本書は、「全脳思考」という神田氏の「思考法」を紹介したものですが、私としては、思考法そのものの内容よりも、その思考法の背景認識に関わる考え方のほうに興味を持ちました。
ベースにあるのは、「工業社会→情報社会→知識社会」というよくあるスキームです。
まずは、「情報社会」になって「失ったもの」について。
(p25より引用) 仕事が情報化された結果、失ったものは大きい。
身体を同じ空間で共有しているからこそ、できることもある。たとえば、10年前の職場環境においては、隣の人が電話で話している会話ひとつからでも、部内で何が起きているかを理解することができた。上司の電話対応を聞いて、自分もいつの間にかスキルを身につけることができた。
この弊害は確かに大きいものがありますね。
可能な限り生身のコミュニケーションの場を確保する努力は必要ですが、もうひとつ、現在のコミュニケーション基盤を所与の前提として、その中での多様な情報のやりとりを生起・活性化する工夫も不可避になってきています。
その試みのひとつとして、私も部内のSNSを立ち上げてみていますが、新たな個性の発見やリアル・コミュニケーションの補完に役立ち始めているのと同時に、やはり、アクティブ化の壁は大きいものがあると感じています。
2点目は、「知識社会における新たな競争戦略」についてです。
(p50より引用) 知識社会では、市場を奪うための「競合戦略」より、市場自体をつくり出す「需要創造戦略」、そしてまたライバルから「市場シェア」を奪うことより、自社のことを顧客からどれだけ考えてもらえるかという「顧客マインド・シェア」を確保することが重要になってきているのだ。
このことが、適応する「フレームワーク」の変化に結びついていると著者は主張します。
「3C」や「4P」といった工業社会における競争戦略のために開発されたフレームワークは、市場創造戦略には適応不全を起こしているとの指摘です。
最後は、「フラット組織の弊害」についての著者の考えです。
(p58より引用) 現在のフラット化した組織では、戦略の浸透そして実行は、じれったいほど時間がかかる。階層がフラットになったのだから、組織内における戦略の浸透も早くなったような印象がある。たしかにITインフラの社内整備により、同じ情報を共有するのは簡単になった。だが、事業推進に関わる情報・権限が分散した結果、同じヴィジョンを共有するのはひどく難しくなってしまった。
確かに、従来の階層型組織の場合は、上位下達式の命令による統制スタイルでしたから、トップの号令一下によるアクションはスムーズだったことは事実でしょう。
フラット組織は、同列の組織が多数並存します。そのために、「一つの組織横断的な戦略」を実行するうえでは、複数の関係部門の足並みをそろえるのが非常に困難になったというのです。
他組織を「納得させる」努力と、並列組織をベースにしたプロジェクトマネジメントの仕組みがより重要になってくるわけです。
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全脳思考 価格:¥ 2,100(税込) 発売日:2009-06-12 |
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