大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・097『リングを付ければ?』

2022-03-06 12:51:08 | 小説4

・097

『リングを付ければ?』 加藤 恵    

 

 

 仕方ありませんね……。

 

 一言もらすと、社長はパチパチたちの頭脳の二割をブロックした。

 一割は、今回の銀行業務をやるために増設された部分。残りの一割は、パチパチたちが長年の間に自己修正してきた部分だ。

 ピューーン

 なにか萎むようなノイズがして、パチパチたちの目から光が無くなった。

『……なんだか、バカになったような』

『……閉門いたしたような心地でござる』

『……脳みそがのびたラーメンみたいになったアル』

「ハア……いっそ、作業体か元のオートマ体に戻してやった方がよくねえか」

「シゲさん、それって、今のオートマ体にしてやった倍の手間がかかるんですけど」

「それもそうだな、このオートマ体はグミ(恵の愛称)会心の作だあ……戻すこと前提にはやってねえわなあ」

「いまのオートマ体の外装はバイオだから、日々のメンテやってやらないと、すぐにミイラみたいになってしまうし」

『ミイラいやだ』

『切腹の方がマシでござる』

『ミイラは干物、干物はお湯で戻すよろしアル』

「また事態が変われば元に戻してもらうからね」

 社長が、これで終わりにしようとすると、立ち合いに来ていた及川の部下が立ち上がった。

「バイオでは一見して作業機械とは分かりません」

「ああ……そうですね。でも、島の住人は三人がパチパチであるのは十分承知しています。問題はないでしょう」

「困ります、西ノ島は日本の領土なのですから、日本の法律が適用されます」

「でも、作業体に戻すには……」

「いえ、それには及びません。みなさん、パチパチには愛着をお持ちのようですし、そこまでは干渉いたしません」

「では、どうしろって言うんですか」

「いや、そんな怖い顔をしないでくださいよ加藤さん」

「でも、どうすれば!?」

 及川と、その部下には、いいかげん我慢も限界に来ていたので、ついつい言葉も荒くなる。

「リングを付ければ問題ありません(^▽^)」

「「「リング!?」」」

 わたしとシゲさん社長の声が揃うと、ラボの前の島民たちからも「「「リングだとぉ!?」」」と声が上がる。

 リングは先の満州戦争以前、ロボットに義務付けられていたシグナルだ。

 頭の上に円形ビルの広告のようにリングのホログラムが回転して、遠くから見てもロボットであることが明確になるようにロボット法で義務付けられていた。

 ロボット差別が問題になった前世紀の末、ロボット人権法が可決されると同時に廃止されたしろものだ。

「あ、いえ、広告塔のようなものでなくてもいいんです。ロボット人権法でお蔵入りになりましたが、ステルスリングでも構わないと思います。あれなら、ハンベを使わない限り認知されませんから」

「同じことでしょ、その気になったら誰にでも視認できる」

「はあ、作業機械は自走いたしますので、基本的に道路交通法の適用を受けますので、どうしてもナンバープレート的な物は必要でして」

「仕方がない、斎藤さん(及川の部下)に罪があるわけじゃない。ステルスで手を打ちましょうか……」

「「「「「社長!」」」」」

「ご理解いただいて、まことにありがとうございます。これで、及川も安心することだと思います」

「別に及川さんを喜ばせるためじゃないのよ」

「も、申し訳……あ、及川から連絡がきました」

 背中を向けてハンベを操作する斎藤、二言三言やり取りすると、満面の笑みを浮かべて振り返った。

「みなさん、喜んでください! 島内の主要道路が国道に指定されました!」

 え?

 この「え?」は感激の「え!?」ではない。

 それがどうした? の「え!?」だ。

 

 どうも、及川たち国交省と島民の間には越えがたい認識の相違がある。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
  • 村長                西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

 

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明神男坂のぼりたい・92〔初めての水天宮!〕

2022-03-06 08:51:07 | 小説6

92〔初めての水天宮!〕 

        

 


 高校生の妊娠は珍しくない。連れ子同士の結婚も、ままあること。

 だけど、この両方をいっぺんにやってしまうことは、大変珍しい。

 その珍しいことを、美枝はヌケヌケとやってしまった。

 信じられないことに、美枝の親も異議はないらしい。

 学校も生徒の妊娠ということは過去にいくつかあったみたいで対応は早いというか、マニュアル通り。

 職員会議にかけて、全教職員が共通認識をもっておく。一般の生徒には妊娠の事実は知られないようにする。体育は基本的には見学にする。修学旅行は不参加。妊娠の状態が顕著になる7か月目以降は、医師の診断書により休学とする。

 それに加えて、美枝の場合は、あたしとゆかり、それに麻友が知っているので、三人は秘密を守るとともに、出来うる限り美枝を見守ってやることが付け加わる。

「見守るって、どうすることですか?」

 相談室で、ガンダムに質問した。AMY三人娘と麻友がいっしょ。

「見守りは見守りだ。第一には他の生徒には分からないようにすること。積極的に触れまわったりしないが、美枝は心臓疾患ということにしておく。くれぐれも頼んだぞ」

 要は、あたしたちへの口止め。普通、生徒の妊娠は、友達にも言わない。それが、美枝は、あたしらに言ってしまったので、学校としては言わざるをえない。

 ガンダムには悪いけど、これは学校のアリバイ。

 学校としては事情を知ってる生徒には注意した。だから、万一他の生徒にバレても、学校の責任じゃない。元学校の先生を親に持つと、このへんの機微は分かりすぎるくらいに分かってしまう。

「まあ、こんなもんは想定内のことだから、よろしく頼むわ」

 と、昨日の美枝はお気楽だった。ゆかりと麻友は秘密を共有したパルチザンの同志みたいに興奮していた。あたしもできてしまったものはしかたないので、調子を合わせておく。

「安産祈願に行きたい!」

 帰り道の外堀通りで、美枝が立ち止まる。

「「「安産祈願!?」」」

 ゆかりと麻友と三人そろって驚く。

「うん、やっぱり、やるべきことはやっておきたいの!」

 ということで、神田明神に向かう。

 あたしの神さまだし、三人とも何度か連れて来たし、神頼みと言うことになると、ここになる。

 

 大鳥居が見えて、だんご屋の前までくると、美枝が立ち止まった。

「どうかした?」

「神田明神て、安産祈願……」

「うん、やってるよ。お願い事ならなんでもありだよ」

 子どものころから知ってるし、この界隈の人間は、お願い事は、全部明神さまで済ませている。

 おらが村っていうか、我が街の神さまって感じで、例えは悪いけど、買い物と言ったら、まず近所のスーパー。具合が悪いといってはかかりつけのお医者さん。そんな感じ。

「でも、専門じゃないんだよね」

「え……まあ」

「ちょっと待って……」

 美枝は、スマホを出してググり出した。

 団子屋の前なもんだから、店の中から視線を感じる。

 チラ見すると、おばちゃん、さつき、に、最近入った出雲阿国までが、こっち見てる。

 おばちゃんは、近所のあたしが友だちと仲良く喋ってる的に微笑ましく見てるけど、さつきと出雲阿国は神さまみたいなもんだから、会話の内容も分かってるみたいでニヤニヤしてる。

「あ、水天宮が専門だ!」

 クレープの専門店見つけたみたいなノリで美枝が指を立てる。

「日本橋だ、ここからならタクシーの方が安いよ」

 言うが早いか美枝は、立てた指を親指に換えて歩道に走る。

―― この浮気者めえ ――

 さつきのジト目を感じながら、スグに掴まったタクシーに乗って水天宮を目指した。

 

「うわあ、きれい!」

 

 始めてやってきた水天宮はでっかい神棚って感じ。

 数年前に造替工事(ぞうたいこうじ)が終わったばかりで、白木の肌も初々しく、神田明神に慣れ親しんだわたしは、ちょっと意表を突かれる。

「こういうのもいいねえ!」

 お参りの目的も忘れて見とれてしまう。

 神田明神も、お社は古くない。関東大震災のあとに鉄筋コンクリートで立て直され、メンテも行き届いているので由緒の割には古さを感じさせない。

 だけど、新築同然みたいな水天宮の清々しさは、やっぱりいい。

「おお、免震構造だって!」

 近ごろ漢字にも強くなった麻友が感動(半分は読めた感動なんだけど)して指さす。

「なるほど……お社ごと免振装置の上に乗っかってるんだねえ」

「地震の時には、ここに来ればいいね!」

「なんか、いかにも安産に向いてますって感じ!」

 嬉しくなって、遠足か修学旅行かってノリになってしまう。

「あ、ご挨拶忘れてるよ!」

「「「ああ!?」」」

 もういちど鳥居の外に出てお辞儀のし直し。

 石畳は神さまの道なので、端っこを歩いて、手水舎で手を洗って拝殿で二礼二拍手一礼。

 明神さまのお参りで慣れているので、四人きちんとできました。

 子宝犬ってブロンズがある。

 母犬に子犬がじゃれてる周りに、十二支のお饅頭みたいなデッパリがあって、自分の干支を撫でておくと効くらしい。

 安産だけではなく『無事成長』ってのもあるんで、美枝以外の三人も自分の成長を祈ってスリスリ。

「ほんとうは御祈祷とかもしてもらいたいんだけどね……」

 サバサバした美枝だけど、やっぱ制服姿で安産祈願は腰が引けるらしく、安産のお守りだけをゲット。

 巫女さんは、ニコニコとお守りを渡してくれたけど、女子高生四人のお参り……どう思ったかな?

 いやいや、日本の神さまは懐が深い。安心しよう。

 

「おや、先ほどの……」

 

 タクシーに乗ったら、偶然来た時と同じタクシー。

 でも、運転手の小父さんは、それ以上余計なことを言わずに運転してくれる。

「はい、お待ちどうさま」

 降りる時に、運転手さんのプロフ(運転手席の後ろにあるやつ)を見ると。

 え?

 運転手の名前は『平将門』とあった。

 ま、まさかね(^_^;)。

 

 楽しい安産祈願になったけど、このままうまくいくだろうか……不安がよぎるけど、美枝の幸せそうな顔。

 取りあえずは、おめでとう!

 

 だけど、予感は、あくる日には現実になってしまった。

「親が秋からアメリカの高校に行けっていうの!」

 昨日とは打って変わって、泣きそうな顔で言ってきた。

「どういうことよ!?」

 ゆかりが、目を吊り上げる。

「それが……」
「それが、どうしたの!?」

「三人に言ってしまったって言ったら、それは漏れる可能性が高い。漏れてからでは逃げるみたいでゲンが悪い。幸いアメリカは9月から新学年。向こうは学校に託児所まである。卒業までは、そうしなさい」

 と、言われたまんまぶちまけた。

 言われたあたしたちは頭から信用されてないみたいで気分が悪い。麻友なんかはユデダコみたいになって怒って叫んだけど、スペイン語なのでよく分からない。

 ゆかりが、静かに言った。

「あたしたちのつきあいは、そんなもんじゃまいでしょ……そう言うご両親も情けないけど、それを、そのまま聞いてきて一言も言えないで、あたしたちに言う美枝も美枝だと思うよ」

「これは、新しい命を授かるための神様からの試練よ。美枝自身が決めなきゃ仕方がないわよ」

 深呼吸を十回くらいやった麻友は、やっと日本語でカトリックらしいことを言う。

 美枝は怒るし、麻友は神父さんみたいに浮世離れしてしまうし、AKRのレッスンの時間は迫ってくるし。

「分かった、あたしがお父さんとお母さんを説得してやる!」

 口先女の悪いクセが出てしまった……。

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