大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・097『こじれた運命』

2024-05-03 10:26:13 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
097『こじれた運命』   




 良かった半分、凹んだ半分で家に帰る。


 良かったのは池田すみ子さんを無事にTテレに送り届けたこと。

 凹んだのは授業に遅刻して花園先生に叱られたこと。


 帰りに早乙女さんの家の前を通ると、家の前にはテレビの中継車とテレビ局のロゴの入ったバンが停まっている。近所の人も遠巻きに見ていて、ただごとじゃない。

 一瞬、間に合わなかったのかと思った。

 やっぱりお爺さんがお婆ちゃんを殺してしまって、マスコミが取材に来てる!?

 アハハハ  カメラテスト  いいですか?  いつでもぉ  お元気だなあ早乙女さ~ん

 明るい声がしてチラ見すると、わたしでも知っているバラエティーのMCがマイクをお婆さんに向けている。

 お婆さんは、お婆さんなんだけど、ペットの犬を抱っこしながら受け答えする姿は若やいで大女優の貫録。


 そうか、うまくいったんだ。お婆さん、池田すみ子さんは無事にオーディションに通って女優の道に進んで大成したんだ(^▽^)。

 MCのおじさんが「お元気の秘訣は?」とか「いちばん思い出に残る作品は?」とか笑顔で聞いている。

 門柱の表札は『早乙女』ではなくて『池田』になっている。

 そうだよね、芸能人、それも大スターともなれば、芸名で表札なんか出さないよね。本名の『池田』で出すのが当たり前だよね。

 見物のご近所さんの声も聞こえてくる。

「お元気ねえ」「デビュー50ッ周年だもんねぇ!」「53年よ、主演をとってから50年」「毎年ぃ?」「毎年よ、もう100本になるって!」「すごいわねえ……」「でも、暮らしは普通っぽいわねえ」「中古でしょ、お宅は?」「いえいえ、裏の三軒も……」「え、あのお屋敷ぃ?」

 最後の一言に興味が湧いて、裏の通りに行ってみる。

 わ!?

 ビックリした。

 裏は70坪くらいの家が三軒あったはずなんだけど、大きなお屋敷になっている。出入り口は小さな御勝手口みたいなのがあるっきりで、あとはガレージのシャッター。なるほど、普通の皮を被った豪邸なんだ。

 よしよし(^▭^)。

 安心して家に帰ると、お祖母ちゃんはまだ帰っていない。

 
 一時間近くたってお祖母ちゃんは帰ってきた。


「ああ、くたびれたぁ~~~~」

「遅かったじゃない、お祖母ちゃ……どうしたの?」

 お婆ちゃんの髪は半分以上白髪になって、顔のしわが倍くらいになっている。

「メグリ、あんた余計なことしたでしょ」

「なによ、余計なことって」

 ちょっとムカついた。

「早乙女さんのお婆ちゃんの人生変えちゃったでしょ……」

「え、ああ! テレビが取材に来てすごかったんだよぉ!」

「ああ……いいことした気でいるんだ」

「え、なによ、それ!?」

「もう二時間も前に帰ってきたんだけどね、家に入ったらグラッてきたのよ」

「どこか悪いの?」

「ちがうわよ、運命線やら時空線がグチャグチャになって歪んでしまってたのよ」

「え……なんで?」

「無理な運命操作やると、歪が出るのよ……」

 魔法少女のスマホを出していろいろチェックするお婆ちゃん。

「お婆ちゃんち、苗字は池田だったろ」

「ああ、うん。大女優だから、芸名とかは……」

「池田すみ子は、結婚しなかったし、子どもも孫も居なくなった。そうなっちゃったのよ、メグリの介入で」

「それって……」

「旦那も含めて16人に影響が出て、うち10人は生まれてこないことになったのよ」

「え、ええ(꒪ꇴ꒪〣) !?」

「それで、お祖母ちゃん、過去に行って修正して戻ってきたところなのよ」

「ご、ごめん……あ、でも二時間ほどで片が付いたのよね?」

「バカモン!」

「ヒ!」

「行ったり来たりで合計120年もかかってしまった!」

「え、そうなの(;'∀')?」

「須世理姫も悪気はないんだろうけどね……お社も氏子も無くして百年も経つからねえ……まあ、お会いしたらよろしく言っといてぇ」

 そう言うとお祖母ちゃんは、部屋にいって、そのまま寝てしまった。


 明くる朝、起きて一階に下りると、いつものお祖母ちゃんに戻って、日本中晴れて憲法記念日の5月3日。

 顔も洗わずに表に出て三軒隣りを確認する。

 よかったぁ、表札は『早乙女』に戻ってるし、家の中には人の声がしてるし。

「あら、時司さんの娘さん?」

「あ?」

 振り返ると池田すみ子……いや、早乙女のお婆ちゃん。

「お家から出てくるの見えたから」

「あ、はい、三軒隣りの時司です」

「やっぱりそうなのね、ご挨拶遅れてごめんなさい。こんど越してきた早乙女です。あらためてご挨拶にうかがうけど、どうぞよろしくね」

 品のいい笑顔を残して家に入るお婆ちゃん。

 
 なんとか無事に連休の半ばが過ぎていったぁ。




☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 7組) 上杉(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)019・突撃と激突の生徒会室!

2024-05-03 07:02:04 | 小説7


REオフステージ (惣堀高校演劇部)
019・突撃と激突の生徒会室!                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです




「待ってください!」

 美晴が開けたドアに、千歳の車いすは、そのまま突っ込んだ。美晴は、それを知っていながら激しくドアを閉めた!

 ガシャン!!

 生徒会室のメンバーは、とんでもないことが起こったという顔になった。


 車いすの女の子が追ってくるのをシカトするだけではなく、閉めたドアで挟んでしまったのだ。ヘタをすれば車いすどころか、車いすに乗った千歳をクラッシュさせかねない。

 はるか昭和の昔には校門の鉄の門扉に挟まれて死亡させた事件もあったのだ。

 生徒会顧問の松平は、平成の時代に初任研で聞いた最悪の事例が浮かんで青い顔になった。

「あ、あんた大丈夫か!?」

「だ、大丈夫です。ちょっとびっくりして……大丈夫ですよね小山内先輩?」

 やっと追いついた啓介に振る千歳。

「あ……ああ、車いすは大丈夫みたいやなあ、瀬戸内先輩、あんまりちゃいます!」

「なに言ってんの、車いす押してたのは小山内君でしょ。注意義務はあなたにあるのよ」

「せ、瀬戸内……」

「先生も委縮しないでください。さ、ここまで来たんだから話だけは聞いてあげるわ。あたしたちも忙しんだから要領よく言ってちょうだい」

「言います!」

 グゥワラッ!!

 挑みかかるように千歳は車いすのタイヤハンドルを回し、勢いづいて美晴の真ん前まで来てしまった。

「……わたし、やっと居場所ができたんです。4月に入学して……ずっと居場所が無くて孤独だったの。空堀高校はバリアフリーの学校だけど、ドアもエレベーターも手すりもトイレもバリアフリーだけど、心はバリアフリーじゃないわ。どこもかもよそよそしくて、わたしが入っていけるところなんか無かった。勧誘してくれるクラブはあったけど、なんだか、どこも身障者の女の子としてしか見てくれない。どこへ行ってもお客さん扱いで、仲間にはなれないの。でも演劇部は違った、こんなあたしでも普通の子、当たり前の子として接してくれるの、くれるんです……そりゃ、少しのんびりしすぎたところはあるかもしれないけど、一年中緊張した部活っていうのもどうなんでしょ……そんな演劇部が一か月足らずで部員を3倍にしたんです。で、体の不自由なあたしでも息がつける場所なんです。お願いだから部室を取り上げないでください。潰さないでください。この通り、お願いします!」

 千歳は、車いすのまま頭を下げた。肩が震えて、膝にはポタポタと涙が落ちた。

「……か、考えてあげてもええんとちゃうかなあ……な、瀬戸内?」

「この局面だけとらえての発言はやめてください。演劇部には活動実態がありません、毎日部室でウダウダしてるだけです。部員の増員と活動の活性化は去年から言ってきています。沢村さんが入部したことや、その反響で、さらに1週間様子を見ました。そうよね小山内君?」

「もうちょっと様子を見てもらえませんか、1週間延ばされただけでは、実績はあげられへん」

「間違えないでね、わたしは実態って言ったの、実態。基礎練習をするでもなく、脚本を読むでもなく、ただウダウダしてるだけじゃないの」

「そんなことはありません。どないしたらええか考えてるし、台本かて読んでる、さっきも千歳はチェ-ホフの短編読んでたし」

「フフ、中に挟んでたのはワンピースの第9巻だったけど、小山内君のスマホは演劇とは関係ないサイトだったし。知ってるのよ、小山内君一人の時は、パソコンで……」

「ウ……………」

「特殊なゲームばっかりやってるのよね」

「特殊なゲーム?」

 顧問の松平がひっかかり、他の役員たちも(?)な顔をし、啓介は「ウ」と唸ってしまった。

「それに、もう次に入るクラブも決まってるの、ボランティア部が十分な実績を挙げながら部室が無いんで、来月には入ってもらうの。もう手続きも進んでいるわ。書類を」

 美晴は、啓介がたじろいだところでトドメを刺しに来た。

「これです、瀬戸内さん」

 書記の女の子がプリントを見せた。

「そう、公平、公正に規則を運用した結果がこれなの。理解してね」


 千歳も啓介も言葉が無かった。


「その規則が不備だったら、どーよ!?」

 そう言ってドアを開けたのは、6回目の3年生をやっている松井須磨であった。



☆彡 主な登場人物
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)


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