大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・223『朱元尚大佐・1』

2024-05-25 11:38:27 | 小説4
・223

『朱元尚大佐・1』朱元尚 




 パルス鉱という燃料鉱石はプレートが隣り合う別のプレートの下に沈み込んだところで生成される。

 この太平洋地域においては西之島が最大最高の産出地だ。

 我が政府は十余年前、洛陽号事件をきっかけに西之島への干渉を試みて失敗した。
 
 我が国は日本海溝を挟んで隣り合うホトケノザに海上基地を作って、パルス鉱と西之島への興味を失っていないことを消極的に示した。

 PIした劉宏大統領は、協調路線、遠い将来に親善を深めたうえで再度の攻略を考えているのだろう。ホットウォーに寄らない方法、あるいは日本人にそうとは気づかせない方法で。しかし、そんな悠長なことはやっていられない。

 
「無理なお願いをしましたが、快く受け入れていただき感謝に耐えません」

「困った時はお互いさまです朱大佐、いや退役されて所長でしたね。パルスコンベアを使いますので、少々時間はかかりますが、鉱石への衝撃はほぼゼロです」

「ありがとうございます、これで、品質を落とさずに移送ができます」

「では、さっそく取り掛かりましょう。サブ、準備はいいかい?」

「OK、社長!」

 ほう、日ごろは殿下と呼ばれているはずだが、外部の人間には呼び方を変えているようだ。

「前よし、後ろよし、移送開始!」

 ウィーーン

 若い技師が合図すると、コンベアが動き出し、坑内の選鉱機まで運ばれる。コンベアは鉱石に刺激を与えないように作られていて、回転ずしのように慎重に流されていく。

「選鉱機もすごいと聞いていましたが、コンベアもすごいですねえ」

「ボランティアのアイデアです」

「ほう、ボランティア」

「ボランティア兵の多くが事変後も残ってくれまして。まあ、本国に帰っても景気がもう一つという人も多くて。うちは平時でも人手不足ですから働いてもらってます。あ、このコンベアは南アフリカの人のアイデアです。国では、ダイアモンド原石の切り出しの仕事をやってらしたようです」

「ほほう、多士済々というわけですなあ」

 視線を移すと、あちこちに、元ボランティア兵らしいのが働いている。

 潜在的な兵力、戦闘力は落ちていないようだ。

「遅くなりました!」

 ドキッとした。

 ふいに後ろから声を掛けられたせいだが、声の響きがかつての上官に似ている。

「きみは……」

「はい、西之島連絡所、広報担当の胡盛媛中尉であります」

「あ、そうか、ご苦労です。よろしくお願いする」

「ハ!」

 案内役兼世話係りは連絡所の要員があたると聞いていた。

 本来は小規模とはいえ駐留軍なのだが、非武装の連絡所にしている。これも大統領の意向なのだが、興味深い、こちらもよく観察させてもらうとしよう。

「では、フーちゃ……胡中尉、あとはよろしくお願いします。朱大佐、後ほどまたお目にかかります」

「こちらこそ、急な申し入れにもかかわらず、便宜を図っていただきありがとうございました」

「あ、昼食は、そこのお岩食堂で。乗組員さんの分も用意してありますので、ご遠慮なく」

「あ、それはそれは、船の烹炊に連絡を……」

「船の方には連絡しておきました」

「「さすがぁ」」

 期せずして氷室社長と声が揃う。

 この和やかさと効率の良さ、あまり友好の演技をせずに済みそうだ。

 氷室社長を見送って一つの提案をする。

「島には、胡盛徳大佐の碑があると聞きいている。あとで訪れてみたいと思うんだが」

「……承知しました」

 さすがに屈託がある。

「あ、いえ、時間を計算していたものですから。ありがとうございます。父も喜ぶと思います。花の手配をしておきます、少々お待ちを……」

 キチっと敬礼をしたかと思うと、神社の方に駆けだし小柄な巫女と一言二言。

 アハハハ(^▽^)

 巫女が、ここに居ても聞こえる元気な笑い声を立てると、ペコリと頭を下げて戻って来る。

「では、ご案内いたします」

「ああ、頼む」

 いろいろやり甲斐のある島だと認識を改めた。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)041・返ってきたトランク

2024-05-25 06:47:53 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
041・返ってきたトランク                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです




 ……………………………………………臭いはしませんね(^_^;)

 沈黙を破って千歳が呟いた。

 トランクは空気を抜き切っていない布団圧縮袋みたいなのに入って戻ってきた。

「臭いがうつらんためやろ」

「うつったら他の鑑識業務の妨げになるだろーね」

「アメリカで聞いたことあるわぁ、かつお節のパックが元らしいよ。匂いも風味も逃がさへんから車のガソリンタンクに応用されて、冷蔵庫のストックパックなんかにも使われてるんやて」

「そやけど邪魔やなあ」

 仮部室のタコ部屋は教室の半分もないのに、返って来たトランクはテーブルの半分を占領している。

「整理して収まるようにしましょうか」

 部屋の奥に積まれた荷物の山を指して、千歳が提案する。元々は生活指導の分室だが、その前はただの物置で荷物は捨ててもいいと演劇部に押し付けられている。

「整理すると、またゴミが出そうだけど」

「快適空間の確保が第一ですうー」

「せやなあ、くつろぎ空間の確保が第一やもんな」


「「「うん!」」」


 演劇部の主題は『心地よい高校生活』である。
 
 啓介は昼休みと放課後をウダウダ過ごすため。

 千歳はがんばったけど、やっぱり駄目だったというアリバイを作るため。

 須磨は六年間幽閉されている生活指導のタコ部屋から脱出するため。

 ミリーは解体されていく部室棟(ひい祖父さんの若き日の作品)を静かに観察するため。

 三者三様の動機であるが、真っ当な部活動などしたくもないけど快適な住空間が必要という点で一致している。
 
「でも、須磨先輩って、元々のタコ部屋にいるのに平気なんですか?」

 廊下に待機して、出てきたゴミの袋詰めをしながら千歳が聞く。

「うん、一人じゃないしね、それに指導されてここに居るんじゃなくて、自主的な部活だから、全然違うよ」

「わかるわかる! 授業中の教室はウットシイけど、昼休みとかは嬉しいもんねえ!」

「ミリーも日本人の感覚になってきたんやなー」

「啓介、そこは、もう一段積んで」

「あ、こう?」

「そう、そうしたら横が空くからトランク収まるよ」

「その横も詰めたら楽勝ですよ」

「あー、それて全面積み直しになる」

「そうだよね」

「このままいってしもてええんちゃうかなあ」

「「「うん」」」

 四人の意見が一致して、啓介は「んこらしょ!」とトランクを収めた。

「じゃ、ゴミ捨てに行こうか」

「千歳、いくつある?」

「四つです」

「じゃ、行ってしまおうか、グズグズしてたら雨降りそうや」

 千歳は車いすの膝の上に、三人はそれぞれ一袋を持ってゴミ捨て場に向かう。 グータラな演劇部だが、それなりの仲間意識が生まれて呼吸が合ってきたようだ。

「よし、ほんなら部室に帰ってお茶でもしよか!」

 四つのゴミ袋を所定のゴミ捨て位置に収め、四人は校舎の角を曲がった。

「あれ、なんだか騒々しいですよ」

 部室の有る校舎の方が騒がしい。

「なんだか、虫が湧いたときの感じ……」

 須磨の呟きに三人も嫌な予感がした。


「ちょっと、あんたたちぃーーーー!!」


 生徒会副会長の瀬戸内美晴が血相を変えて詰め寄って来た!
 



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局     


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