OMOI-KOMI - 我流の作法 -

For Ordinary Business People

直木賞受賞エッセイ集成 (文藝春秋)

2025-03-03 11:27:44 | 本と雑誌

 

 いつも利用している図書館の「文学書」の書棚で目についたので手に取ってみました。

 退職を目の前にし、このところビジネス本には見向きもせず、あまり読んで来なかった “文芸書” にトライしています。
 とはいえ「純文学」は敷居が高く、また正直それほど興味もわかないので、まずは気楽な「エッセイ」あたりで手ごろなものがないかと探していました。

 本書は、21世紀初の第124回から第150回までの「直木賞受賞作家のエッセイ」を採録したものです。一気に様々な作家のみなさんの作品(筆致)に触れることができるので、手始めには相応しいだろうと楽しみに読み始めたという次第です。

 全部で36編の作品。出版社からは、「原稿用紙20枚」と作品のボリュームも指定され、テーマも可能な限り「自伝エッセイ」をという同一条件での依頼によるものなので、“比較実験” のように、それぞれの作家のみなさんの多様なパーソナリティが浮かび上がってきますね。

 そういう多種多彩(多才?)な人気作家の方々ですが、みなさんに共通するのは、至極当たり前ですが、「本か好き」「書くことが好き」という点。そして、「作家という仕事を “自らの意思” で掴みとっている」という気概と行動力でしょう。

 さて、読み終えた36名の作家のみなさんのエッセイの中から、特に私の印象に残ったくだりをひとつだけ書き留めておきます。

(p360より引用) 作家になり、かつて憧れていたフィクションの向こう側に来た今だからわかることがある。
 読者が作者以上に、その作品や、登場人物を愛することはある。自分が書いた以上のものを読者がそこに見ることは多分あるし、その意味で、作品は読者を絶対に裏切らない。そんな小説を、これからも送り出していきたいと思う。
 私を生かしてくれた小説とフィクションは、そういう、とても優しい世界だった。
 私をここまで連れてきてくれて、ありがとう。この恩に報いる道を、私はこの場所から一生かけて探していく。

 「十七才のサイン会」とタイトルされた辻村深月さんのエッセイ、その最後のフレーズです。

 

 

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〔映画〕山の郵便配達

2025-03-02 15:39:55 | 映画

 

 1999年に制作された中国映画です。

 長年、中国山間部で郵便配達人をしている父とその仕事を引き継ぐ息子が主人公で、父の最後の配達の道程を辿るロードムービーです。

 目にする風景も人々も “山岳村落” の典型的なステレオタイプで、いくつものエピソードを織り込みながら物語も極めて穏やかに進んでいきます。

 中国映画も最近は “ハリウッド的?” なCGやVFX技術満載のド派手な演出のものが目立つ中、本作は、近年ではなかなかお目にかかれない “超優等生的”作品です。
 それはそれで素朴な趣があって悪くはないのですが、正直なところ、やはり物足りなさは強く感じますね。

 

 

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〔映画〕川っぺりムコリッタ

2025-03-01 11:35:03 | 映画

 

 2022年に公開された日本映画です。

 監督・脚本を手掛けた荻上直子さんの小説が原作の作品ですが、なかでも「脚本」が秀逸でした。
 1シーン、1シーンごとに味があって、荻上さんが描く独特の世界観が、芸達者な面々を揃えた絶妙のキャスティングで見事に表現されていたように思います。

 そのキャスティングですが、松山ケンイチさんとムロツヨシさんの絡みを軸に、満島ひかりさん、吉岡秀隆さん、緒形直人さんと続き、さらに江口のりこさん、柄本佑さん、笹野高史さん。
 極めつけは、薬師丸ひろ子さんが「声」だけで出演しているという何とも豪華で贅沢なラインナップでした

 

 

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砂の狩人 (大沢 在昌)

2025-02-28 20:38:18 | 本と雑誌

 

 このところ気分転換に読んでいるミステリー小説は、読破にチャレンジしている内田康夫さんの “浅見光彦シリーズ” に偏っているのですが、時折、かなり以前によく読んでいた大沢在昌さんの作品の中から未読作にもトライしています。

 先日、“狩人シリーズ” の現時点での最新作「冬の狩人」を読んみて結構面白かったので、今度はこのシリーズにも手を伸ばしてみようと思いました。

 というわけで、まずはシリーズ第1作目 “北の狩人” を読み終わり、今度は第2作目の本作というわけです。

 ミステリーとしての楽しみ方もできる小説なので、ネタバレにならないよう内容には触れませんが、こちらは、かなりベタな “旧来型のハードボイルド作品” ですね。

 だから物足りないというわけではありません。ラストに近づいての一波乱はちょっと拙速な印象ではありますが、グイグイと少々強引であってもクライマックスに持って行くのは止む無しでしょう。
 “狩人”シリーズと銘打っていても、第1作目との物語としての連続性はなく、“狩人” という主人公のキャラクタのみ通底しているというのもセンスの良さが感じられます。

 さて、次は第3作目 “黒の狩人” ですね。

 

 

 

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〔映画〕砕け散るところを見せてあげる

2025-02-27 20:27:55 | 映画

 

 2021年に公開された日本映画です。

 同名の小説が原作の実写版ですが、物語の前半と後半とではテイストが激変します。いきなりシーン自体の描き方がどぎつくなったので、ちょっと違和感の方が先に立ってしまいました。

 こういった木に竹を接いだような稚拙なストーリー展開は、正直、観る楽しみを減退させます。

 キャスティング面では、主人公を演じた石井杏奈さんがなかなかの好演で、あと、脇役に回っていた清原果耶さんが流石の存在感を放っていましたね。逆に、原田知世さんは “宝の持ち腐れ” 的でもったいない登場でした。

 

 

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〔映画〕ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー

2025-02-26 10:03:25 | 映画

 

 2008年に公開されたアメリカ映画です。

 アメリカンコミックが原作のいわゆる “スーパーヒーロー” ものですが、ストーリーの骨格は “魔界の悪者退治” なのでいたって普通です。

 そうなると、キャラクタの魅力が差別化ポイントになるわけですが、これば全くいただけません。どうしてこうまでアメリカ産のこの手の造型はグロテスクで酷いのでしょうか。

 ただ、本作品の専門家の評価は揃って高いらしく、そうなると私の審美眼の方が信用ならないレベルということになりますね。

 

 

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定年後 : 豊かに生きるための知恵 (加藤 仁)

2025-02-25 20:42:46 | 本と雑誌

 いつも利用している図書館の新書の棚を眺めていて目につきました。

 タイトルに「定年後」とありますが、私も60代半ばに至り、まさに今年中には退職する予定です。

 本書は、ノンフィクション作家の加藤仁さんが3,000人以上の定年退職者へのインタビューをもとに定年後の暮らし方の要諦を紹介したものです。
 ちょっと以前の本(2007年出版)なので、扱われているのは、時代的には私よりひと世代上の様子になりますが、それでも実践的な多くの具体例が “いろいろな意味” で大いに参考になりました。

 ここで “いろいろな意味” でというのは、そのまま私のアクションとして実践できるものがなかったということでもあります。

 「定年退職」を目の前に、その後の生活スタイルについては大いに気になりつつも、何も具体的には決め切れていない私にとって、本書で紹介されている「退職者のみなさんの行動的な姿」は大いに刺激を受けるのですが、どうもどこかしっくりと腹に落ちないのです。“無理やり感(〇〇しなくてはならない)” がどうにも拭えないんですね。

 退職したら、何か “やりがいのあること” をやらなくてはだめなんですかねぇ・・・。加藤さんの啓発チックなメッセージを受けると、かえって、“まあ、ぼちぼち考えてみようか” といったノリになってしまいます。

 あと、本書のところどころに漂う “ジェンダー観” も馴染めませんでした。「昭和のお父さん」は、退職してもやはり “昭和のお父さん” を続けているようです。

(p119より引用) 妻は地域社会のあれやこれやだけでなく、夫の性格や資質、潜在的な願望という情報も把握している。さらにいえば、妻の情報には、企業社会で利潤や効率を追求してきた夫に、それまでの価値観を見直させる発想が込められている。

 と、こういった男女の役割の相違(性別分業論?)を前提としたような「妻の評価」も、何とも “前近代的” ですね。

 

 

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〔ドラマ〕黒の斜面

2025-02-24 11:35:10 | 映画

 2016年に放映された日本のテレビドラマです。

 本作品は「テレビ朝日」版ですが、その前に同じ原作で日本テレビ、TBS、フジテレビでもドラマ化されているようですし、さらに1971年には加藤剛さん、岩下志麻さんが出演した映画も作られているんですね。

 ストーリー自体、かなりご都合主義的な設定が目立ちますが、これだけ主要テレビ局各社でドラマ化されたということは、お茶の間のライト・サスペンスとしては程よく楽しめると判断されたのでしょう。

 本作の主要キャストは、檀れいさん、内山理名さん、原田泰造さんですが、TBS版では梶芽衣子さん、片平なぎささん、近藤正臣さんだったとのこと、こちらも観てみたかったですね。

 

 

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〔映画〕仕掛人・藤枝梅安

2025-02-23 11:51:48 | 映画

 

 2023年に公開された日本映画です。

 「藤枝梅安」というキャラクタは今までもテレビや映画で何度も映像化され、萬屋錦之介さん、田宮二郎さん、小林桂樹さん、緒形拳さん、渡辺謙さんと幾人もの役者の方々が演じていますが、本作の梅安は豊川悦司さんです。

 その主人公の「仕掛人梅安」、誰が演じてもそれなりに恰好がつくのは、キャラクタ設定が骨太なのと、“和製ハードボイルド作品” としての原作の秀逸さによるのでしょう。もちろん原作は池波正太郎さんです。

 本作の場合は、途中で明らかになる “主人公の人間関係” のサプライズがすべてですが、それを必要以上にドラマティックに扱わないところがこのシリーズらしい見事な仕上げ方だと思います。

 

 

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菊池伝説殺人事件 (内田 康夫)

2025-02-22 15:31:08 | 本と雑誌

 かなり以前に読んでいた内田康夫さん “浅見光彦シリーズ” ですが、このところ、私の出張先が舞台となった作品を、あるものは初めて、あるものは再度読んでみています。

 ただ、私の出張先も以前勤務していた会社のころを含めるとそこそこの都道府県にわたるので、どうせなら “シリーズ全作品制覇” にトライしてみようと思い始めました。

 この作品は「第36作目」です。今回の舞台は “菊池(熊本県)”

 「熊本」は、転勤で熊本市内に2年間住んでいて、その地の人にも土地柄にもとても良い印象を抱いていたので、かなり思い入れがあります。
 八代から天草に向けての海沿いの道や阿蘇・小国・九重の山々を巡る道は休日の家族ドライブのお気に入りコースでした。
 プライベートでは中学校の修学旅行が北九州一周だったので、そのときが熊本初見参でしたね。水前寺公園での集合写真が思い出されます。

 熊本市は、地方の中核都市としての威厳十分、重厚な黒塗りの天守の熊本城に城下町らしい街のつくり、市電が走り、大きなアーケード街に地場の老舗デパートがあって・・・、と私の出身地の岡山と結構共通点が並びます。

 本作の中にもこういうくだりがありました。

(p46より引用) 浅見は熊本ははじめてである。・・・
 夜でよく分からないが、市内を走る道路が想像以上に広い。大きな川があったり、街路樹が整備されていたり、どことなく岡山に似た印象があるのは、やはり城下町だからだろうか。

 とはいえ、本書の舞台となった “菊池” は残念ながら訪れたことはありません。

 さて、ミステリー小説ですからネタバレになるとまずいので内容には触れませんが、この作品の印象です。まあ、“一族の因縁” というモチーフの扱いも淡泊で、シリーズの中では「可もなく不可もなし」といった感じですね。

 真犯人の登場が物語のかなり後になっていて唐突感が否めないというのは、内田さんの制作スタイルからいえば止む無しというところですし、そこまで話がグダグダと続くのは、光彦の推理のキレの悪さにもつながります。

 さて、取り掛かってみている “浅見光彦シリーズ制覇チャレンジ”、それほど強い意志をもって完遂しようとも思っていませんので、まあ、“どこまで続くことやら” です。

 次は、37作目の「神戸殺人事件」ですね。

 

 

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〔映画〕ヒットマン エージェント:ジュン

2025-02-21 08:55:11 | 映画

 

 2020年に公開された韓国映画です。

 このところ、今ひとつ単純に楽しめる映画に出会えない時には “韓国映画” にトライしてみています。

 この作品も、大作の気配はまるで感じさせないありきたりの “アクション・コメディ” ですが、そのつもりでみると十分満足できました。

 設定もオリジナリティがありましたし、登場人物も、これでもかというくらいの暗愚なキャラクタが想定どおりの役回りを演じていて、観る者の期待を裏切りません。

 そのあたりの想定内の演出がかえって “安心感” や “安定感” を醸し出していて、単純にエンターテインメントとして楽しむことができます。

 そのベースにはアクションとコメディとのバランスが秀逸だという点がありますし、さらにはアクションシーンは結構本格的だというところも効いていますね。

 

 

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〔映画〕ハケンアニメ!

2025-02-20 14:42:33 | 映画

 

 2022年に公開された日本映画です。

 アニメ制作現場を舞台にした “青春映画” で、原作は辻村深月さんの同名小説なんですね。

 ということで、この作品は、“ストーリーを観る” 作品だったと思います。アニメ制作の舞台裏は興味を惹くところですし、新作アニメ対決という設定もワクワク感を感じさせます。

 あと秀逸だったのはキャスティング。
 吉岡里帆さん、尾野真千子さんという主役級はもちろん、前野朋哉さん、徳井優さん、六角精児さんといった脇役陣が活きていましたね。

 さらに特筆すべきは、中村倫也さんと柄本佑さんのお二人、なかでもキャラがドはまりだった中村倫也さんは “余人をもって代えがたし” でした。

 本作、興行的には今ひとつだったようですが、観ていて気持ちのいい素晴らしい作品、よかったです。

 

 

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めざせ! ムショラン三ツ星 刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります (黒栁 桂子)

2025-02-19 10:18:10 | 本と雑誌

 

 いつも聴いている堀井美香さんのpodcastの番組に著者の黒栁桂子さんがゲスト出演していて本書の紹介をされていました。
 その内容がなかなか面白そうだったので、ちょっと気になって手に取ってみた次第です。

 黒栁さんは、岡崎医療刑務所勤務の管理栄養士(法務技官)で、刑務所の炊場(炊事工場)で調理員である男子受刑者と一緒に日々の給食づくりに携わっています。

 本書は、podcastでのお話のとおり、刑務所内の炊場で繰り広げられる受刑者たちとの共同作業の中での数々のエピソードをユーモラスな筆致で紹介したものです。

 数々の興味深い話題の中から、特に私の関心を惹いたくだりをひとつ書き留めておきます。
 黒栁さんの炊場での経験を通しての偽らざる思いの吐露です。

(p135より引用) 娑婆にはもっとおいしいものがある。ここを出たらいくらでも自由に食べられる。刑務所での生活なんて彼らにとっては黒歴史だろうし、ましてやムショメシなんて思い出したくもないだろう。そう思っていたけど、違うのかも・・・・・・。刑務所生活の中でも数少ないよい思い出として、彼らの印象に残るような給食を出したいと思った。

 本書の中で黒栁さん自身語られているとおり、彼女と受刑者との接点は “炊場” という限定した場だけです。それ以外の時間の彼らとは接していません。その点でいえば、彼らの一側面しか知らないわけです。とはいえ、それでも炊場での姿は紛れもなく彼らの “実相” です。

 本書での紹介のように、なかなか伺い知ることのできない “更生施設” としての刑務所の一側面を知る機会は、「刑事施設」の意義を考えるうえでもとても大切なものだと思います。

 

 

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〔映画〕大奥〈男女逆転〉

2025-02-18 09:28:49 | 映画

 

 2010年に公開された日本映画です。

 「大奥」というタイトルのコミックが原作の “時代劇コメディ” 作品なのですが、さて、これはどう評したらいいのでしょう。

 まあ、ともかくコメディですから、奇天烈な設定や無理筋のストーリーをもってしてあれこれ批判じみたことをいうべきではありませんし、また、表すべき “形容詞” も浮かびません。

 ただ、それらを度外視した “単純エンターテインメント” だとしても、何とも稚拙で中途半端な出来栄えです。
 強いてどこかに見どころを探すとしたら、芸達者な阿部サダヲさんの存在感ぐらいですね。これは見事でした。

 

 

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〔映画〕コリーニ事件

2025-02-17 10:49:52 | 映画

 

 2019年に製作されたドイツ映画です。

 いわゆる “法廷モノ” ですが、ドイツならではの “戦争犯罪” が重要なモチーフになっています。

 事案関係者間の特別な関わりも効果的な設定でしたし、ストーリー展開での二段構えのエンディングはなかなか秀逸だったと思います。

 また、ドイツ映画なので出演した役者さんに馴染みはありませんでしたが、みなさん、抑制された物語のトーンにマッチしたしっかりした演技を見せてくれました。

 ラストシーンも印象的で、いい作品でしたね。

 

 

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