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新橋駅の高架下あたりからウソみたいに現れて銀座通りを行進していった……。
九十七式中戦車三両を一個小隊とする戦車隊。それに挟まれるようにしてトラックに乗った何万人という兵隊の流れ。それらは、銀座を東北東に進み、なぜか信号は全て青になり、その帝国陸軍の列は、丸の内を目指し、そこから数隊に分かれ、国会議事堂を占拠するもの、皇居の警備につくもの、警視庁、NHKを占拠するものに分かれた。
さらに新しく現れた陸軍部隊は、首相官邸、防衛省、各大臣公邸を襲い首相以下、全閣僚の身柄を拘束した。
NHKを占拠した部隊は、全国民に向けて放送を始めた。
「我々陸軍の決起部隊は、いたずらに混乱を招来するものではありません。戦後、国際法に反して作られた日本国憲法を廃止し、帝国憲法の復活を宣言するものであります。しかし、急速な変化は混乱をもたらすものであるので、法律、行政機関、民間の経済活動は従前のままとし、帝国憲法が周知徹底されるまで、わが帝国陸軍が……」
隊長の演説は延々一時間に渡って、民放を含む全放送局で流された。
「モエ、これでいいだろう」
陸軍中将のナリをして、部下を一個中隊引き連れて、ジョーンズが病院にやってきた。
「なによ、ジョ-ンズ、これは!?」
「お前の報告で、地球を救援にきたんだ。いま地球はメチャクチャで、モエの担当である極東は、その中でも不安定要因を大きくしていて暴発寸前だ。だから、モエの情報を元に、一番自然なかたちで秩序を回復しに来たんだ。もう安心しろ」
そういうと、ジョーンズは美味しそうに缶コーヒーを飲み干した。
「ジョーンズ、あたし、今は女子高生ってのになってるんだけど、あんまり勉強とかできるほうじゃなくて、ちょっと情報が混乱してるみたいに思うんだけど」
「なにを言うんだ。ここまでやったことを今さら止められんぞ。心配するな。モエが間違えた部分は、我々が修正していく。もう、ここに来るまでに、専守防衛という概念を理解した。けして、外国や日本の実力部隊を攻撃したりはしない」
「そうだ、だから安心しろ!」
犬に化けたカイが、犬語で喋った。
「入ります」
ビートたけしに似た下士官が入ってきて、不動の姿勢で報告した。
「TPPの交渉に出かけていた副総理が、事態を知って、グアムに臨時政府を作りました」
「あ、そう」
ジョーンズは、オヤジギャグをとばした。ギャグというのはジョーンズの思念が言っているだけで、モエにはよく分からない。
なんか、ズレてる。
モエは、なんだかよく分からなかったが、とんでもない事態を引き起こしてしまったことだけは自覚した。
「だって、学校の授業じゃ、自衛隊も昔の軍隊も区別つかないんだもん!」
そう言うと、モエは頭から布団を被ってしまった……。