大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・049『妖怪くわせもの・1』

2024-05-28 10:07:14 | カントリーロード
くもやかし物語 2
049『妖怪くわせもの・1』 




 ガツガツガツ! ムシャムシャムシャ! ハグハグハグ!


 みんなの咀嚼する音が食堂中に満ちて、天井から吊るされた三つのシャンデリアさえも共振してチャラチャラと音をさせている。

 各自のテーブルには食べ終わった食器がアンコールワットのパゴダのように積み重なり、食べ終わった食器は命あるもののように自動的にパゴダの相応しい場所に収まって、同時にお代わりのトレーが現れる。

「みんな、そんなに食べたらお腹がパンクするよ!」

 わたしが叫ぶと、ほんの一瞬、みんなは目だけこっちに向ける。

 分かっているけど止められない! そんな感じのやら、恍惚となってるのやら、中には目も鼻も痕跡器官のようになって、顔中口になって朝食を放り込んでいるような者までいる。

 ムシャムシャムシャ! ハグハグハグ! やくもぉ……ムシャムシャムシャ! ハグハグハグ! やくもぉ ガツガツ! ムシャムシャ……

 咀嚼の合間にわたしを呼ぶ声。

 パゴダの隙間から見覚えのあるクセッ毛の頭が覗いている。

 ハイジだ!

 ハイジは顔のほとんどが口になってしまい、残った皮膚も赤黒くなってきて、緊急事態なことが分かる。このままじゃ、みんな大食死にしてしまう!

――ハイジの口を消してやれ――

 耳もとで声がした。

「え、だれ?」

 声のした右側を見るけど、誰もいない。

――ここだ、ここ、お前の耳だ――

 そう言われて触ってみると耳たぶの上に鉛筆が挟まれている。

「え、みちびき鉛筆!?」

 いつの間にと思ったけど、今はみんなを、ハイジを助けてやらなければならない。

 でも、どうやって、口を消すんだ?

――次のトレーが現れるのにコンマ5秒のタイムラグがある。その間、口は点のように小さく窄まる。そこを目がけて消してやるんだ――

「どうやって!? 消すものなんて持ってないよ! あんたは鉛筆だし!」

――おれの尻に消しゴムがついている――

「え?」

 触ってみると短い鉛筆のお尻はゴムになっている。

「よし、やってみる!」

 ピシュ!

 ハイジが食べ終わった瞬間を見計らって、逆さに持った鉛筆を横殴りにする。

 すると、ホクロほどに小さくなっていた口は一瞬で消えてしまい、次の瞬間、ハイジはバタリとテーブルに伏せて、伸ばした指がヒクヒク痙攣する。

「ハイジ!」

――大丈夫、すぐに元に戻る、それより大元の妖をやっつけるんだ――

「大元、どこに?」

――厨房だ――

 言われて厨房に目を向けるけど、パゴダの山に遮られて簡単には見えない。

――ジャンプしろ、このミチビキ鉛筆がついていれば、空だって飛べる――

「う、うん!」

 エイ!

 天井スレスレまでジャンプして……見えた!

 厨房に居るのはナリはいつものオバチャンだけど、顔はお化けピエロみたいなあやかしだった。

「退治してやる!」

 勢い込むと、お化けピエロは煙のようになって換気扇に吸い出されるようにして外に逃げて行ってしまった!

「待てえ!」

 反射的に追いかけると、わたしも換気扇に吸い込まれて、外に飛び出してしまったよ。



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)044・ブタまんは時空を超えて・1

2024-05-28 08:17:21 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
044・ブタまんは時空を超えて・1                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです






 一連の作業が終わると、嘘のように臭いが消えた。

 さすがは薬局と感心すると、引き換えに雨が降って来た。


「しもた、傘持ってくるのん忘れたなあ」

 薬品をしまうオヤジは手持無沙汰になってしまった。

「しばらく休んでいかはりませんか、通り雨みたいですし」

 スマホをしまいながら啓介が言う。天気予報を確認していたのだ。

「お掛けになってください、お茶を入れますから」

 器用に車いすを旋回させて千歳はコンロに向かう。狭い仮部室だが、車いすをうまく操り、ぶつけることもない。

「カップ洗ってきます」

「そうね、臭いとかついてるかもだもんね」

 須磨とミリーも機敏に動き出す。

 臭いを消してもらって有り難いという気持ちなのだが、ミイラを作ったというオヤジの話も気になる四人だ。

「せやなあ、ちょっと休ませてもらおか」

 やがてミリーが人数分のカップを洗い終えて戻って来る。その間に、啓介はテーブルを拭き、千歳は急須を温めてお茶ッパを入れ、ヤカンを引き継いだミリーはカップにお湯を注いでカップを温める。

「先輩は?」

「食堂に寄ってるよ」

「お茶入れまーす」

「手伝うね、啓介じゃま!」

「お、すまん」

 狭い部室でチマチマ立ち働く部員たち。段取りと活気の良さは、松竹新喜劇の幕開きのように小気味よく。なんだか嬉しくなるオヤジ。


「サービスしてもらっちゃった(^_^)」


 食堂から返って来た須磨が、雨から庇っていたものをドサリとテーブルに置いた。

「お、懐かしい、食堂特製のブタまんやなあ!」

「やっぱ、うちの卒業生だったんですか?」

「ハハ、もうバレてるわなあ」

「で、演劇部だったんですか?」

「そう、あの日もブタまん食べながらやったなあ……」


 オヤジは、ブタまんを手にしながら遠い目になっていった。


「あれは……文化祭が終わって間のないころやった」

 薬品をしまって、ブタまんの尻の紙を剥がしながらオヤジはポツリポツリ語り始めた。




☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ)
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