大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 61『市と斜面を転げ落ちる』

2022-03-02 17:22:47 | ノベル2

ら 信長転生記

61『市と斜面を転げ落ちる』信長  

 

 

 二回目の伝書紙飛行機には以下のように書いた。

 

 三国軍の勢力は予想よりも少二個師団は多い規模。

 だが、増やした分は、酉盃や豊盃で徴募した兵で実力は伴わない。

 敵主力は魏軍、主将は女将軍曹茶姫。曹操の姉妹と思われるが現状では不明。

 兄の曹素は輜重部隊の大将であるが、人徳に乏しく、曹茶姫が陰に日向に目を光らせている。

 編成、装備から攻撃の準備段階と思われるが、油断はできない。

 引き続き、魏軍の様子を探る。

 

「茶姫が、あたしたちの正体知ってたことは書かないの?」

「茶姫は、俺たちを偽名でしか呼ばなかった」

「バレてないと思うの?」

「バレていたら殺されてる。敵の乱波なら殺すのが当たり前だ」

「ほんとに、そう思う? なんだか、あいつ全て知っているような口ぶりだったよ」

「いや、ちがう」

「いや、ぜったいそうだって」

「そうではない。あいつは、俺たちに興味があるんだ。そうでなきゃ、あんな風に助けたりはしない」

「あれは、曹素が危なかしいから朝駆けにことよせて監視に来たんじゃ?」

「曹素の部隊の中に茶姫の監視役が入っている。それが逐一連絡しているんだろう。馬鹿で危なっかしい男だからな」

「てことは、夕べ、明花たちが襲われたことも知っていたってわけ!?」

 むろんそうだ。あいつらは三国の軍だ、あの程度の狼藉は見逃される。だが、そう言えば、市はまたキレる。

「知ったのは……隠れていた道館に火がつけられたころだろう、あの煙は豊盃からでも見えたはずだ」

「そうか……そうだよね、茶姫はいい目をしていたしね」

 いい目をしているのはお前だ。お前は、人の目に多少の濁りを見ても、きれいな輝き一つあれば、そこを見てやろうという奴だったからな。生まれる場所と時代が違えば、お前は、パードレたちが言っていたマリアの如き人生を歩んだのかもなあ。

「え、なに、人の顔じっと見つめて?」

「動くな」

「え?」

 パシ!

「イタ! ちょ、なにすんのよ!」

「頬っぺたに蚊が停まっていた」

「え、ほんと?」

 ガバっと上半身を起こして、露出している腕やら首筋をポリポリ。

 そうだ、市は、こんなに素直なやつなんだ。

「なんだ、タンポポの種だった」

「あ、もう、ちゃんと見てからにしてよね」

「許せ、老眼だ。本能寺で討たれた時は四十九歳だったからな」

「もう、今のあんたは17歳の女子高生なんだからね」

「え、あ、そうだったな」

「そうよ、胸だって、あたしよりもおっきいくせに!」

 ムンズ

「こ、こら、揉むんじゃない」

「小さくしてやるんだから」

「アハハ、くすぐったいぞ! くそ、それなら、おまえの大きくしてやる!」

「キャ、ちょっとお!」

 アハハハ キャハハハハ

「「うわ!?」」

 ふざけすぎて斜面を転がり落ちる。

 ゴロゴロゴロゴロ

 バサバサ

 斜面の下まで転がり落ちて、二人ともタンポポの種だらけになってしまう。

 アハハハ ペッ ペッ アハハハ ああ、おっかしい!

「むかしも、こんなことあったね。清州のお土居(石垣ができる以前の土塁)の花を採ろうとしたら、転げ落ちそうになって、お兄ちゃん掴まえてくれたんだけど、いっしょに転げ落ちて……」

「あの時は、土居の下は堀だったからな。二人ともビチャビチャになって、平手の爺に叱られたな……」

「楽しかったね、子どもの頃は」

「あれ以来、市に構ってはいかんと、父上からも言われた」

「え、あ……そうだったね、あれからぜんぜん……でも、なんで、聞き分けよかったの? いつも人に逆らってばかりだったのに」

「それはな……」

 言えるか――市は将来は嫁に出す娘だ、お前と遊んでいては傷物になってしまう!――なんて親父の言葉。

 嫁が人質だってことは、もう十分分かっていたからな。それで納得した俺の事もな。

「雲は、どっちに流れてる?」

「え? えと……西だ」

「よし、西へ行くぞ」

「豊盃ね」

「ああ、虎口に入らずんば虎児を得ずだ」

「おし!」

 仲良く斜面を這い上がって、豊盃を目指す。

 日は、いつの間にか中天に差し掛かろうとしていた。

 

☆ 主な登場人物

 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
 織田 市        信長の妹
 平手 美姫       信長のクラス担任
 武田 信玄       同級生
 上杉 謙信       同級生
 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
 宮本 武蔵       孤高の剣聖
 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
 今川 義元       学院生徒会長 
 坂本 乙女       学園生徒会長 

 曹茶姫         魏の女将軍

 

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明神男坂のぼりたい・88〔麻友と久々の志忠屋〕

2022-03-02 07:04:05 | 小説6

88〔麻友と久々の志忠屋〕 

       


 今日のテスト勉強も麻友の世話になる。

 学校では落ち着かないので、麻友へのお礼を兼ねて志忠屋へいく。

 あ、1月に行ったきりだから忘れてる人も多いかも知れないね。

 志忠屋のオーナーシェフはお父さんの40年来のお友だちで、映画評論の傍らイタ飯屋さんをやっている。おもしろいオジサンで、あたしも子供のころから何かにつけて世話になってる。春からのリニューアルで、夜の営業だけになってしまったけど、この7月から、やっとランチ再開。

 でもって、あたし自身楽しみで麻友を誘って来たわけよ。2時でランチタイムは終わるけど、あとのアイドルタイム(準備中)は、テーブル席を使わせてくれる。麻友へのお礼と勉強と人生相談を兼ねた要領のいい企画なわけですよ。

      

「おいしいね、ここのパスタ!」


 海の幸パスタに麻友は大感激。見かけによらん明るさと大きな声にタキさんが興味を持った。

「明日香もおもろそうな友達持ったな」
「あたしの師匠。で、新しい親友。麻友はね……」

 麻友のあれこれを話すとタキさんもKチーフも、俄然麻友に興味を持ってくれたみたい。気が付くと店のBGMが、いつのまにかサンバに変わっていた。麻友の体が小刻みにリズムを取り始める。

「ちょっとハジケテもいいですか?」

「ああ、いいよ。アイドルタイムだから」


「イヤッホー!」


 頭のテッペンから声出して、麻友はハジケた。オッサン二人とあたしが、鍋の蓋やらグラスでリズムをとると、麻友は一人で店の中をリオのカーニバルにしてしまった。

「さすが、ブラジルだなあ!」
「ワールドカップで夜も寝られねえだろ!?」
「ネイマールの怪我、わしらでも、アって思ったもんな!」

「え、あ……サッカー嫌いだし……」

 麻友の冷めた言い回しに、盛り上がった店の空気がいっぺんに冷めてしまった。

「麻友ちゃんは、なんか胸にありそうだな……」

 優しく言いながら、タキさんはサービスでオレンジジュースを出してくれた。麻友は例の定期入れの写真を出した。

「お兄さん……」
「十八になります……生きていたら」

 麻友の目から涙が溢れた……。

 涙ながらの麻友の話をまとめると、こんな感じだった。


 麻友の兄の友一(ゆういち)は、ハイスクールでサッカーのエースだった。それが去年の試合で凡ミスをやり、決勝戦を落としてしまった。

 そして、試合の帰り道、みんなからハミゴにされて帰る途中、道路を渡ろうとして車に跳ねられた。

 直接の原因はいっしょに道路を渡ろうとした子供だった。車は子供を避けようとして、ハンドルを切った。

 この時、ハンドルの切り方には二つの選択肢があったそうなんだ。右に切れば、通行人の誰にも接触しないが、スピンして、向かいの店に突っ込みそうだった。左に切れば友一を引っかけそうだったが、友一の運動神経なら、避けてくれると運転手は判断し、ハンドルを左に切った。

 そして、兄の友一は車に跳ねられて亡くなってしまった。そして、運転手は、同じサッカーチームのメンバーだった。

 麻友と両親は、運転していたチームメイトに殺意があると思った、少なくとも未必の故意があると。

 しかし、警察も世論も、チームメイトの味方ををした。父親は裁判まで持ち込んだけど負けた……だけじゃなくって、町中から非難のまなざしで見られた。で、勤めていた日系企業の日本本社への転勤を希望して、親子三人で東京に越してきたんだそうだ。

 初めて麻友の秘密を知った。

 もう明日のテストは欠点でもいいと思った。

 だけど、麻友は切り替えが早い。

 おしぼりで顔を拭くと、きっちり一時間かけて、明日のテストの山を教えてくれた。駅まで歩いてるときは、もう普通の麻友だった。

 

 その日のAKRのレッスンは快調で夏木先生にも誉めてもらえた。

 

「歌も踊りも、元気でハリがあってグッド! それでいて少女の憂いってか、存在の悲しさが出てて、とても良かったよ。この曲に関しては選抜級だ!」

 あたしには、それが麻友の影響だというのが分かった。そして、その誉め言葉に喜んでる自分も発見。

 自分がメッチャ嫌な子に思えてきたよ。

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