大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:180『休まないのか!?』

2021-04-11 09:05:51 | 小説5

かの世界この世界:180

『休まないのか!?』語り手:テル(光子)    

 

 

 普通は休むだろう!

 

 日本列島と付属の島々を産んだんだあとだ、これは休みを取るだろう。

 ユダヤ教やキリスト教では、六日間でいろんなものを作ったゴッドは丸一日の休みを取って、それが安息日たる日曜日の起源になっている。

 ユダヤ教では、ことに厳格だ。車に乗ってはダメで、火を起こしても電気製品のスイッチを入れてもいけない。もし破って働こうものなら死刑だ!

 我が北欧神話では神々の骸から世界を作っている。元来が神の体なので、ちょっと手を加えるだけで、山や湖や土地になる。だから、とりたてて安息日というのはないんだが、日ごろからこまめに休んでいる。

 ところが、日本神話ではイザナギ・イザナミがリアルに交ぐわった末にイザナミが腹を痛めて産んでいる。

 これは、休みを取らなければ母体が持たないだろう、イザナギだって出がらしのようになっている。

 ケイトなんか、とっくにそのつもりで、すでに出来上がった大八島の探検旅行をしようとスマホで検索し始めたほどだ。

 

 ドシン! バタン!

 

 突然の衝撃に、わたしもテルも思わず剣の柄に手をかけ、ケイトはスマホをお手玉してしまう。

 男女神は休憩のお茶をすることもなく、国生みを続けているのだ。

「いや、国生みではないわよ!」

「なんだと? なにを産んでいるというのだ?」

 なんと、イザナギ・イザナミの男女神は家づくりのパーツを産み出しているのだ。

 いちおうオホコトヲシヲの神とかイハツチビコの神とかのホーリーネームは付いているが、要は家のパーツだ。それぞれ、家の土台であったり、壁であったり、屋根であったり、芸が細かい。

「ざっくりと、家の神さまとかでいいのに」

 慰安旅行をフイにしたケイトがボヤく。

「なんだか、健気ねえ……」

 テルはたて膝の膝小僧の上に顎を載せてしみじみ見入っている。

 日本人の律義さと言うのは神代の昔からだったのだなあ……父のオーディンにラグナロクのリクルートを丸投げされている北欧の戦乙女としてはため息が出るばかりの丁寧さだ。

「日本の学校には当番というのがあってね……」

「トーバン? 絆創膏かなにかか?」

「ちがうよ……まあ、係りよ。日直当番とか掃除当番とか生き物係りとか」

「なんだ、それは?」

「教室の一日のマネジメントをやるのが日直、教室や分担区域の掃除をやるのが掃除当番、花壇やウサギの世話をするのが生き物係とかね、そういうノリで、イザナギ・イザナミは神々を産んでいるんだと思うよ……」

「そうなのか……」

 テルの感慨が伝染して、わたしまでシンミリしてきたぞ。

 家のパーツが終わると、今度はオホワダツミ、海の神。次に港の神、水面の神、潮の泡の神、水の神、木の神、山の神、野の神、霧の神……キリがないぞ(^_^;)。

 うわ! キャ! 熱い!

 洞の三人、思わずのけぞってしまった!

 イザナミの股の付け根が赤く輝いたかと思うと、瞬くうちにイザナミの体が火に包まれてしまい、その熱風が外野のわたし達のところまでくるのだ!

「火の神を産んでしまった!」

 生まれたばかりの火の神は、悪気はないのだろうが、母の乳房をまさぐって母を火だるまにしてしまった。

「イザナミいいいいいいいいいいい!!」

 イザナギは身にまとっていた古代衣装を脱いで、バサバサと妻の火を消そうとする。

「助けよう!」

 テルの一言で、わたしもケイトも洞を飛び出し、カーテンや自分たちのマントをバサバサ叩きつけて火を消しにかかった。

「どうして、消火器の神を先に産んでおかないのかなあ!」

「考えが及ばなかった、とにかくイザナミを! 我が妻を!」

「分かってる!」

 イザナギを入れて四人、必死で消火に勤めて、なんとかイザナミの一命をとりとめた……。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

かの世界この世界:179『今度は無事に……!』

2021-04-05 08:57:41 | 小説5

かの世界この世界:179

『今度は無事に……!』語り手:テル(光子)    

 

 

 今度は男神のイザナギの方から声をかけた。

「おお、なんと美しい! こんなに美しい女の人に出会うのは初めてだ! なんか、からだが震えてきて止まらなくなりそうだよ!」

「そういう、あなたこそ、この上もなく美しく頼もしい男です! あまりにもたくましいので、まともに目を合わせることもできないわ!」

「そう言わずに、目を合わせて……」

「合わせるのは目だけですか(*ノωノ)?」

「そ、それは言わぬが花……(;'∀')」

「期待も、あそこも膨らんで……(;^_^」

「そ、それでは(#゚Д゚#)」

「あなたぁ……ん♡」

 

 ゴックン

 

 洞に身を潜めた我々は思わず生唾を呑み込んだ。

「す、す……すごい!」

 鼻血を押えながらヒルデが歓声を上げる。

 わたしとケイトは息をするのも忘れて、見守るばかりだ。

 その……男女の営みとしてもすごいんだけど、生まれてくる子供たちがもごいのだ。

 最初に淡路島……次に四国、隠岐の島、九州、壱岐の島、対馬、佐渡島と続いていく。

 神とは言え、イザナギ・イザナミは人の体をしている。

 地球的規模から言うと、島々は小さな存在だけど、とても人間の体が生み出せるもんじゃない。

 見たままで言うと、こんな感じだよ。

 二人が体を重ね、そこいらじゅうがピンク色に染まって、ハートマークが幾千幾万と飛び交って二人の姿をシルエットのようにしてしまう。魔法少女系アニメの変身シーンのエフェクトに似ている。

 やがて、二人の体が重なったところ(エフェクトに隠れて見えないんだけど)から産声が上がり、光の球が生まれ出てきて、空中で人の形になったかと思うと、海上を沖の方に滑って行って島の形になる。

 そして、島々たちはオノコロジマを周りながら、次の弟妹が生まれるのを待っている。

「あ、次は難産みたい!」

「身を乗り出すな!」

 ケイトを押さえ込んだのがきっかけのようになって、イザナミの喘ぎ声が高くなる。それをイザナギが庇ってやって、イザナミの呼吸が整う。

 ヒー・フーー ヒー・フーー ヒー・フーー

「おお、ラマーズ式呼吸法か!?」

「ヒルデも静かに!」

「す、すまん……」

 ラマーズ呼吸法が千回も続いたころに盛大な産声が上がって、ひと際元気な赤ちゃんが生まれた! 

 生まれた子は、一瞬人の姿になったあと、光の球になって滑っていき、ひと際大きな島になった。

 あまりの大きさに、先に生まれた兄姉たちは、さらに沖に押しやられたが、それが嬉しいらしくケラケラと子供らしい笑い声が木霊している。

「妹よ!」「弟よ!」

 島々は末の子の男女の別も分からないようだけど、自分の好みで好き好きに呼びかけている。

 妹が生まれた時、お父さんに連れられて新生児室に行った時のことを思いだした。

 その時は、生まれてきた赤ちゃんの名前も性別も分からなかったけど、血の繋がりがある赤ちゃんが生まれたことが、とても晴れやかで嬉しかったことを思いだす。一緒に来たお祖母ちゃんやおばちゃんたちも嬉しそうで、我が家の最高の喜びの瞬間だった。

 産後のお母さんに伝えると「光子が生まれた時も同じくらい嬉しかったわ」と言ってくれ、一緒に寝息を立てている妹といっしょにハグしてくれた。お父さんが、その上に覆いかぶさってきて「ちょ、おとうさん!」妹が窒息してはいけないと腕を突っぱった。

 あの楽しい息苦しさを思い出した。

「なんだ、泣いているのかテル?」

「うん、ちょっと、妹が生まれた時のことを思いだして……」

「そうなんだ」

「そ、そうか、わたしには兄妹がいないから想像するしかないが、いいものなのだな、兄妹というものは……」

 ヒルデもケイトも兄妹はいないみたいだけど、このイザナギ・イザナミの子たちの誕生には心打たれるものがあるようだ。

 最後に生まれてきたのは大倭豊秋津島(オオヤマトトヨアキツシマ)、ちょっと長い名前だけど、要は日本の本州のこと。

 こうやって、我々三人は日本の大八島が出揃う現場に立ち会ったのだった。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

かの世界この世界:178『期待に胸を膨らませ』

2021-03-31 09:29:05 | 小説5

かの世界この世界:178

『期待に胸を膨らませ』語り手:テル(光子)    

 

 

 積もる話は山ほどあるんだけど、取りあえずはイザナギ・イザナミのこと。

 

 海に潜ったヒルコとアハシマにも気持ちは残ったけど、三羽のカモメのように並んでオノコロジマに戻った。

「すごい大木!」

「ほんとうは、アメノミハシラという柱だ」

 沖に出て戦っているうちにアメノミハシラの周囲はさらに緑が深くなっていて、わたしたちは、ミハシラの下の方が、程よい洞になっているところに落ち着いた。

「あちこち芽吹いて大木のようになっているけどね、この世界の生命の根源だ」

「この世界? えと……オーディンとかヴァルハラとかの世界じゃなくて」

「あちらからすると異世界だけど、わたしの世界の神話世界だと思う」

「というと、日本の?」

「そうよ、どんな力が働いているのか分からないけど、ここからやり直せということなんだと思う」

「や、やり直し……」

「わたしはワクワクしている。とりあえず、ここではラグナロク(最終戦争)は起こらずに済みそうだからな」

「ヒルデも、嫌だったの?」

「ロキ達を世界樹の女神に送った後は、真っ直ぐ父の主城ヴァルハラだ。そこで父は命ずる『ラグナロクの準備をしろ』とな……」

 ヒルデは言いよどんでしまう。テルにしても、あそこまで付き合った旅だから、十分聞く資格はあると思うんだけど、いまは触れるべきじゃないと思う。

「予感がするよ」

 ちょっと眉根にしわを寄せて返した。

「あ、今の表情可愛いぞ」

「よ、よしてよヒルデ(^_^;)」

 冷やかされて思い出した、冴子に「それは反則だ」と言われたわたしの癖だ。

 話がマジになり過ぎたり、話をここまでにしておきたいときに出てくる子供のころからの癖。

 話を打ち止めにするだけじゃなくて、半ば無意識に自分の可愛さをアピールしてしまう。ちょっと、際どい卑しさがある。

「ここはさ、たぶん日本神話の世界。それも一番最初の国生み神話のころだと思う」

「ラグナロクにはならないの?」

「無いと思う。日本神話はキチンと習ったことが無いけど、そう言うのは無かったはずだ」

「えと……だったら、観てればいいだけ? 人のゲーム動画みたくにさ!?」

「それは、どうかな。ここに来て、いくらも経っていないけど、もう二回も戦っているぞ。一度は、ついさっきだ、テルもいっしょに戦っただろうが」

「あ、そうなんだ」

「今回はスマホが使えるようで、一応の流れは分かるんだけども、どこでどの程度干渉することになるか分からない」

「まあ、気楽に行こうではないか。テルも戻ってきたし、このまま進んで行けば、他のメンバーも戻って来るような気がするぞ」

「そうね、取りあえず、あの二人を見守らなくっちゃ……」

 ゴソゴソゴソ

 三人並んで、斥候のような気分になって洞の淵に茂っている草をかき分ける。

 男女神は生まれたままの姿で、背を向けてミハシラを周っている。

 二人とも、さっきの失敗を取り戻す意気込みと、互いへの興味で、この高さから見てもハッキリわかるくらいに赤くなって、再びの出会いに期待を膨らませている。

 一種の吊り橋効果だな。

「膨らんでいるのは期待だけかぁ?」

「なんか、いやらしいっす」

「なにがイヤラシイ、わたしは胸の事を言ったんだ、期待に胸を膨らませって言うだろうが」

「あ、なんかごまかした」

「い、いやらしいって言う方がいやらしいんだぞ」

「ヒルデ、なんか息、荒くないっすか?」

「そ、そんなことは無いぞ、そういうケイトの方が赤いぞ」

「ち、違うっす(#'0'#)」

「二人とも静かに」

「テルは落ち着いてるっすね」

「こいつは、ムッツリなだけなんだろ(#'∀'#)」

「う、うるさい、ほら、二人がまた出会うわよ!」

 イザナギ・イザナミの二神は、学校の円形校舎ほどの太さになったミハシラを周って、二度目の出会いを果たそうというところだった……。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

かの世界この世界:177『最初の子は流された』

2021-03-25 09:27:09 | 小説5

かの世界この世界:177

『最初の子は流された』語り手:テル(光子)    

 

 

 キャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

 

 オノコロジマの産屋にイザナミの悲鳴が響き渡った。

「なにごとだ!?」

 岩陰に移って、最初に生まれるのは「男の子かなあ(^_^;)女の子かなあ(^o^;)」と心待ちにしていたわたしとヒルデは反射的に剣の柄に手をかけて産屋の窓の下に駆けつけた。

「あ……あれは!?」

 イザナミの足元には、まだへその緒が付いたままの……ちょっと表現するのも憚られるものが転がっている。

「ふ、二つか……?」

 さすがはヴァルキリアの姫戦士、それを見ても動じることは無かったが、どうにも判断しかねているようなのだ。

「一体は、手足も目鼻もない……もう一体は……」

 わたしも言葉にはできない。

 イメージとして浮かんだのは、まるで祖父が酒のつまみに好んでいた『いかの塩辛』だ。

 バラバラの体が粘液の中でグニャグニャと動いている。

 イザナギは妻の肩を抱くと、冷静に優しく諭した。

『女の方から声をかけたのが良くなかったんじゃないかなあ……』

『ナ、ナギ君……』

『ごめん、こういうことは男がリードしなきゃなあぁ、オレが気が回らずにナミに辛い思いをさせてしまったな』

『ごめんは、わたしの方よ、ちょっと焦ってしまって』

『よし、またやり直そう。とりあえず……まずは、この子たちだ』

 

「お、なにかやり始めたぞ!」

「声が大きい」

 

 あやうく気づかれそうになり、ヒルデの頭を押さえて身をかがめる。

 イザナギはアメノミハシラの葉っぱで洗面器ほどのボートを作ると、二人の赤ん坊を載せて海岸に向かった。

「この子はヒルコ、こっちはアハシマだ。海の向こうで幸せになってくれよな……」

「ごめんね、ヒルコ、アハシマ」

 葉っぱの船は、そよそよ、ゆらゆらと沖に向かって流れていく。イザナギ、イザナミは抱き合ってその行方を見えなくなるまで見送った。

「あれでいいのか……?」

「ちょっと待って」

 スマホで検索してみる。

「ああ、このあと、二人はアメノミハシラを巡って、子作りをやり直すことになる」

「流された子供が気になる……ちょっと、行くぞ」

「分かった」

 

 波打ち際に向かって助走し、ジャンプすると海鳥のように飛べた。

 

「あ、あれか?」

「あれは!」

 五カイリも飛んだだろうか、海は凪いでいるんだけども、そこだけ海面が泡立っていて、海の中で何かが暴れているような感じなのだ。

「上がってくる!」

 シュババーーーーーーーン!

 二つ飛び出してきた。

 一つは、ヒルコとアハシマが合体したモンスター、もう一つ、いや一人は……

「「ケイト!?」」

 それは、向こうの世界で別れて以来のケイトだ。

「トリャアアアアアアアア!」

 海中から打ち出されたミサイルのように上空まで飛び上がったケイトは弓をつがえていて、水の抵抗が無くなるのを待ち構えていたんだろう、気合いと共に矢を放つ。

 矢は過たず、哀れなクリーチャーとなり果てた神の子を射抜いた。

 グオオオオオオオオオ

 口の無い体のどこから出てくるんだと言う悲鳴を上げて、神の子は海上に落ちてしまった。

「トドメだあああああああ!」

 ケイトは弓をタガーに変換し、両手で構えると、自分を一本の銛にしたようにダイブアタックをかけた。

「待てええええ!」

「テル!」

 わたしは、反射的に剣を構えるとケイトのタガーに打ちかかっていった。

 ガキーーーン!

 火花が散る。

 なんとかケイトのアタックをキャンセルする。

「何をする!」

「おちつけ、ケイト、わたしだ! テルだ!」

「テ、テル!?」

「ああ、テルだ! 見ろ、ヒルデもいるよ!」

「ケイト、無事だったか!」

「ヒルデ! テル! さ、探したよおお! 寂しかったよおおおおおお!」

 懐かしさのあまり三人でハグすると、団子になって、そのまま海に墜ちてしまった。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

かの世界この世界:176『国生み 事始め』

2021-03-18 09:23:10 | 小説5

かの世界この世界:176

『国生み 事始め』語り手:テル(光子)    

 

 

 カオスの霧はアメノヌホコが貫いていたところだけトンネル状に薄くなっている。

 それを頼りに、ヒルデと二人イザナギ・イザナミ男女神の後をつけ、螺旋を描いてダイブしていく。

「イテ!」

 ヒルデがなにかに接触した、わたしは反射的に、それを避けて、螺旋の半径を大きくする。

「気をつけろ、いつの間にか、ぶっとい柱になっているぞ!」

 ヌホコの貫いた空間が実態を備えて太い柱になっている。

 ヒルデとわたしのダイブに合わせて、柱に文字が現れる。ダイブに合わせて青と赤の文字が走って、まるで床屋の看板を慕って舞飛ぶ虫になったような感じ。

「AMENOMIHASHIRA……」「アメノミハシラ……」

 それはアメノミハシラと読めた。

「なんだ、アメノミハシラとは?」

「たしか……」

 最初に浮かんだのは、FF14に出てくるディープダンジョンの名前だ。

 いや、オノコロジマに聳える柱だから……あ……思いついて、自分でも恥ずかしくなるくらい真っ赤になってきた。

「なにを赤くなってる?」

「いや、ちょっと……ここからはR18だよ」

「R18? ルート18? 国道18号線のことか、国道なら天下御免の公道ではないか、なんの遠慮がいる」

「ヒルデ、あんた、分かってボケてる?」

「ハハ、R指定! 面白いじゃないか、急ぐぞ!」

 ビュン!

「あ、待て、ヒルデええええええ!」

 

 二人でダイブしているわずかの間に、オノコロジマは小さいながら緑豊かな小島に成長し、アメノミハシラは、その中央に聳え立つ巨木のようになっていた。

「隠れて見ていよう」

「う、うん」

 ヒルデと薮の中に飛び込んで、週刊誌の記者のように覗き……いや、観察を続ける。

 素っ裸の二人は、不思議そうに自分と相手の体を見ている。体は大人だけど、その関心は初めていっしょにお風呂に入った幼稚園児のようだ。

「なにか、作りがちがうなあ」

「そうねえ……」

「俺のは、ちょっと余ったみたいで、変なのがぶら下がって……」

「わたしのは、なにか足りなかったみたいで、凹んで穴が開いてるわ」

「その分、イザナミの胸は二つも膨らんでるぞ」

「ああ……でも、そのぶら下がってるものは、なんか次元が違うと思うなあ」

「ほんとうに無いのか? ちょっと位置がずれてるだけとか」

「どうかなあ……ちょっと見てくれる、イザナギ?」

「あ、ああ……なんかすごい(#'∀'#)」

「な、なに赤くなってんの(#^_^#)!?」

「ちょっと頭冷やす、散歩してくる」

「そ、そう、じゃ、わたしも」

 男女神は、それぞれ反対の方向に歩き出した。

「反対側で出くわすわよ、わたしたちも移動しよう!」

「そうだな!」

 男女神はアメノミハシラを巡って反対方向から回る形になって、出くわした反対側で声を掛け合った。

「いやーー、マジいい男じゃない(^▽^)/」

 最初に声をかけたのはイザナミ。どうも、初対面だというシチュエーションで雰囲気を盛り上げるつもりのようだ。

「あ、ああ、きみもなかなか、か、可愛いじゃないか」

「そお(#^▽^#)、じゃ、じゃあ、さっそくやっちゃう!?」

「や、やっちゃうって(#^_^#)?」

「あたしの足りないとこに、あんたの余ってるとこを挿れんのよ!」

「お、おう……」

「さあ、来て!」

「う、うん!」

 ガバ!

 男女神の国生みが始まった!

 ゴクリ……

 ヒルデと二人、薮の中で固唾を呑んで見守った(n*´ω`*n)。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

かの世界この世界:175『オノコロジマ』

2021-03-12 09:28:16 | 小説5

かの世界この世界:175

『オノコロジマ』語り手:テル(光子)    

 

 

 取り返した時は二間に満たないアメノヌホコだったけど……

 

「待ってくれ、ニケンというのはなんだ?」

 ヒルデがのっけから聞いてくる。

 そうか、ヒルデは北欧神だから、日本の尺貫法で言っては理解できない。

「一間は1・8メートルのことよ。あ、まだまだ伸てる!」

「おお!」

 イザナギ・イザナミが二人で手に取ったアメノヌホコは、みるみるうちに伸びて、はるか下方のカオスに下りていく。

「見えなくなったぞ」

「目を凝らせば見えてくると思う、このカオスにも上下の区別が出てきたし、上の方から空気が澄んできている」

 ズボ

「なにかに突き刺さったな……ヌホコが、あんなにしなってるぞ」

 突き刺さった先は、まだ見えてこないけど、ヌホコのしなり方で粘度の高い液体のように感じられる。

「似ているぞ」

「え、なにに?」

「ブァルキリアの祭りで、ドラゴンの玉子で巨大なオムレツを作ったことがあるんだ。トール元帥が張り切ってな、ミョルニュルのハンマーを巨大なオタマに変えてかき混ぜたんだ、あの時の感じに似ている」

「あ、そう言えば『中二病でも恋がしたい』の六花のお姉ちゃんの小鳥遊十花の武器はオタマだよ!」

「それは、きっとトール元帥の反映だな。そうか、あの姉はカミングアウトしたトール元帥だったのか!?」

「でも、凸守早苗(でこもりさなえ)のツインテールはミョルニルハンマーとか言って振り回していなかった?」

「あれは、中二病の幻想だろ、姉を相手にして勝ったことは無いはずだぞ」

「そうだった?」

「そうだ、だいいち、六花は牛乳が大の苦手だろ。十花に負けて瓶牛乳を無理やり飲まされて死にかけていたぞ」

「ああ、あったあった。丹生谷森夏にも飲まされて、盛大に吐き出していたなあ」

「ヴァルキリアの人間で牛乳が飲めないやつなんていないからな」

「ちょっとそこ、静かにしてもらえませんか、気が散って集中できない」

 イザナミに怒られる。

 ちょっと盛り上がり過ぎた(^_^;)

 ピチョ

 やがて、ヌホコの先から雫が落ちる音がした。

 すると、下界の霞はヌホコを中心にみるみるうちに晴れ渡っていき、広大な海の真ん中に雫が落ちて島になったのが分かった。

「なんの島だろう?」

 スマホで調べると『オノコロジマ』と出てきた。

「実在の島か?」

「……いろいろ説があるみたいね……淡路島の横っちょの沼島とか播磨灘の家島とか……博多湾の能古島という説もある」

「近畿エリアと九州エリアか……そう言えば、日本の天皇家の始まりは近畿と九州に分かれていると聞いたぞ」

「あ、それは邪馬台国」

「え、邪馬台国が大和朝廷になったのじゃないのか?」

「ちょっと、静かに!!」

 また、イザナミに叱られる。

「おい、あの二人、素っ裸になって島に下りていくぞ!」

「あ、お邪魔しちゃ悪いかなあ(#'∀'#)」

「イヒヒ、この先、どんなフラグが立ってんのかなあ(^#▽#^)」

「なんか、いやらしいよ」

「イザナギ・イザナミって、おなじとこから生まれてるから、ひょっとして兄妹!? え、妹系のエロゲだったりするのか!? これは、たしかめなくっちゃ!」

「ちょ、ヒルデ、じゃましちゃ……」

 金髪のスケベ女は涎を垂らしながらオノコロジマに下りていく、なんだか、妹系ラブコメのヒロインのようになってダイブしていく。

「待ってくだされ、ブリリン氏!」

 あ、わたしもキモオタ女っぽくなって追いかけてしまう……

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

かの世界この世界:174『目覚めた男女神』

2021-03-05 09:58:32 | 小説5

かの世界この世界:174

目覚めた男女神語り手:テル(光子)    

 

 

 あの二人はテルが起こせ。

 

 霞の向こうにイザナギ・イザナミの姿が見えてくると、急にホバリングしてヒルデが言う。

 勢いで追い越してしまい。大きくUターンして戻ってみると、ヴァルキリアの姫騎士は腕組みして考えている。

「どうした、ヒルデ?」

「いや、な、ここは日本神話の世界だ。なにかの因縁で出てきてしまったが、ここは日本人のテルが声をかけるべきだ。このアメノヌホコは、この神話を……どこまで続いているかは分からないが、偉大な出発点だろ。異民族のわたしがしゃしゃり出るべきではない」

「それは気にしなくてもいいよ」

「神話とは神聖なものだろう」

「そうなのか?」

「日本は、あまり、そういうことにはこだわらないと思う」

 そもそもの始まりは、冴子と神楽舞の巫女をやったことが始まり。

 神楽舞の巫女は十三歳の女の子が一生に一回だけやるものと定められているけど、わたしも冴子も十七歳になってもやっていた。

「そうか、それなら……」

 再び前に進もうとしたら、わたしらの騒ぎで目覚めたのだろう、イザナギ・イザナミが飛んできた。

「いやあ、あなたたちが取り返してくれたんですか!」

「はい、これが無ければ始まりませんから」

「どうも、生まれたばかりで、わたしもイザナミも血圧が低くて。イザナミ、おまえからもお礼を言いなさい」

「どうも、ありがとうございます。謹んでお礼申し上げます」

 丁寧に頭を下げる男女神。

「本来なら、わたしどもが澱の神どもを追って、自分の手で取り返さなければならないところでしたが……そちらは異国の神でいらっしゃいますか?」

「あ、ああ。北欧の主神オーディンの娘でブリュンヒルデと言う。ヴァルキリアの戦士の束ねをしている。ヒルデと呼んでくれればいい。よろしくな」

「それはそれは勇ましいことで、そのように戎装(武装)されていなければ、さぞや美しい姫様であられましょうに……」

「あ、ああ」

 ちょっと上から目線?

「イザナミ、まずは、国生みをしなければ、時間が無いぞ」

「では、わたしたちは、これで」

「お二人は雲の上でおくつろぎになってください。国生みが終わったら、お礼の宴をひらきたいと思います。ぜひ加わってください」

「え、国生みをお見せするんですか!?」

「ああ、目出度いことだ。目出度いことは、みんなで祝うのがいいだろ」

「え、ええ、あなたがおっしゃるなら」

 ちょっと、この夫婦には温度差があるような気がするけど、好奇心が――見ていけ――と言っているのに付き合うことにする。

 ヒルデはポーカーフェイスを決め込んでいるけども、イザナミの物言いに、ちょっとカチンときている。そのカチンから見届けてやろうという気になっているようだ。

 アメノヌホコは、ほとんど衝動で取り返しに行ったんだけど、この異世界に放り出されたのは意味があるはずだ。

 ヒルデといっしょに二人の国生みがよく見える、フワフワの雲の上に落ち着いた。

 

「それでは始めます」

 

 折り目正しくお辞儀をしたイザナギはイザナミを促して、二人で矛の柄を握った。

「お、結婚式のウェディングケーキに入刀するのに似ているなあ、『初めての共同作業』とか言うんだよな。そうか、これが起源だったのか!」

「ちょ、スマホで写真なんか撮っちゃダメよ」

「そうか、じゃ、キャンドルサービスの時にでも」

「いや、だから、結婚式じゃないから(^_^;)」

 バカを言っていると、二人が手にしたアメノヌホコはヌルヌルと伸びていき、はるか下方で割りたての玉子のようにドロドロしているところに下りて行った……。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

かの世界この世界:173『アメノヌホコ・2』

2021-02-28 09:21:30 | 小説5

かの世界この世界:173

アメノヌホコ・2語り手:テル(光子)    

 

 

 ヒルデに従って飛んでいくと、出来損ないの綿アメのようにカオスが疎らになってきて、人の形をとった七つの澱がハッキリしてきた。

 澱たちはジェット気流に流される雲の切れ端のような速度で突き進んでいく。澱たちの中ほどには、アメノヌホコが見える。

「あいつら、アメノなんとかを盗むつもりだぞ」

「取り返さなくっちゃ!」

 シャリン! 

 ヒルデがエクスカリバーを抜く、さすがに異世界の名刀、冴えた鞘走りの音だ!

 チャリン

 わたしのはシケた音しかしない(^_^;)

「行くぞ!」

 ブワァアアアアアアアア!

 それだけで100メガバイトはかかっていそうなエフェクトを残してヒルデは突撃した。

「させるかあああああああ!」

 敵に言っているのか、ヒルデに怒っているのか分からない雄たけびを上げて、わたしもつき進む!

 ボン

 レンジの中で卵が弾けるような音をさせて、澱どもが散開する。

 チャリン チャリン

 アメノヌホコを持った澱に打ち込むと、寸前に別の澱がやってきてヌホコを取っていく。

 敵ながら連携の取れたラグビー選手のようだ。

「「くそ!」」

 ヌホコを持った澱に切りかかると、剣を振り下ろす直前にヌホコが消える。

 消えるのは錯覚で、目にもとまらぬ速さでかっさらわれているのだ。残された澱を切っても、煙を切ったように手ごたえがない。一瞬飛散したようになる澱だが、すぐにまとまってしまってキリがない。

 自分では分からないが、ヒルデが空振りした時のそれで分かる。わたしも、ヒルデから見ると、そう見えているに違いない。

 シュワン! ブワン!

 名刀とナマクラが空を切る音ばかりする。

「ラチが明かないわよ(;'∀')」

「澱とは言え形があるんだ、どこかに欠点がある!」

「欠点?」

「探すんだ!」

 ブワン! ブワン!

 言いながらも手を休めることなくエクスカリバーを振り回している。

 さすがはヴァルキリアの姫騎士、主神オーディンの娘だ、闘志がハンパない!

 接近すると、澱たちの中にボンヤリと神名が浮かび上がる。

 ☆クニノトコタチ ☆トヨクモノ ☆ウヒヂニ ☆スヒヂニ ☆ツノグヒ ☆イクグヒ ☆オホトノヂ ☆オホトノベ ☆オモダル ☆アヤカシコネ

 さっきよりも輝きが増して、存在感がハッキリしている。

 放っておいてはロクなことにならない気がする。

「その通りだ、とにかく切りまくれ!」

「分かった!」

 シュワン! ブワン!

 澱たちの神名は一定ではない、追い回しているうちにも、同一の澱の中で神名がコロコロ変わっていく。

「こいつら、まだ神名が定着しないんだ、定着する前に倒すぞ!」

「お、おう!」

 返答はするが、こっちはヴァルキリアの戦士じゃない、息切れがしてくる。

 そう言えば、ムヘンではレベル幾つだったか……

 HP:1500 MP:400 属性:テル=剣士

 忘れかけていたステータスが浮かび上がってくる。

 そうか、HP MPのレベル概念があるきりだったな。

 ん?

 待てよ、HPは20000はあったはずだぞ?

 そうか、スタミナを使い果たしかけている!

 ポーションを呼び出そうとしたが、ストックはゼロになってしまっている。

「白魔法をクリックしろ! テルにもケアルぐらいはあるだろ!」

「わたしが?」

 ケアルはケイトに任せていた、そんな白魔法が……あった!

 MPだけは400あったので、100を使って機関銃のように自分にケアルを掛ける。

 ピピピピピピピピピピピピピピピピピピ

「よし、HP10000にまで戻った!」

 気を取り直して再び澱たちに挑みかかる。

 ケアルを掛けるのに遠ざかってしまっていた。

 急いで戻ると、一つのことに気が付いた。

 エクスカリバーの斬撃にも暖簾に腕押しの澱たちだが、近くに居てあおりを受けた澱のHPは一瞬減っているのだ。HPが減ると、すぐに近くの澱が寄ってきてケアルをかけて回復させている。

 そうか、澱たちが無敵なのはヌホコを持っている間だけで、手放した瞬間から防御力は急速に落ちるんだ!

「ヒルデ、ヌホコを持っていない澱は防御力が低い! いや、無いも同然だ!」

「分かった!」

 矛先を変えて、ヒルデと二人で手ぶらの澱たちを切りまくる。

 数秒で六体の澱を打ち倒し、最後の一体は、ヌホコに手を伸ばす前にHPを使い果たして消えて行ってしまった。

「よし、ヌホコを返しに行くぞ!」

「こっちよ!」

 アメノヌホコを回収して、ヒルデと二人、イザナギ・イザナミの二神の元に駆けつけた……。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

かの世界この世界:172『アメノヌホコ』

2021-02-22 09:10:58 | 小説5

かの世界この世界:172

アメノヌホコ語り手:テル(光子)    

 

 

 ヒルデと二人で手を繋いだ。

 手を繋いでいないと、上下も判然としないカオスの中をグルグル回って、いつ離れ離れになるか分からないのだ。

 重力が無いので、髪が大変なことになっている。

 ホワホワとタンポポの綿毛のように広がってしまっている。

「ウ……口の中に入った……」

 ヒルデの方に顔を向けようとしたら、慣性の法則で顔の前に残った髪が口の中に入ってしまう。

 プペ ペッ ペッ

「ジッとしてろ」

 ヒルデがわたしを手繰り寄せ、手際よく髪をまとめてくれる。ヒルデは、いつの間にやったのか軽やかなポニーテールにまとめてしまっている。さすがはヴァルキリアの姫騎士だ。

「ありがとう」

「礼なんかいい、とりあえず、ここを抜けなければな。それを考えろ……ここは、どこなんだ?」

「ここが神話の世界なら……」

 思い出そうとするが、出てこない……日本神話の初めはイザナギ・イザナミだったはず……その前というと……?

 アニメなどに出てくるのは、アマテラスとか高天原とかイザナギは黄泉の国でラスボスのような化け物になり果てて……そうだ、最初はイザナギ・イザナミの二人で島とか神さまとかを産むんだ。

「思い出したか?」

「男神と女神がいるはずなんだけど……」

 こんな重力もないカオスの中では、国生みどころか、ヒルデと二人並んでいることもできない。

「あれはなんだ?」

 わたしが、あれこれ考えているうちにもヒルデは首を巡らし目を見張っていたんだ。カオスの中に何かを発見した。

 カオスの鈍色が凝り固まって、いくつかの澱(おり)のようになったものが浮かんできた。

 しばらくすると、澱のようなものはボンヤリと人の形をして来たんだけど、霧の中の提灯のように滲むばかりで、頼りない。

「傍に寄ってみよう」

「だめ、行かない方がいい」

「そうなのか?」

 確証はないんだけども、神話の始まりはイザナギ・イザナミだ。それ以前のものに関わってしまったら、永遠のカオスの中に閉じ込められてしまいそうな気がする。

 首を巡らすと、澱のようなものは七つあって、目を離さないようにしていると、澱の中に文字が浮かび始めた。

 クニノトコタチ、トヨクモノ、ウヒヂニ、スヒヂニ、ツノグヒ、イクグヒ、オホトノヂ、オホトノベ、オモダル、アヤカシコネ、

「なにか意味があるのか?」

 ヒルデは北欧神話の神なので、意味を考えてしまう。

 ヒルデが彷徨し始めたのも、父であり主神であるオーディンとの関りに疑問を持ったからなのだ。

 疑問を持ったヒルデはトール元帥に預けられ、長くムヘンの地に幽閉されていた。

 わたしたちと出会わなければ、まだ、ムヘンの荒れ地を彷徨っていただろう。

 わたしたちも、転移させられていたムヘンから逃れることは出来なかった。

「見ていれば流れるか消えていくと思う、始まりは男神と女神の二人の神だ……」

「しかし、名前があると意味を考えてしまう……アヤカシコネとかは、妖(あやかし)に関係する神なのではないか……」

 そう考えながら、ヒルデの空いた手はエクスカリバーの柄に手がかかっている。

「ヒルデ」

「あ、すまん。未知のものには、すぐに警戒の心が湧いてきてしまってな」

 ヒルデの手が柄から離れると、七つの澱はゆっくりと背後のカオスの中に流れていき、代わりに現れた二つの澱は、すぐに人の形になった。男女二柱の神だ。

 現れた!

「これが、目的の神たちか?」

「イザナギ・イザナミだ、間違いない」

「眠っているのか?」

「目覚めると思う。これから、二人で国やら神を産むはずだ……」

 数十分も見つめていただろうか、二柱の神は目覚める様子もない……なぜだ?

 なにか足りない……。

 おぼろげな記憶が不足のシグナルを挙げているのだけど、それが何かなのかは、もどかしくも浮かび上がってこない。

 二柱の神は……神は……なにかをかき回していた……その雫が島に……そうだ、かき回す棒のようなものがあったはずだ!

 首を巡らせると、反対側に、今まさに混沌の中に沈みそうになっている矛を発見した。

 アメノヌホコ!

「あれだな!」

 察したヒルデは、わたしよりも早く突進していった!

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋

 

  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

かの世界この世界:171『最初の仲間』

2021-02-15 09:02:48 | 小説5

かの世界この世界:171

最初の仲間語り手:テル(光子)    

 

 

 ひょっとしたら分岐?

 

 ハチャメチャな異世界を巡ってきたけど、あとから思うと分岐のようなところがいくつもあった。

 その時は分岐だなんて思っていなかったから、流れるままに身を任せたけども……。

 いま形を現わそうとしている仲間は、はっきりイメージを思いうかべないと、とんでもない事態になりかねない。冴子との関係がこじれたのも、肝心の時にきちんとした選択ができていなかったからという気がしてくる。

 ええと……ええと……

 ケイト……ブリュンヒルデ……タングリス……タングニョースト……ロキ……ポチ……とストロボのように巡っていく。

 あ……あ……

 迷っているうちに、その巡りそのものが薄くなってき始めた。このままでは消えてしまう。

 シュボン!

 唐突にエフェクトが入ったかと思うと、それはブリュンヒルデの姿に固着した。

「もう、自分で出てきたぞ!」

 

 まずはブリュンヒルデとの再出発になった。

 

「懐かしい、もう会えないかと思ったわ(#*0*#)」

「そのわりには迷っていたようだな」

「ごめん、ちょっと気弱になっているのかもしれない」

「まあいい、わたしの旅も中断してしまったからな」

「他の仲間は?」

「バラバラだ、この先再び現れるのか、テルと二人旅になるのかも判然としない」

「し、しかし……足元が定まらないわね……」

 ヒルデの姿こそ定まったけれど、周囲は穏やかになったとはいえ、相変わらず鈍色の渦で、慣れないスカイダイビングをしているような感じ。

「キャ」

「す、すまん、不可抗力だ(n*´ω`*n)」

 わずかに流れが変わったかと思うと、急にヒルデの顔がわたしの胸に密着した。

 互いに押して離れたかと思ったら、クルンと回って、今度はお尻同士で密着、ドンケツして離れたら、またまた回転して、今度はあやうく女子同士でキスしてしまいそうになる。

「アハハ」

「しかし、どうして、こんなに不安定なんだろ(^_^;)」

「ここは、ムヘンでもヴァルキリアの世界でもないからな……ちょっと待て」 

 なにやらゴソゴソしたかと思うと、ヒルデはアーマーの胸板からスマホを取り出した。

「スマホ……あ、わたしも持ってる」

 胴着のポケットをまさぐると、わたしもスマホを持っていた。

 そしてGPSを使うと表記が出てきた。

「The Japanese mythology?」

「えと……日本神話?」

「どうやら、テルの国の異世界のようだな」

 北欧神話にも暗いわたしだけど、日本神話も似たり寄ったり、アニメやラノベで知っているだけで、全体の流れと言うと、小学一年のそれと変わらない。

「あ、なにか現れるぞ!」

 斜め上から気配が降りてくる。

 互いに、それに気づくと、シャリンと音をさせて剣を鞘走らせた。

 最初からボス戦……それは勘弁してほしい……

 口に出さずに身構えていると、気配は20世紀フォックスのロゴのような形を現した。

『天地(あめつち)のはじめ』

 それは、巨大なタイトルとなって、二人の前に立ちふさがった……。

 

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋

 

  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

かの世界この世界:170『飛ぶぞ!』

2021-02-09 10:05:21 | 小説5

かの世界この世界:170

飛ぶぞ!語り手:テル(光子)    

 

 

 飛ぶぞ!

 その声は時美先輩だ。

 声の背後に息をのむ気配、これは美空先輩だろう。

 

 突然の決心に二人の先輩は短く声をあげることと息をのむことしかできなかったようだ。

 

 仕方ない、ここからは自分でやるしか……これまでもそうだったけど、わたしの時空の飛び方に脈絡は無い。たとえ、犬のウンコを握りつぶしたことがきっかけであったとしても、自分の選択だ。

 前を向いて行くしかないよ。

 洗濯機の中を思わせる時空の渦の中をグルグル振り回されながら落ちていく……目が回るようなことはなかった。手にこびりついた犬のウンコが遠心力で飛び散ってきれいになっていく。

 よかった、ババ掴みのままで異世界探訪なんてまっぴらだ。

 しかし、飛び散っていくのはウンコだけではなかった。

 身に着けた制服がビリビリと音を立てて裂けていく。

 ちょ、なによ(;゚Д゚)!?

 手で押さえたり、脚を絡めたりして制服の分解を防ごうとするのだけど、巨大な竜巻に取り込まれたように儚い抵抗でしかない。

 ビリ ビビビ ビリビリビリ!

 上着が スカートが ブラウスが その下にまとっているものも次々と千切れて引き剥がされ、鈍色の渦の彼方へ吹き飛ばされていく!

 ムヘン以来身に降りかかったアレコレに慣れて、気を失ったりパニックになることは無かったけど、スッポンポンにされるのはかなわない!

 プツ

 儚い音を立てて最後の一枚が吹き飛ばされた(#*0*#)!

 キャーーーーー!

 誰が見ているというものでもないのだけど、両膝を抱えるようにして、露出する肌の面積を最小にしようと努力する。これって、羊水の中の赤ちゃんに似てるかも……。

 異世界慣れした感覚が『目だけは開けておけ』と囁く。

 とことんのところは自分の選択だ、巨大な渦に巻き込まれているとしても、自分の意識だけは覚醒しておかなければ、さっきみたく、犬のウンコを握るようなことになってはたまらない。

 それでも、風圧のために日本史で習った土偶のような細目でしか見開けない。

 あの土偶、なんて言ったっけ……ぼんやり思っていると、そのスリットのような視界の中に、何かが見えてきた。

 人か……?

 いや、人の輪郭はしているけど、帽子の下も袖の先も空虚だ……これって、コスのサンプル?

 最初は尖がり帽子に黒を基調としたローブで、袖口の先にはロッドが揺れている。魔導士……黒魔導士。

 次は草色の胴着にレイピア、剣士か。

 枯れ葉色の胴着に短弓、アーチャーだ。

 白のローブにお揃いの尖がり帽子、白魔導士。

 冒険者のコスが、次々に現れて、目の前で数秒留まって流されていく。そして数十秒かかって元のコスが現れて……どうやら、わたしの周りをサンプルのコスが回っているのだ。

 選べと言うことか?

 そうか……以前は剣士をやっていたから、今度は白魔導士くらいがいいかなあ?

 そう思っていると、聞き覚えのある声が風の中から聞こえてきた。

『ごめんなさい、テルは剣士だったわね!』

 あ、荒地の万屋!?

 ペギー!

 そこまで思い出すと、ホワンと音を立ててコスたちは消えていき、体が引き締まったかと思うと、剣士の姿になった。

「ペギー、どこにいるの?」

『ここじゃ、店も姿も現せないのよ。始原のカオスだからね。もう、たいていのことには驚かないだろうから、幸運を祈ってるわよ』

「じゃ、コスの代金は?」

『お得意さんだから、次にあった時でいいわよ。それから、パートナーをひとり選べるから』

「え、そうなの?」

『ちょっと待って……あ、コンプリートしてないから、指定さ……れて……る……みた……い……』

 そこまで言うと、かき消すようにペギーの気配が無くなってしまった。

 あれ? サンプルの消し忘れ?

 コスの一つがボンヤリと残っている……いや、そのコスには、ちゃんと首も手の先も残っている。

 パートナー……?

 それは、懐かしい仲間の姿を取り始めた。

 

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

かの世界この世界:169『再びの決意』

2021-02-04 08:34:22 | 小説5

かの世界この世界:169

『再びの決意』語り手:テル(光子)    

 

 そうだったの……。

 お茶のエッセンスを絞り切るようにポットを上下させて美空先輩は呟いた。

「完全じゃないと思うけど、この辺で手を打つか」

 時美先輩が、見かけのボーイッシュさとは裏腹な優しい手つきでケーキをお皿に移す。

「ハハハ、不思議か?」

「あ、いえ」

「普段は大ざっぱだけど、ここ一番という時は丁寧にやるんだ」

「時美はね、思ったよりも見かけにこだわるのよ」

「潰れたケーキって、やだろ。三人で食べるんだったら三つとも綺麗にしとかなきゃ、つまんないだろ」

「そうですね」

 時美先輩のこだわりにホッコリする。

「さ、いただきましょ」

 そういうと美空先輩は『けいおん』のムギちゃんのような笑顔でケーキにフォークを入れた。

「……おいしい」

 久々に(現実世界では二時間ほどしかたってないんだけどね)先輩といただくケーキはため息が出るほど美味しかった。

「じつはね、目当てのケーキ屋さんはお休みでね、ちがうお店で買ってきたの」

「え、そうなんですか!?」

「うん、ごめんね。最初に言ったらがっかりするだろうって思って」

「言わなきゃ、分かんねえのに」

「い、いえ、ちゃんと言ってくださるのは思いやりだと思います。じっさい美味しかったですし」

「そう、よかった」

「それで、冴子はどうだった?」

「はい、それが……」

 冴子が赤の他人のようになってしまったことを説明した。

「でも、これで、殺すことも殺されることも無くなったわけだ」

「うん、そうね……」

 言葉遣いはちがうけど、美空先輩も時美先輩も等しく労わってくださるのが身に染みて嬉しい。

「はい、落ち着いて、ここからやり直します」

 二人の先輩は穏やかに微笑むことで賛同してくれた。

 

 一人で下校する。

 赤信号で立ち止まったり、電車がくるまでホームで待っていたりすると、無意識にスマホに手が伸びる。

 冴子のメールを意識してるんだ。

 もともと、いつも一緒にいるようなことはなかったけれど、何かにつけてメールのやりとりはしていた。

 正しくはラインというらしいんだけど、違いがよく分からないわたしはメールという呼び方で納得している。ラインは個人情報を抜かれるという噂だったけど、便利で無料だし納得。

 納得を二回も使ってしまう。ほんとは納得していないんだろうか。

 郵便受けに新聞が溜まっている。

 昨日の夕刊からとり忘れているところへ回覧板や市政だよりが入っている。

 朝刊の折り込みチラシはスーパーワンダイの新装開店。市政だよりのカガミ(表紙)は神社の巫女舞の稽古の様子だ。

 ちゃんと、見知らぬ中学生の女の子が緊張した表情で踊っている。

 ここでは、三年連続でわたしと冴子がやらされることは無いんだ。

 あれこれ見ていると、冴子に電話したくなる。

 でも、もう他人なんだ……。

 なんだか無性に寂しくなる。

 ま、いい。ゆっくり時間をかけて……また、なれるものなら友だちになればいい。

 

 あくる日、駅の改札を出ると、ちょっと前を冴子が歩いている。

 

 ちょっと追い越したぐらいのタイミングで気が付いたことにして、ペコリと頭を下げるくらいの挨拶。

 そうだ、一から始めればいいんだ。

 そう思って、少し早足になる。

 すこし横に出て、肩が並ぶ……。

 ドン!

 キャ!

 わたしの後ろから自転車が来ていて、わたしが急に横に出たものだから、追い越しざまに接触。

 チ!

 自転車の主は舌打ちして行ってしまう。

 タタラを踏んでコケて手を着いたところに犬のウンチ。

 グニュ

「あ、ああ……」

 間抜けなため息が出る。

 前を歩いていた生徒たちが振り返る。一番間近に冴子。それも、仁王様のように怖い顔。

「あ、昨日の……!」

 そこまで言うと、ひどく蔑んだ迷惑顔。

「ギョエ!! ちょ、離して!」

「あ!?」

 わたしは、ウンチを握りつぶした手で冴子のスカートを掴んでいたのだ……。

 疫病神を見るような冴子の視線を浴びながら、わたしは、もう一度時空をジャンプする決心をした。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

かの世界この世界:168『ほとんど元の世界』

2021-01-31 08:54:46 | 小説5

かの世界この世界:168

『ほとんど元の世界』語り手:テル(光子)    

 

 

 学校の中を一通りまわった。

 冴子が他人になってしまった以外は何も変わっていないように感じた。

 クラスの友だちは普通に話しかけてくれるし、席に戻って五時間目の教科書を出すと、表紙の隅に憶えのあるシミがちゃんとついている。

 黒板に目を向けると、今日は日直だ。

 そうだ、日直だった。

 日直の最大の仕事は黒板を消すことだ。

 改めて確認すると、四時間目の板書はきれいに消してある。

 相棒の戸倉さんがやってくれたんだ。

「ごめん、戸倉さん、ボーっとしてて日直忘れてた(^_^;)」

「いいわよ、寺井さん考え事してたみたいだったし」

「え、あ、ちょっとね」

「よかったら、学級日誌とってきてくれる? ちょっと担任には会いにくくって」

 そう言うと、戸倉さんは手元のプリントに視線を落とす。

 プリントは進路希望調査だ。文系・理系・就職・その他の四択の欄は白紙のまんま。提出期限は二日前。

「任しといて」

「ありがと(^▽^)」

 事情を察して職員室に向かう。

 うちの学校は規模の割に職員室が狭い。半分くらいの先生が担任をやっていても準備室などに籠っている。連携の悪い学校だと思うんだけど、それで回っているんだから、まあいい。そんな中でもうちの担任は朝から職員室に居る。ちゃんとした先生なんだ。でも、戸倉さんは、そういうのが苦手なんだ。

「おう、寺井、ちょっと」

 日誌をとって「失礼しました」を言おうとしたら担任に呼び止められる。

「はい、なんでしょうか?」

「進路希望なんだけど」

「はい」

「その他はいいんだけど、異世界・勇者というのはなんだ?」

「え……あ……(;゚Д゚)」

「なにかのナゾか?」

「あ、ラノベとか読んでたんで、ちょっとボーっとしていて……書き直します!」

 ふんだくるようにして教室に戻り、戸倉さんに「わたし書いとくから」と学級日誌を示すと中庭に向かった。

 ここは、ほとんど元の世界だ。冴子が他人だと言うことを除いて、とても穏やかな感じ。この分だと、ヤックンともうまくいってるような気がする。ヤックンと言う名前を思い浮かべても、穏やかに温もって、胸を刺すような痛みが無いもの。

 いっそ、ここに留まれば……という気持ちもしないではないけど、わたしは中庭を素通りして部室に向かった。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

かの世界この世界:167『冴子!』

2021-01-25 09:02:23 | 小説5

かの世界この世界:167

『冴子!』語り手:テル(光子)    

 

 

 モニターに映る三つ子ビルは傾きながらも立っている。

 三つ子ビルは、異世界を含むこの世の全てを現わす模式図だ。世界樹に似ている。

 一つのビルが崩れてしまうと、影響を受けて他の二つも倒れてしまう。

 そして、それぞれのビルには無数の部屋があって、その無数の部屋が無事であることで安寧を保てている。

 逆に、ビル全体が無事でなければ、一つの部屋を安寧に保っても意味がない。

 それを理解して、わたしは異世界への旅に出たんだ。

「世界は無事なんですね……」

「うん、光子ががんばってくれたから」

「安心はできないけど、しばらくは大丈夫。あなたの周囲も、かなり改善されたわ」

「光子が卒業するまでは無事でいられると思うよ。まだ、やらなきゃならないことはあるけど、もう寺井光子でなくてもいい」

「そうよ、生徒は他にもいるし、時間はまだまだあるしね」

「じゃ……もう、冴子を殺してしまうことは?」

「おこらないわ」

「むろん、光子が殺されることもないし、追い詰められて屋上から飛び降りることもない」

「そ、そうなんだ……」

 安心と同時に涙が溢れてきた。

「自分で確かめてみるといいわ。時美とお茶の用意しとくから」

「元気になってからでいいよ、駅前までお茶うけのスィーツ買いに行くから」

「湯沸かしも穴が開いちゃったから新しいのを買いに行くの」

「光子が落ち着いたら行くよ」

「あ、じゃ、わたしも、さっそく様子を見に行きます」

「そう、じゃ、時美、いっしょに出ようか」

「うん」

 三人揃って部室を出る。

「もし、先に帰ってきたら、壁から三つ目の床板を踏んで、扉が現れるから」

「は、はい」

 言われて振り向くと『かのよ部』のドアは消えていた。

 最初にここに来た時はずいぶん驚いたけど、いくつも異世界を経めぐって、もうこの程度の事では驚かない。

 念のため、三つ目の床板を踏んでドアが現れることを確認。フフっと二人の先輩が笑う。

 じゃ。

 顔を挙げたら、もう先輩たちの姿は無かった。

 時計を見ると、異世界にジャンプしてから二時間もたっていない。

 小6で読んだ『アクセルワールド』を思い出した。加速世界のゲームの中では数か月の出来事も一瞬なんだ。

 旧校舎から中庭に出ると、花群れの向こうに冴子の姿が見えた。

 さすがに緊張してしまうけど、時美先輩の言葉を思い出す。もう、冴子を殺すことも殺されることもないんだ。

 そうだ、普通にいこう、普通に。

 藤棚の前まで来て、冴子が笑顔になって早足になる。

 その笑顔にほとばしるような安心と嬉しさがこみあげてきた。

「冴子!」

「え?」

 目の前の親友は怪訝な顔をした。

「あ……」

「だれ?」

「あ……人違い」

 瞬間で、わたしのことが分かっていないことを理解して人違いにした。

「おお、よしよしよし」

 冴子は、藤棚の向こうのサツキの群れに隠れている子ネコに駆け寄った。

 そうだ、先週から見かけるようになったノラの子ネコだ。

 どっちかというと動物が苦手な冴子。

 その冴子が子ネコをスリスリしている。

 寂しさと安心が同時にやってきた。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

かの世界この世界:166『帰還』

2021-01-18 09:40:18 | 小説5

かの世界この世界:166

『帰還』語り手:テル(光子)    

 

 

 カテンの森で野営の準備をしていた。

 テントのペグを打とうとすると、森の奥から百年分の雷が落ちるような音がして、すぐに四号の仲間と共に駆けつけると、トール元帥の戦車部隊がグチャグチャに撃破され、森の木々をなぎ倒して無残な姿をさらしていた。

 最前線で手ひどくやられ、全滅する寸前にワープして撤退してきた様子だ。

 戦車と言うものは、外骨格の怪物で、撃破されても形は残るものだ。

 それが、超重戦車の六号でさえ、ひしゃげた缶詰のように形を留めていないものがある。

 その残骸たちに囲まれてトール元帥が瀕死の重傷で横たわり、タングリスが駆け寄って、装具を解いたかと思うと、野戦服まで脱ぎだして、身一つになって元帥の上に身を投げ出した。

「お、おまえらは見るな!」

 ヒルデが小さな体で立ちふさがって、とても、その華奢な体で隠しきれるものでは無いのだが、その切実さにたじろいでしまう。

 すると、切羽詰まったヒルデの顔の向こう、空の上からポチがクルクルと舞い降りてくるのが目に入った。

 慌ただしく立ち止まったせいか、急に空を見上げる姿勢になったためか、数秒間の間に目にした衝撃的な光景のせいか、視界が鈍色の闇に狭窄されて、意識の糸が切れてしまった。

 

 ……さん。

 …井さん。

 寺井さん。

 光子。

 

 懐かしい名前で呼ばれて、うっすらと目を開けると和室の天井……胸元まで掛けられたお布団の感触。

 これは…………?

「よかった、やっと目が覚めた!」

「もう、戻ってこないかと……心配で心配で」

「泣くんじゃないわよ、寺井さん、ちゃんと戻ってきたんだから」

「う、うん」

 この人たちは……。

「何度もフリーズして、クラッシュを繰り返して……」

「もう、戻って来れなくなってしまいそうで、時美と二人で回収したのよ。このままじゃ、寺井さん、もたなくなっちゃうから」

「あ、もう少し寝ていて、完全に戻って来るには、もう少し時間がかかるから」

 そう言われて、お布団から出した手を見ると、指の先が、まだ半透明だ。

 この二人は……?

 そこで、指の第二関節まで色が戻ってきた。

「中臣先輩! 志村先輩!」

 数年ぶり、ひょっとして数十年ぶり、数百年ぶりで、こちらの意識が戻ってきた……。

 

☆ ステータス

  •  HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
  •  持ち物:ポーション・300 マップ:13 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
  •  装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
  •  技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
  •  白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
  •  オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする