魔法少女マヂカ・264
バサリ バサリ
黒犬が尻尾を振った。
なんだか、闇の神主が幣(ぬさ)を振るうよう様に似ていて、暗黒の力が増幅されるような気配がする。
「うわあ、なに、これえ(;'∀')……」
ノンコが気づいて、霧子もJS西郷もあたりを見回す。
被服廠跡の縁に沿って、黒い影が次々に現れる。
「……十三人居る」
素早く人数を数えると、足もとの瓦礫から鉄骨を拾って構える霧子。
ブン!
「霧子、すごいやんか!?」
「負けられないと思ったら、力が湧いてきたわ」
ちょっとおかしい、鉄骨は、どう見ても百キロ以上はあろうかと思われるH鋼だぞ。
「そうだ、いいぞ、忌地の力が霧子に収れんされてきたんだ。まだまだ強くなるぞ……」
クマの姿をした魔物がほくそ笑む。
「霧子、その鉄骨を離せ!」
「こいつら、片づけてやる!」
「よせ!」
「クマの姿を盗んだお前! お前から退治してやる!」
ブンブン!
孫悟空の如意棒のように鉄骨が振るわれると、十三人の影たちはフルフルと戦ぎ、クマに向けられた力はほとんど消えている。
「影たちが衝撃を吸収してる!」
「アハハハハ」
「ワンワン!」
クマの影と黒犬が嘲弄するように、霧子に近寄っては離れていく。
「そこを動くな!」
ブン! ブン!
「アハハハハ」
「くそ、今のは届いたはずなのに!」
「霧子!」
「霧子さん!」
ノンコとJS西郷がハラハラしながら霧子に声を掛ける。
影たちは、霧子が鉄骨を振るう度に柳のようにそよぐのだが、そのたびに闇が深まるような、影が強くなるような気がする。
「トリャーーーーーー!」
ブン! ブブン! ブブブン!
連続の打撃も届かない。
「霧子、よせ! そいつら、霧子が攻撃するたびに強くなってる! 霧子の力を吸い取っているんだ!」
「え?」
タタラを踏んで、攻撃の手を緩めた霧子の前にクマの姿の怪人が降りてくる。
「そうだよ、このステッキも影たちも霧子の憎しみを糧にして力を付けていくのさ……この影たちは、長門の救護隊たちが救った者たち。そう、全て、お前たちが良かれと思ってやったことの力が形になり大きくなっていった者たちなのだよ」
「そ、そんな」
「今日は、もう十分にお前たちの力をいただいた。それでは、この次は虎ノ門で……ん、なんだ!?」
怪人が気配を感じるのと、そいつが現れるのは同時だった。
「させるかああああああ!」
そいつは、今の今まで怪人が立っていた地面から跳び出てくると、日暮里高校の制服で見慣れない刀を振りかぶった。
辛くも一撃は躱した怪人だが、そいつの素早い第二撃は躱せなかった。
ドシュ!
浅手ではあるけど、怪人の肩口からは数千のポリゴンじみたカケラが舞い散った。
「お前たち、わたしを護れ!」
サワサワサワ……
「邪魔だ!」
スパスパスパスパスパスパパパパパパパパパパパ!
横ざまに構えた太刀で影たちを薙いでいく。
太刀が触れる度に影たちは両断され、ポリゴンめいた欠片をほとばせるが、直ぐに形を取り戻して、怪人の周囲を固める。
「ああ、せっかく貯めた力が……もういい、ここまでだ。お前たち、戻るぞ!」
「待てええええ!」
ズバ!
敵わぬまでも振り下ろした一撃が、最後に怪人を庇った影を両断した。
その影は、前の十倍ほどの欠片を煌めかせると、元に戻ることも無く消えて行ってしまった。
怪人も黒犬も、残り十二体の影も、その隙に消えて行ってしまっていた。
ハーハーハー……
刀を握ったまま膝を落としたそいつは、激しく肩を上下させて、しばらくは声も出せない様子だ。
「おまえ、詰子……」
「「「ツンコ!?」」」
「真智香のお知り合い?」
「ああ……妹……だ」
「「「妹!?」」」
わたしも、よく分からない、令和の日暮里にいるはずの詰子が、なぜ大正十二年に……
※ 主な登場人物
- 渡辺真智香(マヂカ) 魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 要海友里(ユリ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 藤本清美(キヨミ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 野々村典子(ノンコ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 安倍晴美 日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
- 来栖種次 陸上自衛隊特務師団司令
- 渡辺綾香(ケルベロス) 魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
- ブリンダ・マクギャバン 魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
- ガーゴイル ブリンダの使い魔
※ この章の登場人物
- 高坂霧子 原宿にある高坂侯爵家の娘
- 春日 高坂家のメイド長
- 田中 高坂家の執事長
- 虎沢クマ 霧子お付きのメイド
- 松本 高坂家の運転手
- 新畑 インバネスの男
- 箕作健人 請願巡査