鳴かぬなら 信長転生記
曹操さまが引き連れてこられたのは三千あまりの工兵部隊。
救助用のロープや分解した簡易筏などを肩に掛けたり馬の背に括り付けたりしている者、とりあえず身一つで馬に乗ってきた者、中には赤壁で見た工事関係者の作業服を着た者も混じっている。
三合の河原に大事が起こる予想をたて、とる者も取りあえず駆けつけたというありさまだ。
オオオオオオオオオオオ……
三千のどよめきが満ちる。
あまりに悲惨な状況に、すぐには行動を起こせないでいる。
先頭に馬を立てた曹操さまも馬上にうな垂れること数瞬。慙愧に耐えられぬというように鞍壺をお叩きになられ、心配した副官が傍に寄る。
すると、すぐに身を起こされ、三千の工兵部隊に下知される。
オオ!!
垂れ込む雨雲に三千の諾の声が木霊す。
工兵部隊は、それぞれの指揮官の下知で三隊に分かれ、二隊は川に進み入って、ロープを投げ入れる。ロープの先には木の端切れが結び付けられ沈まないようにできている。その数は千余り、残りの千は川中に馬を入れ、馬の脚が付く限りのところで人々の救助にあたる。
残る一隊は四つに分かれ、四つの微高地に向かい、避難した人たちを励まし、また、直前で力尽き溺れそうになる者たちを励まし救い上げていく。
微高地にたどり着いた者は一万あまり、曹操さまの救助部隊にホッと息をついているのがここからでも分かる。
しかし、川の方は地獄の有様だ。
千のロープの内、溺れかけている者がたどり着けたのは半分ほど、残り半分は虚しく手繰り寄せられ、再び川の中に投ぜられる。
ロープにたどり着けた者も、手繰り寄せるうちに力尽きて再び水中に没する者がいる。親は子に、子は親に、夫は妻に譲り合い、助かる者、そろって波にのまれる者。老人は没する寸前に手を合わせ仏の名を唱える、わずか三日余りの説法会ではあるが、真に仏の道を悟ったのだろうが、あまりにも儚い。
兵の中には、見かねて身一つで川に飛び込む者も居て、それによって救われる命も有れば、その尊い義侠心もろとも川に呑み込まれる者もいる。
……!!
指揮官が叫んでいる。おそらくは「無駄に川に飛び込むな! 救える者を救え!」と言っているのだろう。
老生も今少し若ければ、あの兵たちに混じって、せめて一人二人なりとも救えるものをと唇を噛む。
そ、そうだ、大橋さま!?
馬の足元に気を付け、小手をかざして四つの微高地を探る。
一つ目で三蔵法師様を見つける。
人々が三蔵法師さまを取り巻き手を合わせ、互いに励まし、人々の無事を祈っている。その周囲に三人のお弟子の姿は見えない。お三方とも妖術をお使いになる。きっとあちこちで救助の列に加わっておられるのだろう。
ドドドドドド……!
西から馬蹄の響き、振り向くと魏の騎兵部隊が泥をはね上げながら駆けてくる。
初動部隊には間に合わなかったが、曹操さま自ら出向かれたのを知り、赤壁や、洛陽から駆けつけてきたんだ。
気づいた曹操さまは、馬の背に立たれ、手旗をもって配置を下知される。
その数、五千余り、忽ちのうちに人手の不足しているところを見つけて駆けつける。
これが救助ではなく戦場であれば、緊急展開して敵の出鼻をくじいて勝利をもたらしたではあろう。質量ともに充実した魏の軍勢ならばそうなる。
しかし、相手は人ならぬ長江の濁流……おそらく、助かった者は半ばに満たないだろう。
大橋さまのお姿は、残り二つの微高地にも見えなかった。
残る一つの微高地に目を移した……。
☆彡 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
- 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
- 古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
- 宮本 武蔵 孤高の剣聖
- 二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
- 雑賀 孫一 クラスメート
- 松平 元康 クラスメート 後の徳川家康
- リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
- 今川 義元 学院生徒会長
- 坂本 乙女 学園生徒会長
- 曹茶姫 魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
- 諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
- 大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
- 孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟
- 天照大神 御山の御祭神 弟に素戔嗚 部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主