大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・222『フーちゃんの憂鬱』

2024-05-20 16:27:34 | 小説4
・222

『フーちゃんの憂鬱』お岩 



 神社の拝殿落成の大宴会から三日目の朝、漢明連絡所のフーちゃん(胡盛媛中尉)が鉱山事務所から出てくるのをハナが見つけた。

「おーい、しけた面しやがって、こっち寄ってけよ!」

 言うが早いか、うち(食堂)のお仕着せのまま物干しから駆け下りてきた。

「おい、ハナ! 洗濯物は干し終わったのかぁ!?」

「はんぶん、残りはあとで!」

 宴会では、うちのテーブルクロスや座布団やらを貸して、酔っ払い共が汚しちまったんで三日かけて洗濯の真っ最中なのさ。

 仕事を途中で投げ出すのは許せない性分、ともだちのフーちゃんをダシにサボる気なのかと厨房の窓を音を立てて開けた。

 ガラリ!

「こらあ!……あ……え?」

 次の文句は声になる前に消えてしまった。

 フーちゃんのうち萎れた姿に、あたしも言葉が出なかった。


「困った時はおたがいさま……って話じゃないのかい?」

 洗濯物のシーツを伸ばしながら聞く。

 フーちゃんの顔を見て「お茶淹れるから、こっちで」とお岩食堂自慢の座敷(197『お岩食堂のレトロテレビ』参照)を指さしたんだけど「お仕事を手伝いながらなら」と言うんで、三人屋上で洗濯ものを干しているんだ。

「いいえ、味方を悪く言いたくはないんですけど、朱大佐は企みの多い人なんで心配なんです」

「大佐って、とっくに除隊して、民間の技師なんだろ?」

「ええ、資源開発公司の第二資源課長……という触れ込みなんですけど、第二資源課というのは大佐が入社するまでは無かった課なんです」

「でもよ、ホトケノザのプラットホームじゃ、ほんとに採掘とかやってんだろ?」

 単純な、いや純真なハナはフーちゃんの友だちなので、漢明に対しても警戒心が薄くなってきている。

 フーちゃんの説明によると、ホトケノザ採掘基地の選鉱機の具合が悪いのでカンパニーの選鉱機を使わせてほしいと申し入れがあった。
 正式なものではなくて、島の連絡所、つまりは広報係りのフーちゃんにカンパニーに打診してくれるように頼んできたんだ。

 いちおうの理屈は通っている。

 フィリピンの北に低気圧があって、この三日ぐらいで台風になりそうなんだ。ホトケノザから船を出すと、どうしても、この低気圧の影響を受け、積荷のパルス鉱石は船の中でこすれ合って純度が落ちてしまう。
 パルスラが中心の鉱石の半分は劣化してパルス鉱に変化してしまう。そこで、こないだ更新したばかりのうちの選鉱機で純度を安定させようというのが狙いだ。

 導入したばかりの新型選鉱機なので、カンパニーは断るだろうとフーちゃんは、わりと軽い気持ちで事務所に申し入れに行ったんだ。

『あ、それはお困りでしょう、使っていただいていいんじゃないかなあ』

 ちょうど居合わせた社長、いや殿下が笑顔で承知してしまった。いや、あたしだって「困った時はお互いさま」って言ったしね。

「朱大佐は父の部下だったんですけど、裏表のある人だったんで父も警戒していた人物で……」

「任せとけ、わ、悪いやつなら、このハナがやっつけてやるから!」

「おい、ハナ」

「え、あ……そんなつもりじゃねえんだけどな(-_-;)」

 フーちゃんの父の胡盛徳大佐を仕留めたのはハナだ、さすがに冗談にはならない。

「いえいえ、そんなこと気にしてないですからぁ(^_^;)」

「まあまあ、劉宏大統領の時も、フーちゃんワタワタしてたけど、結局はうまくいったじゃないか、案ずるより生むがやすしってことさ!」

「は、はい」

 なんとか納得させられたかどうか……でも、洗濯物は一気に片付いて、こういう点ではハナもフーちゃんも可哀そうなくらい能力が高いよ。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)036・最後の立ち入りを許可します

2024-05-20 07:02:49 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
036・最後の立ち入りを許可します                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 部室棟の周りに足場が組まれた。


 いよいよ本格的な解体修理作業が開始されるのだ。

「4時から5時まで最後の立ち入りを許可します」
 
 昨日の部長会議で、生徒会副会長の瀬戸内美晴が通知した。

 学校の施設管理は校長が責任者なのだから「許可されます」というのが正しいのだが、さりげなく自動詞の「します」を使うことで生徒会の権威を上げようとしている。
 
 解体修理が決定した先週、一応の運び出しはやったのだが、なんせ築百年年、いろんなものが溜まっている。

「今回は、自分のところ以外の部室と共用スペースを見てもらいます。ちがった目で見れば、見えてくるものも変わってくると思うからです。不要なものは解体に伴い建物ごと廃棄されます。今回搬出したものはいったん中庭に出してください、先生や同窓会の方々にも見ていただいて、最終的に保存するモノを決定します」


千歳:「瀬戸内さん、賢い人ですねえ」

 お茶を入れながら千歳は感心した。

啓介:「この部屋は、これ以上は入れられへんで」

須磨:「啓介はめんどくさいだけだろ?」

啓介:「俺は、グローバルクラブの再建に忙しいんです」

ミリー:「なにい、そのクラブ?」

 先週入部したばかりのミリーには分からない、啓介は「しまった(;'∀')」という顔になり、須磨と千歳はクスクス笑っている。

須磨:「あとで教えてあげる。それより金目の物を見つけたら、必ずチェックね」

啓介:「お、売り飛ばして演劇部の資金に!?」

須磨:「学校に寄付。演劇部のイメージアップよ。少しでも貢献しておけば、さきざき風当たりも弱くなろうというもんでしょ」

 先月の部員定数問題では、生徒会の盲点を突いて、演劇部の存続を認めさせた須磨。単なるマキャベリストかと思っていたが、一目置く気持ちになった啓介だ。


 部室棟の中は解体目前の混乱で、部室どころか、廊下もゴテゴテしている。

 邪魔になってはいけないので、千歳は中庭で待機しているつもりだ。


須磨:「いっしょに行こ」

千歳:「え、いいんですか?」

 ミリーが車いすを押し、須磨が先導して部室棟の中に入る。ちょっとした探検気分でワクワクする。

須磨:「さすがに二階はむりだなあ……」

ミリー:「あたし、千歳といっしょするから、先輩は啓介と周ってください」

須磨:「サンキュ、じゃ、そういうことで」

 演劇部は二班に分かれて捜索に掛かった。

 ほとんどの部室は手つかずと言っていい状態だった。

 なんせ百年ほったらかしの校舎で、部室棟になってからも半世紀が経過している。

 残している物品は、備品というよりはガラクタ……というよりはゴミの山だ。

 美晴が、最後にもう一度見ておこうと言ったのは、このまま取り壊したのでは学校の評判に傷がつくと思ったからかもしれない。

 千歳とミリーのコンビは三つめの音楽部の分室に踏み込んだ。

「あ……あれ、ピアノぉ?」

 車いすの視線の低さが幸いしたのか、ガラクタの下に覗いたピアノの脚に気づいた千歳。

「どれどれ……」

 ミリーがガラクタをかき分ける。

「よいやっさ!」

 乗っかっていたガラクタをカバーの布ごと引き落とす。

 ゴホゴホゴホ(>○<)

 すると、ホコリまみれのピアノが現れた。

 ピアノは、元々の脚は無くなってボディーだけだ。

 千歳が気づいたのは脚の根元で、普通の目の高さでは気づかないように思えた。

「……これ、スタンウェイやんか!」

「え、スタンウェイ!?」

 ミリーも千歳もピアノをやっていたので、その値打ちが分かる。

 世界的な名器で、状態によっては一千万円以上の値打ちがある。

「「す、すごい( ゚Д゚)!」」

 キャーーーー!

「「え?」」

 二人が感動したのと同時に中庭でも歓声……いや、悲鳴が上がった!


 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局     


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