[四十四帖 竹河(たけかわ) 要旨] (薫:14、5~23歳)
時を遡り、主に故関白太政大臣(鬚黒大将)家の後日談で、奮闘する玉鬘の姿を描いている。中納言となった薫の侍従時代に当たる。
玉鬘の生んだ故関白の子は、男三人と女二人(大君と中の君)の五人である。姫君達は妙齢の年頃となり、求婚者が多いが、玉鬘は、故関白の意を受けて姫君達をただの男とは結婚させまいと思っている。夕霧と雲居雁の息子・蔵人少将が求婚の名乗りを挙げるが、玉鬘は受け入れない。玉鬘は、四位侍従の薫を婿にとも思う。その頃、鬚黒大将が亡くなり、後ろ盾を失う。
元旦の夕、玉鬘の邸に薫が訪ねて来た。薫には誰もが惹きつけられるところがあり、身から放つ香も清かった。若い女房達もいろいろ話しかけるが、静かに言葉少なの応対しかないので悔しがり、宰相の君という高級の女房が歌を詠み掛けてきた。もう少し色めいては、との戯れである:
折りてみば いとど匂ひも まさるやと
少し色めけ 梅の初花 (宰相の君)
梅が満開のころ、色気がないと言われた薫は汚名挽回するべく、再び玉鬘の邸を訪れた。庭先にいた蔵人少将を連れ立ち、女たちの集まりの中へ加わり、薫の和琴を含めて合奏となった。蔵人少将も歌い、薫に促されて玉鬘の息子は催馬楽の「竹河」を歌う。
四月九日、長女・大君は終に冷泉院の後宮に輿入れする。やはり大君に思いのあった今上帝は不快に思う。冷泉院には2皇女、男御子と続けて誕生するが、男御子の誕生が院の在位中であったならと悔やまれるのである。翌年、二女・中の君を今上帝に入内させた。
曽ての求婚者も、順当に出世ができ、婿君であっても恥ずかしく思われない人が幾人もあった。薫は、中納言に、蔵人少将は宰相中将にと出世している。夫の大将が生きていたら、息子たちももっと出世したであろうと、玉鬘は嘆息している。
本帖の歌と漢詩
ooooooooo
折りてみば いとど匂ひも まさるやと 少し色めけ 梅の初花
(大意) 花を手折って見たなら、ひとしお匂いもまさりはしないかと思われ
る程に 今少し愛想よくしてくださいよ、梅の初花のようなお方。
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<漢詩>
無妖艷 妖艷無し [下平声五歌-下平声六麻通韻]
折花聞奈何, 花を折り 奈何(イカガ)を聞(キク)に,
馥氣略微嘉。 馥氣(フクキ) 略微(イササ)か嘉(ヨロシ)からんか。
稍稍該艷麗, 稍稍(イマスコシ) 艷麗(ツヤヨ)くある該(ベ)きなり,
譬若初梅花。 譬(タト)えば初の梅花の若(ゴト)くに。
[註]〇奈何:どうしたものか; ○略微:少しばかり。
<現代語訳>
艶無し
初花を折って その香りを嗅ぐなら、
その香気はいささか勝るであろう。
今少し艶やかになさったら如何でしょうか、
例えば 梅の初花の如くに。
<簡体字およびピンイン>
无妖艳 Wú yāoyàn
折花闻奈何, Zhé huā wén nàihé,
馥气略微嘉。 fù qì lüèwēi jiā.
稍稍该艳丽, Shāoshāo gāi yànlì,
譬若初梅花。 pì ruò chū méihuā.
ooooooooo
宰相の君から“艶なし”と言われた薫は、“疑わしくお思いなら袖を触れてごらん”と言いつつ、次の歌を返しました。
よそにては もぎ木なりとや さだむらん
下に匂える梅の初花 (薫)
[註]〇もぎ木:枝をもぎ取った、または枯れて枝のない木。
(大意) 世の人たちは 私を枯れ木などと決めつけているようですが、私
の胸の内では梅の初花のごとく香りを放っているのです。
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