大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

勇者乙の天路歴程 023『ヤガミヒメの境遇』

2024-05-31 11:53:38 | 自己紹介
勇者路歴程

023『ヤガミヒメの境遇』 
 ※:勇者レベル4・一歩踏み出した勇者




「ええと……いちおう確認しておきたいんですけどぉ」

「はい、なんでしょうか?」

「勇者乙さんは、わたしのことを、どの程度ご存知なんですか?」

「あ、はい……」

 ちょっと面映ゆい。

 神話世界の話は古希を迎えたわたしでも学校では習っていない。『因幡の白兎』程度のことは紙芝居やアニメなどで大方の日本人は知っているだろうが、それ以上のことはほんの断片的にしか知らない。それも、いろんな映画や小説、アニメなどで知ったもので、どこまで確かなものかは自信が無い。

 まして目の前で小首をかしげているのは本物の神話世界の神なんだ。例えば、プロの歌手の前で、その歌手の持ち歌を歌うようなもので、めちゃくちゃ緊張してしまう。

「あ、そうよね、緊張しちゃいますよね(^_^;)。じゃ、かいつまんで……分からないところとかがあったら、遠慮せずに聞いてくださいね。あなたたちもね」

「あ」「はい」

 白兎とビクニも返事して、ヤガミヒメの問わず語りが始まった。

「ええと……オオクニヌシ君が白兎を助けて、めでたく彼とわたしが結婚したところまでは……白兎に聞いて知っているのね」

「あ、はい、そうですが。ひょっとして、わたしの頭の中覗いてます?」

「アハハ、まあ、それは置いといて。ヌシクンはねえ……あ、結婚してからはヌシクンて呼んでたの。ヌシクンはねえ、気が多いと言うか節操がないというか、わたしと結婚した後も、あちこちふらついては彼女を作っちゃって……腰の落ち着かない男だったの。古事記や日本書紀に出てるだけで10人、あちこちの伝承まで入れたら100を超えるんじゃないかしら……ハァ~(*´Д`)」

 深いため息をついたかと思うと、頬杖付いたままドンヨリするヤガミヒメ。

「あ、姫さま、薬の時間でした!」

 パンパン

 白兎が手を叩くと、御簾のうしろからお盆に薬とコップの水を捧げ持った侍女が現れる。

「あ、またキミか……ええと……」

「はい、先週から入りましたスクナです、課長代理」

「新人さんに押し付けてぇ、ごめんね」

「あ、いえいえ(^_^;)」

「ごくろうさん、キミもこのあと上がっていいからね」

「はい、ではお薬を」

 侍女からお盆を受け取って姫に薬を飲ませる白兎。課長代理というよりは付き人、いやマネージャーという感じだ。侍女はやっと解放されたという感じで宮殿の裏口から退出していった。

「ええと、全部話してたら一年かかっちゃうから、いちばん問題なのを一つだけね。スセリヒメというのを知ってるかしら?」

「ええと……たしか大国主命の……正妻ですよね」

「ええ、最初の妻であるわたしを差し置いてね……」

「あ、歌を唄っていますね『八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣つくる その八重垣を 』って、めちゃくちゃ妻を愛して大事にするって意味で……」

「あ、それは素戔嗚尊(スサノオノミコト)、クシナダヒメをお嫁さんにした時、感激のあまり詠った歌よ」

「ああ、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)やっつけた後でしたからね、感激もひとしおだったんですよ」

 白兎が付け加える。

「ああ、失礼しました(;'∀')」

「先生、汗が……」

 ビクニが静岡あやねのノリでハンカチを渡してくれる。

「いえ、いいんです。教科書にも載っていませんからね……というか、その素戔嗚尊の情熱を結実させたのが、ヌシクンの正妻のスセリヒメ」

「スセリヒメは素戔嗚尊の娘なんですよ」

「え、ちょっと待って、大国主は素戔嗚尊の七代目かの子孫のはず?」

「いや、そこなんですよ」

 白兎とビクニの議論になりそうなのを手で制するヤガミヒメ。

「ここは、わたしが」

「姫さま……」

「ここなのよ、素戔嗚尊の七代目子孫のヌシクンと二代目のスセリヒメが結婚ておかしいでしょ? ヌシクンにとってスセリヒメは腹違いだけどヒイヒイヒイヒイヒイお婆ちゃんになるのよ! あり得ないでしょ!」

「え、そうだったっけ」

 タカムスビノカミが設定してくれたインタフェイスを開いてググってみる。

「……ほんとうだ」

 大国主は七代目の子孫で、スセリヒメの母親については不明だが、素戔嗚尊の娘になっている。人間で言えば令和の男が江戸時代にタイムリープしてご先祖の女性と結婚するようなものだ( ゚Д゚)!

「まあ、こういうところがこの世界の歪みの元になっているわけ……それで、その歪みを勇者乙さんに正してもらいたいの」

「あ、はあ、それはタカムスビノカミさんからも頼まれていますから」

「まあ、こちらの世界にやってきたばかりでしょうから、しばらくは休んでくださいな。この巨木の森に居る限りは安全ですから」

 え、さっきまでヤガミヒメ隠れていなかったっけ?

「ま、大したことは起らないから、ましてあなたは勇者です。なにも起きません……」

 ギギギギ……グニャリ! ベコン!!

 なんだか凄く不快な音がして平衡感覚が狂う。

「あ、歪が森にまで!」

「裏口が開いているわよ!」

「あ、さっきの侍女が締め忘れたんですよ!」

「わたしの気弱さが漏れ出てしまって、矛盾が一気に……」

「すみません勇者乙さん、一刻の猶予もありません! すぐに旅立ってください! お願いします!」

 白兎がめを真っ赤にして懇願する!

 ビョオオオオオオ!

 ウワアアアアアア!

 宮殿の中にまで風が入って来て、あっと言う間に裏口から吸い出されてしまった。

 
☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師 天路歴程の勇者
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 八百比丘尼      タカムスビノカミに身を寄せている半妖
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
  • ヤガミヒメ      大国主の最初の妻 白兎のボス
  • スクナ        ヤガミヒメの新米侍女
  • 因幡の白兎課長代理   あやしいウサギ


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REオフステージ(惣堀高校演劇部)047・エリ-ゼのために・2

2024-05-31 07:05:57 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
047・エリ-ゼのために・2                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 お茶を飲み終えるとなんだか恥ずかしくなってきた。


「あ、いやぁ、しょーもない話してしもたなあ」

「そんなことないですよ」

 交換留学生らしいブロンドの女の子が柔らかく言ってくれる。

「タイトルの『エリーゼ』と転校生の三宅エリ-ゼさんが重なったんですよね」

「それで脚本も一気に書き上げ、お人形もできたんですよね」

「うん、まあ、そうやねんけどな。谷口は書きあぐねてしまいよってな……ま、僕の人形の方が先に出来てしもた」

「うまく行かなくなったんですね、人形のイメージが先行してしまって」

 年かさの子が核心をついてきた。

「ああ、そうやねん……ごめん、もう一杯もらえるやろか」

「あ、はい」

 車いすの子がトレーで受けてくれ、お茶を淹れなおしてくれる。

「ごめん、出がらしでよかったのに」

「いえ、わたしたちもお茶にしたかったですから」
 
 お茶が飲みたかったわけではない、話を整理したかった。同じ空堀高校の生徒ではあるが、この四人は四十三年後の高校生だ……ふさわしい話し方をしなければならない。


「そんで、谷口は三宅エリ-ゼと付き合い始めよった」

「うわー!」「おー!」「あらあ!」

「チ!」

 歓声が三つと舌打ちが起った。

「あのころは、演劇部で台本書きいうと、ちょっとかっこよかった。オタクやいうて差別されることもなかったからね」

「本は書きあがったんですか?」

「……結果的には書きあがらへんかった。谷口も本書くことより、エリーゼと付き合うことに熱中し出してね」

「ハアァ……リア充って、そんなもんですよね」

 年かさがため息をつく。舌打ちは、この子やろなあ。

「ぼくらも本に注文つけ過ぎたんやけどね。注文とか変更は人形にも回ってきてね、あれこれ手を加えてるうちに……なんやグロテスクなもんになってしもてね。ヤケクソの大変更になった」

「大変更ですか?」

「うん、わやくそになってエリ-ゼが腐ってしまう話になったんや。あ、もちろんお話やから、比喩としてね」

「船頭多くして船山に上るというやつですね」

「うん、最後は、舞台に載せた時に腐敗臭がしたらおもしろいいうことで、スルメやらの干物使うて臭い出る仕掛けにしたんや」

「「「「あーーーそれで!」」」」

 四人はトランクに仕舞ったミイラに目を向けた。

「年月が経って、ほんまの腐敗臭になってしもたけどね。まあ、あのころもたいがいの臭いやったけどね」

「「「「アハハハハ」」」」

 四人は明るく笑ってくれる。屈託のない笑い声は若さだろう。まことに羨ましい。


 そのときトントンとドアがノックされた。


「はい」

 ブロンドの子が応対に出る。

「すみませーん、薬局の……あ、あんた。根ぇ生やしてしもて、傘持ってきたげたよ」

「あ、すまんエリーゼ」

 瞬間、空気が固まった。

「もういややわ、昔の言い方して」

「あの、エリーゼ?」

「いえいえ、この人のてんご。お話のケリついたら、はよ帰ってきなはれや」

 それだけ言うと、我が老妻にして薬局の看板ばばあは一足先に帰っていった。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

 


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