魔法少女マヂカ・265
こいつは『つん』だ。
霧子とノンコの頭には?マークが浮かぶが、JS西郷は頭に電球が灯ったように納得した。
「そうか、つんは人間に成れたんだ!」
「つん……て、なに?」
「ほら、上野の西郷さん、犬を連れてるだろうが」
「ああ、それがな、人の姿になって、いろいろと役に立ってくれて、令和の時代だけどな。それで、西郷さんが人間で居ることを許してくれて」
「ワン!」
得意そうに返事をするとチンチンの姿勢になる。
「あ、このチンチンは、つんだよ!! おお、よーしよしよし(^▽^)/」
つんの首を抱きしめてスリスリするJS西郷。
「ああ……完全にワンコやわぁ……」
「ま、だから、わたしが引き取って渡辺詰子ってことにして妹にしてやったんだ」
「マヂカ、綾香姉ちゃんも居るから、三姉妹になったんや! うらやましいなあ!」
綾香姉も、ケルベロスって犬の化け物なんだけどな……(^_^;)
「つん、そのチンチンはやめておけ」
「あ、ヤバイヤバイ(#^_^#)。でも、この子も西郷さんの匂いがするよ、クンカクンカ」
「だから、犬っぽくなるな!」
ポコン
「あいて!」
「アハハ、あたしJS西郷って言うの、西郷さんの30%ぐらいが人間化したものでね、30%しかないから小学生くらいしかなくって……でも、お互い、西郷さんの分身みたいなものだから、なにか通じてるものがあったんだよね!」
「うん、夜中に目が覚めたら天井に黒い闇が浮かんできてね、そこから、マチネエの声が聞こえたから飛び込んできたんだ」
「あ、見て、雲が切れてきたわ」
霧子の指さした西の空に、切れ切れだけど雲の晴れ間がのぞき始めた。
被服廠跡から原宿の高坂邸は歩いて帰れる距離ではない、令和の感覚だとスカイツリーから原宿の距離だからね。
元犬の詰子は走れるにしても、ノンコと霧子には、ちょっときつい距離だ。
仕方がない、わたしが霧子を、詰子がノンコを背負って走るか……そう覚悟した時、高坂家のパッカードがやってきた。
ブルン ブルルル……キッ
「銀座の異変を聞きつけまして、二三度人に尋ねまして、こちら方面だろうと見当をつけてまいりました」
松本運転手も、わたしたちのアグレッシブな日常によく付き合ってくれる、ちょっと申し訳ない。
霧子以外の一般人を巻き込んではいけない。そう思うと、パッカードの後部座席に収まっていても、つい考え事の仏頂面になってしまう。
「なにか考え事?」
「あ、いや、詰子をね……」
「あら、真智香の妹だもの、いっしょの部屋でいいでしょ?」
「あ、ああ、すまない霧子」
「ごめんマチネエ、帰ること考えずに来ちゃったから……」
詰子をダシに誤魔化す。
ほんとうは違う。
虎の門事件まで、もうひと月ほどでしかない。
今日の被服廠跡の戦いで、敵はかなりの力を付けた。数も多い。
なんとか影一人をやっつけたが、怪人を含めても、まだ13人。それに黒犬の化け物も健在だ。
「さあ、家に戻ったら、みんなでお風呂に入りましょう! そして、モリモリ晩御飯を頂いて、明日からの戦いに備えるわよ!」
「そうだ、晩御飯、みんなで作ろやんか!」
「え、ノンコが?」
「せやかて、うちら調理研究部やねんし!」
そうだ、我々は特務師団の魔法少女ってことだけでは無くて、日暮里高校の調理研究部でもあるんだ!
「ほんなら、久しぶりに自衛隊ご飯つくろか(^▽^)/」
「自衛隊?」
大正時代では自衛隊は通用しない。
「ああ、陸軍の特殊部隊だ(^_^;)」
「ああ、それは楽しみ!」
霧子の声にJS西郷も詰子も大賛成して、取りあえず、今日のところは悩まないことにする。
箕作巡査の敬礼を受けて、パッカードは高坂家の門を潜る。
ごめん、箕作巡査。今日もクマさん救出の目途はたたなかった。
箕作巡査とも阿吽の呼吸。微かに頷いた仕草で、互いの気持ちは伝わった。
みんなで風呂の入る。詰子が大喜び。
見た目には十五歳の少女なのだが、はしゃぐと瞬間尻尾が現れる。
三人は事情を知っているが、この先令和の時代に戻るまでは、人に知られるわけにはいかないので、やっぱり躾ける。
ピシャリ!
「ああ、お尻が割れるよ~」
「だったら尻尾を出すな!」
「ああ、真智香姉ちゃんがイジメるぅ~」
「こら、今度は耳が出てる!」
ポコン!
「あ、尻尾!」
ピシャリ!
「アハハハ」
詰子、おまえ、わざとやってるだろがあああ!
※ 主な登場人物
- 渡辺真智香(マヂカ) 魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 要海友里(ユリ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 藤本清美(キヨミ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 野々村典子(ノンコ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 安倍晴美 日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
- 来栖種次 陸上自衛隊特務師団司令
- 渡辺綾香(ケルベロス) 魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
- ブリンダ・マクギャバン 魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
- ガーゴイル ブリンダの使い魔
※ この章の登場人物
- 高坂霧子 原宿にある高坂侯爵家の娘
- 春日 高坂家のメイド長
- 田中 高坂家の執事長
- 虎沢クマ 霧子お付きのメイド
- 松本 高坂家の運転手
- 新畑 インバネスの男・ファントム
- 箕作健人 請願巡査