大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

Regenerate(再生)・30≪第一次総力戦・1≫

2020-01-03 05:52:30 | 小説・2
Regenerate(再生)・30
≪第一次総力戦・1≫ 


 
「これは、壮大なダミーかもしれない……」

 教授の読みは当たっていた。その年の10月に行われた総選挙で改進党が初選挙でありながら、野党第二党に躍り出た。
 党三役を除くすべての当選者が新人であった。そして年末には、野党第一党の民新党と政策協定を結び与党の民自党と拮抗した。
「やっぱり、携帯の基地局はダミーだったんですね」
 詩織が無表情に言った。
 基地局から発せられる微細なノイズがベラスコたちのアンドロイドを動かしているとみて、その八割から、ノイズを発生しているとみられるウィルスを除去した。そのたびにベラスコの妨害が入ったが、人間たちに気づかれるようなこともなく、その障害を排除してきた。
 モニターに現れる赤いドットは確実に減った。ベラスコのアンドロイド達は、ベラスコの指示を受けられなくなり、プログラムされた日常生活を「人間」として営んでいるだけのはずだった。
「なにか、わたしたちの分からへんとこから指令が飛んでるんやと思います」
 京都から、ドロシーのバックアップでやってきた沙織が、キーボードを叩きながら断定的に言った。
「で、いったい、何を解析しとるんだね」
「この三か月で起こった事件や変化を全部洗いなおしてます……」
 沙織の横では、ドロシーが、演算のやり直しを無表情にやり続けている。

 ドタッ!

 教授がコーヒーを入れていると、唐突にドロシーが棒のように倒れた。
「ドロシー!」
 詩織が駆け寄ると、後ろで教授が淡々と言った。
「オーバーヒートだろ。しばらく、そのままにしておいてやってくれ、スリープモードにしてな」
「はい……沙織さんは大丈夫?」
「取り柄はないけど、CPだけは、頑丈だから」

 沙織のがんばりも、大晦日までだった。「ちょっと休みます」そう言ってカウチに横になったかと思うと、自分からスリープモードになった。
「手も足も出んな……」
 アナライザーのドロシーと沙織が倒れてしまっては、詩織と教授では、どうにも仕様がなかった。
「しかし、ドロシーのスリープ長いですね」
「酷使してきたからな。目覚めるまで、そっとしてやってくれ」
「はい……でも、ベラスコも動きがありませんね」
「やつらは、改進党を握っとる。年明けにも民新党と合併して動き出すだろう。春には、ちょっとした戦争がおこるかもしれん」

 ぼんやり点けっぱなしにしていたモニターの一つが、レコード大賞の実況を映し出していた。

「おお、今年も大賞はAKRか……」
「三年連続ですね」
 AKRの曲は、この秋からヒットしていた「幸せプラカード」だった。ラボでも外に出てもよく聞く曲で、いささかヘビーローテーション気味になっているが、不思議に人気が落ちない。まあ、去年も一昨年も似たようなものだったっけど。

 大賞受賞の感激の中、センターの大石クララを真ん中に興奮と感激に声を震わせながら「幸せプラカード」はサビに入った。

 すると、スリープモードになっていた沙織とドロシーの目がゆっくりと開いた……。
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