大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・アーケード・21・芽衣編《おいで、めいちゃん》

2018-03-16 16:40:24 | 小説

・21・芽衣編
《おいで、めいちゃん》



 ヘタレ眉がそっくりだった。

 笑っていても、ちょっと困ったような顔になるのがチャームポイント。男ってこういう顔に弱いんだよね……。
 由利ちゃんのお母さんから送られてきた写メを見て最初に思ったこと。

 由利ちゃんは術後の経過もよく、二日目には一般の病室に戻った。その時にお母さんお父さんに挟まれ、ベッドの上でピースしている写メ。
 あたしは、こざねちゃんといっしょに輸血用の血をあげた。もちろん二人の血だけじゃ足りなかったけど、由利ちゃんのご両親はとても喜んでくださった。
「血をもらっただけじゃないわ、生きる力を友情といっしょにもらったのよ」
 由利ちゃんのお母さんは、とっても嬉しそうな顔でお礼を言ってくださった。そして、由利ちゃんの意識が戻ったら写メ送りますということでメアドの交換をしたんだ。

 で、送られた写メを見て、似てるって思ったわけ。

 単に顔の造作が似てるだけじゃない。幸せのオーラがいっしょなんだ。
 娘の手術が成功した喜びと、喜んでくれているご両親を嬉しく思う由利ちゃんの喜び幸せが、同じ色で同じ周波数なんだ。
 だからヘタレ眉だけじゃなくて、雰囲気全体がいっしょに見えるんだ。

 親子っていいなあ……。

 あたしのお母さんは、あたしを生んで間もなく亡くなった。お父さんは馬揃えのクライマックス『旗絡め』の競技中、事故で亡くなった。あたしにはお祖父ちゃんお婆ちゃんが親代わり。

 親代わりというのは代わりであって親じゃない。もちろん孤児になったあたしを育ててくれたお祖父ちゃんお祖母ちゃんには感謝している。

 こないだ制服のままお店の手伝いをしていて制服を汚してしまい、お婆ちゃんの機転でお母さんの昔の制服を着て学校に行った。
 で「結衣(お母さんの名前)にそっくりだ!」と先生たちに言われ、その気になって生徒会の役員に立候補することになった。

――お母さん、これでいいのかなあ……――

 こうちゃんがくれたお母さんの演説原稿、それを参考にして書き上げたんだけど、読み直してみると迷いが出てくる。
 由利ちゃんのお母さんから写メを送ってもらった夜なんか迷いと一緒に寂しさがこみ上げてきて、涙でボロボロになってしまった。
「ウ、ウ、ウ、グーーー」
 もう泣き声がもれそうで歯を食いしばった。お祖父ちゃんお婆ちゃんに知られるわけにはいかないから。

 涙をこらえていると、バサっと音がした。

「え……?」

 振り返ると、長押(なげし)に掛けていたはずの制服が落ちていた、お母さんの制服が。
 もうパジャマに着替えていたけど、あたしは制服を身につけてみた。

 姿見には制服姿のお母さんが映っていた。見間違いじゃなくて本当にお母さんだったんだよ。

――おいで、めいちゃん――

 そう言って鏡の中のお母さんは手を差し伸べてくれた。
「お母さん……」

――わたしはそっちに行けないから、めいちゃんがこっちに来て――

「う、うん、そっち行くよ」
 お母さんの手を取ると、鏡の向こうに行けた。

 そこは25年前の商店街だった。いまとほとんど変わりはないんだけど、カラー舗装や街灯なんかが違った。
 途中で出会う商店街の人たちはみんな若かった。薬局の梅子婆ちゃんは、まだおばちゃん。お寺の諦観にいちゃん老けてるなあ……と思ったら、お父さんの泰淳さんだった。
「信号機暗いね」
 交差点の信号機は西日を受けて赤も青も黄色も点いているように見える。要は暗いのだ。
――ああ、まだLEDじゃないからね――――
「そうなんだ」
――あ、青になった――
「あの、どこにいくの?」
――制服着て行くのは学校って決まってるじゃない――
「あ、そか」

 で、納得したら学校に着いていた。

 学校は、生徒会選挙の立会演説の真っ最中。あたしは生徒の列に入ってお母さんの演説を聞いた。
 中身は覚えていないけど、原稿とはだいぶ違った。
――ハハハ、要は心意気よ!――
 楽しそうにお母さんが言う。お母さんといるととても楽しい。ずっと居たい気持ちになった。
――あまり長くいると戻れなくなっちゃうわ――

 目が覚めると、机に突っ伏して眠っていた。

 振り返ると、制服姿のお母さんが姿見の中に戻っていくところだった。
 あくる日、あーちゃんのお店で赤いカーネーションを買ってお墓参りに行った。
「え、赤いカーネーション?」

 あーちゃんに聞かれて『お客さんに頼まれたの』と言ってしまった……。

 


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