白石さんのことが気に掛かった。
話したかったけど、ショック状態なので鎮静剤で眠らせてあると聞き、怖い顔したお姉ちゃんといっしょに家に帰った。恵里奈が気を利かして敷いてくれたゴミ袋がクッションになったのか、運がいいのか、あたしは、検査の結果異常なしということで、家に帰ったのだ。
家に帰ると、お父さんとお母さんが心配顔で待っていた。二人とも無事なあたしを見てホッとした様子。
「迷惑かけました。すみません」
他人行儀な挨拶をした。
「無事で何よりだ。しかし、よくやったな。白石って子、危ないところだったそうじゃないか」
「うん……それが何より」
ふっと、お父さんとお母さんの顔が優しくなり、力が抜けたようにリビングのソファーに腰を落とした。
すると、ゴトって音がして、横の棚に置いてあった土偶人形が袈裟懸けに割れて転がった。
あ……
家族四人が、同じ声をあげた。
「……あたしが、ロープを巻いていたところで割れてる」
「お父さんが、安物買ってくるから……きっと最初からヒビがはいっていたのよ」
お母さんが、片づけようとした。
「待ってくれ……あの出店の女の人は『おやくにたちます』って言ったんだ……それに、この割れ目は新しいよ……」
「……ハハ、身代わりだったのかもね。あたしが接着剤で直しとく」
お姉ちゃんが、陽気に言った。大学で映画研究部に入っている。ただ映画を観るだけでなく、たまに自分たちで映画も撮ったりするので、こういう小道具じみたものの修理も上手い……という触れ込みだったけど、仕上がりは、割れ目にそってグレーの接着剤が盛り上がって、まるで袈裟懸けしたみたいだった。
その夜、白石さんのご両親がお礼にこられ、明くる日には、白石さん本人がやってきた。
「助けてもらってありがとう」
と、いうのかと思った。が……違った。
「待てない未来があるの」
「え……」
「わたしは、百回生まれ変わったの……で、百回目を終わりにして、百一回目にジャンプしようとしたところだったのよ」
「どういうこと?」
「白石優奈という子は、イヤな子なの。このまま大人になっても人の災いになるだけ、だから終わりにしようと思ったの」
あたしは二の句が継げなかった……。