さよならだけが人生か
月に叢雲(むらくも) 花に風
とかくこの世はままならぬ
誰が言った言葉でしょうか。ままならない人生の例えとして、名月を鑑賞しようとすれば
風に流された雲がせっかくの機会を台無しにしてしまう。
花に誘われ酒宴をあげようとすれば、春風が吹きみるみる花を散らしてしまう。
ままならない物の代表として、とても分かりやすい。
「ままならないなぁー」と嘆く人生はやがて「諦観」というあきらめに変わってしまう。
少なくとも、若い時には私はそう思っていた。
さよならだけが人生だ
ということになるのかも知れない。これは、井伏鱒二が『勧酒』という漢詩を訳したフレーズだ。
以下訳文を掲載します。
この杯を受けてくれ
どうぞ並々つがしておくれ
花に嵐の例えもあるさ
「さよなら」だけが人生さ
別れに当たって、どうぞ私の杯を受けてほしい。
そして、このなみなみとついだ杯を一気に飲干してほしい。
長い人生の内には、思い通りにいかないことや、辛いこと哀しいことがあるでしょう。
人生は生きていくうえでのしがらみを一つ一つ乗り越えていけばいい。
人生に別離はつきものだよ。
さあーこのひとときを呑もうではないか。
このひとときを大切にしようではないか。
別れの数だけ、出会いの数もあるのだから…
諦観でもなければ、哀しいわけでもない。
人生の定離を「別れの酒」に託して歌っている。
思い通りにいかないのが人生だ。
それ故 生きづらさを感じる人もいるだろう。
よく考えてみれば、思い通りにいかないことの方が多いのかもしれない。
金持ちになれというのではない。
努力がきちんと報われる社会でありたい。
でも、どんなに努力したって報われないことだってある。
それでも、
「さよならだけが人生」ではない。
若くして逝ってしまった小林麻央さんだったけれど
充実した人生を歩んだはずだ。
思い通りにはいかなかった人生だけど
みんなに感動を与え、闘病している人々に勇気を与え
二人の子どもたちに夢を託し、
夫・海老蔵さんに、とっておきの言葉を残し
子どもたちと三人に「生きる希望」を残してくれた。
「さよならだけが人生」ではないことを、麻央さんは身をもって示してくれた。
ありがとう、麻央さん。
(つれづれに……心もよう№63) (2017.07.26記)