ライトノベルベスト
親の姉を伯母さん、妹を叔母さんという。
わたしには両方がいる。今は伯母さんの方のお店に向かっている。
啓子伯母さん。
喫茶ヒトマルを経営して45歳にして悠々自適。
なんたってお金を持っている。ハンパじゃない。3億円もあった。
この伯母は39歳で宝くじを当てて、それまでのおツボネOLを辞めて店を開いた。
3億のわりにはこぢんまりした、でも、敷地だけは90坪と広い。
ワケはあとで言います。
角を曲がると、三年前にできたばかりの街の警察署がある。その横がヒトマル。あの……ヒノマルじゃなくて、ヒトマルですから。
なんでヒトマルかと言うと、2010年に開業したので、下二桁をとってヒトマル。
なんだか、名前の付け方が自衛隊っぽい。それもそのはず、伯母さんのお父さん。つまりわたしのお祖父ちゃんは元自衛隊員。生まれた子ども三人がみんな女の子だったので、ガックリ……と思っていたら英子叔母ちゃんが「自衛隊に入る!」と言ったので大喜び……したと思ったら音楽隊。
「まあ、あそこなら定年は将官並の60歳。まあ良しとするか」
素直なようなひねくれているようなお祖父ちゃんではある。
カランカラン(^^♪
「こんちは!」
ドアのカウベルと同時に挨拶したら店内は誰もいない……と、思ったらカウンターからバイトのチイちゃんが顔を出した。
「いらっ……あ、ママさんだったら、お祖父ちゃんとお庭ですよ」
「どうも、ありがとう」
お礼を言って庭に回る。
庭といっても駐車場を兼ねた空き地。周囲に申し訳程度に草花が植えてあるだけ。60坪はあるから、悠々四台は車を停められるんだけど、伯母さんのボックスカーを除けば軽自動車が、なんとか三台。
なぜかというと庭の真ん中に61式戦車があるから。
正確に言うと戦車の実物大のレプリカ。
映画会社が作ったのを、撮影後売りに出され、啓子叔母ちゃんは、お祖父ちゃんの誕生日に買っちゃった。
「細部が違う」
お祖父ちゃんは、そう言って、ヒマさえあればネットオークションで買った部品に付け替え、今では本職が見てもパッと目には区別がつかない。
「おう、栞。どうだ、ペリスコープを本物にしたぞ!」
ドライバーズハッチを開けて、お祖父ちゃんが顔を出した。
「なるほど……本物(だから、どうだってのよ)」
ペリスコープは、ドライバーが外を見るための潜望鏡みたいなもの。レプリカは、ただのガラス張りで、外からドライバーの顔が見えてしまう。でも、そんなの、ほとんど分からない。
「掘り出し物だったのよ。こいつのモデルになったM47のペリスコープがアメリカのコレクターが売りに出しててさ、15万で落札した!」
伯母ちゃんが、砲塔のハッチから出てきて、お祖父ちゃん並の笑顔で言った。
「今日は、うちの61式の話なのよ」
ようやく話が本題に入りかけた。