大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・290『捨てられへん!』

2022-03-31 15:44:41 | ノベル

・290

『捨てられへん!』   

 

 

 はあ~~~~~~~~~

 

 万感の思いが溢れてため息になる。

 今日で、まる三年。

 お母さんと如来寺に引っ越してきて、苗字が変わって、安泰中学に入って、その卒業式も終わって。

 去年からは、留美ちゃんもいっしょに暮らすようになって。

 それが、見える形で目の前にある。

 ああ、感無量。

 

「思いに浸るのはいいけど、ほとんどさくらのだからね!」

 うう、怒られた。

 怒ってるのは、従姉妹の詩ちゃん。留美ちゃんは困った顔で笑ってる。

「これってさ、わが酒井家の男の血だわよ」

「え、酒井家の男?」

 言われて、なるほどと思う。テイ兄ちゃんもお祖父ちゃんもガラクタが多い。

 あたしは、ものが捨てられへん性質。あたしは男か!?

 こないだ、お片付けしたばっかりやねんけど、高校生活を目前にして、ここんとこ部屋のモデルチェンジ。

「でも、さくらの持ち物って、もらった物が多いですよ」

「せやろ、道歩いてたら近所の人らが『やあ、お寺のさくらちゃんやんかあ』言うて、いろいろくれるさかいに……」

 今まで、人に紹介せえへんかったけど、うちの(正しくは、うちと留美ちゃんの)部屋は、貰い物がいろいある。

 サイドデスク  ロッカー  飾り棚  洋裁のトルソー  ミシン  オーディオ一式  特大のバービー人形

 貯金箱いろいろ(中身は入ってへん) イーゼル  タコ焼き機  ゲーム機あれこれ  液タブ  エトセトラ

 

 最初はね、婦人部長の田中のお婆ちゃんに「ちょっと机が狭いねん」と愚痴をこぼしたら、近所の人が新品同然のサイドデスクよかったら……いう話を持ってきてくれて、それから、なにかにつけて「さくらちゃん、これどないや?」「これもどうぞ」「あれもどうぞ」ってなことで、今に至ってるわけですわ。

 詩ちゃんも気ぃつかってくれて、お互いさまというかたちで、ちょっとしたもの(ティッシュの買い置きやら、プリンターのインクやら……)あんまり嵩の大きないやつを、うちの部屋に持ち込んでた。

 でもね、高校に入ったら家庭科がんばろ思て、トルソーとミシンを出したのが始まりで、ほんなら、美術のために液タブを。創作意欲が湧くようにオーディオを設置して……てな具合にやってたら収拾がつかんようになってしもた。

「今まで、留美ちゃんが整理してくれてたのよねえ……」

「あははは……」

「今週の土曜は不用品の回収日だから、ちょっと選択して、処分するもの選んでみたら」

「せやねえ」

「ヨッコイショ……と」

 散乱する色々を跨いで、とりあえず奥の方から品定めする詩ちゃん。

「あ、手伝います」

 留美ちゃんも、タブレット持って詩ちゃんの後に従う。

「なんで、タブレット?」

「あ、一応、頂いた時のことを記録してあるんです」

「え、いつの間に!?」

「これって、一種の御喜捨でしょ。うちはお寺だし、そういうことはキチンとって思うのですよ」

「「えらい!」」

「さくらが言うな」

「ですよねえ(^_^;)」

「ああ、タグ付けしてあるのね」

「ええ、クリックしたらいろいろ分かるんや!」

「ええとね……サイドデスクは……アメリカ製……新品だと1300ドル!?」

「1300ドルて?」

「13万円くらい?」

「いえ、いまは円安……1ドル120円くらうだから……15万6000円です」

「アハハ……でも、中古やさかい(^_^;)」

「待ってくださいね……○○ファニチャーの……1995年製……え?」

「なんぼ?」

 留美ちゃんは答え言わんと、そのまんまタブレットを示した。

「「2200ドル!?」」

 うう……捨てられません。

「バービー人形は?」

「……24000円」

「トルソーは?」

「……フランス製、中古で42000円」

 てな具合で、みんなけっこうなお品ばっかりです。

 

 ……………しばしの沈黙。

 

「仕方ないですねえ、取りあえず、足の踏み場を確保して、晩御飯食べたら考えましょう」

 留美ちゃんが暫定案を出して、しばし執行猶予。

 

 晩ご飯食べながら思いついた。

 今日の留美ちゃんは、ずっと敬語っぽい。

 で、思い出した。

 留美ちゃんは、腹が立つと言葉が丁寧になる子ぉやった!

 

 ああ、ナマンダブ ナマンダブ……

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鳴かぬなら 信長転生記 66『鉄兜論議』

2022-03-31 13:46:28 | ノベル2

ら 信長転生記

66『鉄兜論議』信長  

 

 

 曹茶姫の部隊は一変した。

 

 転生流に言えば近代化であろう、輸送部隊を除いて、兵のことごとくが騎兵だ。

 背負った武器は鉄砲、それも元込めのミニェー銃で、俺が長篠の戦で使った火縄銃の数倍の威力がある。

 射程距離で三倍、弾籠めから発射までの時間は三分の一以下だろう。

「でも、単発だよ」

「シイ(市)、おまえは理想が高すぎる。単発でも三段、いや二段の構えにしておけば、敵を凌駕できる。お仕着せが赤と黒というのもいい」

「うん、カッコいい、制服がオシャレというのは士気が高まるよ!」

「それだけではない、赤と黒は血に染まっても目立たない」

「なるほど……しかし、頭の防御は? 兜も鉢金も無いわよ」

「とりあえずは、切り替えたということを内外に示したいのだろう」

 営庭で騎兵の運動演習をやっている兵たちを眺めながら、市を相手に批評会をやっている。

 茶姫が近衛参謀待遇にしてくれたので、観察し放題だ。

 それに、市の関心の示し方が心地いい。光秀ほどの知識も無いし、秀吉ほどにも勘は鋭くはないが、育てれば三年で、やつらに並ぶだろう。

 市が弟だったら、信行のように殺さずに済んだかもしれない。

「馬の乗り方がかかっこいい!」

「あれはドイツ式だな」

 騎兵は、馬の歩みに合わせて腰を上下させている。背筋も伸びて、いかにも姿がいい。

 転生してから、図書室でいろいろ調べたが、騎兵の運用方法は大別してドイツ式とフランス式がある。

 ドイツ式は日本人好みで、優れた用兵術だが、全てにおいて、そうだとも言えない。

 いま、市が感心している騎兵術などは、それがよく現れている。

 あんなにカッコよく乗っていては、長時間の騎行ではバテるのが早い。

 多少ルーズではあるが、馬の一部になったように、柔軟にいなしていくフランス式の方が優れている。

「使い分けだね……」

「であるか」

 こいつ、俺と同じ思考をしたんだ。

 黙っていても、思いが通い合うというのは良いものだ。

「いろいろ見抜いてくれているようだな」

「キャ?」

 後ろから茶姫。市が可愛い声を上げる。

 うかつだが、気配を感じなかった。市のように声を出すことはないが、ちょっと驚いたぞ。

「おお、来た来た!」

 検品長が鍋のようなものを抱えて走ってきた。

「品長、まるで初年兵のようだな」

 悪い意味ではない、初老の品長が、茶姫の姿に気付くや、初年兵が隊長を見つけたように頬染めながら脚を速めたからだ。

 人の心のくすぐり方を心得ている。

「たった今、試作品が届きました。御検分のほどを」

「ちょうどいい、ここは新参の三人だけだ。意見を聞かせてくれ」

 その鍋のようなものは鉄兜だ。

 発注していた試作品だろう、塗料の匂いも初々しい。

 お皿のようなものと、鍋のようなものの二種類だ。

「お皿の方は上からの衝撃や落下物には強そうだけど、鍋の方は横や後ろからに強そう」

「であるな。どのような戦いを主眼に置くかだ。塹壕に籠っての持久戦なら皿の方、突撃するなら鍋の方だ」

「品長は?」

「は、はい……鍋の方は、鉢が深い分、圧延工程が倍になります。受張(うけばり)も後頭部のものが必要になり、その分単価が高くなります」

 調達係りらしい評だ。

「備忘録の書類によると、調達費には、まだ二億両の余裕がある。テッパチ(鉄兜)に少々掛かっても問題はなさそうだな」

「しかし、この先の弾薬や糧秣、場合によっては大筒の買い入れなどもありますので、ご勘案のほどを」

「承知している。どうだ、テッパチの上に赤い房飾りを付けてみては? 風になびいて、とても美しいとは思わぬか?」

 なるほど。

「うん!」

 シイが短く反応する。

 むろん、俺もな。いまのやり取りで、茶姫の狙いの凡そが理解できた。

 品長も頓悟したようで、瞳が明るい。頭の中では、予想される軍事行動の軍費と調達のあらましが計算されたのだろう。

「一ついいか?」

「なんだ丹衣?」

「つや出し研磨剤を買って、鉄兜と胸甲を磨かせてはどうか?」

「「「おお!」」」

 三人の声が揃う。

 三人の頭には、見事な隊列を組んで、鉄兜や胸甲を煌めかせ、兜の房を靡かせて草原を疾駆する騎兵旅団の姿が浮かんだ。

 総司令官・茶姫の決定を紙飛行機にしたためて、すぐにでも転生へ飛ばしてやりたい気になったが、茶姫の描く騎兵隊の姿を実際に見て、その姿を確認……いや、感動してからの方がいいと思ったぞ。

 

 

☆ 主な登場人物

 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
 織田 市        信長の妹
 平手 美姫       信長のクラス担任
 武田 信玄       同級生
 上杉 謙信       同級生
 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
 宮本 武蔵       孤高の剣聖
 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
 今川 義元       学院生徒会長 
 坂本 乙女       学園生徒会長 
 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長)弟(曹素)

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・2『乙女先生の転勤・2』

2022-03-31 09:24:22 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

2『乙女先生の転勤・2』    

 

 

 

 あいつが校長だとは思わなかった。

 ブリトラ(伝統的英国風)の着丈の長いスーツを着ても脚が長く見える日本人のオッサンは少ない。

「あ、ああ……転任の先生ですか」

 一秒ほどで、乙女先生を観察し、保険の外交員ではないと気づいた洞察力と、表情のさりげない変え方は教師のそれではなかった。

 しかし、こうやって校長室で渋茶一杯飲まされたあとに軽やかに入ってきて、校長の席についたからには校長なんだろう。乙女先生は少し驚いたが、顔に出るほどのウブではない。そつなく、他の三人の新転任同様に程よい会釈をした。前任校の校長ならビビる頬笑みも、ここではまだ普通の社交辞令ととられるようだ。

「やあ、みなさんお早うございます。校長の水野忠政です。職員会議まで時間がないので、ここでは簡単なご紹介にさせていただきます」

 そういうと、校長は窓のカーテンを閉めて、パソコンのキーとリモコンを同時に入れた。

―― 本年度、新転任者紹介 ――

 タイトルがホワイトボードに映された。

「ええ、まず田中米造教頭先生。淀屋橋高校からのご転勤です。プロフィールはごらんになっている通りです。座右の銘は『小さな事からこつこつと』であります。我が校は大躍進中で、わたしはいささか暴走気味ですので、良いブレーキ役になっていただければと期待しております」

 ホワイトボードの写真は明るい笑顔だが、乙女先生の前にいる本人は、お通夜明けの喪主のように暗い。落ち込んだ演技をしたときのイッセー尾形に似ている。

「えー、わたくしは……」
「ああ、ご挨拶は、職会で。ここでは、とりあえず新転任同士ご承知していただいて、このプロフに誤りや、ご不満が有れば、おっしゃってください」

 田中教頭は、無言でうなずいて座った。趣味は盆栽……と読んだところで、なぜか「凡才」の字が浮かんだ。同時に田中教頭がため息をもらしたのは偶然なのだろうが。

「以下の新転任の方々は、在職期間の長い順ですので他意はありません。佐藤乙女先生、地歴公民。モットーは……ハハ、いや失礼『ケセラセラ』であります。前任校は朝日高校。プロフは……職会でも同じものを映しますので、そのときご覧下さい」

 乙女先生は、こんな使われ方をするとは思わず、A4・1600字の用紙いっぱいに書いてきた。名前の由来から、飼っている猫が靴下を食べて、手術したことまで書いてあった。皆が驚いている。字数のせいばかりではないことは、本人も分かっている。

「次は、技師の立川談吾さんです。退職された鈴木さんの後任としてきていただきました。お願いのお言葉は『落語家ではありません』です」

 立川は、ほとんど半ばまで禿げあがった頭をツルリと撫で、ニコリと笑った。その潔い禿げようが、前任校の校長の欺瞞的なバーコードと対極なので、乙女先生はおかしくなり、思わず立川と目が合ってしまい、互いに面白い人間らしいことを確認した。

「最後に新任の天野真美先生。英語科です。ご挨拶は『新任です、ビシバシ鍛えて下さい』です。潔よいですなあ」

 真美先生は生真面目に立ち上がり、深々と頭を下げた。

 ゴン

 下げすぎてテーブルにしたたかに頭をぶつけてしてしまった。

「教師はね、そうやって早めに頭をぶつけておいた方がいいんですよ」

 乙女先生はそう茶化して、バンドエイドを出した。教頭の田中以外のみんなが笑った。

 それから、事務長から校長に辞令が渡され、さらに校長から一人一人にそれが渡された。

「校長、そろそろ時間です」

 ノックもせずに、筋肉アスパラガスが半身だけドアから体を現して言った。筋肉アスパラガスとは、その時の乙女先生の印象で、あとで首席の桑田だということが分かった。

 渡り廊下を会議室に向かっていると、ガラス越しの中庭に、古墳が見えた。

「あら、かわいい古墳」
「あれは、ここの前身のS高校が出来るときに潰した古墳のレプリカです。縮尺1/4ですが、生徒たちはデベソが丘なんて呼んでますけどね」

 校長は歩みをゆるめることもなく、横丁のポストを紹介するような無関心さで説明した……と、思ったら立ち止まって、乙女先生に言った。

「おっと、言い忘れてました。乙女先生、先生は三年生と一年生の渡りをやってもらうんですが」
「ええ、それが……」
「転任したての先生には申し訳ないんですが、一年の生指主担をやっていただきたいのですが……」
「ええ、かまいませんよ。前任校も生指でしたし」
「それは、どうも、ありがとうございました」

 校長は、心なしホッとしたように見えた。この学校の偏差値は六十に近く、前任校よりもワンランク高い。まあ、その分知恵の回ったワルはいるかもしれないが、今までの経験から言ってもどうってことはないだろう。

 それよりも、この学校が出来る前のS高校の時に潰された古墳の方が気がかりだった。地歴公民などという訳の分からない教科であるが、専門は日本史である。ちゃんとした現地調査はなされたんだろうか? 被葬者のお祀りはちゃんとしてあるんだろうか、その方が気になった。

 会議室に入って目に入ったのは、教職員のメンツではなかった。

 そんな緊張をするほどウブなタマではない。

 窓から見える春らしいホンワカとした雲が、家に一人残してきた猫のミミにそっくりなことであった。

 さすがに民間人校長だけあって、職員会議の流れはスムーズだった。新転任の挨拶は、さっきのスライドを使ってバラエティー番組のように楽しく早く済まされた。

 乙女先生の年齢は伏されていたが、その見かけと経歴のギャップには、職員のみんなが驚いたようである。

 ここだけの話しであるが、乙女先生はこの五月で五十路に手が届く。しかし居並ぶ職員には三十前後にしか見えない。

――これでも地味にしてきたんだけどなあ、保険屋のオバチャンと思われる程度には……。

 そして、なにより、A4の自己紹介であった。同じ物がプリントされて配られている。むろん個人情報に関わる部分は抜かれていたが、飼い猫のミミが靴下を食べたところでは、みんなクスクス笑っていた。で、一年の生指主担と紹介されたときには、皆から、同情のようなため息が漏れた。

 新任の真美ちゃん(乙女先生は、そう呼ぶことに決めていた)がバンドエイドを貼った頭で、顔を真っ赤にして挨拶したときは、暖かい笑いが起こった。

 今度は、真美ちゃんはテーブル頭をぶつけることは無かった。

 ただ、乙女先生の手のひらが痛くなった。真美ちゃんがテーブルに頭をぶつける寸前に、右の手のひらをクッションに差し出したからである。

―― 痛アアアアアアアア!!!!! ――
 
 乙女先生は、心で叫んだ。それがコントのように見えたのだろう。会議室は再び笑いに満ちた。

 しかし、田中教頭は笑わなかった。

 そして、もう一人笑わず、腕組みのまま苦虫を潰したような顔をしている男がいた。

 それが、生指部長の梅田である。その時の乙女先生は「筋肉ブロッコリー」と思えただけである。この男と、いろんな意味で取っ組み合いになるのは、もうしばらく後のことである。

 窓から見える雲がミミから太りすぎの羊になったころ、職員会議が終わった。

 そして、希望ヶ丘青春高校での乙女先生の新しい生活が始まったのだった!
 

 

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