勇者乙の天路歴程
019『兎に角』
※:勇者レベル4・一歩踏み出した勇者
「あ……えと……ここはどこなのかな?」
「来たばかりでよく分かりませんけど、神話世界のどこか……あるいは、そこから枝分かれした亜世界」
「異世界?」
「いえ、異ではなくて亜です。亜世界……どう言ったらいいんだろ……なりそこないの世界、尺とかの関係で脇に置かれたプロット的な……」
「ああ……要はボツになった?」
「う~ん、そうとも言えますが、異世界と違って、本編の神話や歴史と通い合っている部分が大きいと思います。でも、まあ……」
「あまり言葉にはしない方がいいのかな」
「アハハ……言霊ということもありますからぁ(^_^;)」
それなら……と、インタフェイスをメモ帳にして書いてみた。
――兎に角、ここで、問題を解決しろということ?――
「兎に角(ウサギにツノ)?……ああ、トニカクって読むんですね。え、まあ、そういうことです」
インタフェイスを消そうと思ったら『兎に角』の文字が抜け出し、ビクニと二人、目で追うと、草原の向こうに落ちて光を放った。
シャララ~ン
「え、なんだ?」
草をかき分けて道に出て見ると、ウサギが大急ぎで走ってくるところだ。
大急ぎのウサギに関わるとろくなことが無い。
ビクニも同感のようだが、ちょっと変わったウサギなので、つい声に出てしまう。
「ウサギに角がある!?」
しまった。と、ビクニは口に手を当てるが、振り返ったウサギと目が合ってしまった。
「わたしの角が見えるんですか……というか、わたしのことが見えているんですね」
「あ、偶然よ偶然、ごめんなさいね、声を上げてしまって」
「ああ、どうぞ先に行ってくれたまえ」
そう言ってやると、ウサギは、ポンと手を打ち、角を引っ込めて近づいてきて、二人をジロジロと観察する。
「あの……」「えと……」
「そうか、あなたたちが探し求めていた勇者なのかもしれません!」
「「ええ?」」
「あ、申し遅れました。わたし、こういう者です」
慣れた営業マンのように両手で名刺を差し出すウサギ。
名刺には『因幡の白兎課長代理』と書かれていた。
☆彡 主な登場人物
- 中村 一郎 71歳の老教師 天路歴程の勇者
- 高御産巣日神 タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
- 八百比丘尼 タカムスビノカミに身を寄せている半妖
- 原田 光子 中村の教え子で、定年前の校長
- 末吉 大輔 二代目学食のオヤジ
- 静岡 あやね なんとか仮進級した女生徒
- 因幡の白兎課長代理 あやしいウサギ