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プロスペクト理論 (経済は感情で動く― はじめての行動経済学(マッテオ・モッテルリーニ))

2009-04-14 22:14:55 | 本と雑誌

 標準的な経済学では、「期待値(=効用×確率)」という「水準そのもの」に基づき意思決定されると考えられていますが、プロスペクト理論では、経済的水準の「違い」が決定項になるといいます。

 
(p131より引用) 利得の場面では危険回避型(確実性を好む)、損失の場面では危険追求型(賭けを好む)で、利得・損失が小さい場合は変化に敏感で、大きくなると感応度が鈍くなる。同額であれば、利得獲得による満足度より、損失負担による悔しさのほうが大きい(損失回避性)。

 
 「価値の絶対値」が同じX円であっても、人はX円を得た「嬉しさ」よりも、X円を失った「悔しさ」の方を約2倍も強く感じるというのです。

 「悔しさ」に代表される「不快感」は「リスク」が大きいほど強くなります。「リスク」が大きいというのは、マイナスの量が大きい、もしくは、マイナスが生じる確率が高い場合をいいます。

 さてこのリスクですが、その表現方法によって大きく印象は異なってきます。
 「リスクが2倍になる」(相対的リスク)といっても、絶対的リスクが「1%が2%になる」のと「40%が80%になる」のとでは大違いです。

 
(p165より引用) 新聞やテレビの報道を見るときに、各種の統計数字については、母体数がどれだけかを確認し、%表示であれば実数に、実数表示であれば%表示に、置き換える頭をもとう。そうすれば、最初に受けた印象と異なり、騒ぐようなことではない、とわかるかもしれない。また、%表示を見たら、残りの%が何なのかを問いかけることで、事の本質を見抜く眼をもとう。

 
 本書の後半では、神経経済学(neuroeconomics)について触れています。
 神経経済学とは、脳神経学と経済学が融合した新しい経済学で、「行動」のもととなる神経生物学から、経済における選択の理論をつくりあげよういう試みです。

 この解説の中で興味深かったのが、「感情」の意味づけについてのくだりです。

 
(p271より引用) 正しい決定も、それを心に刻む感情が結びついていなければ、忘れ去られてしまい、過去の経験や知識を基礎にして活動することができない。感情やそれに関連する身体細胞の活動は、だから、有効な記憶と将来のシナリオに直結する力を保つための増幅装置として、決定のプロセスに不可欠な役目を果たしているのである。

 
 「感情」は、決定のプロセスにおいて「攪乱要因」ではないのです。合理性と感情とは対立するものではありません。

 
(p296より引用) 合理的な人とは感情のない人ではなくて、感情の操縦方法をよく知っている人なのだ。

 
 その他、本書では、「非合理的な判断」を材料にした多くの人々の典型的な思考/行動様式を指摘しています。
 その中で、古今東西を問わずよく見られる傾向は、「自分への甘さ」です。

 
(p176より引用) 私たちの行動や信念の正しさを裏づけるような何かいいことが起こったときは、その出来事を、自分だけが持つ能力のためだと考えがちだ。ところがことがうまく運ばないで、こっちが間違っていたり、こっちの考えがおかしかったりしたときには、誤りを認めてそこから学ぼうとはしないで、その不快な出来事の原因を、自分の考えや行動などとは切り離し、たとえば運のせいなどにしたりする。

 
 また、「選択」に関わる重要な示唆も語られています。

 
(p113より引用) 結果が同じでも、しなかったことより積極的にしたことのほうがよほどこたえるのだ。だれだって後悔にともなう嫌な気分は避けたいから、現状を変えようと決意することのほうが、現状を維持しようとすることよりむずかしい。

 
 ここで大事なのは、これに続く以下のフレーズです。

 
(p113より引用) 人は短期的には失敗した行為のほうに強い後悔の念を覚えるが、長期的にはやらなかったことを悔やんで心を痛める。

 
 

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価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2008-04-17

 
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