大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

勇者乙の天路歴程 018『手応えが無い』

2024-05-04 11:41:51 | 自己紹介
勇者路歴程

018『手応えが無い』 
 ※:勇者レベル4・一歩踏み出した勇者




 落ちたところにも手応えが無い。

 磁石の同極同士が反発し合うような感じでバウンドし、数回上下に揺れてから制止した。

「うぉっと(;'∀')」

 膝を立てて立ち上がろうとするが、目に見えないスポンジを踏んでいるように落ち着かない。

――ジョウゲ ノ クベツシカナイ ヘタニウゴクナ――

「あ、ああ……で……次に何をすればいい?」

――トリアエズ クウキ サンソ ダ――

「酸素からかぁ……」

――ハヤクシロ ボンベ ハ ノコリ ジュップンホド――

「10ッ分!?」

 酸素なんて、どうやって作るんだ……小学校でやった水の電気分解しか知らないぞ。だいいち、ここには水も存在しないんだからな。

――マワリヲミロ――

 え?

 見渡すと、四方から無数のシミが現れたかと思うと、数秒で数字と大文字小文字のアルファベットになって、わたしの周囲を取り囲んだ。

「え……」

――ハヤクシロ――

「え……あ……ひょっとして……」

 手近に漂っていた『O』を二つ掴まえて並べてみる。酸素の化学式はO2だ。

 ……が、なにも起こらない。

――ソレハ『オー』デハナクテ『ゼロ』ダ――

「あ、そうか(^_^;)」

 なるほど、よく見ると『O』と『0』を並べて見ると全然違う。気を取り直して『0』と『O』を置き換える。

 ユラユラ……

 置き換わったO2はユラユラ揺れて姿を消し、とたんに露出した手足の肌感覚が楽になる。

 そうか、皮膚呼吸もしてるからなあ。

――ツギハ ミズ ダ――

「お、おお」

『H』の横に『O』を二個付ける。

 H2O

 ユラユラ揺れると、フワリと霧散して空気に潤いが混ざる。とりあえず水蒸気になったようだ。ボンベを外しても楽に呼吸ができる。

――ツギハ タンソ ト チッソ――

「分かった」

 Cを二つ並べる……くっつくこともなく、フワフワ漂ってしまう。

――タンソハ イッコデイイ――

 え、あ、そうだったか。化学は苦手だったからなあ。

 Cを一つ目の前に据えると、ピタリと動きを止め、すぐに消えた。

 次は窒素、ええと…スイヘーリーベー……中学以来のお呪いを思い出しN2に思い至る。

 N2……プルプル震えると消えて、空間に活気が現れたような気がした。

――ツギニ……――

「待ってくれ、ひょっとして、全ての物質の化学式を思い出せって言うのか?」

――アトハ シゼンニ カッセイカ スル メヲツブレ――

「あ、ああ……」

 目をつぶると、今までにない振動が起こって遊園地のエアハウスで転がっているようになる……数十回バウンドすると、突然ドサッという感触を背中に受けて制止する。

 柔道の授業で受け身もろくにできないまま投げ飛ばされた時のように息ができない。

 ウ……グググ……

 目を開けると、青い空に雲が流れ、どこかで鳥のさえずりがして、露出した手足や頬にトゲトゲの草が触れる。

「大丈夫ですか、先生?」

 覗き込んだ顔は静岡あやね……いや、あやねの姿形をしたビクニだった。

 


☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師 天路歴程の勇者
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 八百比丘尼      タカムスビノカミに身を寄せている半妖
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒

 

 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)020・吼える超留年生!

2024-05-04 07:07:23 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
020・吼える超留年生!                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです





 須磨の姿が二回りほど大きく見えた。


 啓介はアクション映画で、こんなシュチュエーションがあったような気がしたが、タイトルは思い出せない。
 その映画では、次の瞬間に部屋に居た者は女が持っていたマシンガンで皆殺しになった。

「部員が5人以上いなければ部活としては認めない……いったい、いつの規約よ!?」

 書記の眼鏡少女が律儀に生徒手帳を繰り始めた。

「……昭和21年に新制高校に移行したときに、生徒会規約第28条第3項として作られました」

「そうね、日本国憲法と同じくらい古いのよ」

「それがなにか? 古いからダメと言うんじゃ話にならないわ」

「そうね……でも、考えてみてよ。その時代って生徒数は今の倍よ、ざっと1300。今は580あまりしかいないわ。1300で5人が存立条件なら、580では3人が順当な水準じゃないかしら。国会議員の定数配置だって見直されているわ、生徒定数を頭に入れないで存立条件を70年にわたって放置してきたのは怠慢じゃないかしら」

 ウ……(;'∀')(-_-;)(;'〇')(;'▢')(;'△')(;'▭')

 生徒会役員たちが顧問の松平とともに息をのんだ。

「松平先生が支持してらっしゃる政党は、議員定数改善の急先鋒でしょ、足元の生徒会の規約をほったらかしにしているのは本末転倒じゃないでしょうか」

「ウグ……」

「以上のことは、学校名を伏せた上でSNSに挙げて置いたわ。演劇部はこのまま部室を使用する。いいわね」

「待って!」

 美晴が手を広げ、須磨たちの前に立ちふさがった。

「なによ」

「たとえ理屈がそうであっても、規約は規約。守ってもらうわ」

「リスクを考えなさいよ、追い出されたら黙ってはいないわよ。全校生徒にこのことを訴えかけていくわ、同時にネットを通じて同じような目に遭っている日本中のクラブにも働きかける」

「そ、そこまでしなくても。な、瀬戸内もぉ……」

 松平が割って入った。

「先生!」

「これ以上言うのなら弁護士に入ってもらいます。本気です……伊達に6回目の3年生をやってないわ」

「「「「「「「……………」」」」」」」」

「じゃ、行こうか小山内君。最後は君が締めてよ、部長なんだからさ」

「えと……今のが演劇部としての申し入れです。えと……きちんと規約が改正されるまでは、現状のまま部室を使います」


 演劇部の3人は、揚々と部室に引き上げて行った。


 
☆彡 主な登場人物
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)


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