つれづれ

名古屋市内の画廊・佐橋美術店のブログ

画家の言葉 高村光太郎の場合

2019年12月16日 | 日記・エッセイ・コラム
 
人は一度美にはぐれてしまふと、自己に内在する美意識の活動、即ち芸術精神そのものの存在をまるで棄てて顧みず、ただ自己以外に存在するものばかり追い求める。

芸術が物品となり、商品となり、そういう人達の所有欲に応ずるように作成せめられる。

書画骨董の鑑賞が必ず価格の興味を伴ふのはその故である。十萬両と聞いて、尚更一幅の書画がよくなるのである。
値段を想像しない鑑賞に気乗薄なのが書画骨董の特性である。純粋な芸術意識と骨董意識との差はさういふ際どいところによくあらわれる。

                              高村光太郎
  新しいホームページの巻頭には、毎月、画家の言葉を掲げさせていただいています。
今月は、上記の高村光太郎の言葉をご紹介させていただきました。
 
この文は2018年の当ブログ記事「美について」でもご紹介させていただきました。
光太郎はこれを画家や彫刻家、または芸術家全体へのメッセージとして書いたのだと思います。
 
ですから、コレクター様や、特に美術品の売買で生計をたてている私達がこの言葉をシミジミと感じ入ってしまっては
いけないとは思うのですが、
 
どうしても、私はこの光太郎の言葉にひっかっかってしまうのですね。
 
 
この後の光太郎の言葉は以下の通りです。
 
 
 
 
純粋な芸術意識と骨董意識との差はそういうふうに際どいところによくあらわれる。

自己に内在する美意識が活動しないから、美に関する限り此の世は人まかせになる。服飾の意匠は商人の手に左右され、街上の建築は便利と思いつきで勝手放題な形をとり、広告はますます悪どくなる。

現世の眼にうつるもの、耳にきこえるものが皆真の美とは性質を異にするもので埋められ、しかもそれを美と同質なものであるかのように欺瞞される。

それを何だか変だとすら思わなくなる。
むしろどうだっていい無関心のままに、あてがい扶持で平気でいる。

こういう状態が長く続けば一種の庶民的虚無感が広がり、迷信が力をふるい、人心は荒れすさび、しまいには敗北主義というようなものさえ擡頭しないとも限らない。

国民各自の中に埋没している美意識の自主的活動、即ち藝術精神の覚醒が、今日の場合芸術界に於けるどのような問題よりも緊要なのは、それが国民生活の最も根本的な救世的意味を持っているからである。

藝術精神とは、国民各自の外界に存在するものでなくて、国民各自の中に在って、毎日の目前的生活処理そのものを即刻即座に非目前的に自己みづから立ち上がって觀じ味ふことの出来るようにさせる精神力なのである。

生活に苦しみ、病に悩みながら、その苦しみ、悩む自己をもう一歩非目前的な世界から觀じ味はふことの出来る境地が芸術の心である。

それはまったく生活と同一体であって、しかも生活にふりまわされず、かえって生活を豊かにし、ゆとりあらしめる。非常の場合に驚き慌てない心を得させる。芸術精神は宗教のように現世から解脱させるのでなく、あくまで現世のままに味到せしめる。味ひ、愛し、到るところを美に化してしまうのである。


世人一般をこの芸術精神覚醒に導き、国民的美意識をまず日本国土の中に遍満させようと努力することが今日大切である。あらゆる施設も方策もこの方向を取らねばならぬ。日本人は古来わりに他国人に比すれば芸術精神を多分に持っている民族のように思われるから、その方向をたどっていれば案外不可能ではないかと思われる。

和歌や俳句の徹底的普及も有力な影響を与えるものと思う。
その他あらゆる意味で芸術作品、建築物その他を国民自身のものであると思わせる親近感に導く必要がある。展覧会などもこの建前から開催せらるべきことは言うまでもない。芸術作品と国民とを結びつける気運を作り出す方策などは尚今後の緻密な研究と思いきった実行を要する。

昭和16年1月
 












 
先日上京した際に、国立近代美術館さんで拝見した作品たちです。
 
梅原龍三郎
萩原守衛
富岡鉄斎
津田青楓
松本竣介
 
この作品たちのなんと優しく、美しいことでしょう。
 
それぞれの生に対する忍耐の結晶。
 
そして、それを見る私に、
 
私の日常のすべての出来事を
ある時は、梅原のように遠くから大らかに愛し、
ある時は、守衛のような熱情で抱きしめ、
ある時は、鉄斎のように深く楽しく突っぱねて、
ある時は、津田のように人懐っこく
ある時は、竣介のように静かに
味わい、
ことごとく美しい思い出に変えていく力を与えてくれる作品たちであると感じます。
 
美術品に触れるということは、自らも美しく生きる力を得るということ。
清濁混沌の世界にあって自らの生を活かしていくということ。
 
 
願わくば、当店の作品たちがそうした芸術的精神を大いに持ち合わせ、
お客様お一人お一人のお心を支える力を発揮できますことをいつも祈っています。
 
芸術的精神を持ち合わせる作品とは、もっとも絵らしい絵であるということでもあると
思います。各画家の個性が遺憾無く発揮された、大人の絵をこれからも吟味し選んで参ります。
 
各月末に、画家の言葉や詩などをHPでご紹介したいと思います。
ご覧いただき、お楽しみいただけましたら幸いに存じます。
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする