大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 182『曹操の救助活動』

2024-05-19 15:18:18 | ノベル2
ら 信長転生記
182『曹操の救助活動』書籍範 




 曹操さまが引き連れてこられたのは三千あまりの工兵部隊。

 救助用のロープや分解した簡易筏などを肩に掛けたり馬の背に括り付けたりしている者、とりあえず身一つで馬に乗ってきた者、中には赤壁で見た工事関係者の作業服を着た者も混じっている。

 三合の河原に大事が起こる予想をたて、とる者も取りあえず駆けつけたというありさまだ。

 オオオオオオオオオオオ……

 三千のどよめきが満ちる。

 あまりに悲惨な状況に、すぐには行動を起こせないでいる。

 先頭に馬を立てた曹操さまも馬上にうな垂れること数瞬。慙愧に耐えられぬというように鞍壺をお叩きになられ、心配した副官が傍に寄る。

 すると、すぐに身を起こされ、三千の工兵部隊に下知される。

 オオ!!

 垂れ込む雨雲に三千の諾の声が木霊す。

 工兵部隊は、それぞれの指揮官の下知で三隊に分かれ、二隊は川に進み入って、ロープを投げ入れる。ロープの先には木の端切れが結び付けられ沈まないようにできている。その数は千余り、残りの千は川中に馬を入れ、馬の脚が付く限りのところで人々の救助にあたる。

 残る一隊は四つに分かれ、四つの微高地に向かい、避難した人たちを励まし、また、直前で力尽き溺れそうになる者たちを励まし救い上げていく。

 微高地にたどり着いた者は一万あまり、曹操さまの救助部隊にホッと息をついているのがここからでも分かる。

 しかし、川の方は地獄の有様だ。

 千のロープの内、溺れかけている者がたどり着けたのは半分ほど、残り半分は虚しく手繰り寄せられ、再び川の中に投ぜられる。

 ロープにたどり着けた者も、手繰り寄せるうちに力尽きて再び水中に没する者がいる。親は子に、子は親に、夫は妻に譲り合い、助かる者、そろって波にのまれる者。老人は没する寸前に手を合わせ仏の名を唱える、わずか三日余りの説法会ではあるが、真に仏の道を悟ったのだろうが、あまりにも儚い。

 兵の中には、見かねて身一つで川に飛び込む者も居て、それによって救われる命も有れば、その尊い義侠心もろとも川に呑み込まれる者もいる。

 ……!!

 指揮官が叫んでいる。おそらくは「無駄に川に飛び込むな! 救える者を救え!」と言っているのだろう。

 老生も今少し若ければ、あの兵たちに混じって、せめて一人二人なりとも救えるものをと唇を噛む。

 そ、そうだ、大橋さま!?

 馬の足元に気を付け、小手をかざして四つの微高地を探る。

 一つ目で三蔵法師様を見つける。

 人々が三蔵法師さまを取り巻き手を合わせ、互いに励まし、人々の無事を祈っている。その周囲に三人のお弟子の姿は見えない。お三方とも妖術をお使いになる。きっとあちこちで救助の列に加わっておられるのだろう。

 ドドドドドド……!

 西から馬蹄の響き、振り向くと魏の騎兵部隊が泥をはね上げながら駆けてくる。

 初動部隊には間に合わなかったが、曹操さま自ら出向かれたのを知り、赤壁や、洛陽から駆けつけてきたんだ。

 気づいた曹操さまは、馬の背に立たれ、手旗をもって配置を下知される。

 その数、五千余り、忽ちのうちに人手の不足しているところを見つけて駆けつける。

 これが救助ではなく戦場であれば、緊急展開して敵の出鼻をくじいて勝利をもたらしたではあろう。質量ともに充実した魏の軍勢ならばそうなる。

 しかし、相手は人ならぬ長江の濁流……おそらく、助かった者は半ばに満たないだろう。

 大橋さまのお姿は、残り二つの微高地にも見えなかった。

 残る一つの微高地に目を移した……。



 
☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)035・ミリーの下宿

2024-05-19 06:41:50 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
035・ミリーの下宿                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです




 パキパキ ペシペシ グシャグシャ パキンポキン

 ママさんは今日がプラゴミの回収日だと気づき、慌ててプラゴミをまとめている。

 バサバサ パラ

 パパさんは新聞を広げ仕事仲間やお客さんとの会話のネタを仕入れている。

 千代子と雄太(千代子の弟)はスマホをスクロール。時どきため息をついたり気合いが入ったり。千代子はSNS、雄太は新しいステージに入ったスマホゲームに夢中。

 お婆ちゃんは自分専用のスピーカーをテーブルに置いて、お茶を飲みながらテレビのワイドショーを見ている。こないだは唐十郎が亡くなって落ち込んでいたけど、今朝は選挙妨害やった男たちが捕まって喜んでる。

 てんでバラバラなことをやってるんだけど、この家は朝食は必ず家族そろってテーブルにつく。

 ミリーは、こういう渡辺家が好きだ。バラバラでいながら衣食住の大事なところではみんないっしょ。中学で終わるはずだった留学を延長しているのは、自分の家があるシカゴがムチャクチャなことと、この渡辺家の居心地の良さがあるからだ。

「今朝のスマホは長かったなあ(´¬_¬) 」

 地下鉄の駅に向かいながらカマをかけるミリー。

「え(;'∀')!?」

 ワタワタした笑顔を向けて「アハハハ」と顔を赤くする千代子。

 千代子は彼が出来たようで、スマホでチェックしているのは彼からのメールばかり。もともと朝食でのメールチェックは千代子の日課だけど、メールの相手が彼だと気づいているのは下宿人のミリーとテレビ見たふりしてるお婆ちゃん。

「ミリー、気ぃついてたん(^_^;)」

「うん、隣に座ってるし、微妙にパパさんママさんから見えへんように画面傾けてるやろ、あたしからは丸見えやねんでえ」

「あ、えと、内緒、内緒ね」

「分かってるてぇ」

 ちょっぴりシャクな千代子。どこかで仕返しと思ったら、すぐに目に飛び込んできた。

「あれえ?」

 コンビニの前で立ち止まる千代子。

「なに?」

「昨日までは、ミリーのこと見てる男の子らがおったんやけど」

「え、そんなんおったん!?」

「うん、惣堀の部室棟のことでネットとかに載ったやんか、先週は新聞にも載ったし、あれから密かに注目されてたんやで、ミリー」

「え、そんなん、言うてくれやなら!」

「ハハ、そんなガッツかんでも、ミリーはモテモテやろ~し」

「いやあ、そんなことあれへんし!」

 演劇部の三人が頭に浮かんだ。まあ、員数合わせの点では喜んでくれた。

 千代子と別れた電車の中でスマホをチェックしてみた。

――アクセス頭打ちにになってきたなあ――
 
 部室棟のことで先週までは、ちょっとしたアイドルという感じだったが、世間は急速に感心を失ってきているようだ。

――まあ、こんなもんやねんやろけど、ちょっと早すぎひん?――

 改札を出て商店街、佃煮屋の植え込みのアジサイが目についた。

 昨日まで青っぽかったアジサイは赤っぽく色を変えはじめている。

 季節の移ろいは早いもんだ。

 さて、こんどはどんな面白いことがあるんだろうと思う在留5年目のミリーであった。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局     

 

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