やくもあやかし物語・127
ええ、まだコタツに入ってんの!?
帰るやいなや、御息所がチカコを叱る。
「だって、寒いもん」
コタツの上に顎を載せたまま上目遣いにプーたれるチカコ。
「まあまあ御息所はアキバで大活躍した後で体も心も温まってるから、そう感じるんだよ」
「で、どうだったのよ首尾は?」
「そりゃあもう、ねえ、やくも」
「あ、うん。大変だったけど、なんとかやっつけられたよ」
「そうよ、蛇と龍、二つも化け物やっつけてきたのよ。なんとか、わらわの力でやっつけられたけどね、もう、ひどい戦い。早くひとっ風呂浴びて、晩酌の二合もやってお休みしたいわ」
「もう、なによ偉そうに。お風呂とか入りたかったら、さっさとお風呂掃除してきなさいよ、もう三十分もしたらお爺ちゃん、お風呂入るわよ」
「わらわたちは茶碗のお風呂であろうが」
「あのね、ここの主はやくもなんだから。やくももバキバキに戦ってきたんだろうから、少しは手伝ってあげようって気にはならないのかしら?」
「あんただって、コタツで丸くなってるだけじゃない。まるでネコよ。あんたって猫系だけど、ほんと猫にメタモルフォーゼしてしまうわよヽ(`Д´)ノ」
「ふん、わたしはとっくにね……ジャーーン!」
「「おお!」」
コタツから飛び出たチカコは、ジャージに短パン、足は潔く裸足で、手にはデッキブラシを握っている。
「さあ、とっとと行くわよ!」
そう言うと、デッキブラシを棒高跳びの棒のようにして、エイヤっとあたしの肩の上に乗ってきた。
ほんとは、お茶の一杯もいただいてからにしたかったんだけど、勢いなんだから仕方がない。
ジャージに着替えただけで、二人を両肩に載せて風呂場に急いだ。
ゴシゴシ ゴシゴシ
「やっぱり、檜ぶろっていいわよね」
「御息所、あなた、このお風呂に入りたいの?」
「まさか、このお風呂じゃ溺れてしまうわよ。わらわの身長は三寸五分しかないんだから」
「あ、その五分っていうところに『あんたよりも高いんだけど』って嫌味を感じるんだけれど」
「もう、被害妄想なんだから」
「まあ、依り代が1/12フィギュアだから仕方ないけど、さすがにお椀のお風呂に二人はきついかもしれないわね」
「そうよ、チカコって、すぐにお椀のへりに寄り掛かって『ごくらくごくらく』ってやるじゃない」
「それがなにか? あなただって、反対側に寄り掛かって、手ぬぐい頭に載せてるじゃない」
「あれはね、ああしないと、チカコの体重でお椀がひっくり返るからよ。ほんとは、お椀の真ん中でゆっくりしたいわよ」
「そうだったの、だったら、これからはジャンケンでもして、別々に入る?」
「でも、それって、後に入る時、お湯が冷めてしまう。お椀には追い炊き機能ってついてないわよ」
「そうね、やくもの仕事を増やしてしまうわよね」
「ちょっと、二人とも、お喋りするだけなら、部屋に帰ってくれる!」
「「アハハ、ごめんごめん」」
手伝いと言っても、二人は歯ブラシみたいなモップだから、いくらもハカが行かないんだけど、こういう賑やかなのもいいかなあ。
ゴシゴシ ゴシゴシ ゴシゴシ
なんとかブラシの音が揃い始めた時、お風呂の小窓を叩く音がした。
コンコン
「だれ!?」
「なにやつ!?」
「…………」
二人と違って、根が臆病なわたしは、とっさには声が出ない。
ピョン
二人は、ササッと、わたしの肩に乗る。
ブラシを構えているところを見ると、わたしを守ろうという姿勢なんだろうけど。なんだか、小動物がビビって木の上に上ってきただけのようにも思える。
「え、えと……だれですかあ?」
間の抜けた質問をしてしまう。
すると、窓を叩く音がピタリと止んで、聞いたことのある声がした。
『わたしです、わたしです、里見家の八房でございます』
八房……?
ちょっと待って、里見さんちの八房は脚を痛めて犬用の車いす……お風呂の窓は大人の頭の高さぐらいだよ。
とても、手というか前脚が届く高さじゃないよ……
☆ 主な登場人物
- やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 教頭先生
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王