拝したようです。
 金剛頂寺の境内は標高165メートルのところにあります。平地を歩いていて急に山登りをすると堪えます。本堂、大師堂と回って納経所へ。運悪くツアーの方々と重なり、しばし時間待ちをしました。階段を降りたところで歩き遍路さん同士で写真を撮りあいました(笑)。
 その日は、民宿うらしまで泊まりました。泊り客は5名(男性4名、女性1名)。うち男性1名は欧米系の方でした。夕食時、冷たいビールで喉を潤していると、女将さんからコップ1杯の日本酒のお接待をいただきました。
 2日目の朝は、前日と打って変わって「晴れ」。幸先の良いスタートとなりました。6時30分出発。まずは金剛頂寺の奥の院といわれる行当岬の不動岩に向かいます。これから向かう羽根崎と室戸岬のほぼ中間に位置し、高さ40メートルの不動巌があります。弘法大師が修行した場所だったので「行当西寺」とも呼ばれ、波切不動として信仰を集め、女人堂として賑わったのだそうです。
 引き続き、左側に延々と続く海岸線を眺めながら、ひたすら歩き続けることになります。ときどき振り返ってみると、遠くに出発点の室戸岬が見えます。....と、休憩所が見えてきたので、ここでひと息。ここでも石碑が気になったので案内板をみると、「羽根崎と紀貫之の歌碑」とあります。「古くは、紀貫之が土佐日記に承平5年(935年)1月10日、羽根の泊に泊し、一行は11日昼頃羽根崎を過ぎる。幼童の羽根という名を聞いて、~ まことにて名に聞く所 羽根ならば 飛ぶがごとくに 都へもがな~と詠まれている」と記されています。
 「土佐日記」(角川ソフィア文庫)の現代語訳によれば、「本当にその名のとおり、この「羽根」という土地が鳥の羽ならば、その羽で飛ぶように早く都に帰りたいものだなあ」という意味のようです。紀貫之は29番札所国分寺界隈で土佐の国司として4年間を過ごして帰京するわけですが、一行の都を思う気持ちが伝わってきます。ちなみに一行は土佐から和泉の国(大阪南部)、そして淀川を登って京都に帰りました。悪天候のため55日もかかったのだそうです。
 その後、中山峠、弘法大師御霊跡、奈半利町、田野町を経て、二日目の民宿ドライブイン27へ。やや古びたお宿でしたが、気さくな女将さんに元気づけられ、少し遅めの昼食をとると、荷物を預けて27番札所神峯寺へ向かいました。土佐の国では一番高い標高430mにあるお寺です。くねくねと走る車道を突きっ切るように山肌を縦に登っていく急こう配のへんろ道を登り詰めて1時間。やっと境内に辿り着きました。お参りしたあと、カメラ愛好家の方々に出会い、本堂前で写真を撮っていただきました。
  納経所前にあった土佐の名水「神峯の水」をいただいて山を下りました。駐車場横のお土産店で、さきほどのカメラ愛好家の皆さんにお会いしました。「はちみつ入りゆず飲料”ごっくん馬路村”お勧めよ」と。美味しかったです。「帰りは無理をせず車道を歩いて帰った方が楽ですよ」とも。というわけで、滅多に車が通らないくねくね車道を歩きながら下山しました。
 しばらくすると、樹木の切れ目から色鮮やかな初夏の土佐を一望できるところがありました。遠くに羽根崎の海岸線も見えます。なによりも、空気が澄んでいて山の緑が美しい。シチリアの景色に似た高揚感が身体に充満するのを覚えました。バスツアーでは見逃してしまう景色です。....そこでポケットから取り出したのがipod。またぞろ新井満さんの「千の風になって」を聴きながら、疲れも忘れて気持ちよくお山を下りていきました。
 街に降りると、宿には直行せず、唐浜海岸をお散歩しました。太平洋に向かって左に羽根崎、右には遠くに足摺岬が微かに見えます。打ち寄せる波にまん丸くなった小石を2個いただいて帰りました。
 3日目は、少しショートカットして土佐くろしお鉄道「のいち」駅から歩き始めました。これまでの海岸線とは異なり、街並み、農道、田圃道を歩くことになります。28番札所大日寺(香南市)は難なくクリア。初日の宿でご一緒した叔父さん、叔母さんとも、再び境内でお目にかかりました。
 29番札所国分寺までは9キロの道のりです。民家が立ち並ぶ小径、田圃の真ん中を歩きます。へんろ道の矢印を注意深く確認していないと方向を見失いそうです。なので、時々スマホのgoogle mapで立ち位置を確認します。.....戸板島橋を渡り、松本大師堂を通り、やっとこさ国分寺(南国市)に到着です。
 そして今回最後の札所となる30番善楽寺(高知市)へは約7キロの道のりです。時間とともに気温も上昇。肌がひりひりしてきます。国分川に沿って、まだかまだかと歩きながら、休憩所で一服。「神峯の水」に元気をいただきました。やっと到着しましたが、一宮神社の方が大きく、善楽寺の境内に辿り着くのに戸惑ってしまいました。
 こうして、2泊3日の「歩き遍路」を無事歩き終えました。開経偈、懺悔文、三帰、発菩提心真言、三摩耶戎真言、般若心経、大師宝号、回向文などを唱えるカタチも徐々に身についてきたように思います。行き帰りの高速バスの中では、空海「般若心経秘鍵」(角川文庫=ビギナーズ日本の思想)に目を通しました。まだまだビギナーの歩き遍路ですが、宿で先輩のお遍路さんにいろいろお話しを伺いながら、少しずつ深化させていくことになります。

コメント (4)    この記事についてブログを書く
« 敬虔な祈り ~ シチリア島&... | トップ | 地産地消。ごっくん馬路村..... »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
おはようございます (つわぶき)
2018-05-18 07:53:42
ran_ coffee breakさんへ

おつかれ様でした。
25番札所から30番札所まで 無事に
通られてみえたのですね。

初日は 雨が降ったようですが、お天気も
良く よかったです。

無理のない計画で 楽しみながらの
歩きは 何よりでした。

他にも いろいろと 趣味が おありのようで、忙しいですね。
人生を 謳歌されているようで、こちらまで 元気をいただきました。
返信する
楽しく歩きました。 (ran_coffeebreak)
2018-05-18 14:58:30
つわぶきさん
コメントをありがとうございます。

はい。雨にもめげず、無理をせず、楽しく歩いてきました(笑)。
唐浜から野市まで、歩くか、それとも列車に乗ってショートカットするか。少し悩みましたが、結果的には海岸線から田圃道に場面展開できたうえに30番善楽寺まで行けたので良かったです。

ビニールハウスでのニンニク栽培が盛んでした。田植えが終わったばかりの田圃にはオタマジャクシが泳いでいました。大小さまざまな川の水量も豊富で、農業の盛んな地域でした。

次回は7月、31番から36番あたりを歩きたいと思っていますが。課題は暑さ対策です。
返信する
お疲れ様でした。 (みいやん)
2018-05-18 22:50:55
こんばんは!
二泊三日のお遍路さん....カメラマンさんにも写真を写して頂いて良い記念になりましたね。
千の風にってを聴きながら....それも楽しいですね。
綺麗な風景にyan_coffeebreakさんの解説が詳しくってとても楽しかったです♪

般若心経も板についてきたんですね。
私もお願いことがあるので写経をやりたいのですが
なかなかそこまで行きません。
以前に100枚書いたことがあるんですよ。
100枚書くと願いが叶うという事で(笑)
その時は叶ったんですけどね。
我が家はたくさん心配事がありましたからね。(笑)
ほんと精神がよくも持っているなぁと自分でも思います。
パパさんの時にはやらなかったので後でやればよかったと思いました。
でもこの100枚は100日かかるということですからかなり大変です。(笑)

余談になってしまいました。

これからのお遍路さんは暑くなりますからどうぞお体に気を付けて行ってらしてくださいね。
返信する
呑気なお遍路さん (ran_coffeebreak)
2018-05-19 10:09:17
みいやんさん
コメントをありがとうございます。

先日、カレッジの文集に「呑気なシニアお遍路さん」と題する小論を載せました。ほんとうに呑気な「歩き遍路」です(笑)。
歩きながら時々、むかし歩いたことがあるような妙な錯覚を覚えます。穏やかな空気感に満ちた風景の中に身をおいて自分の立ち位置を確認する、そんな贅沢な時間を過ごしましたよ(笑)。

お寺にお参りすると、納札を備える箱と写経を備える箱があります。写経は座禅のときに書く程度です。キーボードが筆記用具になって以来、筆やペンをもつ機会が減りました。便利だけれど、生まれ持った機能の一部が確実に退化しています(笑)。

そうそう、さきほどブログにおじゃましました。ショコラちゃんの寝顔、幸せそのものですね。笑ってしまいました。健康診断の結果が何事もないことを願っています。
返信する

コメントを投稿