閑話休題 436 漢詩で読む『源氏物語』の歌 (四十三帖 紅梅)
[四十三帖 紅梅 要旨] (薫:24歳)
按察(アゼチ)大納言は、故太政大臣(曽ての頭中将)の次男で、故柏木の弟である。朗らかで派手なところのあった人で世間の信望もあり、地位も進んでいる。亡くなった先妻との間に、2姫君・大君と中の君、また現妻・真木柱(黒髭大将の娘)との間に1男ある。更に真木柱には蛍兵部卿宮の忘れ形見の女若君(宮の御方)がいる。
3姫君は、17,8歳の大君を筆頭に妙齢の年頃で、求婚者が続々現れている。大君は、春宮に輿入れさせた。宮の御方は、非常に内気な人で、母にさえ顔を向けて話すことはなく、父親は影さえ見たことがない。ただ御簾の前に座って話すと、返事くらいはする。声やら気配に品の佳さと美しい容貌も想像させる可憐な人であった。
二女の中の君も大君に近い年齢で、上品な澄み切ったような美は姉君にも勝った人で、普通の人と結婚させるのは惜しく、匂宮が求婚されたならばと、大納言はそんな望みを持っている。大納言は、紅の紙に歌を書き、庭先の紅梅の枝を折り、歌に添えて匂宮に届けさせた:
心ありて 風のにほはす 園の梅に
まづ鶯の 問わずやあるべき (按察使大納言)
匂宮は、自分と中の君との縁組の打診であろうと理解して、気乗りのしない返歌を送る。しかし、大納言はさらに突っ込んだ内容の歌を送るが、なおお断りの歌を返す。
実は、匂宮は、宮の御方の方に気があるのである。宮の御方は、匂宮が寄せる好意を気づかないのではないが、結婚をして世間並みの生活をすることは断念していた。母の真木柱は、匂宮が多情で恋人が多く、娘にとって頼もしい良人になるとは思っていなく、心は断ることにきめている。
本帖の歌と漢詩
ooooooooo
心ありて 風のにほはす 園の梅に
まづ鶯の 問わずやあるべき (按察使大納言)
(大意) その想いがあるなら、風が匂いを吹き送っている園の梅に、何よ
り先に鶯がやってこないということがあるでしょうか。
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<漢詩>
交錯 交錯(スレチガイ) [下平声七陽韻]
秘想院梅芳, 想を秘めて院の梅 芳(カンバシ)くして,
遣風歓送香。 風をして歓(シキリ)に香を送ら遣(シ)む。
汝鶯先要訪, 汝(ナンジ)鶯よ 先ず訪ねて要(ホシイ)のを,
何意違我望。 何意(ナニユエ)に我が望みに違(タガ)うか。
<現代語訳>
擦れ違い
胸に思いを秘めた院の紅梅は芳く、
風により頻りに香りを送っている。
汝 鶯よ 先ずあなたが訪ねて来るべきのところ、
何の意ぞ 我が願いに違(タガ)う。
<簡体字およびピンイン>
交错 Jiāocuò
秘想院梅芳, Mì xiǎng yuàn méi fāng,
遣风欢送香。 Qiǎn fēng huān sòng xiāng.
汝莺先要访, Rǔ yīng xiān yào fǎng,
何意违我望。hé yì wéi wǒ wang.
ooooooooo
匂宮は、憧れの相手は宮の御方であったから、按察使大納言に対しては、感激のない只事のようにして、次の歌を返した:
花の香に 誘われぬべき 身なりせば
花の便りを 過ぐさましやは (匂宮)
(大意) 花の香に誘われてほしい身の上でしたら、願ってもない花の誘い
見過ごすことがあるでしょうか。
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