大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベルベスト『61式・2』

2021-06-24 06:30:22 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『61式・2』    


 親の姉を伯母さん、妹を叔母さんという。

 わたしには両方がいる。今は伯母さんの方のお店に向かっている。

 啓子伯母さん。

 喫茶ヒトマルを経営して45歳にして悠々自適。

 なんたってお金を持っている。ハンパじゃない。3億円もあった。

 この伯母は39歳で宝くじを当てて、それまでのおツボネOLを辞めて店を開いた。

 3億のわりにはこぢんまりした、でも、敷地だけは90坪と広い。

 ワケはあとで言います。

 角を曲がると、三年前にできたばかりの街の警察署がある。その横がヒトマル。あの……ヒノマルじゃなくて、ヒトマルですから。

 なんでヒトマルかと言うと、2010年に開業したので、下二桁をとってヒトマル。

 なんだか、名前の付け方が自衛隊っぽい。それもそのはず、伯母さんのお父さん。つまりわたしのお祖父ちゃんは元自衛隊員。生まれた子ども三人がみんな女の子だったので、ガックリ……と思っていたら英子叔母ちゃんが「自衛隊に入る!」と言ったので大喜び……したと思ったら音楽隊。

「まあ、あそこなら定年は将官並の60歳。まあ良しとするか」

 素直なようなひねくれているようなお祖父ちゃんではある。

 カランカラン(^^♪

「こんちは!」

 ドアのカウベルと同時に挨拶したら店内は誰もいない……と、思ったらカウンターからバイトのチイちゃんが顔を出した。

「いらっ……あ、ママさんだったら、お祖父ちゃんとお庭ですよ」

「どうも、ありがとう」

 お礼を言って庭に回る。

 庭といっても駐車場を兼ねた空き地。周囲に申し訳程度に草花が植えてあるだけ。60坪はあるから、悠々四台は車を停められるんだけど、伯母さんのボックスカーを除けば軽自動車が、なんとか三台。

 なぜかというと庭の真ん中に61式戦車があるから。

 正確に言うと戦車の実物大のレプリカ。

 映画会社が作ったのを、撮影後売りに出され、啓子叔母ちゃんは、お祖父ちゃんの誕生日に買っちゃった。

「細部が違う」

 お祖父ちゃんは、そう言って、ヒマさえあればネットオークションで買った部品に付け替え、今では本職が見てもパッと目には区別がつかない。

「おう、栞。どうだ、ペリスコープを本物にしたぞ!」

 ドライバーズハッチを開けて、お祖父ちゃんが顔を出した。

「なるほど……本物(だから、どうだってのよ)」

 ペリスコープは、ドライバーが外を見るための潜望鏡みたいなもの。レプリカは、ただのガラス張りで、外からドライバーの顔が見えてしまう。でも、そんなの、ほとんど分からない。

「掘り出し物だったのよ。こいつのモデルになったM47のペリスコープがアメリカのコレクターが売りに出しててさ、15万で落札した!」

 伯母ちゃんが、砲塔のハッチから出てきて、お祖父ちゃん並の笑顔で言った。

「今日は、うちの61式の話なのよ」

 ようやく話が本題に入りかけた。


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