チームのパフォーマンスを向上させるための「コーチング」をテーマに、経営学者金井壽宏教授とラグビー界の異才平尾誠二氏が語り合っている本ですが、あちらこちらに興味深い話が紹介されています。
お二人は以前からも交流があるようで、注目もしくは私淑している共通の先達もいらっしゃいます。たとえば、編集工学を提唱している松岡正剛氏、元文化庁長官で心理学者の河合隼雄氏らがそうです。
その河合氏から受けた「教育」についての示唆を平尾氏がこう語っています。
(p162より引用) 河合隼雄先生はかつて、教育には「教える」と「育てる」の両面があるのに、日本には「教師」はいても「育師」がいないと嘆いておられましたが、まさにぼくもそう思います。
極端な言い方をすれば、やり方を教えるだけで質問はさせないのが日本の教育なのです。
ただ、この点で強いて言えば、最近は「育師」のみならず「教師」も少なくなってきたのではないでしょうか。大村はま氏がいくつかの著作でも指摘されているように、まさに教育現場に立つ教師の「教える技術」の劣化は非常に大きな問題です。
興味深い話の2つめ。
金井氏による原英樹教授の「バカなとなるほど-経営成功のキメ手」という著作の紹介です。
(p170より引用) 「バカなとなるほど」という部分を見て、最初は妙なタイトルをつけていらっしゃるなと思いましたが、理由を聞くと至極もっともなので感激しました。
「バカな」と言われるような部分がなければ、他人がとっくにやっているはずだ、でも「なるほど」がないとだれもついてこない。だから優れたビジネスプランには「バカな」と「なるほど」の両方が必要なのだというわけです。
この話は、主張されている内容はもちろんですが、ポイントを際立たせる「キャッチなキーワード」の例の提示としても有益です。
さて、最後は平尾氏が語る「チームプレー」についてです。
(p187より引用) チーム競技の場合、そこにはどうしてもさまざまな連鎖が発生せざるをえませんから、そういうことを見越して自分の仕事に取り組まなければいけないと思います。
だからといって、チーム競技は助け合いの精神が大事だなどと言っているのではありません。ほかのメンバーの助けをアテにするようなチームプレーは、はっきりいってまちがいです。
では、チームプレーとは何かといえば、それはメンバー一人ひとりの責任の果たし合いにほかなりません。ですから、だれかのミスは別のだれかがカバーするのではなく、カバーの必要がある人間が一人もいない状態が究極のチームだといえますし、どんなチームや組織もそこをめざすべきなのです。
「強いチーム」は主体的な「強い個」の集まりだということでしょう。
まず、「強い個」をつくる、そして、そのそれぞれの個を共通の目標に向けて動機付け、動かしていく、こういうダイナミズムをもった「コーチング」を、平尾氏は本書で訴えているのです。
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