ライトノベルベスト
この四月から、亮介ニイチャンと同じ通学電車になった。
と、書くと偶然みたいやけど、じつはあたしが高校に行くようになって、電車の時刻表見たりして、亮介ニイチャン(以下カレ)と同じ電車に乗れるように工夫した(^_^;)。
最初は、同じ車両に乗ってるだけで幸せやったけど、だんだん近寄るようになって、話が出来るようになった。
きっかけは……。
電車は、高安仕立ての準急。
運がええと座れるけど、まあ、通勤のオッチャンやオネエチャンらにはかないません。つり革に掴まって乗り換えの鶴橋まで立ってる。
横に立ってるのに、カレは気ぃつかへん。うちから声かけるなんてとてもでけへん。え、東の窓ではあんなに大胆やったのにて? あれはたまたまの偶然でああなっただけ。いくら河内の女の子でも、ピカピカの一年生にそんな度胸はありません。
その日も、いつものように気づかれんまま、鶴橋駅が近なってきた。
今日もあかんな……そう思たとき。
ガックンと、電車が急停車した。うちらは進行方向に将棋倒し。隣のカレが、つり革掴みそこのうて、手が滑って、あたしの胸をかすった。
「アッ……!」
思わず声が出てしもた。
「ごめん!」
「あ、いいえ」
「あ……自分は?」
と、カレが気ぃついた。
そこから去年の東の窓の話やら、子どもの頃の話をするようになった。
やったー!
と思たけど、そこからが進展せえへん。しょ-もない話の十数分。それがうちの高校生活の全てやった。しかし、きっかけはイケテル。うちの胸がもう五ミリ小さかったら、カレの手ぇとは接触せえへんかった。
そうこうしてるうちに、進展もないまま、連休になった。
もうじき夏服になるんで、八尾まで夏用の服やらインナーを買いに行ったんよ。
夏は上着無しのブラウスだけ。まあ、学校は冷房効いてるんで、たいていの子はチョッキを着たり脱いだりして調整してる。
で、ブラウスの下はキャミを着てブラが見えへんように工夫。それでも若干は透けて見えるんで、あんまりダサイのはいややし、かといって色物は禁止やし……。
そない思て、適当なもんがないかと、ワゴンやらショーケースを見てた。
「あんた、ええ胸してるねえ」
気いついたら、店のオバチャンがうちの胸を見てた。この店は中学のころから来てる店やけど、こんなオバチャンおったかなあ、と、思た。
「あんたの胸は、一万人に一人ぐらいの福胸や。カタチ大きさに気品がある。ええ運が回ってくる運勢やな」
この言葉だけやったら適当に聞き逃してたけど、次の言葉に驚いた。
「あんたの運は、東の窓から開けて、胸が勝負やなあ!」
「え、ほんま!?」
になった。
「惜しいことに、インナーが、その運を押さえ込んでる。あんた、いま好きな男の人いてるやろ。きっかけはオバチャンが言うたとおりやと思うけど」
これは、このオバチャンは霊能力者かなんかかと思た。
「この開運ブラにしとくとええわ。あんた高校生やろ? 大人やったらショーツとのセットにしたげるけど、あんたには、まだ早い。ブラだけにしとき」
それは、とても淡い水色のフロントホックのブラやった。オバチャンの勢いで試着までしてしもた。カタチのええ胸が、いっそうかわいい張りになって、なをかつ清楚な雰囲気。うちは迷わんと、それを買うた。
本屋さんで、新刊の『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』を買うて、さっきの店の前を通ると、張り紙。
――都合により、四月末日をもって閉店いたしました。店主敬白――
その日は、五月三日やった。どういうこっちゃろ……?