大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

勇者乙の天路歴程 020『角が引っ込んだ白兎』

2024-05-17 16:48:45 | 自己紹介
勇者路歴程

020『角が引っ込んだ白兎』 
 ※:勇者レベル4・一歩踏み出した勇者




「因幡の白兎って言えば、あの因幡の白兎なんだよね?」

「え……あ、そうです(”^▽^”)!」

 シュポン

 一瞬でとびきりの笑顔になったかと思うと、頭の角も引っ込んだ。

「え?」「ツノ?」

「え、あ、ちょっと最近疲れ気味でして、お恥ずかしながら耳の手入れが行き届きませんで二股に分かれてしまうことがあるんです。いえ、なに、すこしシャキッとしますと、このように元に戻りますんで。アハハ、お見苦しいものを見せてしまいました」

「で、課長代理さんなんですよね(^_^;)」

 めずらしそうに首をかしげるビクニ。

「あ、そうです女勇者さん。いやあ、管理職の端くれなんですが、実際はカスタマーサービスといいますかネゴシエーターと申しましょうか……」

「学校で言えば教頭か首席と言ったところかな」

「アハハ、まあ、そんな的な、みたいな、っぽい感じでしょうか?」

「なんだか、わたしたちのことを待っていたような……」

「あ、夢にアメノミナカヌシさまがお出ましになりまして。あ、アメノミナカヌシと申しますと……」

「知っているよ、この世に最初に現れた神さまだ」

「うんうん、たしか姿はないんですよね。すぐにカミムスビとタカムスビの神さまと入れ替わりになる」

 自分が居候している神さまなのでビクニも話が早い。

「そうですそうです。いやあ、近ごろではイザナギ・イザナミの神さまさえあやふやだって人もいますからね、ご奇特なことです。いや、そのアメノミナカヌシさまが『男女二人の勇者が現れて、そなたらの悩みを解決してくれるであろう』とお告げになったのです!」

「そなたら……というと、他にもお仲間がいるんですね!?」

 長年タカムスビの神のところで引きこもっていた反動で、新しい者との出会いが嬉しいようなビクニ……いや、もう一つの顔は少佐だからなぁ、油断はならない、ブリッコかもしれない。

「はい、わたしのボスはヤガミヒメさまです」

「「おお!」」

 予想はしていたが、実際にウサギからその名を聞くと胸がときめく。

 むかしむかし、因幡の気多の岬にヤガミヒメという美しい女神が居て、そのヤガミヒメを口説いて妻にしようと、八十神(ヤソガミ)という80人の男の神さまたちが口説きに行った。
 その途中でサメに皮を剥かれて泣いていたのが目の前の因幡の白兎。八十神たちは、でたらめな治療法を言って、白兎を死ぬような目に遭わせてからヤガミヒメにアタックして、全員がフラれてしまった。

 そのあと兄たちの大荷物を持たされて、末の弟の大国主がやってきて、正しい治療法を教えてやる。すると白兎は元の姿に戻ることができて、ヤガミヒメも大国主の求婚を受け入れてメデタシメデタシの大団円。

 つまり、白兎はヤガミヒメの使い魔みたいなもので、あらかじめ、男神たちの性根を調べるリトマス試験紙の役割を担っていた。

「それで、アメノミナカヌシさまは、お二人をボスのところにお連れするようにおっしゃっていたのです。勇者さま、ご案内しますので、ヤガミヒメさまにお会いになってください!」

「お、おお!」「はい!」

 八十神? 大国主? どちらの扱いを受けるのか、まあ、兎の事をイジメてもいないし、神話のノリのままヤガミヒメに会うことになった。

 
☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師 天路歴程の勇者
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 八百比丘尼      タカムスビノカミに身を寄せている半妖
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
  • 因幡の白兎課長代理   あやしいウサギ
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)033・タコ部屋の仮部室

2024-05-17 06:28:36 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
033・タコ部屋の仮部室                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです




 部室棟の取り壊しは撤回された。


 マシュー・オーエンの初期の作品でアメリカ建築史の上で大きな価値があることが分かったからだ。

 日本というのは外圧に弱い。外国とか国連とかの名前が付くと恐れ入ってしまう。啓介たちが頑張っただけでは、大阪府が一度決めた取り壊しは覆らなかっただろう。
 
 そしてもう一つ、これも外圧と言えるのかもしれない、ミリーの人気だ。

 伯父さん夫婦が部室棟の調査に来た時に撮った写真がSNSで評判になった。どうも須磨がコメントを付けてリツイートしたのが原因のようだが、評判が立ち始めると、須磨は削除してしまったので、ここまで人気が出てきた経緯は分からなくなってきた。


 世の中の不思議さを感じまくった一週間だった。


「タコ部屋が仮部室というのもいいですね~!」

 車いすを旋回させて千歳は喜んだ。

「ごめんね、掛け合ったのがあたしだったから、こんなとこで……」

 須磨は恐縮しながら荷物を整理している。須磨は、このタコ部屋から出るためだけに演劇部に入ったので、内心忸怩たるものがある。

「部室棟のクラブがみんな移動なんだから、一部屋丸々使えて御の字ですよ」

「そーですよ、なんか秘密基地みたいで、ワクワクしますよ」

「そう言ってもらえると救われるんだけど、この部屋は、あたしの黒歴史そのものだからね」

 部室棟は、日米の建築家たちと大阪府の役人とで調査され、緊急の害虫駆除と補強工事がされている。

 その間、部室棟のクラブは校内各所に臨時の部室があてがわれている。たいていは空き教室をパーテーションで区切っただけのものだ。和気あいあいと言えば聞こえはいいが、ようは雑居部屋。

 演劇部も空き教室になるはずだったが、演劇部と同居するのは、どこのクラブも嫌がった。

 そして、交渉に当たったのが須磨であったせいか、このタコ部屋が臨時に部室になったのだ。

「車いす通りにくくない?」

 タコ部屋は、元々の部室の半分もない。それに生活指導部の倉庫も兼ねているので荷物が多く、車いすでは厳しい狭さだ。

「いいですよ、入り口入って自分のポジションまでの動線は確保できてますから……それより、お茶にしましょう、紅茶とコーヒーどっちがいいですか?」

「千歳、道具一式持ってきたんか!?」

「ええ、昨日下見したら、コンロが使えるって分かったので、このコンロ、車いすの高さにピッタリなんですよ」

「それ、使ったことないよ、ちゃんと使える?」

「もちろん!」

 マチカチカチカチ……

 千歳がコックを回すと、せわしなく点火プラグが鳴る。

 ボン!

「わ!」「オオ!」「ビックリ!」
 
 長年使われていなかったコンロは、気合いを入れるように大きな音で火が付いた。

「ウッヒョー! エンジン始動やねえ(ᵔᗜᵔ*) !」

 三人はガスの点火よりもビックリした!

 開け放した窓に満面の笑みを浮かべてミリーが顔を覗かせていたのだ。
 

 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局     


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