大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・100『大浜女学院で写真館のアルバイト』

2024-05-21 10:21:47 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
100『大浜女学院で写真館のアルバイト』   





 今日は写真館のアルバイト。


 大浜市で一番の伝統校、大浜女学院に向かっている。

「大浜・宮之森界隈じゃ一番の女学校だからね、いいお得意様なのよ」

 ハンドルを握る直美さんの声も弾んでいる。

 写真館のアルバイトも二年目に入って、直美さんのこともけっこう分かるようになってきた。

 ギャラや内容で仕事に手心を加えるようなことはしないけど、やっぱり、楽な仕事やギャラがいい時は機嫌がいい。

「ちょっと待ってて」

 学習院(行ったことないけど)を思わせるような正門前に来ると、門脇の守衛室にあいさつに行く直美さん。

 守衛室の前には公民館のように『本日の予定』的な看板が出ている。

 理事会 PTA役員会 高体連庭球部抽選会 高校弓道連盟総会 高校演劇研究会総会……五つもグレードの高そうな行事や会議が黒字に白で書かれている。
 案内係りなんだろう、八人ほどの女生徒がそれぞれ担当の看板の前に立って、やってくる人たちを案内してる。同じ高校生なんだけど、背筋の通った佇まいに正直圧倒されそう。

 えらい学校だけあって、いろんな連盟やら部会に場所を提供してるんだね。

 うちの他にも、それぞれの会議や行事に参加する外部の人や高校生がやってきて担当の生徒から案内を受けている。案内の生徒は「こんにちは」とか「ご苦労さまです」とか「承ります」とか笑顔で校内の行先を案内している。案内さんが指し示した校舎の前には、さらに生徒さんが立っていて、それぞれの部屋や施設に案内しているよぉ。

 宮之森もいい学校だけど、グレードがちがうなあって感じ。

「いま開けてもらうから」

 直美さんが戻って来て、守衛さんが鉄の門扉を開けてくれる。

「「「「「「「「こんにちは」」」」」」」」

 案内の生徒さんたちが一斉に挨拶してくれ、慌てて頭を下げる。

「行き届いてますねえ……」

「うん、なんでもね、21世紀には子供の数が減って、学校の経営が苦しくなるのを見越して、グレードを上げてるんだって。どこの世界も経営者は大変だ」

「直美さんも、その点、うまくやってると思いますよ」

「え、そう(^_^;)?」

「はい」

 撮影の時の仕事ぶりや、人との接し方を見てると、バイトのわたしが見てても、気が利いてるし人あたりもいい。もし、マスターが外周りをやっていたら、顧客や仕事の二割がたは減ってたと思う。

 駐車スペースにホンダZを納めると、ピッタリのタイミングで担当なんだろう、若い男の先生が校舎から出てくる。

「理事会担当の山根といいます。これが、今日撮って頂くスケジュールと場所です」

「……はい、承知しました」

 本日の仕事は、学校の五十年誌に載せる写真を撮る仕事だ。

 新理事会の個人写真と集合写真がメインなんだけど、校内のあちこちで行われてる各団体のやら部活、それに、学校のあちこちにある記念碑的なものや施設も撮影する。

 そういう写真は素人でもそれなりの……というよりは当事者ならではの写真が撮れるんだろうけど、こういうところにお金と力を掛けるのはアリだと思う。

 予定の大半を撮り終えて、あとは屋上から学校の全景(三分割ぐらいしないと撮れないんだけど)を撮ろうと階段を上っていると、見覚えのあるオジサンが追いかけて来た。

「おお、探したよ、須之内写真館!」

 いかつい顔のオジサンは……思い出した!

「あ、藤野先生」

 直美さんが先に頭を下げる。

 このオジサンは宮之森連隊戦友会の撮影(074『宮之森連隊戦友会』)の時に教頭先生の横に居たオジサンだ。口はきいたことないけど、鬼瓦みたいな顔で憶えていた。

「下で演劇研究会の総会やってたんやけどな、新役員決まったんで、割り込みで撮ってもらえへんか?」

「え、ああ、いいですよ。場所は……」

「これから屋上やろ、うちもそこでええわ」

「あ、それは助かります。じゃあ、屋上行ってますんで、上がってきてください」

「よっしゃ、10分くらいで行くさかい、頼むでえ!」

 そう言うと、意外に人懐っこそうな笑顔で階段を下りていくオジサン、いや藤野先生。


 屋上からの写真をフィルム一本撮ったところで、藤野先生が十人余りの先生と制服の違う男女の生徒を連れて上がってきた。

「ほんなら、今から、生徒役員と顧問教師、それから全員そろての写真撮るから」

 と、まずは五人の男女の生徒がグラウンドを臨むフェンスの前に並ぶ。

 え!?

 真ん中の女生徒と目が合って、同時にビックリした!


 その女生徒は、うちの演劇部の牧内さんだった!

 


☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 上杉(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)037・トランクの中身

2024-05-21 07:14:34 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
037・トランクの中身                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 キャーーーー(((٩(๏Д⊙`)۶))) !


 中庭にこだます悲鳴!


「え、なに!?」「きゃ!」「なに!?」「なんだ!?」「なにごと!?」「見にいこ!」

 演劇部員たちは、ほかの部室棟の住人たちと中庭に飛び出した。

 車いすの千歳と付き添いのミリーが遅れて出た時には古井戸を覗き込むように人だかりがしていた。部室棟から運び出されたガラクタが並べられて、演劇部の札が立てかけられているところだ。

 えぇ……あぁ……うぅ………… 

 人だかりは声にならない唸り声をあげている。

「わ、わたしいいです!」

 人だかりに怯えたのか、なにかを予見したのか、千歳は車いすを止めて尻込みした。

「ほんなら、ここで待ってて」

 安全な場所に車いすを停めると、ミリーは人だかりの中に突入した。

 う……

 人だかりの中心からは変な臭いがして、みんな手やハンカチで口と鼻を押えている。


 OH MY GOD!!


 めったに出ない母国語が口をついた。

 人ごみの真ん中には古ぼけたトランクが口を開いている。そして、トランクの中には信じられないものが収まっていた。

 それは、古いセーラーの制服を着て胎児のように膝を抱えた女生徒のミイラ。


 見るんやない!!


 立ち会いの松平先生がトランクの蓋を閉めたので、ミリーが見たのはほんの一瞬だった。

 しかし、その姿は一瞬でミリーの脳に焼き付いた。

 くぼんだ眼窩には乾ききった梅干しのような眼球が収まり、鼻の先は欠落して二つの鼻孔が露わになっていた。
 唇は周囲の皮膚と一緒に乾ききってめくれ上がり、異様に白く見える歯列が覗いている。
 長い髪は古い絹糸の束のように艶が無く、上になった左頬を隠しながら体に掛かって、幅広のカチューシャだけが艶めいていた。

「うーーーーえらいもん見てしもたあ(-_-;)」

 部室に戻ったミリーは腕組みをしたまま椅子に座って固まっている。

 啓介も口をきかない。

 須磨は椅子を車いすに寄せて千歳の手を握ってやっている。

 四人とも中庭の方を見ようとしない。

 中庭には、運び出されたガラクタが並べられ、その真ん中には古いカーテンを掛けられたトランクが鎮座している。
 
 残留物の捜索は打ち切られ、出入り口には障害物競走のジャンプバーが置かれ部室棟は立ち入り禁止に戻された。

 演劇部の四人は狭いタコ部屋で息もするのを忘れたようにジッとしている。

 他の文化部員たちは早々に下校したが、トランクの出所が演劇部の部室だったので足止めを食っているのだ。

 ピィーポォーピィーポォーピィーポォーー

 梅雨時の湿った空気のせいか、地獄の使者を思わせるくぐもったサイレンが響いてきた。

「警察が来たわ、大変だけど中庭に集まってちょうだい」

 生徒会副会長の美晴が、獄卒のように四人を呼びに来た……。
 
 

☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局     
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