大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・130『天蕎麦で今度の敵は戌』

2022-03-22 12:26:34 | ライトノベルセレクト

やく物語・130

『天蕎麦で今度の敵は戌』 

 

 

 やくもさまやくもさま

 

 アカアオメイドが声をそろえる。

 二人は、いつもポーカーフェイスなので、呼びかけられただけでは何の用事なのか分からない。

 ここは御息所の館なので、ひょっとしたら、滝夜叉姫もお呼ばれしていて、二人は、その先ぶれのためにやってきた?

 いや、ひょっとしてひょっとしたら、将門さまが回復されて、その知らせにやってきた?

 そうだよ、将門さまは神田明神で、関東の総鎮守さま。体力も回復力もずば抜けていて、わたしが蛇(巳)と龍(辰)をやっつけたから、早々と回復した!?

 それとも苦労人の御息所だから、将門さまの下で働いているトラッドメイド(滝夜叉姫)のそのまた下で働いているアカアオメイドさんを慰労するために呼んだとか?

 そうだよ、御息所が、わたしに仕掛けたドッキリなのかも!?

「いえ、そのいずれでもありません」

「頭から否定するのは、ちょっと失礼かもですよ、アオ」

「いえ、ことは緊急を要するのです」

「そうだった。でも、親しき中にもということもあるじゃない」

「緊急なのです、エマージェンシーなのです」

「そうね」

「そうよ」

「あ、え……で、なんの御用なのかなあ(^_^;)?」

「「病魔です、業魔です」」

「え、もう次の!?」

「はい」

「今度は、戌です」

「犬です」

「西の方角です」

「白くて長い布切れを従えて、ちょっと難儀な犬なのです」

「白い布切れ?」

「蛇の抜け殻」

「一反木綿よ」

「どっちなの?」

「「とにかく敵!」」

「ただちに!」

「出撃!」

「わ、分かった分かった、分かったから」

「あら、ちょっと、あなたたち!?」

 メイドたちを従えて、御息所が目を三角にして現れた。

「「あ、御息所!」」

「なんで、あなたたちが断りもなく入ってきてるのよ!?」

「緊急なのです!」

「エマージェンシーなのです!」

 今度は、分かりやすく赤メイドの頭が赤く明滅し始め、アオメイドが「ピーポーピーポー」と警笛の真似をしながらクルクルと回り始める。

「そ、そう、じゃあ、仕方がないわね」

「あ、その匂いは?」

「天蕎麦の匂いですね!」

「蕎麦の香りが爽やか」

「エビ天二個」

「ハモ天一個」

「よく分かるわね」

「わたしたちも」

「メイドですから」

「じゃあ、いってらっしゃいね」

 御息所の言葉に合わせて、お付きのメイドたちも手を振る。

「「仕方ありません」」

 そうだよね……そう観念して、わたしも立ち上がる。

「「天蕎麦いただいてからにします」」

「え?」

「時間が無いのであろう?」

「「時間を停めます」」

「「ええ!?」」

「こういう閉鎖空間でしたら……」

「一時間以内なら、わたしたちでも……」

「「時間を停められます」」

 アカアオメイド二人そろって右手を上げる

「「えい!」」

 小鳥のさえずりも館の上を流れる雲もピタリと動きを停めてしまった。

「それでは」

「頂戴いたします」

 二人は手際よく静止したメイドさんたちが持っている箱膳を寝殿に並べ、四人揃って天蕎麦を頂いた。

 でも、よく考えたら、最初から箱膳は四人分用意されていて、ヤラセだったのかなあと思ったけど、追及はしなかったよ。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

 

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明神男坂のぼりたい・107〔始業式 それぞれの道〕

2022-03-22 07:27:43 | 小説6

107〔始業式 それぞれの道〕 

 

 


 こういう不意な衝撃を受けた時って、あるじゃん。

 タイムリープとか転生とかさ。

 戦国時代に飛ばされて信長の友だちとか? 異世界に飛ばされて勇者になったりスライムになったり?

 ほんの瞬間だけどさ、異世界に飛んでハーフエルフの女の子と知り合って、魔王とかやっつけて、お金や財宝ウハウハで、みんなからチヤホヤされる世界を夢想したよ。

 でも、現実は信長の友だちにも勇者にもスライムにもなれなかった(^_^;)。


 バンジージャンプって脚にゴムが結わえ付けてあるから、落ちては引き戻されてまた落ちるってのが四回ほどもある。つまり、四回も墜落の恐怖に晒されるんだよ! 特に落ちる時の衝撃はハンパ無い!

 アイドルどころか、女であることも捨てた感じ。落ちる速度と谷からの上昇気流が作る合成風力で、あたしの顔は、まるで崩れかけのプリン。

 ギャーと叫んだ口には遠慮なく空気が猛烈な勢いで入ってきて、顔全体をはためかす。中学のときに治した奥歯が銀色に輝き、喉ちんこが叫び声と風にはためいてるとこまで御開帳。鼻の穴も二倍に膨らんで見えるし、つぶった目は押し上げられて、糸ぐらいの細さ。この時間にして30秒もない映像を、さっそくSNSで流される。中には叫んで、一番不細工になった瞬間を50回もつないで流したヒマなやつもいた(#'∀'#)。

 一応アイドルだから、親会社のユニオシ興行が削除依頼してくれるかと思ったら、なんとユニオシ新喜劇の冒頭に大スクリーンに映し出してくださった!

 

 で、今日は一か月半ぶりの学校。

 予想通り、校内で顔合わす生徒のほとんどがあたしの顔見ていく。中には遠慮なく吹き出す奴もいる。相手によって、アハハと笑ったり、恥ずかしげに俯いて見せたり。このへんの使い分けは、AKRの二か月ちょっとで覚えた社交術。

「あれ、美枝は来てないの?」

 空いてる席を見てゆかりに聞いた。

「うん、もうお腹が目立ってきたからね……」

 AKRで明け暮れてた夏の間に、学校のみんなはいろいろあったみたい。

 そりゃそうだろうね。あたしだって、こんなに変わってしまった。

 他にも、いくつか空いてた席があったけど、体育館での始業式終わって戻ってみたら、全部の席が埋まっていた。さすがにガンダムクラス、帳尻は合わせてる。でも、なんか違和感……席ごと居なくなった奴がいた!

「新垣麻衣が、家庭事情でブラジルに帰った。話は、八月の頭には決まっていたけど、みんなに気づかれるのは辛いのでクラスのみんなには内緒だった……今ごろは飛行機に乗ってる時間だろ。朝早くに学校の郵便受けに、こんなのが入ってた……」

 ガンダムは、一枚の色紙を黒板に掲げた。

 

―― みんなありがとう! ――

 

 たった九文字の中に万感の思いが詰まっていた。

 くだくだしいことはなんにも書いてない。あたしだったら日本人の常套句「がんばって!」ぐらい書いただろ。さよならだけどお別れじゃない……なんて言葉を書いたかもしれない。鮮やかなお別れの言葉だった。

 ホームルームのあと、教室に残ってゆかりと夏の空を見ていた。名残の入道雲がゆっくりと流れていく。

 今までのあたしたちは、空気吸い込んだら、なにか言葉にしなくちゃもったいないというくらいのおしゃべりだったけど、二人とも無言。


「サンバ……やるよね?」

「うん、みんなで決めたことだもん」


 言いだしべえの麻衣はいないけど、文化祭でやろうというのはクラスみんなの決定。それが筋だと思う。

 

 夜のステージが終わって家に帰ると関根先輩から手紙が来ていた。

―― メールではなくて、手紙にした、きちんと気持ちを伝えるために。AKRを何回か観に行った。握手会にも並んで。明日香は、ほんとにきらきらしていた。そう感じた。明日香は明日香の道を歩いていけよ。それが一番だ。明日香のことは、明菜といっしょにずっと応援してます。鈴木明日香様 関根学 ――

 涙がこぼれてきた……関根先輩はあたしのこと思っていてくれた。で、決心した。あたしは握手会に来てくれてたことにも気がつかなかった。先輩は悩んだに違いない。そんなことは、ちっとも書いてないけど、短い文章の文字の間に痛いほど現れてる。人の心は……言えないところ、書けないところによく現れる。麻衣も先輩も……。

 返事を書こうと思って止めた。決心した人には余計なことだ。

 スマホ片手にしばらく悩んだ。

 手紙では重すぎる、メール、それも短く……そう思って、指が動かない。

―― ありがとうございました 明日香 ――

 そう打って、何度も読み返して、やっと送信ボタンを押す。

 ポチ…………

 クラっときた。

 急速に視野が狭くなって、あたりが暗くなっていって、いやな汗が噴き出してきて……せめてベッドに……

 バタン

 そのまま床に倒れて、意識が遠のいていく……。

 

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