大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 184『霊柩の到着』

2024-05-29 17:16:51 | ノベル2
ら 信長転生記
184『霊柩の到着』信長 




 曹素は曹一族のシンボルカラーである黒の軍旗に包まれて戻ってきた。


 水難救助出動中の不慮の事故であるために、柩車など間に合うはずもなく、荷車の荷台にそのまま載せられている。

 せめて魏王弟である徴に荷車の前後に軍旗が立てられている。

 三尺四方の軍旗には曹素の『素』の字が標され、標を曹に入れ替えればそのまま兄の曹操の軍旗になる。

 霊柩は前後に十騎、横に二騎の騎兵が寄り添う。羅城門を潜ると、そのまま曹操と茶姫、救難隊に加わった各級将軍、指揮官。救助された者たちのうち比較的元気な者も後列に並んでいる。

 やがて霊柩は内城前の広場に停まり、前後の車輪に車止めが噛まされた。

 曹操が手を上げると、霊柩の列が見えたころから奏でられていた迎霊の太鼓が鳴りやんだ。

 ゆっくりと手を下ろした曹操は霊柩を見つめたままズンズン近づいていき、曹素をくるんでいる軍旗の顔の部分だけを解き、じっと弟の亡骸を見つめる。

「弟、曹素の幕僚並びに、その部下たちに感謝する。困難な救難作業の中、骸になったとは云え、こんなに綺麗なまま連れ戻ってくれた」

 ザザ!

 曹素の部下たちが一斉に踵を慣らして姿勢を正す。

「曹素……弟よ、よくぞ、よくぞ、今までこの愚かな兄のために東奔西走してくれた。翻弄させるばかりであったが、よくぞ、ここまでこの兄と魏のために尽くしてくれた! 働いてくれた! 父よ! 母よ! 曹一族の祖霊たちよ! ここに謹んで我が弟曹素の霊を返します、どうか、慈しみの心をもって弟を迎えてやってください!」

 そこまで一気に言うと、曹操は両手を広げ天を仰いで慟哭した。

 ウオオオオオオ

 それをきっかけに、救難隊や部下たちも俯き、あるいは主同様に天を仰いで慟哭の涙を流し、茶姫は曹操の斜め後ろに寄り添う。

 青ざめてはいるが、兄曹操のように慟哭はしない。


 俺の横で手を合わせている三蔵法師の呟きが聞こえてきた。

 むろん声には出ずに、直接に頭の中に入ってくる。三蔵法師の声色ではなくて、本性の一言主の声でな。

――曹素のやつ、いろいろと戸惑っておるようじゃ――

 ほう……

 三蔵法師が念仏の手を小さくすり合わせると、俺にもその死者の声が聞こえてきたぞ……。

 

☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
  

 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)045・ブタまんは時空を超えて・2

2024-05-29 08:43:00 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
045・ブタまんは時空を超えて・2                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 四十年……四十三年前のあの日……今日と同じようにブタまんを食べながら雨が止むのを待ってたんや。


 遠い目をしてハイス薬局のオヤジは語りだした。


「どや、完璧な出来やぞ!」

 ドアを開けると『8時だヨ!全員集合!』のコントのように薬局が吠えた。

「ハーーー薬局、先走りし過ぎやぞ」

 部長の谷口はため息をつきながら目を上げた。ただでも進まない台本書きを中断させられて機嫌が悪い。

 谷口の机の周りは書き損じの原稿用紙が散らばり、一年生部員たちが書き損じと書きあがった原稿を区別しながら整理している。
 二十一世紀の今ならパソコンでいくらでも書き直しができるが、ようやくワープロが世に出始めた時期で、高校生の俺たちは原稿用紙。それも、更紙に印刷した超安物を使っていた。

 部員たちの前には乾いたブタまんの敷紙がそっくり返り、待ち時間が長かったことを示している。

 ドサ

 家業そのままに薬局と呼ばれる俺は、その敷紙やらスナック菓子の残骸を蹴散らして大きな寝袋のようなのを置いた。

「やっぱ人形使うのん?」

 書きあがった原稿は利根芳子がファックス原紙に清書している。

「幕開いたときのインパクトがちがうやろ、エリ-ゼは目に見える形で観客に提示した方が、絶対にええ!」

「主人公の恋はプラトニックなもんやねんから、人形いうのは……なんちゅうか……」

「なんやねん谷口、書き上げん前からショボイため息ついとったらあかんで」

「そやけど、人形使うんやったら、エリ-ゼの魅力が出てるもんやないと、かえってマイナスやで」

「おまえは、俺の腕を見くびってるやろーーーーー!」

 ヂヂヂヂーーーーー!

 勢いをつけ袋のファスナーを開けると、それを取り出した。

「「「「「オオーーーー!」」」」」

 部室のみんながどよめいた。谷口は、放課後一度も手放さなかった万年筆をポトリと落とした。

「まるで生きてるみたいじゃない……え、お、う……」

 利根芳子はビックリした一呼吸あと、口ごもって息が停まってしまった。

「すごい……」

「だ、脱帽だ」

「こないだ『8時だヨ!全員集合!』で、大根と志村けんソックリの人形の首をギロチンにかけるコントやってたやろ」

「ああ」「見た見た」「あったあった」「リアルでグロイて批判されてた」

「え、この人形も首落すん!?」

 芳子が真顔で嫌な顔しよる。

「それはさすがになあ」

「リアルやけど……なにでできてんねん?」

 原稿用紙をほっぽらかして谷口が聞く。

「美容整形で使うシリコンを試してみたんや」

「さすが、薬局」

「触ってもええ?」

「ああ、そっとな」

 芳子がそっと人形の頬に触れる。フニっと触れたところが沈んで、芳子も部員たちもさらに感動した。

「先輩、いいですか」

 一年生がことわって芳子の頬に触れた手で人形の頬に触れる。

「先輩よりもシットリしてるかも……」

 普段なら張り倒す芳子だが、あまりの感動に言葉も出ない。

「こ、これ、全身がシリコンなんかぁ……?」

「もう、エッチ!」「キャー」

 谷口が定規の端で人形のスカートをめくり、女子たちの顰蹙をかう。

「見えへんとこは発泡スチロールや」

「なるほど」

「これ……だれかに似てるなあ」
 
 腕組みした谷口が呟くと、ほかの部員たちも腕組みしたり顎に手を当てたりして人形の顔を見つめる。

「「「「「…………アッ!」」」」」

 一同の声が揃った。

「え、あ、なんやねん!」

「薬局、これ二組の転校生にそっくりや」

「え…………あ!?」

 谷口の指摘に初めて思い至り、壊れた信号機のように顔色を変える四十三年前の俺であった。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ)


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