大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・128『八房のお礼』

2022-03-09 11:33:22 | ライトノベルセレクト

やく物語・128

『八房のお礼』 

 

 

 

 窓を開けると、八房が宙に浮いていた。

 

「あら、八房って宙に浮けたの?」

「はい、脚はまだ直りませんが、やくもさんたちが二匹も妖を退治してくださいましたので、心が軽くなり、これくらいの高さなら浮いていられるようになりました」

 なるほど、腰を落としたお座りの姿勢だ。

「伏姫さまもお喜びになって、これは、直ぐにでもお礼を申し上げねばとうかがったしだいなのです」

「まあ、それはそれはご丁寧に」

「つきましては、ほんの気持ちばかりなのですが、お礼のしるしとして、これをご笑納くださいませ」

 スっと八房が横滑りすると空中に洗面器ほどの桶が現れた。

「まあ!?」「檜のお風呂じゃないの!?」

 左右の肩に乗ってきて、チカコと御息所が感激する。

「はい、実は、今の今まで悩んでいたのです。里見家にはもう昔の勢いがございません。それで、取り急ぎお礼をと、伏姫さまがお渡しになったのが……」

「このお風呂なのね!」

「なんて気が利いているんでしょ!」

「そうね、ついさっきまで二人とも言ってたものね」

「いえ、実は、姫さまから預かったのはこけしほどの原木なのです。いえ、原木と言っても、甲斐の山奥で御神木と崇められていた由緒のあるものでして」

「原木がお風呂に?」

「はい、御神木には霊力がございます。不肖、八房にも少しばかりの呪の力もございますので、みなさんのお声を漏れ聞いて、ついさっきお風呂に変化(へんげ)させた次第なのです」

「まあ、そうだったの!」

「いやはや苦肉の策、お恥ずかしゅうございます」

「ううん!」

「そんなことはない!」

「あ、ちょ……うわ!」

 スッテーーン

 二人が身を乗り出したので、わたしはバランスを崩して、スノコに尻餅をついてしまった。

「あいたた……」

「あら、ごめん」

「だいじょうぶ?」

 ちょっとおざなりだけども、二人も窓枠から下りてきて腰をさすってくれる。

「あ、八房は?」

「ああ、帰ったわ」

「八房も、長い時間は浮いていられないみたい」

「そう、こっちこそ、きちんとお礼を言いたかったのに」

「でも、これで三人揃ってお風呂に入れるね」

「うん、さっそく入ろう!」

「ダメだよ、一番風呂はお爺ちゃんなんだから」

「ちぇ」

「年寄りの一番風呂は体に悪いぞよ」

「はいはい、今度は夕飯のお手伝いするから、あんたたちは部屋に帰りましょうね」

「むー」

「仕方ない、やくもにも立場があるよね」

 むくれる御息所をチカコがなだめてくれる。

 なかなかいいコンビになった。

 

 部屋に帰ると、お湯も張っていないお風呂に入ってニコニコの二人。

 なんか、子どもじみてるって思ったけど、顔を近づけてみると、檜のいい香りがして、なるほどと思う。

 これで、お素麺とかいただいたら美味しいかも……思ったけど、二人のお風呂と共用じゃねえ(^_^;)。

 それから、ちゃんと晩御飯もいただいて、後片付けも手伝って、三人でお風呂に入ったよ。

 

 あ~~ごくらくごくらく(^▽^)/

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

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明神男坂のぼりたい・95〔The Summer Vacation・2〕

2022-03-09 06:58:39 | 小説6

95〔The Summer Vacation・2〕 

 

 

 バスケット一杯のもぎたてレモン!!         

 昨日の初舞台の新聞の評さ!

 家で一番早起きのお父さんに、朝の6時に起こされて知らされた。

 いっぺんに目が覚めてしまったよ。

 あたしたちのデビューは昨日、夏休み初日の劇場公演の二番目だった。選抜メンバーのヒット曲とトークの最後に紹介された。

「ちょっと異例の早熟デビュー。でもどこか面白くて新鮮! 名無しの6期生初のお披露目! バケーション! どうぞ!」

 選抜センターの石黒麗奈さんの紹介で、あたしたちは舞台のカミシモから11人づつ出て、バケーションをかました!

 VACATION(ブイエーシーエーティアイオーエン)!

 舞台のリハは一回しかできなかったから、ぶつかったり、イントロの間にフォーメーション整えたり、はっきり言ってドンクサイ。

 だけど、歌とダンスは二日で仕上げたとは思えないくらいにイカシテタ!

 衣装は急にオソロは間に合わないので、親会社のユニオシ興行の衣装部から借りてきたオールディーズ。衣装さんの工夫で、ブラウスとスカートが半々の割合で揃ってる。それをいろいろ組み合わせてバリエーションを工夫。スカーフは首に、それぞれの工夫で巻いて、バラバラの中にも統一感。

 曲はオールディーズの代表曲なんで、たいていのお客さんもノリノリ。

 あっという間に一曲終わって、石黒さんのMCで全員が10秒ずつの自己アピール。

「東京音頭でオーディション通りました。神田明神男坂下のオネーチャン。佐藤明日香! 明日の香り! では明るく元気に東京音頭の一節を!」

「やられてたまるかあ! 一人10秒だぞ。アキバはジャンク通り。お電気娘のカヨちゃんこと白石佳代子で~す!」

 てな具合に続いて、ボロが出る直前の7分あまりで退場。

 一応観客席は湧いていた。だけど、これは選抜の人たちが作ってくれた空気に乗ってなんとか恥をかかずに済ませた程度……だと思っていた。

 ところが、新聞の評は思いがけずに好意的だった(^▽^)!

 ネットで、スポーツ新聞とか見てみると、三面のトップとはいかないけど、各紙とも二三段くらいのコラムで書いてくれてて、さっきの「もぎたてレモン」やら「異色の6期生デビュー!」とか書いてくれていた。

「そだ、ブログだ(*゚▽゚)!」

 あたしたちは、研究生になった時からブログのソフトを渡されて毎日更新してる。AKRだったらいっぱいアクセスがあると思ってたけど、まだ顔も見たことない研究生へのアクセスは少なくて、日に300ほどだったけど、昨日は1000件を超えた。

 コメントが20個ほど着てて「明日香の東京音頭が聞いてみたいぞ!」いう書き込みが多かった。

 動画で東京音頭を撮って、さっそく流そうと思って、美枝、ゆかり、麻友の三人にメール。いきつけのカラオケ屋で動画を撮ってYoutubeでアップロード。ほんとは、そのままカラオケで遊んでいたかったけど、夏休みは午後からみっちりレッスン。

「ごめん、また今度!」

 で、スタジオに行ったら、夏木先生に怒られた……(^_^;)。
 

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