ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏が、ドラッカーの教えを経営に生かしているという話は有名ですね。
本書は、NHKの「仕事学のすすめ」というテレビ番組で取り上げられた柳井氏の経営をテーマにした語りを活字に起こしたものです。
柳井氏のお話の中から、ドラッカーに敷衍しているくだりをいくつかご紹介します。
まずは、ドラッカーの思想の根本にある「企業(事業)の目的」についてです。ここで登場するキーコンセプトは「顧客の創造」です。
(p14より引用) ドラッカーは経営に関する数多くの名言を残しましたが、中でも企業経営の本質を突いた言葉だとぼくが感じたのは「企業の目的として有効な定義は一つしかない。すなわち、顧客の創造である」(『現代の経営』)という一文です。
「顧客の創造」というと難しく聞こえますが、企業は自分たちが何を売りたいかよりも、お客様が何を求めているのかを一番に優先して考え、付加価値のある商品を提供すべきである、ということを、この言葉は意味しています。
もうひとつ、こちらは、「顧客の創造」ほどポピュラーではありませんが、「働き方」に関するドラッカーらしい着眼の示唆です。
(p113より引用) 働き方に関する提言としてドラッカーはこんなことも言っています。「成果をあげる者は仕事からスタートしない。時間からスタートする。計画からもスタートしない。時間が何にとられているかを明らかにすることからスタートする」(『経営者の条件』)。つまり、時間は無限ではない。自分の時間を常にチェックして自分の潜在能力を発揮するためには集中することが大切だ、というわけです。
制約条件を明らかにして、それを行動のスタートにするという実践的な提言です。
さて、本書を読んでみての感想ですが、正直なところ、かなり期待と違っていたという印象でした。テレビでの語りの書き起こしなので仕方ないのでしょうが、当代一流の経営者の経営論だと思って読むと、多くの人はガッカリするのではないでしょうか。
本書の最終章には、こういうくだりが載っています。
(p154より引用) 絶対に忘れてはならないのは、・・・企業は金儲けのためじゃなく、人間を幸せにするために存在しているということ。金儲けはそれ自体が目的ではなく、会社を存続させていくための手段に過ぎない。・・・
ドラッカーの経営論も元をたどれば結局、「どうすれば人間は幸せになれるのか、どうすればよい社会が誕生するのか」という命題にたどり着くんですよ。
こういう表明にごく僅かな一端を垣間見ることができますが、おそらく、柳井氏のドラッカー思想の理解はもっともっと広汎でかつ深く、それを礎にした氏の経営理念や経営判断は、この本で表明された程度のものではないはずです。
「顧客の創造」「知識労働者」というコンセプトについての語りに大半を割いた内容では、本書のタイトルは、(「羊頭狗肉」とまでは言いませんが、)ちょっと大仰かなと思いました。
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柳井正 わがドラッカー流経営論 価格:¥ 998(税込) 発売日:2010-01 |
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