大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・224『朱元尚大佐・2』

2024-05-30 14:51:40 | 小説4
・224

『朱元尚大佐・2』朱元尚 




 西之島の選鉱機は部外秘の技術だ。


 なかば断られると思って見学を申し入れたら快く許諾の返事をもらって、正直――言ってみるもんだ――とほくそ笑んだ。

「選鉱機は、坑内の深いところにある選鉱基部と中間の移送パイプ、そして、ここにある取り出し槽に分かれます。取り出し槽には輸送コンテナが直結できるようになっていて、ここでコンテナをいっぱいにして船に積み込みます」

 サブという技師……いや作業員か、がていねいに説明してくれる。

 いったん受け入れると決めてしまうと、下心アリアリのわたしへの説明にも手を抜かない、いや、手を抜けないのだろうな。愛すべき国民性ではある。

「お預かりしたパルス鉱は、こちらの逆走パイプから選鉱基部に落とし込んで選鉱することになります」

「ご丁寧な説明痛み入る。この下の選鉱機はどんな具合になっているんだろう」

「あ、それは部外秘ですので、お見せできません。申し訳ありません」

 さすがに断るな。

「覗いてみる分には構わないだろうか?」

「はい、覗いて見るくらいなら。足もとが悪いのでお気をつけください」

「うむ」

「大佐、軍服が汚れます」

 胡盛媛中尉が手すりとわたしの間にタブレットを持ったままの手を差し入れる。

「いや、すまん」

「上海縫製公司のオーダーメイドですね、とびきりの高級品です」

「ハハ、父上のように実力が伴わないんで『見た目だけでもキチンとしなさい』って、カミさんがやかましくてね」

 見え透いた諧謔だが、中尉も島の者も頬を緩める。

 よし、これなら……こっそりと手すりの掛け金を外す。

 ウワアアーーーーー!

 キャーーー!

 大佐あ!

 中尉を巻き込んだまま、竪坑を落下する。

 寸前に作業員の手が伸びてくるが、虚しく空を掴んでいる。

 落下しながらも、下の選鉱機本体にしっかり視点を合わせる。わたしの義眼は昔風に言えば8Kの解像力がある。暗視補正も付いているので、真の暗闇でなければ鮮明な画像が撮れる。

 パシャパシャパシャパシャパシャパシャ

 古典的なシャッター音などするはずも無いのだが、そんなエフェクトを入れてみたくなるほどにきちんと撮れている。

 ズチャ!

 中尉自らがクッションになり衝撃を和らげてくれる!

 おかげで、点検口から写そうと思った画像は二枚しか撮れなかった。

「いや、すまん中尉、大丈夫かね?」

「はい、大丈夫です、お怪我はありませんか大佐?」

「アハハ、家内にはちょっと叱られそうだがね」

――大佐! いまラッタルを下ろします! ご無事なら上って来てくださいーい! 無理なら別の坑口から救援に向かいまーす!――

 島の人間も中尉も優秀だ……そうそう付け入るスキは無さそうだが、それはそれでやり方はあると思った。

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
 

 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)046・エリ-ゼのために・1

2024-05-30 10:14:02 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
046・エリ-ゼのために・1                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 それは違う!


 俺も谷口も言い続けてきた。

 コンクールを射程に入れた文化祭の上演作品『エリ-ゼのために』はけっして転校生の三宅さんがモデルではないと。

 なぜなら『エリ-ゼのために』の企画は三宅さんが転校してくる半月前にはできていたからだ。

「十代の現在(いま)でしか書けない少女像を書こう!」

 惣堀商店街名物そうほり屋の冷やしコーヒーで乾杯しながら誓い合った。

 ま、いまから思えば「~ではない」という否定形でしか自己規定や価値判断ができない高二病だったろう。

――身体測定で座高がクラス一番なんて関係ない――俺が斜陽商店街の薬屋ので終わるわけがない――俺の未来は型にはまってなんかいない――演劇部の良し悪しは演技や技術の優劣では決まらない――学校の成績で人間の値打ちは決まらない――俺がいつまでもモテないわけがない――

 そんな具合だった。

 それで、話しは変わるが、あのころのアイドルは美容院のサンプル写真みたいに人工的だった。

 多少個性めいたところがあっても、それは子どもアニメのヒロインのように定型的で底が浅い。清楚・可愛い・清潔・分かりやすい等々の要件をミキサーにかけて固めて輪切りにしたように均質。かき氷のシロップが名前と色が違うだけで味はみんな同じなのと似ている。

 そうそう、小学生のころ、そうほり屋のかき氷のどれが一番おいしいかで言い争ったことがある。学校の正門を出て商店街の入り口にさしかかるまで「いちごや!」「メロンや!」「ブルーハワイや!」と、その後高校までいっしょの谷口と、言い合っていた。

 すると、いつのまにかそうほり屋のケメコ(ほんとうは恵子)が後ろに来ていていてほざいた。

「あれはなあ、元は同じシロップで、色を変えたあるだけやねんよ」

「え、ほんまか、ケメコ!?」

「ほんまほんま」

「おまえ、そうほり屋の娘が、そんなことバラシてええのんかあ?」

「ほんまのうちの味は『宇治金時』や!」

「「宇治金時ぃ!?」」

「うん、あの抹茶シロップとアンコは正真正銘の特性や!」

「え、そうなん?」

「抹茶は一保堂、アンコの小豆は松屋の一級品やし」

「みんな商店街の店やなあ」

「そうほり商店街は太閤さんの時代からあるねんで、しなもんに間違いはない!」

「あはは、せやなあ」

 斜陽と思っていても家業の悪口は言えない。

「まあ、お年玉もろた時にでも食べにおいで」

「正月の寒い時にかき氷なんか食えるかあ!」

「あ、せや、うちもやってへんわ!」

 アハハハハ(^▽^)(^▢^)(^〇^)

 宇治金時は小学生の小遣いでは手の出ないものだったので、この時は横入りのケメコに完敗だった。


 話がそれた、そうそう、アイドル。


 その中にあって、M.Yだけは違った。

 谷口の部屋でM.Yのテープを聞こうとしたら、手入れの悪いラジカセの為にテープがオマツリワカメになってしまい、憂さ晴らしにビールを引っかけたのが悪かった。

 しかし、動機はともかく創作劇を書こうという気持ちは天晴れであった。

 谷口が文章を書き、俺が二次元化した。

「それは朝丘アグネスや、そっちは南淳子や、あかんやっちゃなー」

「そういうこれは岡山百恵やないかー」

 文章と二次元の違いはあったが、二人の作品は、やっぱり美容院のサンプルだ。

 ただタイトルだけは決まっていた。


『エリ-ゼのために』


 当時のアイドルには無い名前、オルゴール曲で有名なこの曲は、名前を聞くだけで万人にイメージを喚起させるインパクトがある。

 夏真っ盛り、冷房の効かない俺の部屋、階下の調剤室から立ち込めてくるドイツの新薬の香りで浮かび上がったのがエリ-ゼだった。

「「これはエリ-ゼとちゃう!」」

 呻吟していた俺たちの前に現れたのが彼女だった。


 三宅エリ-ゼ


 当時珍しい帰国子女、日本人の父とドイツ人の母を持つ栗色のロングヘアー。
 少しドイツ訛の、それでいて正確な日本語、直接口をきいたことはないが、友だちと下校の正門で「ごきげんよう」と挨拶をしていた。

 じきにそぐわないと自覚したのか「さようなら」に置き換わるが「さいなら」というような大阪原人の風には染まらない。

 偶然を装ってすれ違った図書室前。髪の香りはエメロンシャンプーなどではなかった。

「エリ-ゼが降臨してきよった……」

 俺たちのイメージははっきりした。

 一か月後、ストーリーとラフができあがった。

 明らかに三宅エリ-ゼに影響されているんだけど、俺も谷口も自分の中にあったエリーゼの具現化だったと信じた。

 ほら、仏師とかが言うじゃないか、仏様を彫るんじゃない、木の中におわします仏様を掘り出すんだって。

 雨の季節になってプロットとラフは精緻になってきた。

 俺は、エリ-ゼを二次元から三次元に昇華させた。

 そうなんや、それがあの人形や。

 それがなんでミイラかて?


 まあ、ちょっとお茶飲ませてくれるか。


 千歳という子が器用に車いすを旋回させてお茶を入れ替えてくれる。

 四十三年前の演劇部の子たちが、あのころの時空からやってきたような親しさを感じさせてくれる。

 雨はまだ降り続いている……。
  


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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