銀河太平記・097
仕方ありませんね……。
一言もらすと、社長はパチパチたちの頭脳の二割をブロックした。
一割は、今回の銀行業務をやるために増設された部分。残りの一割は、パチパチたちが長年の間に自己修正してきた部分だ。
ピューーン
なにか萎むようなノイズがして、パチパチたちの目から光が無くなった。
『……なんだか、バカになったような』
『……閉門いたしたような心地でござる』
『……脳みそがのびたラーメンみたいになったアル』
「ハア……いっそ、作業体か元のオートマ体に戻してやった方がよくねえか」
「シゲさん、それって、今のオートマ体にしてやった倍の手間がかかるんですけど」
「それもそうだな、このオートマ体はグミ(恵の愛称)会心の作だあ……戻すこと前提にはやってねえわなあ」
「いまのオートマ体の外装はバイオだから、日々のメンテやってやらないと、すぐにミイラみたいになってしまうし」
『ミイラいやだ』
『切腹の方がマシでござる』
『ミイラは干物、干物はお湯で戻すよろしアル』
「また事態が変われば元に戻してもらうからね」
社長が、これで終わりにしようとすると、立ち合いに来ていた及川の部下が立ち上がった。
「バイオでは一見して作業機械とは分かりません」
「ああ……そうですね。でも、島の住人は三人がパチパチであるのは十分承知しています。問題はないでしょう」
「困ります、西ノ島は日本の領土なのですから、日本の法律が適用されます」
「でも、作業体に戻すには……」
「いえ、それには及びません。みなさん、パチパチには愛着をお持ちのようですし、そこまでは干渉いたしません」
「では、どうしろって言うんですか」
「いや、そんな怖い顔をしないでくださいよ加藤さん」
「でも、どうすれば!?」
及川と、その部下には、いいかげん我慢も限界に来ていたので、ついつい言葉も荒くなる。
「リングを付ければ問題ありません(^▽^)」
「「「リング!?」」」
わたしとシゲさん社長の声が揃うと、ラボの前の島民たちからも「「「リングだとぉ!?」」」と声が上がる。
リングは先の満州戦争以前、ロボットに義務付けられていたシグナルだ。
頭の上に円形ビルの広告のようにリングのホログラムが回転して、遠くから見てもロボットであることが明確になるようにロボット法で義務付けられていた。
ロボット差別が問題になった前世紀の末、ロボット人権法が可決されると同時に廃止されたしろものだ。
「あ、いえ、広告塔のようなものでなくてもいいんです。ロボット人権法でお蔵入りになりましたが、ステルスリングでも構わないと思います。あれなら、ハンベを使わない限り認知されませんから」
「同じことでしょ、その気になったら誰にでも視認できる」
「はあ、作業機械は自走いたしますので、基本的に道路交通法の適用を受けますので、どうしてもナンバープレート的な物は必要でして」
「仕方がない、斎藤さん(及川の部下)に罪があるわけじゃない。ステルスで手を打ちましょうか……」
「「「「「社長!」」」」」
「ご理解いただいて、まことにありがとうございます。これで、及川も安心することだと思います」
「別に及川さんを喜ばせるためじゃないのよ」
「も、申し訳……あ、及川から連絡がきました」
背中を向けてハンベを操作する斎藤、二言三言やり取りすると、満面の笑みを浮かべて振り返った。
「みなさん、喜んでください! 島内の主要道路が国道に指定されました!」
え?
この「え?」は感激の「え!?」ではない。
それがどうした? の「え!?」だ。
どうも、及川たち国交省と島民の間には越えがたい認識の相違がある。
※ この章の主な登場人物
- 大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
- 穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
- 緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
- 平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
- 加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
- 姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
- 扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
- 本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
- 胡蝶 小姓頭
- 児玉元帥 地球に帰還してからは越萌マイ
- 森ノ宮親王
- ヨイチ 児玉元帥の副官
- マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
- アルルカン 太陽系一の賞金首
- 氷室 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
- 村長 西ノ島 ナバホ村村長
- 主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
※ 事項
- 扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
- カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
- グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
- 扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
- 西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地