大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

REオフステージ(惣堀高校演劇部)096・焼き立て高級メロンパン

2024-07-21 06:42:24 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
096・焼き立て高級メロンパン 





 ボンヤリしていると目立ってしまう。


 同じ制服を着ていても二十三歳……誕生日過ぎたから二十四歳の女子高生じゃね。

 登下校の時は気を付けている。

 髪は下ろして制服もピシッと着こなし、ほんの少しだけ肩に力を入れる。

 これで平均的な惣堀高校の女生徒になる。

 通学カバンだって二年前に新調した。あまりにくたびれていては、こういうところから女子高生のヒネものであることがバレてしまうから。

 まあ、いわば演技なので、立派な演劇部員と実践していると言えるんじゃないだろうか。


 なんでこんなに気を遣うのかというと学校の看板を背負っているからだ。


 恭順の意を表すほどに学校に恩とか有難みは感じていないけど、わたしのせいで学校の評判に傷がつくのは気分が悪い。

 やっぱ、意識して化けていないと年齢というものは出てしまうからね。

 ま、こういうこだわりというか気遣いをするところがヒネものなんだ。

 中山先生がポロっと言いかけてたけど、大阪の全日制の高校では最年長の女生徒だ。

 普通にしてると凄みが出てしまう。

 訳知り顔でふてぶてしくって、商店街ですれ違っても「なんだあいつは?」と思われる。
 啓介くんたちがわたしを演劇部に誘いにタコ部屋に来た時はビビってたもんね。わたし素(す)だったから。

 自意識過剰だろうって?

 たとえばさ、道歩いててさ、前から女子高生が歩いて来て、すれ違いざまに男娘だと分かったら引くでしょ。LGBTQとか言うけどさ、異質なものに出会うとギョッとするっていうのは人間の本能よ。差別されちゃかなわないけど、いたずらに目立ったりして人の気持ちを封じてしまうのは違うと思う。

 それと同じ。

 ま、ヒネているというのは、アレコレ分かっているとか慣れていることでもあって、こと学校のことに関しては裏も表も分かっていて、動じるということが無い。

 ほら、生徒会が演劇部の人数が五人以下だから廃部にするって言ってきたじゃない。あれを昔に比べて生徒総数が半分以下になってるんだから三人以下にさせて乗り切ったりとか。新任で上がり症の朝倉先生(元同級生)をほぐしてあげたりとか。

 でも、今回のはちょっとね……。

 焼き立て高級メロンパンを頬張りながら一人ごちた。

 商店街を惣堀生の標準速度で下校中、焼き立て高級メロンパンの匂いを嗅いでしまった。

 商店街のオレンジパン店(ベーカリーとか工房とか言わないところがいい)のオーブンが直ったようで、普段は早朝に焼いている高級メロンパンが焼き上がった。

 あつあつのメロンパンとパックコーヒー買ってお店の前のベンチ。

 焼き立ての匂いに釣られ、わたし同様に数人が四つあるベンチでメロンパンの幸福に浸っている。

 普段ならありえないんだけど、ついためため息まじりに呟いてしまった。


 ポルノの演劇部でもいいじゃん!


 我ながら大きな呟きで、ベンチの一人に聞きとがめられてしまった。

「演劇部がポルノ?」

 気づくと、ベンチに座っているのは商店街のお馴染みさんたち。

 聞きとがめたのは、我らが先輩であるハイス薬局のオジサンだった。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)095・学食の中二階

2024-07-20 06:43:36 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
095・学食の中二階 






 うちの学食には中二階がある。


 学食の半分はガラス張りの吹き抜けになっていて気分がいい。

 残りの半分が中二階と二階部分。二階部分は普段は締め切られている同窓会館。

 でもって同窓会館がある東側以外の三方は天井までのガラス張りになっていて、明るくて雰囲気がいい。

 他校の学食は体育館の一階部分だったり、校舎の付けたし部分だったりで、食堂というよりは餌場。

 うちは「ちょっとさびれた」という枕詞がつくけどリゾートのレストラン風。

 六年目の三年生なので、食堂を利用するときは、この中二階に陣取っている。

 一般の生徒に混じると気を使うし使われる。そんなのやだしね。

 それに、中二階だと下のフロアが鳥瞰できる。

 みんな腹ペコだし、列に並んだり席の確保に頭一杯だから、中二階に視線を向けられることも少ない。

 なんちゅうか、学校に住み着いた猫が屋根裏から睥睨しているような感じ……だと千歳とかは言うのだ。

 猫に例えられたことよりも、中二階の超留年生に気づいていることが面白い。

 ガンバローーー!

 壁一枚隣の同窓会館から鬨の声がした。

 四時間目から組合の先生たちが会議をやっているのだ。選挙が公示されたから、例によって公には言えない選挙運動の話だ。

 勤務時間中に組合活動をやることも政治活動をやることも御法度のはずなんだけどね。

 ま、いいんだけども、部屋を出て中二階の私を見つけてギョッとしたような顔をするのはやめてほしい。

 わたしは化け物でもスパイでもないんだからさ。

 あ……

 下のフロアで千歳がボンヤリしている。

 車いすで食堂に来ても、生徒たちは自然に受け入れている。

 みんな幼稚園や保育所のころから障害を持った子たちと生活している。だから、自然と互いに溶け込んでいるんだ。

 かさ張る車いすがいっしょに居ても嫌な顔はしないし、逆に過剰に構ったりもしない。

 昼時の食堂というのは――昼飯を食うのだ!――というパッションが無ければ列に入れないし、ボンヤリしていては食いッパグレる。

 なにボンヤリしてんのよ?

 目立たぬようにフロアに下り、真横で千歳に声を掛けた。

「あ、須磨先輩……」

 え……?

 振り向いた千歳の目には涙が滲んでいた。

「Bランチでいいか?」

 涙には気づかないふりで売り切れの確率が低いBランチを提案、ろくに返事も聞かず、Bランチの列に並んだ。

 気を取り直した千歳は席を確保して待っていた。

「すみません、中二階にはいけませんから」

 バリアフリーの進んだ学校だけど、さすがに食堂の中二階までは及んでいない。

「ドンマイドンマイ、とりあえず食べよ」

 すでにAランチを食べた後だけど、いっしょに食べれば心も開くだろうと並んでBランチを食べる。

 いつもなら――もう食べたんじゃないですか?――くらい聞いてくるんだけど、千歳はボソボソと食べている。

 ご飯を半分残したところで口を開いた。

「わたし……文化祭の舞台には立ちたくないんです」

「え、なんで(;¬¬)?」

 危うく唐揚げを落っことすところだった。

「わたしが出たら……ポルノになっちゃいます」

「ポ、ポルノ!?」


 ポトリ。


 危機一髪だった唐揚げを落としてしまった(;'∀')。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)094・こういうのどう思う?

2024-07-19 06:02:23 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
094・こういうのどう思う? 





「主人公は、沢村さん、あなたがおやんなさい!」


 八重桜……敷島先生はドラマみたいに大きな声で言うもんだから図書室中の注目が集まった。

 で、わたしとアメリカ人コンビ以外は、好意的な眼差しを向けてきた。

「それ良いわよ! 千歳は色白で可愛いからうってつけよ!」

「せやな! 腹減った時の千歳て、なんや儚げで、つう(鶴が恩返しで変身した女)が千羽織織り終えた時の疲れた感じにピッタリや!」

 須磨先輩と啓介先輩が熱烈賛同!

 ミリーとミッキーは『夕鶴』を知らないのでキョトンとしている。

「じゃ、沢村さん、本番の日は食事の量を減らしてもらわなくちゃね(^▽^)!」

「え、えと……」

「うん、大丈夫! 沢村さんが主役を張ってくれたら、文化祭は感動の渦よ! 他のクラブもタイアップしてもらって、装置は美術部、音響は放送部、そうだ、間にコーラス部の挿入歌とか入れてもいいわね! うん、きっと文化祭の目玉になるわよ!」

 敷島先生は、構想が膨らんでしまって、自分が主役のように目をキラキラさせた。

 みんなも「それはアイデアだ!」「いまから楽しみ!」とか言い出す。

 敷島先生は好きじゃないけど、こういう生徒を引っ張っていく力は、やっぱ先生なんだと思う。

 でも、わたしは違和感があった。

「か、考えさせてください」

 そう言うのが精いっぱいだった。

 わたしが主役をやったら感動の渦……この言葉に抵抗があった。

 引っ込み思案の言い訳もあるんだけど、それを差っ引いても残ってしまう嫌なものがある。

 子どものころピーマンが大嫌いで、どんなに小さく刻んで分からなくされてもピーマンのエッセンスは分かってしまった。

 あれに似ている。

 わたしが主役、その「わたし」の成分はなんなんだろう。

 先生は「沢村さん」としか言わなかったけど、言わないところに意味を感じてしまう。

 足がこんなだから、舞台に立ったら……て、立つことなんかできない。座りっぱなしか車いすでなきゃ舞台には出れないよ。

 つまり、どうやっても――脚の不自由な――身体障がいの――という枕詞の付いた姿になってしまう。


「考えすぎなんじゃないかなあ」


 夕食の片づけをしながら話したら、ビール片手のお姉ちゃんが言う。

 お姉ちゃんは食事の準備はするけど片付けはしない。

 さっさとビール出してソファーの上で胡坐をかいている。

 むろん流しに食器を持っていくところまではやるけど、ほっとくと二日でも三日でもシンクにほったらかし。

 そういうのヤダから、同居をはじめて一週間もするとわたしの仕事になった。

「こういうのどう思う?」

 食器を洗い終わってリビングに戻ると、お姉ちゃんがタブレットを見せた。

「ん? ああ、24時間テレビ……こういう人が頑張ってますって企画ね」

 遠まわしに言った。要は障がい者が登山したり車いすマラソンしたりの感動コーナー……わたしは観ないけどね。

「こういうの感動ポルノって言うんだよ」

「感動ポルノ?」

「演出が入ってるし、ワザとらしいでしょ。それに『障がい者は健常者に感動を与えるための道具じゃない』という考え方」

「うん、分かる。障がい持ってる人は、自分から進んでは観ないわよ、こういうのは」

「でもね、学校の文化祭くらいは違うと思うの」

「どういうふうに?」

「学校って、ま、身内じゃない。喋ったことが無くても沢村千歳という一年生が居るというのは知ってるわけじゃない、ま、その身内がやってますってノリでもいいんじゃないかとも思う」

「どっちが言いたいのか分からないよ」

「わたしは送り迎えの時に見るレベルでしか惣堀高校知らないからさ、それ以上断定的なことは言えないよ。ま、そういうこと知ったうえで自分で考えるのね」

「いっしょに考えてよ」

「やだぁ、これからまだ飲むんだから、むつかしい話はここまで……」

「もー、このごろ飲みすぎだよ……って」

 Z Z Z Z Z Z Z Z……

 返事を待っていたら、この酔っぱらいはスイッチが切れたように寝息を立てていた。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)093・演劇をやってこその演劇部よ!

2024-07-18 06:50:10 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
093・演劇をやってこその演劇部よ! 





 演劇なんてやったことのない演劇部!


 だもんだから、いざ、文化祭でやるとなったら、なにをしていいか分からない。

 知識も経験もないし、必ず途中で寝てしまう学校の芸術鑑賞以外で演劇なんて観たこともない。

 それで図書室にいくことにした。

「演劇の台本て戯曲っていうんだねぇ」

 机の上に「なんとか戯曲大全」とか「かんとか戯曲集」を積み上げて感心する。

「それって知らなさすぎ(´¬_¬) 」

 一応演劇をやっていたころの演劇部を知っている須磨先輩がジト目を向けてくる。

「でも、今から読むのんかぁ……」

 啓介先輩が、早くもうんざりしたような顔でページをめくる。

「これ、手でめくりなさい」

「すんません……」

 啓介先輩は、シャーペンの尻でパラパラやっているのだ。

「あっちはどうなんだろ……」

 パソコンコーナーで検索中のミリーとミッキーに目を向ける。

 視線を感じてミリー先輩が車いすを転がしてくる。

「条件悪すぎだよ」

「そうなん?」

「たった五人でさぁ、たった一か月でやるのって無理やわぁ」

「そない言うてもなあ……生徒会には義理があるしなあ」
 
 それは同感、生徒会というか美晴先輩に借りがある。

 相当無理を言ったり無茶をしたけど、演劇部の存続を認められたのは美晴先輩のおかげだ。二階の新部室を斡旋してくれたのも美晴先輩だしね。

「だから、文化祭で演劇してくれる?」

 断れないわよね……将来的にも無為徒食の演劇部を存続させるには、美晴先輩のアドバイスは正しい。

「『高校演劇』で検索してたらね、演劇をやろうという者は、やりたい芝居の五本や十本はレパートリー持ってなきゃだめだって」

 時間と人数以外にも問題がある……みんなは言わないけどね。

 わたしとミリー先輩は車いすでしょ……ただでも少人数なのに、ミリー先輩は本番までには治るかもしれないけど。

 黒柳徹子さんは車いすでやってたけど、そうそう上手くいかないと思う。

 ううん、元々舞台に出ようなんて気持ちは無いけど、裏方やるにしてもね……現実的には厳しいと思うよ。

 パソコンコーナーが賑やかになってる。

 ミッキーの横に八重桜……いや、敷島先生が寄ってきてなんか喋ってるよ。

「あ、通訳しなくっちゃ」

 ミリー先輩が車いすを向けるのと敷島先生がハイテンションでこっちを向くのが同時だった。

「演劇をやってこその演劇部よぉ(◝ ϖ ◜) 」

 明石家さんまを女にしたような満面の笑みでテーブルに近づいてきた。

「文化祭でやるんだから、長い芝居はだめ。出し物がいっぱいあるんだからね、観客は素人ばかりだから、予備知識の有る出し物が一番よ! 多少台詞が聞こえなくても、ああ、このシーンはこういうことを言ってるんだって分かるものがグッド。あなたたちにも予備知識があれば稽古もやりやすいでしょ!」

 好きな先生じゃないけど、さすがは文芸部顧問、言っていることには説得力がある。

「なんか適当な芝居あるんですか?」

「あるわよ!」

 さすがは図書室の主、まるでスケートを履いているようにスイスイ机や書架の間を滑っていくと一冊の本を持ってきた。

「これよ、これ!」

 バサッと置かれた本に須磨先輩の頭に閃きの電球が点いた。

「そうか『夕鶴』ならピッタリだ!」

「「「夕鶴……?」」」

「鶴の恩返しよ!」

「「「「あ、あーーーー(°ロ°(°ロ°(°ロ°(°ロ° ) !」」」」

 全員の脳みそに共通理解の電球が灯った。

「それで、主人公は沢村さん、あなたがおやんなさい!」

「え、ええ( ゚Д゚)!?」


 心臓が停まるんじゃないかと思った。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)092・キャシーへの手紙・4『スクールポリス』

2024-07-17 06:36:48 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
092・キャシーへの手紙・4『スクールポリス』 





 今は解消されているけど、大阪とサンフランシスコが姉妹都市だったのは知ってるよね。


 エレメンタリースクールの時にシティーホールで親善行事に参加したの覚えてる?

 初めて日本の寿司を食べてさ、ワサビペーストで死にかけた、あの時のキャシーは忘れないよ。『ワサビテロ!』って、涙目で叫んでたよね。
 
 負けず嫌いのきみは『ワサビテロ』の対処法を編み出したんだ。

 ワサビは揮発性だから、テロに遭ったと思ったら、大口開けて上を向けばいいって。

 あの研究発表は忘れられないよ。ノドチンコ見た先生が「ちょっと肥大ぎみね、いちどドクターに診てもらったほうがいい」って言ったんだよね。ケンイチがヒソヒソ声で日本語のノドチンコの意味を言いふらしたもんだから、教室中笑っちゃって授業にならなかった。

 あ、そうそう姉妹都市。解消された理由を知って、ちょっとビックリしてる。

 キャシーも知ってると思うんだけど、シスコに『従軍慰安婦の少女像』が建てられたんだよね。

 私有地なんだけど、シスコに寄付されてパブリックなものになるって話。

 大阪市の市長が抗議して、撤回されないんで姉妹都市を解消。
 
 日本に来るまでは、あまり関心は無かったよ。

 だって、ドイツのナチと日本のミリタリズムは同じことでさ。虐殺とか性奴隷なんか平気でやってたと思ったよ。

 でも、今は、ちょっと違うんだ。

 何度か惣堀高校とか日本の学校の事を書いてきたけど、いろいろあり過ぎて予告編だけで終わってたことがあるんだ。

 スクールポリス!

 アメリカじゃ当たり前で、生徒だってワルサしたら逮捕とかされてたよね。

 学校はいちばん秩序が保たれなきゃいけないところだもんね。
 
 ところが日本の学校にはスクールポリスが無いんだよ!

 最初は惣堀高校だけかと思ったら、そんなもの日本のどこの学校にも無いんだって! 信じられる!?

 以前、日本のスクールポリスをググったらさ、ちゃんとスクールポリスのドラマがあったから当然スクールポリスはあるんだと思ってたよ。

 惣堀高校に来て一か月以上になるけど、暴力事件も泥棒沙汰も性的なバイオレンスも無いんだ。
 ぼくが知らないだけと言うかもしれないけど、ぼくがホームステイしているのは生徒会副会長のミハルの家なんだ。ミハルはなんでも教えてくれるから、彼女が「無い」と言えば本当に無いんだと思うよ。

 これだけ平和なのは、きっとどこかで取り締まってるんだ、そう思うよね。

 ところが、無いんだ! 

 たまにケンカとか喫煙とか授業妨害(空堀では、まず無いらしい)とかあるらしんだけど、それはセイカツシドウの先生が取り締まったり処理したりするらしい。

 信じられるかい? 先生が学校の治安維持に取り組んでるなんて!

 それも丸腰なんだぜ!

 スタンガンくらい持ってるだろう? ひょっとして柔道や空手の有段者?

 いやいや、ごく普通の先生たちさ。

 信じられないけど、先生たちの会議で選挙で選ばれるんだって!

 それで、もっと信じられないのは、セイカツシドウやっても給料にはいっさい割り増しがないってこと。

 だって、教師とポリスの仕事してるんだぜ。アメリカなら、教師のユニオンが黙ってないね、全米一斉の先生のストライキが始まるね。

 とにかく日本人は善良だよ。人に迷惑かけないことを信条としていて、地震とかのクライシスが起こっても、ちゃんと列を作って並んでるし、略奪事件もあり得ない。

 YouTubeで、昔の日本の動画をせっせと見たんだ。イザベラ・バードとかジョン・レノンとかドナルド・キーンとか。むろん国連本部で演説できるほどの量ではないけどね。

 服装とか建物とかの街の様子は違うけど、受ける印象は現代の日本と変わりがない。

 だから、シスコに少女像を建てるような理由が本当にあったのかと思うよ。


 もう一つ信じられないだろうけど、演劇部に入ったんだ!


 でも、それについては、長くなるから、次にでもね。


 
 親愛なるキャシーへ      新しい部室にて ミッキー



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)091・わたしの車いす生活

2024-07-16 06:58:05 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
091・わたしの車いす生活 





 地震になったらエレベーター停まるんですよ。


 揃って入ったエレベーターの中で、気楽に千歳が言う。

「ということは、閉じ込められるわけ!?」

「そうですよ」

 お尻のあたりがゾクゾクしてきた。高いビルのテッペンから下を覗いたような、あの感じ。
 ……………………。

「先輩、ボタン押さなきゃ動きません」

「あ、そか(^_^;)」

 後から乗ったもんだから、ドアの真ん前。狭いエレベーターなので車いすが二台入ると身動きが取れへん。

「二階やから押せるけど、上の階やったら手ぇ届かへんよ(^_^;)」

「左側に車いす用のボタンがありますよ(*^-^*)」

「あ、ほんまや!」

 車いすなんて初めてなんで、いろいろな発見がある。


 捻挫(両足)をこじらせて車いすに乗ってんのよ。


 松葉杖でも大丈夫なんやけど「知らないうちに負荷をかけるから」というドクターの二番目の勧め。第一の勧めは「治るまでは学校休みなさい」やねんけど、休んでなんかおられへん。

 世界が変わるよね、車いすに乗ってると。

 視線の高さが子ども並になるので、ちょっとワクワクする。さっきの車いす用のボタンとかね。

 教室の椅子は取っ払ってもらった。いちいち車いすから普通の椅子に座るのは冗談かと言うほど煩わしい。

 教室への出入りも考えて、廊下側の一番後ろになった。

 でも、車いすがドデンと来ると、後ろのドアの半分が被ってしまうので、すぐ前の関さんが座席ごと引っ越していった。

 なんか申し訳ない(^_^;)。

 身障者用のトイレは無駄に広いと思ってたけど、そうでもないことをことを実感。

 自販機が使いにくくなった。

 だって、一番下のボタンしか手ぇ届かへんし。好きなデカビタは上の段にしか並んでないし。

「はい、先輩」

 二階の新部室に着くと飲み物が欲しくなって、どうしようかと思っていると千歳が「任せてください!」と買いに行ってくれた。

 この際だから、なんでもいいやと思ってたら、千歳はきっちりデカビタを買ってきてくれた。

 自分用に買ってきたのも上の段にしかないペットボトルのお茶や。

「え、どうやって!?」

「伊達に三年も車いすに乗ってませんよ」

「千歳は魔法使いか……?」

「へっへー(^▽^)/」

 千歳とは、もう半年の付き合いやけど、こんなに嬉しそうな千歳は初めて。

 やっぱ、ハンディキャップを一時的とはいえ共有していることは大きいんやと思うし、千歳の一面しか見えていなかったとも感じる。

「部室棟がよう見えるわねぇ……」

 工事が中断したままの部室棟。わたしが演劇部に入ったのは、そもそも部室棟の解体修理を見たいからやった。

 解体中に新しい構造が見つかったり、建築基準法と保存とどう折り合いを付けて行くか。それに合わせて予算上の問題が出てきたりで、中断したままになっている。

 気持ちを切り替えて千歳に振る。

「二人も車いすになって、文化祭に演劇って出来るのかなあ?」

「車いすという点では大丈夫ですよ……ほら」

 スマホを出して動画を見せてくれる。

「お、根性ね!」

「でしょ、ノープロブレムです!」

 スマホには、骨折のため車いすになりながらも元気に舞台に出てる黒柳徹子さんが映ってた。

 新部室はとってもええねんけど、集まるのが遅くなった。

 前の部室は、生活指導のタコ部屋も兼ねていたので、須磨先輩の住み家でもあった。

 須磨先輩の魅力なのか、あの狭い部室になにかあるのか、面白いところやった。

 標準より十分遅れてみんなが揃った。

 気が付くと午前中残っていた雨が上がって、少しだけ晴れ間が見えてきた。 



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)090・この酔っぱらい!

2024-07-15 07:02:54 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
090・この酔っぱらい! 





 プハ~~そりゃあ二人ずついるからよっ(´Д`//) !


 ビールの泡を飛ばしながらお姉ちゃん。


 部室が二階の広い部屋に替わったことを報告すると、缶ビールかっくらいながら結論付けた。

「交換留学生が二人も入ったんじゃ、おろそかにもできないっしょ。松井さんも攻めどころ知ってるねえ」

 なるほど、ミッキーもミリー先輩も学校に二人しか居ない交換留学生だ。

「それに、二人ともアメリカでしょ。日本はアメリカに頭上がんないからね」

「そうなの?」

「そーよ、自民党がダントツなのはアメリカが付いてるからよ。知ってる? 自民党って大所帯のバラバラだけど親米って点だけでは一枚岩、だからぁ……あ、枝豆切れた」

 お姉ちゃんは真っ赤な顔して酒の肴を探しにいく。

「短パンのお尻掻きながら冷蔵庫覗くの止めてくれる」

「だって、痒いの……」

 普段のお姉ちゃんは品行方正なんだけど、アルコールが入ると人格が変わる……にしても、今夜はひどい。

 ま、この春まで異郷の大阪で一人暮らし。決まった男も居ないようだし、ハメを外せるお友だちも居ない。

「あーー冷蔵庫の中身ぶちまけるんじゃないわよ……」

「だって、肴がなきゃ飲み過ぎちゃうっしょ」

「わたしのお八つあげっから」

「どこ? お姉ちゃんとってく~」

「あ、わたしが取ってくる」

 酔っぱらいに部屋をかき回されちゃたまんないので、自分で行く。

「はい、ポップコーン」

「すまんねー、ポップコーンてば映画館といえばアメリカだよね……」

「なんでもアメリカなんだね」

「そだよ、戦前の映画館てオセンにキャラメルってのがスタンダードだったんだど……ね、なんで、アメリカの映画館てポップコーンなのか分かる?」

「知らなわよ。あー、こぼさないでくれる、車いすで掃除って大変なのよ」

「アメリカ人って、興奮すると投げるんだよね、国ごと興奮すると戦争になっちゃうしぃ……投げるとスクリーン破れるっしょ! 人に当たったらケンカになるしぃ、んでもってポップコーンだと大丈夫! モノも壊れないし怪我もしないし! でも、日本人てそういうことしないじゃん。それなのにポップコーンてのは、もう骨の髄からアメリカに毒されてるってわけよ……でも、美味いから、なんでもいいのよさ」

「ハイハイ」

「ハイは一回だけ! ね、さっき二人ずつって言ったよね」

「え、あ、そうだっけ?」

 酔っぱらいの言うことはいちいち覚えてなんかいられない。

「言った! アメリカ人の交換留学生が二人! だぁかぁら~日本はアメリカに弱いのよ!」

 酔ってるわりに記憶はいい。

「もう一個の二人!」

 え……急には思いつかない。

「車いすが二人よ!」

 あーーミリー先輩もにわか車いすだ。

「日本はね、障がい者には弱いのよ! 気にかけてます! 対策はしっかりやってます! で、大慌てで対面だけは整えて、でもって、ほんとのところは肝心のところは、な~んにもしてくれないのよね! お姉ちゃん知ってるよ、千歳が学校辞めたがってたの」

 え?

「……でも、お姉ちゃん、知らん顔してたよねぇ……千歳は大人しくしてるけど、芯のところは頑固だからねぇ、下手に意見したり同情したり……そんなの逆効果だもんねぇ……ごめんねぇ千歳ぇ! でも、お姉ちゃんは分かってるからねぇーー!」

「わーー酔っぱらって抱き付くな! ちょ、顔舐めないでよ!」

「いいじゃんいいじゃん、たった二人の姉妹なんだからーーーー!」

「ちょ、ほんとにお姉ちゃん! 留美ネエーーー!!」

「困ったことがあったら、なんでもお姉ちゃんに言うんだよーー! お姉ちゃん、千歳の為ならなんでもやっちゃうからねーーー!」

「こ、困ったことって、いまのお姉ちゃんだよ! む、胸揉むなーーー!」

「それはダメ、それ以外、言ってみそ、言うまで止めないかんね!」

 うーーーこの酔っぱらい! そうそう困ったことって……あった!


 今度の文化祭で、演劇部は演劇をしなくちゃならなくなったんだ(-_-;)!


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)089・新部室にお引越し

2024-07-14 07:44:01 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
089・新部室にお引越し 





 今さらだけど車いすはかさ張る。


 自分も車いすなのに――これは邪魔だ――と感じるのは申し訳ないんだけど、実際そうなのよ!

「ご、ごめん(^△^;)!」

 これで三回目。

 ミリー先輩の車いすのデッパリが、またわたしのスカートを引っかける。

 その都度十センチほど裾が持ち上がり、斜め前の啓介先輩にわたしの太ももが露わになってしまう。

「い、いや、見えてへんから(#>▭<#)……あ、あ、また……」

 啓介先輩は上を向いて、ティッシュを詰めた鼻を押える。

「これで見えてないって、説得力ないわよ、ほれ、わたしがやったげるから」

「いて! 先輩、やさしく!」

 須磨先輩が狭くなった部室をものともせずに啓介先輩の鼻血ティッシュを取り換える。

 ミリー先輩と新入部員が並んで小さくなる。

「じっとしてないと換えられないでしょ!」

「い、いや、せ、先輩の胸が……」

「も、もー! 啓介はエロゲのやり過ぎ(''◇'')!」

「「「「ハ、ハハハハ……」」」」

「も、もうやってらんないわ! ちょっと掛け合ってくる!」

 須磨先輩は机を乗り越えて部室を出ると二階に駆け上がっていった。

 二階には生徒会室と職員室がある。業を煮やして掛け合いに行ったんだ。


 今日から交換留学生のミッキーが演劇部に加わった。


 なんでも、休日の昨日、ホームステイ先の瀬戸内美晴先輩の家にまで行って決めてきたらしい。

 近所の公園で話をまとめたらしいけど、ミリー先輩は両足をくじくという不運に見舞われて車いすになってしまった。

 でもって、タコ部屋を兼ねている狭い部室は、かさ高い交換留学生とミリー先輩の車いすが加わって身動きもできない。

 暫定的に小さい方の机を廊下に出したんだけど、あんまし効果なし。

 交換留学生のミッキーは、なんとか身をよじって邪魔にならないようにしてくれるんだけど、車いす自体に人格が無いもんだから、ミリー先輩が動くたびに、わたしのとぶつかって、二回に一回は、こうして悲劇になる。


「みんなー、引っ越しするよ(^▽^)/!」


 五分ほどすると、意気揚々と須磨先輩が戻って来て引っ越しを宣言した。

「引っ越しって、どこへですか?」

「二階の角部屋、さ、あんたたちも手伝って!」

 廊下の方へ声を掛けると、生徒会執行部の人たちと副顧問の朝倉先生までがドヤドヤとやってきた。


 演劇部という看板を出しているけど、演劇なんてちっともやらない。


 放課後にウダウダしてる場所が欲しいだけが、我ら惣堀高校演劇部なのよ。

 ほんとは五人の部員が居ないと部活とは認めてもらえないんだけど、我らが須磨先輩ががんばって四人でも部活として認めてもらえるようになった。

 だけど、演劇をやってないという事実があるので「もっと広い部屋に替えて!」とはなかなか言い出せなかったし、生徒会も、わたしたちに広い部室をあてがう気持ちは全然無かった。

 それが、須磨先輩が掛け合ったとはいえ、ものの五分で引っ越しが決まったのは、ミッキーが入部したから。

 そして。

「「「「うわーーー(〇▽〇)!」」」」

 ミッキーのことだけでは説明がつかないほどに、今度の部室は豪華だったのよ!

 そして、いろんな意味ですごかった!
 

☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)088・ジャングルジムのてっぺん

2024-07-13 06:54:42 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
088・ジャングルジムのてっぺん 




 ペダルが軽い。


 パンクの修理だけやなくて、あちこち油をさしてくれたようや。

 やっぱり、基本的にミッキーはええやつなんや。

 あ、以下の会話はミッキー相手なんで英語で喋ってる、念のため。

「どうもありがとう、すごく快調になった!」

「いや、ついでだよ、ついで。ヨイショ」

 そう言うとミッキーはジャングルジムに上っていく。

 つけあがらせることなく寄り添いながら話そうと思ってたら、さっさと公園で一番高いところに上っていく。しゃあないから、あたしも着いて上っていく。

 女の子にもよるけど、ジャングルジムのテッペンなんてところで男の子と並んだら少しドキドキする。

 二階ほどの高さもないんやけど、お尻の下がスケルトンやさかいにムズムズドキドキ。

 この状況で恋を語られたら、自分の胸の高鳴りを誤解してしまいそう。

 もっとも、ミッキーはそんな『吊り橋効果』的なことを企んで上ったわけではないやろ。

 単にこういう場所が好きなだけなんやろ。サンフランシスコで美晴に迫ったんも金門橋を見下ろす丘の上やったて、美晴言うてたし。

 自転車の修理といいジャングルジムといい、ハックルベリーのようなところがあるみたい。

 ハックルベリーには直球がええ。

「ミッキー、美晴のこと誤解してんのよ」

「なにを(◎▭◎)!?」

 直球過ぎて目を剥いてきよる。

「I can cook pretty って言ったのよね」

「そうだよ。グループで自己紹介しあってるときに、美晴のことをみんながprettyだとかcuteだとか騒いでる時に、彼女言ったんだ」

「though I can only cook……pretty でしょ」

「うん『お料理が上手いだけ……けっこうね』だよ。日本人て変な謙遜ばっかりするけど、あの言い回しは上手いと思ったよ、控えめに自分の長所をアピールしてるしね」

「美晴はハンパに英語出来るから、とっさに言い間違えたのよ」

「言い間違い?」

「ほんとは、こう言いたかったのよ。though I can only cook……little. ユーアンダスタン?」

「……though I can only cook……little?」

「そ、prettyって単語が出たんで、うまいこと返そうと思って、とっさに間違えたのよね。でも、みんなが感心してくれるし、旅先だし『ま、いっか』にしちゃったわけ。まさか、あんたが日本に来て自分の家にホームステイするなんて思いもしないもんね」

「……そっか」

「だから、あの料理は、あたしのレクチャーと演劇部のアシストでやったってわけなのよ」

 ここまで言うと、ミッキーは黙り込んだ。

 やっぱ直球はまずかった……フォローしようと思ったら、いきなりジャングルジムを飛び降りた。

 スタ!

 体操選手みたいに着地すると、クルッと振り返った。

「かわいいじゃないか! なんだかアニメの萌えキャラだ! ちょっとツンデレだけど! ツンデレ好きだ!」

 いや、ツンはあるけど、デレは無いから……。

 こいつを野放しにしたらアカン! そう思って、わたしも飛び降りた!

 スタ!

「ミッキー、あんた演劇部に入んなさい!」

「演劇部?」

「そう、そして……」

「ミリー、ちょっと目が怖いよ……」

「い、いま、足を……く、くじいたの(>_<;)……家まで送ってちょーーー」


 ちょーー痛いいいいいいいいいいいいっ!!
 
 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)087・美晴のブレイクファースト

2024-07-12 07:02:59 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
087・美晴のブレイクファースト 





 美晴の家で朝ごはんを頂くことになった。


 電話をすると「これから朝ごはん、ミリーもおいでよ!」と誘ってきよったたから。

 どっちかていうと――よかった、ぜひ来てちょうだい!――という響きがあった。

 これは『まずは胃袋から、男を虜にするレシピ百選』でこさえた料理の数々が居候の誤解をいっそう進めてしまったんやなあと思う。

 せやからミッキーと二人きりの朝食は気ぃが重い、わたしの電話は渡りに船やったんや。

「いやー、ごめんごめん、近所まで走ってきたらパンクしてしもてさー(^▽^)/」

「あ、パンクなら任せてよ。幸いミハルんちにリペアキットがあるから直してあげるよ。自転車屋で直したら5ドルするって言うじゃないか」

「最寄りの自転車屋さん駅の向こうだしね」

「朝ごはんは先に食べててよ、待ってたら冷めてしまうからね」

 そう言うとリペアキットを持って外に出るミッキー。

 基本的には気のいいやつなんや、ミッキーは。


「なるほど、ベーコンエッグはイッチョマエや!」


 食卓に着くと直ぐにブレイクファースト二人前が出てきた。電話した時には、もう取り掛かってたみたい。

 お皿は湯せんしたあるし、載ってるベーコンエッグはちょうど頃合い。アメリカ人向けに黄身までしっかり火ぃ通してあるけど硬すぎるということは無いし、ベーコンはあらかじめ切ってあってフォーク一つで食べられるようになってる。わたしの分は、わたしが着いてから作るつもりやったんで、食べてるのはミッキーの分。ミッキーのは改めて作ってる。

「おお、これは( ゚Д゚)」

 一口食べるとフワっとしてる。水の量と蒸らしている時間がちょうどええ……だけとちゃう、ベーコンと玉子の間にチーズが挟んである。これがフワフワの種なんやろね。

 トーストは、食卓に着く直前にトースターに入れ、コーンスープを少し頂いたころに焼き上がる。

 バターはあらかじめ湯せんして溶かしバターになっていて、トーストに塗る時のストレスが無い。

 サラダも『レタスとクルトンのバルサミコ酢合え』になってて、シンプルでさっぱりしたしつらえ。

「わたし、朝食しかできないから……」

 ガラにもなく恥ずかしそうにしてる美春やけど、これは立派なもんや。料理慣れした人間が――いつものブレイクファーストを作りました!――という感じや。この調子でランチやディナーを作ったら結構ナイスなのを作るやろうと思わしめるものがある。

「もう正直に言っちゃえば?」

「これしか出来ないわよって?」

「うん、ずっとホームステイさせるんやったら、その方がええと思うわよ」

「二つの理由でダメ」

「二つ?」

「ここへきて料理ベタと思われるのはシャクよ。それに、料理ベタっていうのは……案外……逆効果にならないかなって……」

「逆効果?」

 どうも分かりにくい女や。

「えと……わたしって、いろいろできちゃうから。玉に瑕の料理ベタっていうのはギャップ萌えで……ラノベとかであるでしょ」

「ああ、なーる……(^_^;)」

 ラノベとかアニメは、いまや世界的なスタンダードになりつつあり、美晴の心配はうなずける。

「で、美晴がお料理名人やと思われてしもた原因ていうのはどんなん?」

「それはだね……」

 それは、美晴の見栄とちょっとした単語の間違いが原因みたい。

 せやけど、あたしが近所でパンクしたのは運命のように思われて、修理を終えて戻って来た居候にこう言ってやった。

「ちゃんと直ったか確認したいから、朝食食べたら試運転につきあってよ」



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)086・えと、一番近い知り合い!

2024-07-11 07:39:48 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
086・えと、一番近い知り合い! 





 パーーン!

 ヒ( >Д<)!

 久々に銃声かと身を縮めたのは自分がアメリカ人やからやろう。
 
 日本人やったら銃声なんてドラマやアニメの中でしか聞いたことが無い。

 せやから銃声というのは、ズキューン! ズバーン! などとエキセントリックな音がするもんやと思ってる。

 本物の銃声は乾いた音がする。そう、たった今のんみたいに。

 撃たれたことは無いけど、銃声はシカゴでも数回耳にした。ギャングの発砲やったりお巡りさんやったりするんやけど、今のみたいに「パーーン!」なんよ。

 で……今のは銃声では無くって、自分の自転車がパンクする音やった(-_-;)!

 カクンカクンと、タイヤのリムが直接アスファルトの路面を噛む衝撃で分かった。


「アチャー(;'∀')」


 こういう時にも日本語が出てくるのは、骨の髄から日本に馴染んだ証拠。

 それも大阪弁。

 せやけど、黙ってりゃブロンドの白人少女、自分で言うのもなんやけど可愛い。

 ちょっと古いアニメやけどサエカノに出てくる澤村・スペンサー・エリリに似てる。

 特に今朝は、中学の時のジャージにTシャツ。これって、エリリの定番やったりする。

 こんな街中、困った顔して佇んでたら高い確率で声を掛けられる。十中八九オトコから。

 思えば気合いが入りすぎてたんや。

 美晴に頼まれて家庭料理のあれこれをレクチャーしに行った。面白そうなんで演劇部の一同も付いて来て、めっちゃ盛り上がった。

 美晴は見かけに反して、ぜんぜん料理はでけへん。出来へんくせに居候のミッキーに「飯ならまかせとけ!」なんて請け負ってしまいよった。お婆ちゃんとお母さんが居ない一週間だけやねんけど、ボロが出えへんようにせんとあかん。

 で、日本に来てから書き溜めたレシピノートを持ってって腕を振るったわけ。

 一週間はともかく四日くらいはいけそうな品揃えになった。

 せやけど、家に帰ってから気ぃ付いたんよ。

 あの品揃えのコンセプトは『まずは胃袋から、男を虜にするレシピ百選』やった。

 美晴がミッキーのハートを射止めようとか思ってるんやったらピッタリやったわよ。

 せやけどね、美晴は基本的にミッキーが疎ましい……とまではいかへんでも、好意を寄せられるのは堪忍なんよね。

 わたしの料理を三日も食べたら、男なら――彼女はオレに気がある!――ぜったい誤解する。

 演劇部の天敵である生徒会副会長の美晴やけど、それとこれとは別!

 そんなこんなを悩んでいたんで、秋晴れの今朝――ヨーシ、今日は自転車でカットブぞ!――てんで、自転車に気合いと空気を……入れ過ぎた。

 ホームステイ先の渡辺さんちに電話したらええねんけど、きっとパパさんが車で迎えに来てくれる。けど、それって申し訳ない。

 人間、一つ失敗すると連想ゲームみたいに過去の失敗の記憶が蘇ってくる。

 で、直近の悪夢である『美晴んちでお料理に励みすぎ』を思い出してしもたわけよ。

 あ、ヤバイ、学生風の二人がこっち見てる。

『日本語わっかりませーん!』を装ってもええねんけど、近頃のスマホには翻訳機能が付いてたりする。

「えと、一番近い知り合い!」

 スマホに呼びかけると一件ヒット。

 なんと、100メートルも行けば、たった今思い出してた美晴の家やおまへんか!

 大学生風がこっちに歩いてきよるんで、迷わずに電話するミリー・オーエンやった!



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)085・まずは胃袋から!?

2024-07-10 06:28:29 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
085・まずは胃袋から!? 





 ミリーに言われて二つだけ確認してある。

 イスラム教徒でないこととベジタリアンでないこと。


 イスラムにもベジタリアンにも偏見は無いけど、わたしは牛豚の肉なしでは三日も居られない。二人の生活で別々のメニューなんてやってらんないしね。

「両方ともOKだよ」

 そう答えると、ニンマリ笑って薄い方のノートを仕舞い、分厚い方のノートをペラペラとめくるミリー。

 垣間見えるノートには写真とともにレシピが英語まじりの日本語で書いてある。

「料理屋さんでも始める気?」

「ハハ、まさか。渡辺さんちのレパはすごいからね、パパさんは魚屋さんだし、お婆ちゃんの実家はお料理屋さんで、ママさんはレストランやってたし、みんな教える気満々。習わなきゃ損でしょ……はい、これだけの食材買っておいて」

 メモを見ただけでは想像できなかったけど、その量はミッキーを荷物持ちにして正解だった。「やっぱり、ミハルといっしょに帰るよ」というミッキーの気持ちもスケベー根性からだけではなかった。


「いやー、壮観ねー!」


 我が家のキッチンテーブルの上に並べられた食材とその他もろもろは多彩だ。

 野菜やお肉から始まり乾麺に各種調味料も色々、カレールーとか豆板醤があるのでカレーとマーボー豆腐は確定なんだろうけど、ケチャップに塩昆布、チョコレートは意味不明。

「さ、それじゃ分業するからテキパキやってね!」

 ミリーが指示すると演劇部の三人は手際よく下準備にかかる。

 一つ一つは「お湯を沸かして」とか「皮をむいて」とか「みじん切りにして」とか「均等に混ぜて」とかの単純作業。

 その組み合わせも絶妙で、一つの作業が終わると別の作業を指示して、無駄な時間待ちが出来ないようにしている。
 合間にはわたしへの解説と「じゃ、やってみて」と実際の調理もやらせてくれる。

「家庭用のコンロは火力ないから、炒め物はフライパンでいいわよ。手間だけどイモは面取りしといて、そこは余熱を利用して、そうそう、揚げ物は一度にやろうとしないで、野菜は最後に……」

 取りかかった時はミッキーが帰ってくるまでに仕上がるか不安だったけど、三十分もするとあらかた終わってしまった。

 コンロの上にはカレーと肉じゃがとロールキャベツが沸々と煮えていて、テーブルにはチキンライスと唐揚げとハンバーグと玉子焼きが湯気を上げている。

「唐揚げ、ちょっと早くなかった?」

 唐揚げの衣がなんだか白っぽい。

「ミッキーが帰ってきたら、もう一度揚げるの。唐揚げは二度揚げするのがセオリーよ、でもって熱々を食べさせられるってメリットもあるしね、なにより甲斐々々しくクッキングしてますって感じがするじゃない」

「えと、それに、ちょっと多くない?」

 ざっと見渡しただけで七品もある。

「ほんまや、俺でもこんなには食わへんで」

 部長の啓介もため息だ。

「これは、最低でも三回分。カレーと肉じゃがとキャベツロールは明日以降ね。チキンライスは冷めてからラッピング、改めて玉子を焼いてオムライスにする。玉子の焼き方も明日以降に教える。ハンバーグは常温にしてから冷凍庫、ソースはそっちの小さな鍋、これは冷蔵庫、乾麺はうどんすきに使うからね」

「あ、デザートは冷蔵庫に、賞味期限は四日はいけますから」

 千歳がいつのまにかデザートの仕込みまでやっている。

「今度は、家に来てやってもらえないかなあ」

 須磨先輩は、次回の実習の予約をする。

「ん、なんだか家庭料理の定番オンパレードって感じね!」

 ミリーの行き届いたメニューに一安心して、なんだか嬉しくなってきた。

「これだけやっとけば、ミッキーも大満足でしょ」

 そう言ってミリーはノートを閉じた。

 え?

 閉じかけの中表紙の文字が目に飛び込んできた。

――まずは胃袋から! 男を虜にするレシピ百選!――


 えと……絶対したくないんですけど! ミッキーを虜になんかさ!



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)084・イベントにする気!?

2024-07-09 06:55:13 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
084・イベントにする気!? 






 惣堀商店街は西に向かって緩い下り坂になっている。


 商店街は道幅が狭く採光が悪いので、ちょっと薄暗い。

 この坂道を下って学校に至るので、登校の時はちょっと凹む。生徒会の副会長なんかやってるから学校大好き少女だと思われるかもしれないけど、実はそうでもない。

 好きではないんだけど、嫌いなものをそのままにしておくと嫌いのスパイラルに落ち込んでますます嫌いになる。だったら、少しでも抗ってやろう……という姿勢なんだ。
 不合理な制度や決まりを変更し、文化祭や体育祭などの行事を企画して、みんなが熱中している姿や、その成果に喜んでるところ、多少窮屈そうにしていても、わたしが企画して整えた秩序の中で動いている。それを感じるのが好きなんだ。

 春先にグータラ演劇部をぶっ潰してやろうと乗り込んだら、逆に部活成立要件である『最低部員数5人』の規定を変えられてしまった。生徒数が規約が決められた時代の半分なのだから最低部員数も減らすべき……さすがは高校八年生の松井須磨、敵ながら見事だった。

 でもね、全部が楽しいわけでもないし、思い通りにいくわけでもない。戦う、抗う、挫けない、そういう緊張感が救いになって、嫌だと思う気持ちをねじ伏せている。だから朝の通学路は微妙に凹む。

 逆に下校時は坂道を上る。

 下校の開放感と、谷町筋に向かって明るく開いた出口が坂の上に見えていることもあって素敵。

 多少いやなことがあっても、明日は良いことがあるかもとか思える。良いことがあると、もうちょっと良いことが続くんじゃないかと思わせてくれる。

 わたしたちの前を薬局のオッチャン・オバチャンが谷町筋に向かっている。

 洗剤を買って、学校の話に花が咲いた。

 お二人は惣堀高校の卒業生で、奥さんは絵里世(エリーゼ)という名前のドイツと日本のハーフだ。

 喋っている分には完璧に薬局のオバチャンなんだけど、こうやって歩く姿を見ていると、腰高にシャキッとした姿勢はアッパレ、ゲルマン人! わたしが洗剤を買った後、商店街の寄合があるというので、いっしょに店を出たんだ。

「良い感じの御夫婦だね……」

 坂道効果なのか、ミッキーはのぼせた感じで言う。なに頬っぺた赤くしてるのよ!

 オッチャンもオバチャンも、わたしたちを好意的に見てくれた。

 日米高校生の組み合わせが、男女の違いは逆なんだけど、自分たちの青春時代のロマンスと重なるところがある様子。

 でもって、ミッキーは、オッチャンオバチャンの好意に羽を付けて妄想たくましの様子。

「なによ、この手?」

「あ、ごめん」

 両手の荷物を左手にまとめ、空いた右手を肩に回してきやがった。

 ちょっとしたことなんだけど、許してしまえばズルズルになる。

 夕闇のゴールデンゲートブリッジを見下ろしながら迫って来た前科があるんだからね。

「じゃ、ここで。帰ってくるころには夕飯出来てるからね」

「やっぱ、ミハルといっしょに帰るよ」

「だめよ、領事館の用事は最優先で済ませておかなきゃ」

「でも、大そうな荷物だよ」

「食材以外はミッキーに任せるから、じゃね」

 食材のレジ袋だけをかっさらって、ちょうど青になった横断歩道を渡る。

 ホームステイ先が変わったので、ミッキーは領事館に手続きに行かなければならないのだ。
 同じ地下鉄に向かうんだけど上りと下りに分かれる。もっとも谷六駅のホームはアイランド型なので上りも下りも同じなんだけど「男には付いて来て欲しくないところに寄るの」と言って断ってある。
 
 信号渡り終えても背中に熱エネルギーを感じる。振り返ると案の定、ミッキーが子犬みたいな目で手を振っている。

 ハズいけど、邪険にもできず下げたままの左手をソヨソヨ振っておく。

 奴が地下鉄の昇降口に消えてホッとため息。

「待っへはわよ……」

 舌足らずが聞こえてきたと思ったら、角のたこ焼き屋さんからたこ焼き頬張ったままのミリーが出てきた。

「わたしたちもお供します~(o^―^o)ニコ」

 なんと軽やかに車いすを操作して千歳も現れ、それから……

「え、ええ!……演劇部全員!?」


 演劇部は、わたしの料理講習をイベントにしてしまう気だ!
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)083・美晴はお料理名人!

2024-07-08 08:22:45 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
083・美晴はお料理名人! 





 自慢じゃないけどお料理はからっきし。

 目玉焼きくらいはできるけど、あとはカップ麺にお湯を注ぐくらいのもの。


 十八歳にもなって、このザマなのは家庭環境によるところが大きいんだけど、言いだすととんでもないグチりになるので控えておく。

 母も祖母も十分承知しているので、この一週間はデリバリーを手配してくれている。

 ところが、世の中には予期せぬ不幸というものがある。

 もともと今回のことはミッキーのホームステイ先の家が火事で焼けてしまうという不幸があったからだしね。そしてミッキーが十三(じゅうそう)に足を伸ばした時にスマホの電池が切れてしまって、わたしが迎えに行くハメになったことが引き金になっている。

 あるものなのよね、不幸の連鎖というのは。

 もっとも、本人のミッキーは、わたしの家に住めるようになって「神は試練の後に喜びを用意してくった!」とか言って、アメリカに戻ったら久しく足を向けていない教会に13ドルの寄付を持ってお参りに行くって言ってる。教会の寄付に13ドルというのはどうかと思うんだけどね。

 あ、そうそう、不幸の連鎖。

 なんと、このデリバリーさんが食中毒を出してしまって、二日目から止まってしまった!

 お母さんはヌカリのない人で、デリバリー以外の手配もしてくれている。

 わたしの口座に『おもてなし資金』を振り込んでくれていて、それを下ろせばしのげるようになっている。

 でも、これは万一の時の保険のようなもので、このお金で食材を買うことはできるけど。その食材でもって、わたしが料理することがどんなに無謀なことなのか……これには目をつぶっている。

 こんなところにも、日本人の安全保障への脳天気さが現れていると思うんだけどね。

 一週間だけのことだから、外に食べに行くという選択肢も一般的にはあるんだけど。

 シスコでミッキーんちに滞在している時に「ミハルの料理の腕はすごい!」ということになってしまっているのよ。

 これは日本と日本人への過剰な期待というか幻想が元になっていて、ま、多少の見栄とかもあって、ミッキーとその家族の思い入れを否定しなかったわたしにも問題がないわけじゃない。
 
 だって、一か月後にミッキーがわたしんちにホームステイするなんて、この大阪にミサイルが落ちてくるよりも確率が低いんだもん!

 でも、デリバリーを頼んでいたじゃない?

 それはね、こういうこと。

「わたしが作ったら美味しくなりすぎるのよ。一般的な家庭料理を堪能してもらうには、このデリバリーが一番なの!」

 と苦しく押し切った。

「もう少し一般的な家庭料理ができるようになったらご馳走するわ」

 自分へのフォローも忘れなかった。

 こういう屁理屈の立て方は、我ながらすごいと思う。ひょっとしたら国会議員に向いているのかもしれない。

 いろいろあって、放課後の惣堀商店街をミッキーと二人で歩いている。

 恥を忍んで演劇部のミリーに相談したんだ。

 ミリーは、もう四年も大阪に居る。

 ホームステイ先は黒門市場で魚屋さんをやっている渡辺さんだ。

 渡辺さんは魚料理の他にも調理の腕はハンパじゃなくて、ミリーもその薫陶を受けて、かなりのものになっているらしい。

 演劇をちっともやらない演劇部だけど、お茶とお料理はなかなかのものらしい。

 お茶は千歳、お料理はミリーなんだ。

 松井須磨と小山内啓介も、なにか持っていそうなんだけど。生徒会の諜報能力をもってしても、この二人については分からない。
 
「協力してあげるわ、とりあえず食材は揃えておいてちょうだい」

 協力を約束してくれたミリーは綿密なリストを書いてくれた。

「魚だったら黒門市場の方がよくない?」

「ばかねえ、最初からそんな美味しいもの揃えたらハードル上がりっぱなしになるじゃないのよ!」

 なるほど、ミッキーのホームステイは三か月はあるのだ。

「それに、下校途中に買い物しておくって、とても自然じゃない」

「なるほど……演劇部のくせに思慮深いじゃない」

「うるさい!」

 ミリーは大したもので、惣堀商店街のどこにいけば何があるかをしっかり把握している。

 わたしは家事とお料理のエキスパートとしてミッキーを連れまわした。

「すごいね、商店街がみんなお馴染みさんなんだ!」

「まーね」

 学校の制服を着て「あれとそれください」とテキパキしていれば、どこのお店でもお得意さんぶっていられる、地元商店街の有りがたいところよ♪

「あら、生徒会の副会長さん」

 声が掛かったのは、食器洗剤を買いに入った薬局だった。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)082・とんでもない事態になってきた!

2024-07-07 08:16:49 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
082・とんでもない事態になってきた! 





 運命とか神さまとかは信じない。

 お母さんとは意見の合わないことが多いけど、この点については一致している。

 世の中というのは因果応報、なにか事件が起こったり行動を起こすと、その事件なり行動が変数となって作用しあって事態を変化させる。
 
 戦争なんてロクでもないけど、戦争のお蔭で電子レンジもインターネットも生まれた。電子レンジのお蔭でお祖母ちゃんは卵を爆発させて掃除が大変になるし、ネットのお蔭で思ったことをすぐにラインとかして後悔するし。スマホは便利だけどひとたび電池が切れれば、ただの板切れ。マップもGPSも使えなくなったミッキーがやっと見つけた公衆電話で「迷子になったあ!」と泣きを入れてくることも無かっただろうし、わたしが十三(じゅうそう)まで迎えにいくことも無かっただろうしね!

 わたしが新しい同居人で悩む羽目になったのは、そういう因果応報の果てのことなんだ。
 
 困ったことに、同居人は、いささかの運命論者。運命論の勢いで生徒会の活動をしてみたいと言い出した(-_-;)。

「運命だと思ったんだけどなあ……」

 結論を聞いたミッキーは、ちょっとしょげている。

「ま、新しい執行部に持ち掛ければいいんだから、気落ちしなくていいわよ」

 いささかのシンパシー有り気な顔で答えておく。


 ミッキーには悪いけど、これ以上わたしのテリトリーに入ってきてほしくない。

 脳天気なお母さんのお蔭で同居することのなったことだけでも十分すぎるほどトンデモナイことで、ミッキーの運命論を補強してしまっているのにね。

 自分で言うのもなんだけど、ミッキーはわたしに気がある。

 サンフランシスコの三日目、ゴールデンゲートブリッジのビュースポットでキスされそうになった。

 日の暮れで、周り中アベックばっかで十分すぎるほどの雰囲気。雰囲気十分で迫ってくることは理解できる。

 動物的衝動だけで迫って来たのではないことも分かっている。

 ミッキーが、わたしを崇拝してくれるのは嬉しいけども、崇拝されたからと言って、それに100%応えなきゃならない義務はない。

 でも、サンフランシスコからやってきた交換留学生への礼は尽くしてあげなければならない。

 ホスト校の生徒会副会長としての義務と礼節はわきまえている。

 わきまえていなければ、彼の同居が決まった段階で家出してるわよ。

 生徒会規約によって執行部の肩書と人数は決まっている。現状で定員一杯。

 執行部は選挙によって選出された者のみをもって構成すると生徒会規約にある。それに、留学生が執行部に入れる規定も無ければ選挙権の有無についてもうやむやだ。

 そういうことを生徒会顧問と執行部に説いた。

「議決権のないオブザーバーならいいんじゃないのか?」

 会長が柔軟なことを言うので、わたしはえぐらざるを得ない。

「でも、あんたたちの好きな猥談できなくなるわよ」

「「「え(゚д゚)!?」」」

 これが会長以下の男子役員には効いた。

「アメリカはね、未成年へのセックスコードはメッチャ厳しいの。この棚に並んでるラノベはみんなアウトよ。体は大人でルックスは幼女のパンチラなんて即刻絞首刑! その下に隠してあるパッケージと中身が違うDVDなんか銃殺刑!」

「そ、それはネトウヨのデマみたいなもんだ!」

 会長の悲鳴は、わたしのハッタリが事実であることを物語っていた。

 そして、ミッキーの「生徒会活動に参加してみたい、いや、そうなる運命だ」という信仰的思い入れは潰えさった。

「残念ね、日本というのは慣例や規約にはやかましい国だから、わたしも応援したんだけどね……まあ、部活とかだったらノープロブレムだから、いっしょに探してあげるわよ」

「うん……頼りにしてるよ」


 よし! 難関をパスした気になっていた。


 ところが、とんでもない事態になってきた!

――ごめん、お祖母ちゃんと一週間泊まりの仕事になっちゃった。留守番よろ~!――というメールが飛び込んできた!

――ちょ、お母さん、ミッキーと二人ってことなんですか!?――

――大丈夫よ、ミッキーはいい子だし、念押しにメールしたら「安心してください、神に誓ってミハルを守ります!」って返事きたから――

 で、それがお守りになるかのように奴のメールを転送してきた。

 ウウ……それって、憲法だけで日本の平和が守れますってくらい脳天気なことなんですけど!


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする