大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・152『修学旅行・四日目・3(大阪城)』

2024-11-23 17:37:16 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
152『修学旅行・四日目・3(大阪城)』   




 お城と言えば地元の宮之森城しか知らないわたしらに大阪城は巨大に映る。

 
「すごい堀ですねえ……」

 大手門から入る時にロコが呟く。

 確かに、渡っている外堀はグランドキャニオンかっちゅうくらいに深くて幅が広い。

「信長も、ここを攻めるのは苦労したみたいです。ほら、大手門の脇にあるのが千貫櫓なんですけどね、攻めあぐねた信長は『あれを落した奴には千貫文の銭をやるぞ!』ってはっぱをかけたって言います」

「え、信長が大阪城攻めたの?」

 小学6年で歴史知識の停まったわたしが質問。

「元々は、石山本願寺ってお城みたいなお寺があって、信長に楯突いてたんです。そのころからの櫓なんです。けっきょくは交渉で立ちのかせるんですけど、本能寺の変になって。その後秀吉が大坂城を作って、江戸幕府に受け継がれるんですけど、有名な櫓だったんで、同じ場所に建てた櫓には同じ『千貫櫓』と名付けたんです」

 最終日に来て、ロコの頭はますます冴えてきてるようだ。

 蛸石とか振袖石とかの巨石に目を丸くして大手門を潜ると「バレーコートが四面はとれる!」と佳奈子が驚くぐらいに石垣やら多門櫓とかで囲まれた空間。

「この空間を枡形って言うんですけど、日本一なんですよ」

 ほうほう……多門櫓門を潜ると、うちの高校を敷地ぐるみ入れてもお釣りが出そうな、もうここだけで十分お城ができそうなくらいのところに出る。

「秀吉の頃は……と言っても秀吉の死後なんですけど、五大老の一人だった家康は、この西の丸に天守閣を築いたんです」

「ええ、一つの城に二つの天守閣? ちょっと反則っぽい」

「佳奈ちゃんの言う通りです。諸大名たちは、本丸の秀頼に挨拶する前に、こっちに足が向いてしまうんですよね」

「なるほどぉ、それで、ちょっとずつ『儂こそが天下人』って印象付けていくのねえ」

「さすが家康」

 感心する真知子とたみ子。

 しかし、これだけの情報を持ってるロコは、えらい奴だ!

 西の丸を横目に進むと、またもグランドキャニオンかっちゅうくらいの内堀が見えて、桜門を潜って、いよいよ本丸。

 ここでも、桜門を潜るや否やロコのバスガイドさん顔負けの解説。

 ロコには悪いんだけど、我々は本丸広場の真ん中に向かった。

「ああ、これこれ、次に案内しようと思っていたタイムカプセルですよ!」

 ああ、予定に入っていたんだ(^_^;)

 まだ設置されたばかりのタイムカプセル……と言っても、実物は地中深くに埋められて、地上に出てるのはステンレス製の丸ボタンというか、大きな中華ねべをひっくり返して底が見えてるって感じのモニュメント。

「5000年後に開けるんだねぇ」

 たみ子が跪いて、スリスリ撫でる。わたしたちも倣って、スリスリペチャペチャ。

「懐かしいですね、去年の万博」

「そうねぇ、万博そのものも面白かったけど、船場の古いお店で泊めてもらったこととか」

「みんなで炊事したり」

「銭湯にも行ったよね」

「なんか、シンミリしちゃうねえ」

「あ、知ってます? カプセルは二個あって、一個は2000年に開封して点検するんですよ!」

「2000年かぁ……」

「あと、29年かあ……」

 たみ子が呟いて、みんな遠い目になる。

「46歳になってるんですねえ……」

「立派なオバハンだねえ……」

 2000年かぁ……わたしが生まれるのは、さらにその7年後なんだけどね(^_^;)。

「中にアカマツの種が入れられてましてね、2000年にはその種を、この横に植えて発芽するかどうか実験するんだそうですよ」

「ああ、それ、楽しみだなあ!」

「ねえ、あたしたちも卒業の時にタイムカプセル作って埋めてみない!?」

 え?

 佳奈子の突然の提案、数秒遅れて、みんなの心に灯が点いた!

「やっぱり、開封は5000年後ですかねえ(^_^;)」

 ロコのツッコミに、みんな大笑いして、学校に帰ったらMITAKAや生徒会で相談してみようということになった。


 その後、天守閣の前でクラス写真。そして直美さんの提案で学年全部の自由な集合写真。

「さすがに収まらないなあ(^_^;)」

 そう言うと、直美さんは天守台の階段っを上って、石垣の上からカメラを構えた。

「手伝いましょうかぁ!?」

 手をメガホンにして聞いて見たら「今日はバイトじゃないでしょ!」と返事、みんなにも笑われる。

 天守台は校舎の四階ぐらいの高さがあって、余裕で全員が収まったみたい。

 ハイ、チーズ!!

 カシャ!



 わたしたちの修学旅行はめでたくお開きになった。



 こぼれ話を一つ



 集合写真のあと、午前の宝塚と同様に各自で自由行動にした。

 わたしは天守閣に上って、最上階の展望階に行ってみた。

 ロコの姿も見えたので声をかけようかと思ったら、外回廊の手すりに腕を置いて景色を見ている牧内さんが目に留まった。

「なんか、シミジミしてるね」

「ああ、グッチ」

 時司ではなくてグッチと呼んでくれるのが嬉しい。

「あそこ、なんだか分かる?」

「ええとぉ……」

 六階建てのビルで、屋上に塔があって、いくつもアンテナが立っている。

 ちょっと佇まいが警視庁に似ている。

「あ、大阪府警!?」

「ううん、NHK」

「あ、ああ」

「コールサインはJOBK。なんでか分かる?」

「ええと……」

「ジャパン、オオサカ、バンバチョウ、の、カド」

「え、ああ……」

「いやだ、冗談よ(^_^;)、NHKはJOで始まって設立の順番にABCなの。東京はJOAK」

「ああ、そうなんだ!」

「来年ね、あそこの放送劇団受けようかと思ってるの」

「え、そうなの!?」

「地理的には東京の方が近いんだけど、大阪に親類がいるし……」

「え、そうだったんだ」

「東京は劇団も多いし、放送劇団も規模が大きいんだけどね」

「あ、うん、そうでしょうねえ……」

「東京じゃ埋もれてしまう……というか、自信がね……なんか、ちょっと弱気かなあ」

「え、あ……どうだろ」

 牧内さんは同い年とは思えないくらいしっかりしている。去年からフォークの集いやら文化祭やらで世話になってるし、学校とも交渉して、シブチンの学校から階段下とは言え、部室も作らせたし。

「県の演劇研究会もね、なんとか連盟にできそうだし……」

 そうだ、この人は、演劇部の組織を教師中心の高校演劇連盟にするのにも尽力してたんだ。

「…………………」

 決めたように言ってるけど、やっぱり悩んでいるんだ。

 たった一回の青春だもんね。

「演劇のことはよく分からないけど、牧内さんは……突破力のある人だと思う」

「うん……そうだよね、うん、ありがとう、やっぱり受けてみる!」

 明るく笑ってリュックから取り出して見せてくれた。

 放送劇団研究生募集要項

「え、いつの間に?」

「自由時間にね、ちょっとひとっ走り(^_^;)」

「ひとっ走り」

「そう、ひとっ走り」

 そう言うと、牧内さんは何かにアッパーカットを食らわせるように握りこぶしを突き出した。

 天守の屋根に停まっていたハトたちがビックリして飛んで行った。



 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!70『秘密の注射』

2024-11-23 08:07:52 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
70『秘密の注射』 





 渡瀬ナースのマユは、当直のドクターを連れてきたぞ。

 ドクターは太っちょの若禿でチョビヒゲなんか生やして、見かけは立派なドクターだ。実は、近所の開業医のどら息子で、ハクを付けるためにだけ、この病院に勤めている食わせ物なんだけどよ、こういう人間の方が操りやすい。

――先生は日本一の名医ですのよ。この注射をしてあげれば、ノーベル賞だって夢じゃありませんことよ!――

 なんだか利恵の口調になっちまったけど、そう暗示をかけてやると、マユの差し出した注射器を持って病室まで付いてきやがった。

「オホン、この薬を注射すれば、死が訪れるまで、まったく健常者と同じように動くことができます……ええ、長年わたしが研究してきた成果です。末期ガンの患者さんの残された時間を、患者さんの意思で思う存分自由に生きてもらうための薬です……効き目の期間ですか……美優さんの命がつきるまで」

「どのくらいなんでしょうか?」

「……言ってもかまいませんか?」

「はい、精いっぱい生きたいですから!」

「……美優さんの命は、あと一週間です。きっちり168時間」

「ぜひ、お願いします……こんな寝たきりで……じわじわ死ぬのはいや」

 美優の言葉に、母の美智子も涙ぐんでうなづきやがった。

「では……きみ、クランケの腕を……」

 ドクターは、威厳を持ってナース渡瀬の姿をしたマユに命じやがる。マユは、おごそかに美優の袖をまくり、上腕に静脈注射用のゴムバンドをしたぞ。

「う……」

 美優は小さな声をあげた。

 このドクターは見かけ倒しなんで、注射はめちゃくちゃヘタクソで、かなり痛かった。元気だったら、美優は大きな悲鳴をあげていたところだったぜ。

「オホン、効き目が現れるのに二十分ほどかかります。起きあがれるようになったら、もう自由になさってけっこうです。では、残った一週間。思い残すことなく使ってください (。・ω´・。) 」

 もったいぶって言うと、名医らしく美優の手を握り、母の美智子に目礼をしやがった。

「ありがとうございました!」

 美智子のお礼を背中で聞いて、ドクターは渡瀬ナースの姿をしたマユを従えて、病室をあとにしやがった。
  

 マユは、いそいで更衣室にいき、ナースのユニホームを脱いだ。渡瀬ナースの姿は、消えかかっていたからな。


 あの注射は、ただのビタミン注射。本当は、マユ自身が美優の体の中に入り込んで、美優を死の間際までサポートするんだぞ。

 マユ本来のアバターは幽霊の拓美に貸してある。マユとクララを足して二で割ったアバターは、オモクロのオーディションまでは用がねえ。

 そこで、マユは魂というかエネルギーだけの存在になって、美優の体に入り込む。美優の体は衰弱が激しいんで、二十分ゆっくりかけて美優の体に入っていくってわけだ。

 十九分たったころ、吉田の同僚のナースが、遅れた日勤を終えて更衣室に入ってきやがった。

「……渡瀬さん!?」

 同僚は裸の吉田が消えていく瞬間を見ちまいやがった!

 胸騒ぎした同僚は、携帯で渡瀬に電話をしやがる。

 電話の向こうで、元気な吉田の声がしたので、安心して携帯を切ったけどな。


「お母さん、わたし元気になった!」


 美優は、嬉しい叫び声をあげて起きあがったぞ。

「よかったね、美優!」

「うん、一週間だけど、わたし一生分生きてやる!」

「これ、使いな。一週間自由に生きるのに十分な残高がある」

 美智子は、自分のゴールドカードを渡してやった。

「ありがとう、お母さん」

 美優は、もう二度と着ることがないと思っていたお気に入りのポロワンピースに着替えると、さっさと病院を出て行きやがった(^_^;)。

「とりあえず、自分の家に戻ろう(^▽^)/」

 そう独り言を言ってタクシーを拾った。

 タクシーは美優の心が乗り移ったみてえにウキウキとケツを振りながら走っていきやがる。

――言っとくけどよ、人生でやり残したことをやるのは、けして楽しいことばかりじゃねえんだぜ――


 小悪魔のマユは、美優の中で念を押したぞ……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • レミ       エルフの王女
  • ミファ      レミの次の依頼人  他に、ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
  • アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
  • 白雪姫
  • 赤ずきん
  • ドロシー
  • 西の魔女     ニッシー(ドロシーはニシさんと呼ぶ)  
  • その他のファンタジーキャラ   狼男 赤ずきん 弱虫ライオン トト かかし ブリキマン ミナカタ
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 美優       ローザンヌの娘
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 上杉       オモクロのプロディューサー
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする