大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・045『寝物語』

2024-05-05 15:55:41 | カントリーロード
くもやかし物語 2
045『寝物語』 





「ツボルフというのは、エルフの王族のことなんだ」


 部屋の明かりを消そうと思ったら、組んだ腕を枕にしたネルがポツリという。

 起きて聞くべきかと思ったけど、そのままベッドに入って同じように天井を見る。部屋の明かりは薄オレンジの常夜灯。

「お名前に『フォン』が付いてたから、貴族階級だとは思ってたけど」

「辺境伯って言うんだ、むかしむかし、都を離れて蛮族との境目に領地を持って国の守りを引き受ける代わりに、ほかの王族や貴族には無い強い力を与えられている。お父さんは跡継ぎだったんだけどね、お母さんと結婚したから当主の継承権を失ったんだ……だから、お祖父ちゃん、あの歳でも現役」

「エルフって、長生きなんだよね」

 いま流行のエルフのアニメ、主人公は軽く1000歳を超えるエルフの魔法使いだ。

「うん、アニメほどじゃないけど、人の十倍は生きる」

 ちょっと考えた。

「ということは……」

「あたしは掛け値なしの十七歳さ」

「そのう……」

「なに?」

「ネルって、ワケありっぽいからさ……」

「なんだ、遠慮してたのか?」

「あ、ううん……そういうことは相手が話さないかぎり触れるもんじゃないと思ってたから」

「そっか……じゃあ、独り言だと思ってくれていい」

「う、うん……」

「お母さんは普通の人間なんだ」

「え、そうなの?」

 生粋のエルフだと思ってたよ。

 背は高いし、耳も立派にピンと張ってるし、運動神経はいいし、美人でスタイルもめちゃくちゃいいし。

「お父さんは、人間と結婚した罰で討伐隊に出されて、あたしは、小さいころから白い目で見られるし……ずっとお祖母ちゃん、お母さんのお母さんとこで暮らしてた」

「差別とかされたんだ……」

「まあね……でも、無理はないとも思ってる」

「どうして、差別はいけないことなんだよぉ」

 思わず起き上がってしまった。

「フフ、だってさ、人間はエルフの1/10以下しか寿命が無いんだよ。エルフは1000年以上生きるからね。歳をとれば体力も判断力も落ちるし、いっしょに生きるのはむつかしい『ちょっと旅に出る』って言って、50年100年戻ってこないなんて普通だからね。まして辺境伯って領主だからね、御領主さまが、何十年の単位でしか領主の地位にとどまっていられなかったら領地の支配なんて任されないからね」

「でも、お父さんは……」

「人と交わるとエルフの寿命も縮んでしまう……って言われてる」

「え、そうなの?」

「うん、伝説も含めるといくつか前例があるんだけど、普通以上に生きた例は無い。だからね、放り出されるか放り出される前に自分から出ていくしかない」

「じゃ、ネルがうちの学校に来たっていうのも……」

「そればっかりじゃないけど……エルフの女って、17歳ぐらいの状態で1000年以上生きるんだ。だからさ、5年とか10年で変わってしまうのは、ちょっと辛くってさ……そういうのを周りから見られてるって、もっと辛くってさ、まあ、逃げて来たってとこ」

「そうなんだ」

 ……そこまで話すと言葉が無くなった。

 肝心なことを聞いてない気がするんだけど、ちょっと踏み込む勇気が無いよ。

 でも、ここまで聞いて終わりにしたら、ちょっと薄情な気もする。

 エルフの辺境伯……ただの王族、貴族じゃなくて力がありそう……その孫娘……人とエルフのハーフだから、寿命はたぶん人間並み。
 
 でも……ひょっとしたら長生きかも……仲間のエルフがネルを見る目……生まれたのはネルが選んだことじゃない……だけど、ご領主さまの孫娘、きちんと聞いていないけど、まだ正式な後継ぎとかは決まってない感じがする……。

 ナザニエル卿は結界を張るために来たって言ってるけど、だったら、なんで、露天風呂で待ち伏せとかして……話をするんだったら、もっと他に方法はあったと思うよ……たしかに、あやかしとか出てるんだったら、やっつける必要あるんだろうけどさ……。

 そうだ、まずはあやかしだ。

「ねえ、ネル……」

 ………………。

 体を捻って隣のベッドを見ると、肝心の本人は美しい横顔を見せて寝息を立てていたよ。


 
☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名
  
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)021・カラオケで凱歌を上げる!

2024-05-05 06:56:37 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
021・カラオケで凱歌を上げる!                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです




 たいていの学校がクラブの存立要件を部員5人以上としている。

 でも、この「5人以上」というのは全校生が1300人もいた大昔の話で、半数ほどに減ってしまった今日では厳しすぎる。3人で部活成立と認めるべきだ!

 ここに着目して一大演説をぶちあげ、生徒会を凹ましてしまった松井須磨。

 たいしたものだと、啓介も千歳も感心した。


「……でも、これが、あの須磨先輩なの?」


 そうこぼしてしまうほど、須磨の寝姿は無防備でだらしない。

「あ、また……」

 持ったマイクをテーブルに置いて、啓介は寝返りで落ちてしまったブレザーを、須磨の下半身にかけてやった。

 あれから演劇部の3人は、近所のカラオケにくり出して凱歌を上げた。

 所属する目的は三者三様。共通しているのは演劇などには何の関心もないこと。その3人の意見が一致して、初めて行動を共にしたのが、このカラオケであったのだ。

 ほとんどアニソンとアイドルグループの歌という点では三人共通だが、十歳近い年齢差、微妙に曲目が違う。五曲ほどは三人で歌えたが、しだいに須磨はタブレットの操作とタンバリンの係りになってしまい、そのタンバリンの音も途切れ途切れになってきた。

「このへんにして、もう帰ろうか」

「そうね、もう充分発散したわよね」

 ほんとうはこれからという気持ちが強かったが、もう一度須磨を起こすのは気の毒……というよりは興ざめなので制限時間を5分ほど残してカラオケを出ることにした。

「ごめんね、寝てばっかりで」

 やっと目を覚ました須磨謝ったところで、千歳の迎えがやってきた。


「おお、これはスゴイ!」

「なんか、サンダーバードの世界だなあ!」

 迎えに来た千歳の姉への挨拶もそこそこに、啓介と須磨は、ウェルキャブに収納される車いすに見とれてしまう。

 ウェルキャブは、さらに改良されていて。千歳が助手席に収まると、車いすは自動で車のハッチバックまで移動し、せり出したスロープを上って車内に収まった時は啓介と須磨は仲良く拍手して千歳を恥ずかしがらせた。

「「おお( ゚Д゚)」」

 パチパチパチパチパチパチ!

「もう、恥ずかしいから、いいですって二人とも(;>∀<)」

「それじゃ、これからも千歳のことよろしくお願いします」

 姉の留美は、深々と頭を下げて運転席に戻った。


「いい先輩たちじゃないの」


 手を振る2人にバックミラー越しに頭を下げて留美が呟いた。

「え、あ、うん。今日だってね、部室明け渡しを迫る生徒会に乗り込んで、先輩たちがんばってくれたの!」

 千歳は、数時間前の顛末を熱っぽく語った。

「ふーん、松井先輩って美人なだけじゃなくて、頭も回るし度胸もあるのね」

「うん、ダテに(高校8年……と言いかけて)その……美人やってないわよ」

「そうね、人数が多いばかりが演劇部じゃないわよ。3人いればお芝居なんて、どうにでもなる。先輩に恵まれたんだから、千歳もがんばってね」

「う、うん、もちろんよ!」


 そう答えながら、千歳は自己矛盾におちいった。


 自分は、演劇部が潰れることを前提に入部した。部活にがんばったけど、潰れてしまったんじゃしかたがない……そういうことで、一学期の終わりには惣堀高校を辞めるために。

 でも、まあ、ちょっとは頑張ったというアリバイにはなったよね。そう、アリバイなんだ、アリバイ!

 自己矛盾は簡単に消えてしまった。


☆彡 主な登場人物
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)

 

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