大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベル・ベスト『オーマイガー!?』

2021-02-14 06:56:26 | ライトノベルベスト

イトベルスト
『オーマイガー!?』
    

 

 オーマイガー!?

 と、叫んだらしい……。

「Oh my Car!?」
 
 と、あたしは叫んだつもり。

「……無理にでもとは言わねえからな」
 気を悪くした伯父さんが間を空け、腕組みして言った。

 工場の天窓から、夏の日差しが、そのマイカーのお尻を照らしていた。
 あたしには、その日差しが、マイカーのお尻を溶かしてしまったように思えた。
「ううん、いいよ。気に入った!」
「それじゃ、これで、よく練習してからホンマモンのマイカー買えよ」
「うん、しっかり練習させてもらいます」
「じゃ、一応免許証の確認だけさせてもらおうか」
「はい、どーぞ」
 あたしはピカピカの免許証を伯父さんに見せた。
 伯父さんは、お祖父ちゃんの代からの自動車修理工場。半ば趣味で工場の片隅にポンコツともクラッシックともつかない、車が何台か並んでいる。昨日シャメを見せてもらって、これに決めた。
「円(マドカ)おまえセーラー服着て写真撮ったのか!?」
「だって、これ着てたんだもん。しかたないでしょ」
 あたしは、自動車学校の最終試験の日は学校帰りだった。で、その日に免許が交付されるなんて分かってなかったので、制服姿で免許の写真を撮るハメになったのだ……文句ある?

 で、あたしはお尻の欠けたようなホンダN360Zを運転して我が家に帰った。お尻が欠けている分、浄化槽上のネコのオデコほどの駐車スペースに、簡単にバックで入れることができた。
「あんた、前から見たらカッコいいのにねえ……」そう呟いて、家に入った。
「マドカ、あんな骨董品借りてきたのか!?」
 窓から見ていたんだろう、お父さんが目を剥いた。
「だって、前の方から見たらカッコ良さげなんだもん」
「あれも、純正だったら値打ちあるんだろうけど、兄貴がいじり倒したあとだもんなあ」
「いいの、かわいいから!」

 それから、夏休みの残りを、Zに乗って運転慣れした。
 乗り慣れて分かった事がある。確かにエンジンは換装されていたし、フロントライトは右と左で微妙に色が違ったり、ミッション系や足回り、内装など、あちこちいじり倒して、印象としてはフランケンシュタイン。
 
 あたしは、ファルコン・Zと名付けた。『スターウォーズ』に出てくる銀河系最速のガラクタと言われる宇宙船の名前。さしずめ、わたしは、それを操縦するレイア姫。
 慣れたとは言え、幹線道路を走っていると、車の小ささから、周りの車がジェダイの宇宙船や戦闘機のように思えてくる。また、道行くドライバーの人たちも。ファルコン・Zを驚嘆の目で見ていく。交差点で停まっていたりすると、シャメを撮られることもあった。
 ある交差点で停まっていると、アナキンが立っていた。正確にはアナキンに雰囲気そっくりな、うちの学校のEATのジョ-ジ先生。当然わたしは声をかける。
「ハーイ、ジョ-ジ!」
「……マドカ!?」
 というわけで、アナキンのジョ-ジが、光栄なるファルコン・Zの最初のゲストになった。
「かわいい、マンボウみたいな車だね……」
 アナキンは、そう評価した。実際のファルコン号も、ジョージルーカスが、ピザを食べているときにデザインを思いつき、「マンボウのようなフォルムにしよう」ということになったらしく、あながち的は外していない。
 アナキンのジョ-ジ先生は、学校でも憧れのマト。それを偶然とは言え助手席に乗っけた。こんな至近距離で、ジョ-ジといっしょになるのは初めて~♪
「マドカ、ライセンス取ったんだ!?」
「イエス、オフコース! で、この車ファルコン・Z!」
「ファルコン……?」
「正式には、ホンダN360Z。三十年前のクラシック」
「ワオ、ほんとだ」
 ジョージは、スマホで検索して喜んだ。
「ほんとに、お尻が無いんだ」
「でも、キュ-トでしょ?」
「うん、ク-ル。お礼にコーラあげるね」
 自販機で買ったばかりなんだろう、キンキンに冷えた500ミッリットルのコーラを、プルトップを開けてドリンクホルダーに置いてくれた。わたしが1/3飲んで、ゲップしてホルダーにもどすと、ジョージは平気で残りを飲んだ。
――ワア、間接キスだ!
「ジョ-ジ、どこまで?」
「ああ、今日は大学。自分の勉強ね」
 ジョ-ジは、ウチらの学校で英語のEATをやりながら、大学で勉強しているのは知っていた。でも、その大学までいっしょに行けるとは思ってもいなかった。うまくいけば、いっしょにランチぐらい食べられるかなあ……と妄想したりした。

 それは、いきなりだった。

 大学の駐車場に入ろうとしたら、学生の車が前から突っこんできた! ドライバーの学生はスマホで話ながら運転していて、こちらに気が付いていないことは、あたしたちの方からもよく分かった。
「ブレーキ、ターンレフト! オーマイガー!」
 ジョ-ジが、そう叫んで、わたしに覆い被さってきた。

 キーーーーーーーーーーーーーーーーー!

 二台の車のブレーキ音……そして静寂……。
「マドカ、アー ユー オールライト?」
「……イエス、パーハップス……」
 ジョージに抱きかかえられるようにしてファルコン・Zから降りた。
 相手の車は、ファルコン・Zのお尻から、5センチぐらいのところで停まっていた……。
 お尻が無くてよかった。で、ジョージは、震えるわたしをずっとハグしていてくれた。
 なんだか、恋人のような感じさえしてきた。
「オールライト、オールライト……」
 ジョ-ジは、そう言いながらオデコにキスまでしてくれた。
 もう、あたしは心臓バックンバックン! ジョ-ジのバックンバックンも伝わってくる。まるで映画のワンシーンなのよね!

 ちょうど、事故の音を聞きつけて、ジョージの先生がやってきてくれた。
「いや、この車でよかったね。普通の車だったら、後ろを確実にぶつけて、ふっとばされてるとこだ……それから」
 あとの話が余計だった。
「こういう状況で、相手を好きになったら、そりゃ誤解だからね。そろそろ、二人とも離れた方がいいよ」
 それから、この先生は『吊り橋理論』を説明し始めた。
 吊り橋のように互いにドキドキを共有すると、恋愛感情と誤解することが多いらしい。
 あたしは、心の中でファルコン・Zに感謝すると同時に、この大学の先生を呪った。

 

 オーマイガー!!
 

 


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