大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・285『「恋するマネキン」を観る』

2022-03-18 13:33:16 | ノベル

・285

『「恋するマネキン」を観る』   

 

 

 灰燼に帰した新首都は見る影もなく、うたた荒涼たる瓦礫の上を気の早い北風が吹きすさぶばかり。

 ガサリ ガサガサ ガサガサ……

 元は何のパーツか分からない砕けが瓦礫の山から転がり落ちたのは、長引いた内戦に気力も体力も失った者には風のいたずらに見えたかもしれない。

 ピシュン ピシュン ピシュン ピシュン

 転がり落ちる途中で、砕けに火花が散って、砕けは微細な破片になって転がり、瓦礫の山を半分も下らないうちにさらに微細な埃のようになってしまい、北風に吹きさらわれてしまった。

 チ

 ネキンは、もう何百回目になるか分からない舌打ちをすると、やっと、銃身の焼けたパルスレーザを下ろした。

「ネキン殿、まだまだ先は長い、熱くなってはもたな……」

 副長の忠告は尻切れトンボになった、この三日、ネキンの手綱を締めっぱなし。さすがに疲れたか……

 振り返ると、副長の頭には野球ボールほどの風穴が空いている。

 ドサ

 ネキンの身じろぎが伝わったのか、副長はネキンの驚愕と同時に倒れて、デブリの埃を舞いあげた。

 ピシュン ピシュン  ピシュン ピシュン ピシュン ピシュン  ピシュン ピシュン

 パルスレーザーを乱射しながら跳躍。

 着地したネキンの鼻先には赤いパルスレーザーのポインターが当たっている。

「動いたら撃つ!」

 意外の至近距離にマネキ。パルス狙撃銃のトリガーは半分まで絞られている。ネキンの腕でも切り抜けられる確率は二割も無い。

「マネキ、右脚を失ったのか?」

「そうよ、だから、ここにおびき寄せるまでは手が出せなかった……ネキンをおびき寄せるのに五人も命を落とした。その五人のためにも、ここで仕留める!」

「さっさと撃てばいいのに、副長を仕留めた腕なら造作もないだろ」

「ダメ、副長は、自分が死んだという自覚もないままに逝ってしまった。ネキンには自覚して逝ってもらう」

 ピシュン

「ウッ」

 マネキは、瞬間で照準を変えて、ネキンの右脚を吹き飛ばした。

「あんたにも、同じ痛みを味わってもらわなきゃね」

「くそ……」

「次は仕留める……」

 シュビーーン

 パルスレーザーよりも重い銃声がしたかと思うと、二人の銃のバレルが消し飛んだ。

「「!?」」

「そこまでです!」

 声のする方を向くと、瓦礫の傾斜から一メートルほど浮いてブロンドの美少女が実体化している。

「「ノルンの女神……」」

「他の時空に手間取っているうちに、ここまでこじれてしまったのね……」

「あんたは、任せると言ったんじゃないのか」

「言いました。とても仲良しの二人だったし、あなたたちに任せれば、この時空世界はうまくいくと思いました。だから、マネキにはソドム。ネキンにはゴモラの国を任せたのです。対立するのではなく競い合い励まし合って、それぞれの国を発展させてくれるだろうと……二人とも、お互いの夢を尊重し、尊敬していましたね。人の心は移ろうもの、夕べ白であったものが、今朝には黒になるのが世の習いとはいえ、マネキとネキンならば、その習いを覆し、この地上にヴァルハラの如き美しく堅固な国を作るであろうと思いました」

「作ったよ、ここにあったよ! 新生ソドムが!」

「わたしも、新生ゴモラを栄えさせた!」

「「でも!」」

「お黙りなさい!」

「二人は、夢の実現、二つの国の弥栄のため、二人の関係を兄妹にしてくれと言いました」

「「え?」」

「兄妹ならば、齢(よわい)を重ねても、尊重し合いながら、冷静に見ながら国造りに励めるだろうと」

「他人同士だった?」

「なんてこと!?」

「道理で似てないわけよね」

「合わないわけだ!」

「お黙りなさい!」

「「…………」」

「あなたたちは、将来を約束した恋人同士でした」

「「えええ!?」」

「しばらくは、二人の未来も棚上げにして、ソドムとゴモラの国と人々に尽くそうと、わたしに頼んだのですよ『二つの国を平和で豊かな国にするため、わたしたちを兄妹にしてください』と」

「「…………」」

「いま一度、あなたたちを……」

「「無理です!」」

「他人同士に戻します、そして、担当する国も入れ替えます。いま一度やりなおしなさい」

 そう言うと、ノルンは両手でハートの形を作り、それを分けるような仕草をする……すると、二人は白く光り出し、瞬くうちに無数のポリゴンのように分解し、それまでとは逆の国の空に流れて消えてしまった。

 それぞれの空を一瞥すると、ノルンは、静かな足どりで瓦礫の街を歩み始める。

 ノルンが歩いた跡には、一叢ずつ草花が萌えはじめ、エンドロールがテーマ曲と共に流れ始めた。

 

  恋するマネキン 第一期 完

 

テイ兄ちゃん:「……で、どれが頼子さんやったんや?」

 テイ兄ちゃんが間抜けなことを言う。

さくら:「出てるやろが……」

留美:「エンドロールに……」

詩(ことは):「あ、ノルンだったんだ……」

おっちゃん:「いやあ、声もベッピンさんや……」

おばちゃん:「緊急事態も、いよいよ解除ねえ」

ダミア:「ニャーー(また会いたいなあ)」

 

 夕べは人気深夜アニメ『恋するマネキン』の最終回。

 如来寺では家族みんながリビングに集まって80インチのテレビで鑑賞しました。

 主役のマネキとネキンは人気声優の百武真鈴さんで、じつは真理愛学院に通う生徒会役員の現役女子高生。

 その百武さんが、卒業式の送辞を頼子さんに頼んだんやけど、ガードのソフィーが「その代わりにヨリッチ(頼子さんの学校での愛称)を『恋するマネキン』に出してください」と粘って実現した夢の交換条件。

 ちなみに、エンドロールの名前は正式なもんでした。

 ヨリコ スミス メアリー アントナーペ エディンバラ エリーネ ビクトリア ストラトフォード エイボン マンチェスター ヤマセン

 むろん横文字で……ちなみに、これはお祖母さまの女王陛下の注文やったんやそうです。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

明神男坂のぼりたい・103〔The Summer Vacation・10〕

2022-03-18 06:39:16 | 小説6

103〔The Summer Vacation・10〕 

           

 

 結局、仲間美紀は辞める決心をしてしまった。

「……でも、あたしを引き留めてくれるのは、明日香さん自身のためなんでしょ?」

「……そだよ、あたしのため。やっと軌道に乗りかけた6期、このまま仲間を失ったら、みんなへの影響が強すぎる。あたしの使命は一人も欠かさずに、きちんとメジャーに、AKRの看板にすることだからね」

 ちょっと一面的すぎるけども、こういうドライな言い方の方が、決心してしまった美紀にはいいと思った。

 ついさっきまで、六期生一番のイイコで通してきた美紀は、いわばきれいごとに押しつぶされてしまったんだ。そんな子にきれいごと的な説得や慰めをしても、なにも入らないと思った。

 別に、計算して言葉にしたわけじゃないんだけど、息を吸って吐いたら、こういう言葉になった。

「それで、いいと思うよ……」

 ガバ!

 美紀は、精一杯の笑顔を作ったかと思うと、ベッドの蒲団を頭からかぶって泣き出した。

 ガバ!

「も、もうほっといて!」

「美紀!」

 あたしは、ベッドの布団ごと美姫を抱きしめた。

 ウワーーーン!

 抱きしめると、たった今のドライな決心も一瞬で崩れてしまって、ただただ、いっしょに泣くことしかできなかった。

 

「あの子は精神的にまいってる。とにかく辞めさせるのが一番。治療はそれからです」

 

 お医者さんの意見で、笠松プロディユーサーも、市川ディレクターも納得した。

 気が付くと嗚咽してるのは、わたし一人。美紀は、枕に顔を埋めたまま寝てしまった。

「あ……」

 入ってきたお医者さんは、なにか注射の用意をしていたけど、コクっと頷いて、そのまま出て行った。

 取りあえず、眠らせることがいちばんだったんだろうね。

 でも、ドラマじゃないんだから、これで目覚めて丸く収まるようなことはない。

 取りあえず、ホッとして、駆けつけてきた美紀のお母さんと交代した。

 

 あたしは後悔した。

 6期は、もうみんな家族だ! 姉妹だ! そして、あたしが一番のお姉ちゃん! そう思ってた。だけどなんにも分かってなかった。危ないのは和田亜紀と芦原るみだとばっかり思てた。リーダーなのに、あたしはなんにも見えてなかった。

「まあ、一人二人抜けるのは織り込みずみだから、気にすんな明日香」

 市川ディレクターはビジネスライクに、一言でしまい。下手に慰められるよりは、気が楽だった。

 夜はステージが終わった後、ローカル局のトーク番組があった。

「美紀のことには触れないように。こっちのディレクターにも話してあるから」

 市川Dに言われた通り、あたしもパーソナリティーも美紀のことは無かったみたいに、プロモロケの話やら、アホな話で盛り上がった。

 

 家に帰ったら、日付が変わっていた。

 メールのチェックもしないで、ざっとシャワー浴びて、そのまま寝てしまった。

 

 あくる日はスタジオ入りには時間があるので、美紀の病院へ行った。面会時間じゃなかったけど、ナースステーションに寄ったら「もう落ち着いてるからどうぞ」て言われて病室へ。


 ところが、部屋に入ったら美紀の姿が無かった。

―― 明日香、トイレに行け! ――

 さつきが心の中で叫んだ。

 トイレに行くと、個室二つが閉まっていた。

 一つはノックしたらすぐにノックが返ってきた。もう一つをノック……反応が無い。


―― ここだ! ――


 さつきの声に体が反応した。ヒョイとジャンプして、個室の上に手を掛けると、自分でも信じられないぐらいの身の軽さで個室の中へ。

 美紀は手首を切ってぐったりしてたけど、あたしの姿を見ると暴れだした。

 血まみれになりながら緊急ボタンを押して、美紀のみぞおちに当て身を食らわせた。

 当身を食らわせるなんて、やったことなかったけど、これはさつきのしわざだろうね。

 切って間が無かったので、美紀は助かった。

 このことは、秘密にすることになったけど、血まみれのうちと美紀をスマホで撮ったドアホがいて、あっという間に動画サイトに投稿され、手におえないことになってしまった……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする