大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・127『みんなでお風呂掃除』

2022-03-04 11:33:48 | ライトノベルセレクト

やく物語・127

『みんなでお風呂掃除』 

 

 

 ええ、まだコタツに入ってんの!?

 

 帰るやいなや、御息所がチカコを叱る。

「だって、寒いもん」

 コタツの上に顎を載せたまま上目遣いにプーたれるチカコ。

「まあまあ御息所はアキバで大活躍した後で体も心も温まってるから、そう感じるんだよ」

「で、どうだったのよ首尾は?」

「そりゃあもう、ねえ、やくも」

「あ、うん。大変だったけど、なんとかやっつけられたよ」

「そうよ、蛇と龍、二つも化け物やっつけてきたのよ。なんとか、わらわの力でやっつけられたけどね、もう、ひどい戦い。早くひとっ風呂浴びて、晩酌の二合もやってお休みしたいわ」

「もう、なによ偉そうに。お風呂とか入りたかったら、さっさとお風呂掃除してきなさいよ、もう三十分もしたらお爺ちゃん、お風呂入るわよ」

「わらわたちは茶碗のお風呂であろうが」

「あのね、ここの主はやくもなんだから。やくももバキバキに戦ってきたんだろうから、少しは手伝ってあげようって気にはならないのかしら?」

「あんただって、コタツで丸くなってるだけじゃない。まるでネコよ。あんたって猫系だけど、ほんと猫にメタモルフォーゼしてしまうわよヽ(`Д´)ノ」

「ふん、わたしはとっくにね……ジャーーン!」

「「おお!」」 

 コタツから飛び出たチカコは、ジャージに短パン、足は潔く裸足で、手にはデッキブラシを握っている。

「さあ、とっとと行くわよ!」

 そう言うと、デッキブラシを棒高跳びの棒のようにして、エイヤっとあたしの肩の上に乗ってきた。

 

 ほんとは、お茶の一杯もいただいてからにしたかったんだけど、勢いなんだから仕方がない。

 ジャージに着替えただけで、二人を両肩に載せて風呂場に急いだ。

 

 ゴシゴシ ゴシゴシ

 

「やっぱり、檜ぶろっていいわよね」

「御息所、あなた、このお風呂に入りたいの?」

「まさか、このお風呂じゃ溺れてしまうわよ。わらわの身長は三寸五分しかないんだから」

「あ、その五分っていうところに『あんたよりも高いんだけど』って嫌味を感じるんだけれど」

「もう、被害妄想なんだから」

「まあ、依り代が1/12フィギュアだから仕方ないけど、さすがにお椀のお風呂に二人はきついかもしれないわね」

「そうよ、チカコって、すぐにお椀のへりに寄り掛かって『ごくらくごくらく』ってやるじゃない」

「それがなにか? あなただって、反対側に寄り掛かって、手ぬぐい頭に載せてるじゃない」

「あれはね、ああしないと、チカコの体重でお椀がひっくり返るからよ。ほんとは、お椀の真ん中でゆっくりしたいわよ」

「そうだったの、だったら、これからはジャンケンでもして、別々に入る?」

「でも、それって、後に入る時、お湯が冷めてしまう。お椀には追い炊き機能ってついてないわよ」

「そうね、やくもの仕事を増やしてしまうわよね」

「ちょっと、二人とも、お喋りするだけなら、部屋に帰ってくれる!」

「「アハハ、ごめんごめん」」

 手伝いと言っても、二人は歯ブラシみたいなモップだから、いくらもハカが行かないんだけど、こういう賑やかなのもいいかなあ。

 ゴシゴシ ゴシゴシ ゴシゴシ

 なんとかブラシの音が揃い始めた時、お風呂の小窓を叩く音がした。

 コンコン

「だれ!?」

「なにやつ!?」

「…………」

 二人と違って、根が臆病なわたしは、とっさには声が出ない。

 ピョン

 二人は、ササッと、わたしの肩に乗る。

 ブラシを構えているところを見ると、わたしを守ろうという姿勢なんだろうけど。なんだか、小動物がビビって木の上に上ってきただけのようにも思える。

「え、えと……だれですかあ?」

 間の抜けた質問をしてしまう。

 すると、窓を叩く音がピタリと止んで、聞いたことのある声がした。

 

『わたしです、わたしです、里見家の八房でございます』

 

 八房……?

 ちょっと待って、里見さんちの八房は脚を痛めて犬用の車いす……お風呂の窓は大人の頭の高さぐらいだよ。

 とても、手というか前脚が届く高さじゃないよ……

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

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明神男坂のぼりたい・90〔いいかげんにしなさい!〕

2022-03-04 07:19:40 | 小説6

90〔いいかげんにしなさい!〕 

        

 


 再婚同士の連れ子は法的には結婚できる。

 法律的にはそうだけども、美枝自身もはっきり言ってたことだけども……ほんとうにするとは思ってなかった。

―― うそだ ――

 心の中から声が聞こえる。うちの内心の声かさつきかはよくわからない。だけど、最初に思ったのはそれだった。

 二か月ほども前から、あたしは美枝の気持ちを知っていた。

「連れ子同士だけど、結婚はできる」

 美枝の、その言葉を、どこかでスルーしてきた。

 なんと言っても、美枝は、まだ十七歳。あたしもそうだけど。

 結婚とか、妊娠とかは、まだ子供の背伸びした夢か怖れ程度にしか受け止めてなかった……いや、ウソだ。

 高校生の妊娠騒ぎは、けっこうあるのは知っていた。お父さんも現役の教師だったころ、この問題で走り回っていたことがある。連れ子同士の結婚も、多くはないけど、普通にあることも知っていた。

 偶然だったけど、美枝の家に行く前に寄ったコンビニで、美枝のお兄さんがコンドーさん買ってたのも見てる。だから、美枝が妊娠することは無いと、どこかでタカをくくってた。

 いや、ウソだ。ゆかりは、しっかり知っていた。ゆかりは友達としての寄り添い方が違う。

 あたしはAKRに入って、正直きつい毎日。別の心が「仕方ないよ」と言ってる……それも、そうかなと思う。

 気持ちを聞いたとき一度は反対はしてる。

 でも、それは、言い訳のアリバイ。また、心のどこかが呟く。

 

 この二日、レッスンはさんざんだった。

 

「どうしたの、明日香全然だよ!」「いいかげんにしなさい!」一昨日も昨日も夏木先生に注意された。

「たとえ親が死んでも、平気でやれなきゃ、この世界は通用しないのよ!」

 夏木先生の理屈は、その通りだけど、気持ちが素直には着いてこない。

―― あたしは、メッチャ忙しい。美枝には一度ならず注意はした。愛していたらコンドーなんか使うなってバカを言ってた、でも、あれは子どもが拗ねていたようなもの、まさか本気で……でも、要は本人の問題、美枝がうかつだった。だけど……だけど、それで済むか? ――

 あたしの頭は、この三日間同じところをグルグル回ってる。

 今日も、そんな気持ちを引きずりながらAKRのスタジオまで来てしまった。スタジオが入ってるビルの手前でカヨちゃんが待っていた。

「ちょっといい?」

 カヨさんに、ビルの裏側に連れていかれた。ビルと車道のバンの間で、カヨさんは振り返った。

「今からしばく」

 バシッ!

 真剣な目で見られた直後、左のほっぺたに痛みを感じた。

 小学校の時、お母さんにぶたれて以来だった。

「カヨちゃん……」

「あたしたちはプロ、外のこと引きずってくんな! なにがあったか知らないけど、そんなことであたしらの足引っ張らないで。友達だから、一回だけは言っとく!」

 そう言うとカヨちゃんは、さっさとスタジオの方に行った。

 いろんなものがせきあげてきて、涙がぽろぽろこぼれてきた……。

 

 

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